令和7年3月場所が終わった。初日の雑感で、
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今場所、私が一番「注目」というより「気にしている」のが高安だ。その理由はあまりポジティブなものではなく、むしろいうなれば「ネガティブな理由」で気にしているので、その理由は千秋楽の雑感で明かそうと思う
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と記しているのだが、その理由や今場所の高安についての思いを述べてみようと思う。

今場所、高安がどういった成績を残せるのか。その結果によって、ここから先の高安への評価、期待は大きく変わっていくのではないか。そういう分水嶺になる場所になるだろうと思ったからだ。では、なぜにそう思っていたか。それは案外簡単な話で「ここ1~2年の高安を見ていると上位総当たりの地位で戦いきれるだけの力は残っていないのではないか」というネガティブな想像ができたからだ。逆に、この地位で勝ち越せる。さらには2桁勝ってくる。このような成績を残せるのであれば、まだ高安にチャンスは残されている。そういう見立てにもなる。

正直、負けが込む高安、勝ちこんでくる高安。どちらもイメージすることはできたが、どちらに傾く可能性が高いのかと問われれば、もはや上位には通用しない高安ではないか。そうも思っていた。もっと厳しいことを言えば、今場所が高安にとって、最後の上位総当たり圏内で戦う場所。生涯最後の横綱戦であったり、大関戦になる可能性すらあるのではないかとも思えていた。

もちろん、私自身、強い時の高安を見ている。優勝まであと一歩のところに近づいて優勝を逃してしまう脆い高安も見ている。そして休みがちにもなって1場所を戦いきれるだけの力はなくなってしまったのかと思わせても一発の強さはまだまだ健在の高安。いろんな高安を見てきたからこそ。まだ高安の優勝が夢ではなく可能性あるものとして捉えられるのか。それとも、本当の意味での強い高安を見ることはできなくなるのかという捉え。そのどちらに転ぶかはわからないが、その判断ができてしまう場所になるかもしれない。だとしたら、高安に注目するしかない。そういう思いが強かったのだ。ただ、どちらに転ぶか。その可能性が高いのは前述したとおり、負けが込むこと。それ故、ネガティブという単語を使っていたが、「分水嶺の場所だ」と思いつつもイメージはネガティブだった。本音でいえば、2桁負けは十分にあり得る。3勝、4勝程度で終わる可能性すらあっても不思議ではないとすら思っていた。

初日、2日目を見て、まだまだやれるな。高安は十分に戦えているとは感じた。とはいえ、対戦相手を鑑みれば、高安が強いのか、弱いのか。それを見極められるのは、やはり役力士だったり、大部分の場所で総当たり圏内にいる力士たちと戦ってこそ。今場所の4枚目という地位なら中盤戦に横綱、大関戦が組まれるのが通常パターンなので、ここを終えてどうなっているか。そこが判断の基準だとも思っていたし、番付付近の力士に勝って上位に勝てない。これは上位対戦圏外で白星を積み重ね上位戦が組まれ敗れていく姿も見ていた以上、やはり上位と戦い終わって残された結果での判断。そうも思っていた。そんな中、まずは大栄翔に勝ったことに驚きを覚え、豊昇龍と琴櫻は相手の不調のタイミングで対戦したとはいえ白星。そして10日目には大の里との1敗対決を制した。

言うまでもなく、この時点で勝ち越しを決めていたわけだし、5月場所も上位総当たり圏内。高安がまだまだ十分に戦える力を持っていること。これをしっかりと見せてくれた。大栄翔に勝った時点で、場所前に想像したネガティブな想像。それは杞憂に終わっていたと言い切っても良かったのだろうが、その後、優勝決定戦にまで進めるだけの結果を残すことになるとは。

高安の対戦相手はほぼテンプレ通り進められた。異なったところは、美ノ海戦が組み込まれたところくらいだろう。だが、そんな中12勝という成績を収められた。おそらく私は当然のごとく、大部分の方は高安がここまでやれるとは予想できなかっただろう。だが、一番強い高安がそこにあったのではないだろうか。霧島戦はどうにもならない、優勝争いの中でのプレッシャーなのか、自ら崩れるような高安もいたが、それを含めての高安。良くも悪くも、高安は高安だったのだろう。

だが、いずれにせよ高安は強い高安を見せることができた。加齢もあるし、高安に残された時間が多いとは言えないだろうが、それでもまだまだ十分に戦えるし、また優勝争いに加われる可能性を残しているとも見受けられた。

もちろん、この先の高安に何が起こるかの予測は立たない。とはいえ、高安は衰えていない。それを十分に感じさせてくれた高安の15日間。まだまだこの人から目は離せない。そんなことを感じ、場所前から高安に注目できたことを良かったと思える15日間ともなった。優勝できなかったことは残念ではあるが、場所前の想像からすれば、ここまで高安が戦えたこと。これは喜ばなくてはいけないだろうし、まだまだ楽しみが残されていることを感じさせてくれた高安だった。高安、ありがとう!