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2009年08月03日

ハチミツの夢

今日は8月3日ハチミツの日(…なのか?)
なのでアシュルクでなんか書いてみようと思います。






「アッシュ!なぁ、俺ホットケーキ食いたい!」

「あぁ?」

寝汚い片割れがようやく起きたと思ったら、いきなりこんなことを言い出して。
アッシュは作っていたオムレツを皿にあけると、不機嫌そうにルークを睨みつける。

「まだ寝てんのか?寝言もいい加減にしやがれ」

手際よく朝食の準備を整えながら、アッシュはそう言った。ルークは唇を尖らせながら、寝癖を撫で付ける。

「だってよ、急に食いたくなったんだもん」

小さなテーブルの席につくと、目の前に温かな湯気を立てたオムレツが置かれた。
ふわりと美味しそうな匂いが立ち上り、ルークは鼻をひくつかせると、口元を緩める。

「相変わらずアッシュの作るモンは美味そうだよなー」

ふにゃりと顔を緩ませるルークに、アッシュは溜息をつきながら席についた。

「食いたいんなら俺より早く起きろ。そうしたら作ってやる」

軽くトーストされたパンを切り分けてかじりつき、アッシュはルークの寝汚さを指摘する。
ルークはうーっと唸りつつ、オムレツにフォークを立てて口に運んだ。

「じゃあおやつでいいや、後で作ってくれよ」

「作んのは変わんねぇのか」

「いいだろ〜!たまにはさぁ…」

真正面からじっと見つめられつつそんな懇願をされれば、アッシュにはもう折れるしか道はなかった。
拒否したらしたで拗ねて口をきかなくなるのは目に見えている。

「仕方ねぇな…」

折れてやれば、ルークはぱあっと顔を輝かせて満面の笑顔を見せる。

「やた!アッシュ大好き!」

結局のところ、ルークのこの顔が気に入っているのだ、自分は。

アッシュは窓から見える快晴の空に目を細めると、再び朝食に目を向けた。




※※※





「あれ?アッシュ、バターないんだけど」

冷蔵庫を開け、ルークが声を上げる。ホットケーキを食べるのに、バターは必須だ。
それがないとあっては一大事である。

「……よく見ろ。ここにあるだろうが」

アッシュの方を振り返ったルークの顔の横からアッシュの腕が延び、バターを取り出した。

「…あれ?さっきは確かになかったのに…」

「見落としたんだろ」

「…そっかな」

首を傾げたルークに、アッシュはつれなくそう言う。そうかもしれないと納得し、ルークはハチミツを仕舞ってある棚に向かった。
アッシュは新品のバターを眺めると、ホットケーキを焼く作業に戻る。

感じている違和感。それを知ってはいけないと、頭のなかから声がした。




焼き上がったホットケーキにバターを落とし、ハチミツを垂らす。
熱で溶けたバターがじゅわっとホットケーキに染み込んでいき、ハチミツを飲み込む。
切り分けて口に入れると、ハチミツの甘さとバターの香りが口に広がって。

「ん〜!」

フォークを口に入れたまま、ルークはじたばたと手足を動かす。
…余程美味かったらしい。

「美味い!」

「そりゃよかったな」

アッシュはバターを多めに塗ったホットケーキを口に入れながら、幸せそうな顔をしてホットケーキをぱくつくルークを見つめた。
窓の外はやはり快晴。

本当は、とっくに気付いていた。




(……いつまで)

幸せそうなルーク。
何も変わらない、ふたりきりの日常。

(……いつまで、続けていられる?)

何に脅かされることもなく、ただ平和に幸せに過ごす毎日。
互いの他にはなにもない。
困ることもなにもない。

(……この、幸せすぎる夢を)







夢を見続けていられるのならば、もう二度と目覚めることなどなくていい。



ローレライが見せる幸せな夢の中で、ふたりは繰り返す。

ただ、幸せな日常だけを。






《ハチミツの夢》


end
―――――――

お腹がすいているのがまるわかりですね。
なんかすんませんでした。
ホットケーキが食べたかったんです………
しかしうまく書けなかった。あかん……


seawingrord at 23:29|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2009年07月21日

いきてます

ぎゃー、かつてないほど日記放置しててすみません…!新記録じゃないか?
もうね、暑くて夏バテなのかなんなのかわかりませんが怠くて仕方がないです。
夏バテ解消法とかないんかな?テレビ見るの忘れました。
あの番組は煽りがすげーこわいですね。
あと低血圧なのかしら…と思って測ってみましたが別にそんな変わりない。
まあ食欲はあるし大丈夫…かな。たぶん。
どうでもいい話ですが、リアルタイムにも書いたでかい蜘蛛がまだトイレにいらっしゃいます。
てっきり出て行ったと思って油断してたらトイレットペーパーのところからサッと出て来て…悲鳴上げました…
そのあと「うわ!女みたいな声出た!」と思いました。何か間違ってる。

さて更新がなくてつまらないのでなんか書こうと思います。
耳つきの話なうえにユリルクなんで無理な方はバックバック。

続きからどうぞ


お待たせすみません
☆拍手レス☆

07月18日 18:37 「秘密の花園」の他のルートが激しく気になります…特にクリムゾンが!の方
ですよね…私も物凄い気になります(待て)本命カプを書いてしまうと満足する癖を本当にやめたいです。
でもこうして読んでいただけて、本当に幸せ者だなあとつくづく思っています。
ありがとうございます。いつか続きを書きたいなあとは思ってます…(汗)
しょうがない奴だな、と呆れつつ見守って下さると嬉しいです。
ありがとうございました!!






大きいユーリと大きいアッシュと小さいルークの話(けも耳注意)→
続きを読む

seawingrord at 01:53|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2009年07月05日

花言葉

久しぶりに花言葉短文。
文章リハビリ。
ルークが乖離してるとき(アニメ設定)
ジェイルクです。






例えば祈っただけで誰かの苦痛が消えてなくなるのならば、飽くこともなくただ祈っていられるのだろうと思う。

「うっ、ぐ……」

今夜もまた、苦痛に耐える声が聞こえた。
硬く目を瞑り、ただ体を硬直させて痛みに耐える。
消えゆく自分を実感したくないのだろう、彼は微かに身じろぐだけで体を動かしている様子はなかった。

音もなく隣のベッドから抜け出し、彼の様子を窺う。
いやに白くなった顔が月明かりに照らされ、ぷかりと水に浮かんだ魚の腹のようになまめかしくも見えた。

呼吸は落ち着いてきている。急激な音素の移動が治まったのだろう。
だが、また音素が減れば発作は頻繁に起こることが容易に想像がつく。

だが、音素の乖離は止めようがない。

額に光る汗を拭おうとして、手を止める。
この手は血塗れなのだ。そう思うと、触れるには躊躇われた。

この手が何の役に立つのだろう。
彼を助けることも、何出来ないこの手は。



―――――ただ、祈ることしかできないのか。







7月5日 オレガナム あなたの苦痛を除きます


end
―――――――――

うーむ、お題と合わない……みう。


seawingrord at 23:17|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2009年05月04日

猫と飼い主 最終話





―――――――猫と飼い主 最終話




信じられない気持ちでいると、アッシュは俺を潰れそうなぐらいに抱きしめた。その力が強くて、でも、あったかくてすごく幸せだ。

「ルーク…なんだな、お前…」

 そうだよ、アッシュ。お前の猫の、ルークだよ。俺。
 俺はもっとアッシュをちゃんと見ていたくて、ほんのちょっとだけ首を上げる。するとアッシュも俺を支えてくれて、アッシュの顔がはっきり見えた。
 俺と一緒にいた時よりもずっと大人びて、大きくなってた。でも、優しいのは変わんないんだな。俺は嬉しくて、何かアッシュに言いたかったけど、猫のままじゃ通じないな。
 
でも、それでいいと思った。言葉があってもなくても、人間でも、猫でも。俺が持ってるこの気持ちは、きっと伝わるんじゃないかな。
 アッシュと同じ人間になって、アッシュのことを知りたかった。わかりたかった。でも、本当に俺は人間にはなれなかった。……きっとそれが、答えなんだと思う。

 俺とアッシュは猫と飼い主で、それ以上にはなれなくて。それでも、俺はアッシュのことが大好きなんだ。猫だって甘く見んなよ。この気持ちだけは世界中の何だって太刀打ちできないって自信がある。

 アッシュがずっと体を撫でてくれて気持ちいい。このまま寝ちまうのはすごく勿体ないと思ったけど、もうどうしても、瞼が開けられないんだ。

 なぁアッシュ、アッシュは俺を拾ってよかったと思ってる? もしかしたら、後悔してるかな。でも、俺は、アッシュに拾われて良かったと思ってるんだ。俺はアッシュから離れてしまったけれど、アッシュのことが大好きだよ。今も、これからもずっとずっと。

「……俺は、お前を本当に愛していたんだ。そうしたことに、後悔はない」

 少しだけ悲しそうなアッシュの声が耳に届く。アッシュ、俺はここにいるから、悲しい顔すんなよ。

「ルーク、もう…聞こえてねぇかも知れないが…俺は、お前に感謝してるんだ。お前にどれだけ救われていたかわからん。…俺を好きだと言ってくれて、ありがとう。俺も、お前のことをずっと愛している」

 優しいアッシュの声が俺の体の中に響いて、幸せでいっぱいになる。どうしてだろう、猫なのに、目から生温い水が出てくる。それともこれは、アッシュのなのかな。

 アッシュ、俺はアッシュのことを好きで幸せだったよ。
 最後にそう思った時、たくさんのあったかいものが俺に降り注いで。俺は笑った。

 そのまま俺は眠ってしまって、もうアッシュの顔は見られなかった。けど、俺がすっかり眠りに落ちてしまうまで、アッシュのぬくもりがずっとそばにあったから、俺は幸せな気持ちで眠ることができた。

 アッシュのぬくもりに抱きしめられたまま、俺は夢を見る。

俺はアッシュの膝で抱っこされてて、アッシュは静かに微笑んで俺を撫でてくれている。アッシュのそばにいろんな人が来て、アッシュも楽しそうにしてる。俺はアッシュの気を引きたくって、ちょっと拗ねたふりをしてみるんだ。そうしたらアッシュはしょうがないなって笑って、俺をぎゅっとしてくれる。



―――そんな、幸せな夢だった。




fin






―――――――――



ここまで読んで下さった方、ありがとうございました!!



涼原璃斗 拝


                                     

seawingrord at 18:23|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2009年05月03日

猫と飼い主28




―――――――猫と飼い主28



 それから、いくつの季節が過ぎたのかはわからない。もうなんだか体が重くって、昔みたいに走ったりできなくなってしまった。
 それをちょっと寂しいと思ったりもしたけど、しょうがないのかもな、と思った。俺のそばには相変わらずティアがいる。ティアも俺も最近は元気がなくって、時々人間がくれる餌をちょっとだけ食べて過ごしていた。
 朝の寒さに、俺はふるっと体を震わせて目を覚ます。そして、どうしてか急にアッシュのことを思い出して、会いたくなった。
 あれっきりアッシュの家のそばまで近づいたことはない。時々アッシュのことを思い出して、会いたくなって、でもそれだけだった。でも、今日はどうしてか本当にアッシュに会いたくなっちまったんだ。

「ティア、俺ちょっと出かけてくるな…」

 まだ体を丸まらせて寝ているティアに声をかける。でも、応えはない。俺はティアに擦り寄って、体を嘗めてやった。硬くなった体をしばらく嘗めていたけど、ティアは起きなかった。

 俺はティアをそのまま寝かせておいてやることにして、アッシュの家がある方に向かう。こんなに遠かったっけ、と思うほど歩くのに時間がかかった。
 アッシュの家のそばまで来ると、俺はいつかの花畑に辿り着いた。もう全然歩けないほどに疲れて、俺はそこに座り込む。さわさわと花びらが鼻先をかすめて、俺は急に眠たくなってきた。
 さっきまで寝てたのに、おかしいな。そう思ったけど、落ちていく瞼は止められない。すっかり高くなった日が俺の体を温めて、すごく気持ちいい。
 アッシュにぎゅっとされた時もこんな感じだった。あったかくて、気持ちよくて。それだけで幸せになっちまう。

「にぁ……」

 すると、そっと俺の体が持ち上がって、誰かにぎゅっとされた。

「おまえ……ルーク、か?」

 小さく声が掛けられて、もう閉じようとしていた瞼を開く。ちらちらとうつる赤、緑色の瞳。


 ……アッシュだ。






seawingrord at 20:28|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

マイソロ設定アシュルク裏

寝る直前、急に思い付いたマイソロ設定アシュルク裏。
ちゃんと書いたらマイソロ部屋に載せよう…。







裏なので続きに置きます。続きを読む

seawingrord at 01:19|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2009年05月01日

猫と飼い主27

軽微ですが、ノーマルカップリング描写があります。
苦手な方はご注意下さい。




――――――――――猫と飼い主27

「…っでっ!?」

 そう考え事をしていると、尻尾に激痛が走る。何事かと思って振り向くと、そこにはちっちゃな人間がいた。

「あー、きゃっ!」

 ふわふわした赤い毛並みの小さな人間が、俺の尻尾を持って嬉しそうにはしゃいでる。それはてめ―のおもちゃじゃねー!! 放せー!

「人間の赤ん坊ね。でもどうしてこんなところに…」

 ティアはそう言うけど、肝心の俺の耳には痛みや何やらで全然入ってこねー。尻尾を持ったままきゃいきゃいはしゃぐ赤ん坊は俺らの言葉が通じるわけねーし。とりあえず赤ん坊の動きに逆らわずにいると、なんだかぐるぐる回り始める。

「きゃうー!」

 何が面白いんだか、赤ん坊はさっきからずーっとけらけら笑ってて。俺も笑いたくなった。
 俺は笑える。アッシュはどうなんだろう。幸せだ、って、笑ってるかな。笑ってたら、嬉しい。

 ひとしきり遊びまわって疲れた俺は、くてっと花畑に寝転んだ。赤ん坊も疲れたみたいで体を丸まらせてる。花の匂いが俺の鼻先を擽って、くあっとあくびをする。
 ティアはどうしたんだろう、とぼんやり周りを見渡すと、少し離れた木陰で寝そべっていた。ちょっとだけ顔を上げると、ティアはぱたんと尻尾を動かす。俺も応えるように尻尾を動かして、本格的に寝ることにした。俺が丸まると、毛並みがくすぐったいのか、赤ん坊がふにふに顔を動かしてる。

 幸せそうな寝顔に俺は一気に眠くなって、とろとろと瞼を落とした。ぽかぽか陽気があったかくて、俺は、久しぶりにアッシュの夢を見た。

「ルーク」

 少し低くなったアッシュの声は相変わらず不機嫌そうで、でも優しくて。俺は夢の中で、ちょっとだけ生温い水を目からこぼした。
 
 なあアッシュ、アッシュは笑ってる? そう問いかけると、アッシュは少し苦しそうな顔をして、でも、笑ってくれた。





seawingrord at 22:09|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2009年04月30日

猫と飼い主26

軽微ですが、ノーマルカップリング描写があります。
苦手な方はご注意下さい。





――――――猫と飼い主26

ティアと暮らすようになって、しばらくが経った。ティアは優しくて、俺もなんだか安心して一緒にいられる。なんだかつがいみたいだなって言うと、ティアは「ばか」って言って俺を尻尾で叩いた。
 アッシュと離れてから、俺は人間になれなくなった。いくつの夜を超えても、俺は猫で猫のまま。それにホッとして、時々胸がぎゅうっとなる。やっぱりあれは、俺が望んだことだったんだと思って。

「アッシュ……」

 アッシュのことを思い出すたび、胸が痛くなる。わけもなくアッシュに会いたくって、でもそれはできなくて。ティアといて幸せだけど、アッシュとは違うシアワセなんだ。その違いは俺の中でも曖昧で、うまく言えないんだけどな。

「ルーク、ここにいたの」
「ティア」

 たくさんの花に埋もれるようにして寝そべっていた俺に、いつ来たのかティアが声をかける。そういやティアに何も言ってこなかったなと思い出して、俺はごめんと謝った。

「それはいいのだけれど…こんなところ、よく見つけたわね」
「ん、俺も今日初めて来たんだけどな」

 ホントは、アッシュにどうしようもなく会いたくなって、アッシュの家の傍まで来ちまったんだ。でもやっぱり会えないから、周りをうろうろしてたら森ん中に花畑を見つけた。

「ねえルーク。聞いてもいいかしら。アッシュ……って、あなたの飼い主?」

 躊躇いがちにティアがそう聞いてきたから、俺は笑って頷く。ティアは俺の横に座って体を擦り寄せた。辛いことなら聞かないって言ってくれたけど、俺はティアに聞いてほしいと思った。

「…ん。そうだよ。俺の……大好きな人なんだ」

 大好きで大好きで仕方なかった俺の飼い主。手のひらはちょっと硬くて、でも撫でられるとすげぇ気持ちよくて。俺はアッシュに撫でられるのが大好きだったんだ。
 最初はいけ好かないやつだと思ってたんだけど、優しいってわかって。アッシュが辛そうにしてるのは、俺もすごくつらかった。だから同じになればわかるんじゃないかって思ったけど、俺は猫でアッシュは人間だから。欲張りだったんだ、俺。

「ルークは今も、その人が大好きなのね」
「うん。多分、世界で一番好きだよ……あ、ティアのことだって大好きだぜ!?」
「ふふ、ありがとう。でも、私にも少しだけわかるわ、その気持ち」
「ティアも人間と一緒にいたんだもんな」
「ええ。きっとルークが言う一番好きとは違うのだけれど、私も大好きだったから」

 ……ティアの飼い主は死んじまってるんだもんな。ちょっと寂しそうな顔をするティアに擦り寄って、俺はアッシュのことを考えた。

 俺はきっと、アッシュのことが特別に好きだったんだと思う。ティアが好きなのとも違う、アッシュ一人だけのための、好きって言う気持ち。辛くて苦しくて、胸がぎゅうぎゅうするけれど、大切に大切に胸にしまっておきたいような、宝物。
 アッシュはどう思っていたんだろう。俺のことを大切だって、今も思ってくれてるかな。

 なぁ、アッシュ。



seawingrord at 20:15|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2009年04月29日

猫と飼い主25

軽微ですが、ノーマルカップリング描写があります。
苦手な方はご注意下さい。





―――――――猫と飼い主25

「なぁ、ほかの猫はいないのか?」
「ええ…この辺りは人間の家が多いでしょう? だから他の猫は住みづらいのかも知れないわ」

 確かにそうかもしれない。人間を知らなけりゃ、人間って得体が知れないから怖いよな。ティアは人間に飼われてたから人間のこと知ってるもんな。もしかすると、もともとこの辺りにいたのかも。

「なぁティア、俺もこのへんにいてもいいかな」

 餌も手に入りやすそうだし、なにより人間に飼われてたやつが近くにいるってのに安心して、俺はそう言った。すると、ティアは蒼い目を細める。

「いいと思うわ。この辺りには特に他の猫の縄張りもないし……ねぇルーク、よければ私と一緒に行動しない?」
「え、いいのか? そりゃ俺は心強いけど」

 ティアの申し出は思ってもみなかったことだったから、嬉しい。一匹だけだとやっぱ、心細いんだよな。野良のときは全然そんなの感じなかったけど。……もしかして、ティアも寂しいのかな。

「あなたがよければ…だから、その」
「や、嬉しい。俺一匹だと、全然勝手もわからねーし」
「そう、よかった」

 ティアはホッとしたような顔をする。俺はこれからよろしくなっていう気持ちをこめて、ティアに顔を寄せる。そっと首元に顔が擦り寄せられて、俺はその温かさにすごく安心した。

 ……アッシュはどうしてるんだろう。
 そう思ってアッシュの家がある方を見上げてみるけれど、空が高すぎて、見えなかった。



seawingrord at 21:25|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2009年04月28日

猫と飼い主24

軽微ですが、ノーマルカップリング要素がありますので、苦手な方はご注意くださいませ。



――――――猫と飼い主24



「くぁ……」

 朝になると、俺はいつの間にか猫に戻っていた。昨日はどこで寝たんだったっけ、と思い出そうとしても全然思い出せない。辺りを見回してみると、人間の家がたくさん見える。
 初めてアッシュに会った場所は確か他の家が全然なかったんだよな。そう思い返して、俺は辺りを探索することにした。
 すると、早速他の猫がいるのを見つけた。優しい奴だといいな、と思いつつ話しかけてみる。

「…なぁ、おまえこのあたりの猫か?」

 振り向いたのは、きれいな亜麻色の毛並みに蒼い目の猫。きれいな猫だな、と思わず見とれた。

「ええ、そうよ。……あなたは? この辺りの猫ではないわよね」
「あ、ああ。その…昨日ここに来たばっかりで、さ。その…」

 どう言ったものかと俺が悩んでいると、その猫がこっちに近づいてくる。

「もしかして、今まで人間のところにいたの?」
「え、わかるのか?」

 そう言ってはっとする。もし人間嫌いの猫だったら、人間に飼われてた俺がここにいるのが嫌かも知れない。おそるおそるそいつを見ると、そいつは優しく微笑んだ。

「いいのよ。私もそうだったから…あなた、名前はある? 私はティア」
「あ…俺はルーク」

 そう聞いて、俺はホッとした。けど、俺と同じなら、どうしてティアは一人で街にいるんだろう。でも聞いてはいけないような気がして、そっとティアを見ると、ティアはほんの少しだけ悲しそうな顔をした。

「私を飼っていた人がね、死んでしまったの。だから、ここで暮らしているわ」
「ごめん…悪いこと聞いた」
「いいのよ。私が勝手に言ったことだもの」

 俺のことも言った方がいいんだろうか、なんて思ったけど、ティアは言わなくてもいいって言ってくれた。だから、アッシュのことはまだちょっと俺の中にしまっておこうと思う。




seawingrord at 19:01|PermalinkComments(0)TrackBack(0)