来るべき、大いなる正午

宇宙の底に生息するゲジゲジ、K・スィーガーがその瞬間に考えた生の思考を書き留めておく。

影の下をくぐれば 〈第7回〉

如何に錯綜を希求しようともそれは正気の沙汰ではなかったのだ。それは人生の行路、生き死にの覚悟。

軋み上げ、逸脱し、咆哮をあげること。それも困ったことではない。ならびに自己のこみあげる感情も無とせよ。

無の道しか行けぬきみ。生の絶頂にこそ死はある。

生も死も冷淡にしか考えていなかったきみ。さあて、この生にどのようなフィルターがかかっているのか。HMもフィルターだ。

上っ面の言の葉には、死んでいけばいい感情が宿る。差し込んでくる不協和音。

「死ぬとは随分、勝手な行為ではないか。」

「死んでいる訳じゃない。死ぬ弁明だ。少し腐った臭いがするけどさ。」

「生きてくればいい。生きてくれていれば安心だ。」

 生きるのも随分勝手な行為だと思った。何の大義がある。何の使命がある。奥歯に狂った言の葉が挟まっているのだ。深部にたえた不安。もぎ取ってしまえば壊滅。全ての器官をずるずると引きずり出された様に。それは身体の鎖。全て身体は穴だらけのでこぼこ。

 穴は何も防げない。HMの侵入も。傷が入ってくる。治ったと思っても、傷は絶えないものだ。

 窓の外から雨音が聞こえてくる。雨水も傷に侵入。汚水が入り込んでくる。汚された文字がさらに汚染されたようだった。

微かだがやはり強い風がふいているようだった。風の唸りも強迫観念だった。まだ猶予があるのなら、それは完全な自由といってもいいのか。

かつてかぶれていた哲学者は人間は自由という刑に処されていると言っていたか。刑罰は生きとし人間全体に?

 何という罪業だ。だが、眼前のMにもやはりきみにも眼差しの縛りしかない。(つづく)


墓碑銘に刻む言葉は

花の散るがごとく、葉の落るがごとく、わたくしには親しかった彼の人々は一人一人相ついで逝ってしまった。わたくしもまた彼の人々と同じように、その後を追うべき時の既に甚だしくおそくない事を知っている。
(永井荷風「濹東忌憚」から
末期がん患者を看取る様な気持ちで、その最期を見届けた。自己への衝撃は無視することにして。

何もかもが気に入らない気持ちだった。それでも現実は屍を増やすだけだった。その下に自分はいる。

救いのない今生の闇の底で……

不佞もまた死にいく存在。それだけを確認する虚無。

戦場はもうない。苦痛と僅かなカネを与えてくれた場所は。

渡り鳥はもう死んだ。死んだまま飛んでいる。感懐もぶっ壊れて停止している。

賽の河原で石ころ遊びに飽きたら、言語を弄ぶことにしたのか。冥界に言の葉は届いているか。

ではさようなら。精々この駄文が追悼だ。世話になった。

影の下をくぐれば 〈第6回〉

「辛そうだ。辛そうな顔をしている。おや、でも笑っている?」

 どうせ死ぬのだ。なんと素敵な救いではないか。

「そうだ。そうだ。あなたの言う通りだのう……」

まだ何も言ってないのに、Mはいつもきみをそのまま肯定的に受け止めてくれる。

「しかし、あなたがいなくなっては皆も困るから。」

 消え去りたい、破滅願望が強迫観念としてあった。声にならない声としてあった。

 ぼんやりと目に映るMの心配そうな顔。

 絶望に絶望を重ねた神話の結果が破滅なのか。確かに呼吸は苦しいし、今も頭は痛い。気に病んでいることだらけだ。目の前の感覚、それはただ苦しみ……

「辛そうだ。辛そうな顔をしている……」

 さっきと同じことしか言ってない。

 歪な大地を這ってお互い生きている身。無感動で無表情な骨が残るだけ。

「骨、ホネ、あなたもホネ。」

 意味もないフレーズが続き、音になった。

 自罰だ。自罰として、音はある。

 もう骨も音も必要ないな。だって腐肉を掻き回さなくていいのだから。しかし、始末の悪いものだ。肉に骨はついてくるのだ。

 窓を開けているので、湿った夜風に頬を弄ばれた。状況はなにも変わっていない。吐き気が今も残る。

反復も展開もなく、心の直感が断罪となる。叫ぶ律動となる。何事も起こってはならなかった今日という日。平坦な死だけ望む。時間をかけない生き方だけだ。その起こす逆流。

「死ぬ?死ぬのかきみは?」

 本当に死んで全て消えれば愉快な解決だと思った。だけれどもやっぱり骨は……

 野良犬のように消え去りたい。ドブネズミでもいい。祈願はただ鬱陶しい。

 

それでも生活があった。

 

こういったものは、一つの意味があり、

それは何かであり、

唯一のものがあり、

よい生活の後にも、嘔吐はあり

窓にも苦痛の身体が

いくつもいくつも

うつっている

 

幻視の果て。デカダンスの胎動。存在が臭気。死んだまま生きることには同意せずに、生きることをそれでも選ぶなら。(つづく)

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