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おじいさんの秘密



下山事件―最後の証言(book)
柴田哲孝著 祥伝社 2005年
母方の祖父の法事の席で大叔母が洩らした「兄は下山事件の当事者かもしれない」という何気ない一言。
下山国鉄総裁轢死事件は、公式には「自殺」と発表されながら、当初から反証も多く、占領下の日本の暗部を象徴する陰惨な出来事として、松本清張の「日本の黒い霧」など、さまざまな形でメディアに取り上げられてきた。
著者の祖父が、かねてから下山事件との関係を噂される、謎の組織「亜細亜産業」の役員だったことは事実。その関係から著者は、以前別のジャーナリストの取材に匿名で協力したこともあったが、その結果は著者にとって納得の行くものではなかった。大叔母の言葉に触発された著者は、自ら事件の再検証を思い立つ。
ところが、大叔母の夫をはじめ、生存する当時の関係者は、著者の調査に顔色を変える。半世紀以上も前の、風化しかかった事件に、未だに口を鎖さなければならない秘密があるのだろうか。子ども好きでやさしかった祖父には、家族に見せられない裏の顔があったのだろうか。

身内の人が書いたものは生々しいですね。関係者の緊張や息遣いまで伝わってくるようです。
事件そのものについての推理に関しては、既に論点が出尽くしている感があり、本書の主張も肝心なところでは想像の域を出ず、特に新しい発見はありません。興味深いのは、祖父の交流関係や、祖父のつながりで亜細亜産業に籍を置いていた大叔父・大叔母、あるいは少女の頃しばしば事務所に出入りしていた著者の実母の話から、亜細亜産業の実態をさぐり、事件の黒幕を浮かび上がらせようと試みているところです。
特に、亜細亜産業のリーダーだった矢板玄(現在故人)に対する突撃インタビューは圧巻です。祖父と矢板の旧交がなければ、対面がおぼつかないどころか、絶対に無事では済まなかったでしょう。

結局のところ、本書からわかるのは、この事件は単純に「GHQの陰謀」の一言で片付けられるようなものではなく、人種も思想も立場もさまざまな人々の利害得失が複雑にからみあっており、「亜細亜産業」がその交点だったらしいことと、良くも悪くも彼らが戦後の日本を牽引してきたということです。
してみれば、政界の腐敗などは、当時からすでに織り込み済みであり、それを必要悪として呑み込むことで、この国は少なくとも表面上、簒奪をまぬがれてきたのかもしれない。
そのことによって、国が安定し、一般国民のこうむった恩恵は少なくない。とはいえ、この国が「われわれの国家」であったことは、ただの一度もないのではないだろうか。

今度の衆院選とて、郵政にせよ年金にせよ、争点など見かけだけのもの。シナリオは解散前から書きあがっているのではないだろうかと、邪推のひとつもしたくなります。

亜細亜産業のルーツを満州まで遡ったことはともかく、終章は蛇足。しかし、こういった感傷も、身内ならではとも言えます。
他の資料同様、この本も、どこまでが事実なのか、実は書けなかった、書かなかったことも相当あるのではないかという気もしますが、しかし、身内の恥部ともいうべき過去を、よく思い切って公にされたと思います。




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