医学雑誌で「尺骨突き上げ症候群」に関する論文をよく目にします。

尺骨突き上げ症候群は尺骨が橈骨に対して相対的に長くなるため、月状骨や三角骨など尺側に位置する手根骨に圧力が加わって発生します。

症状としては、手を強く握った場合や、回内して重い物を持つと手関節尺側に疼痛を訴えます。
また、三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷、月状三角骨靭帯(LT)損傷、遠位橈尺関節変形症なども引き起こします。

手関節付近のX線像を見る場合は、掌側傾斜、橈骨傾斜および橈骨長などを計測して、それらが基準値内にあるかどうか確認すると良いでしょう。(図1)


手関節周辺X線計測法



図1


a)掌側傾斜
側面像で橈骨長軸への垂線と橈骨遠位関節面のなす角度
正常値 1〜21°(平均11°)

b)橈骨傾斜
正面像で橈骨長軸への垂線と橈骨遠位関節面のなす角度
正常値 13〜33°(平均23°)

c)橈骨長
正面像で橈骨長軸への垂線で、橈骨茎状突起先端を通る線と尺骨関節面に引いた線との距離
正常値 健側と比較する(平均12mm)

尺骨突き上げ症候群は手掌を衝いて転倒するなど急性外傷に起因して発生するものの他、肉体労働者の人たちが手関節を酷使するなど亜急性(反復性・継続性)外傷に起因して発生するものもあります。


尺骨突き上げ症候群(前後像)









図2




尺骨突き上げ症候群(側面像)



図3


図2および図3は肉体労働者に発生した尺骨突き上げ症候群です。
肉体労働者で手関節を酷使しているものの、手掌を衝いて転倒するなどはっきりとした原因は見当たりません。
前述した亜急性外傷に相当します。

図2(前後像)からは、橈骨長が短縮しているのが分かりますね。
橈骨関節面にも変形が見られます。
また、遠位橈尺関節が離開しています。

図3(側面像)からは、尺骨頭が背側に脱臼しているのも確認できます。

荷物を持ち続けたりするなど手関節を反復して酷使しているうち、手関節に痛みを覚えます。
このような患者さんは、私たちの接骨院に来院するケースも少なくありません。

臨床所見としては、手関節掌側(または背側)から見た外観で幅が広くなっているのが分かります。
片方の手関節だけに見られる場合は、健側と比較して幅が広くなっているのが分かりやすいですね。
また、TFCC部(手関節尺側裂隙)に圧痛が認められます。
患者さんは、この部位に疼痛を訴えて来院するケースが多いですね。

遠位橈尺関節は常に離開しているわけではありませんが、尺骨突き上げ症候群の症状が進行するのに伴い、離開する傾向にあります。
遠位橈尺関節離開の徒手的な検査は、遠位橈尺関節を橈側および尺側からはさみます。(遠位橈尺関節がくっつきあうようにはさみます)

また、尺骨背側脱臼は常に合併しているわけではありませんが、合併している場合は尺骨頭が異常に突出しているのが確認できます。

前述したように、尺骨突き上げ症候群は病変の進行に伴い、遠位橈尺関節離開、尺骨頭の背側脱臼、変形性手関節症などを引き起こします。

進行したものでは観血療法の適応ともなります。

従って、手関節部に疼痛を訴えて来院する患者さんで、前述したような症状が認められる場合は対診の必要もあるでしょうね。

【参考文献】
「手関節周辺の疼痛に対する診断と治療法−尺骨突き上げ症候群(坪川直人)」(骨・関節・靭帯/第19号第10号/アークメディア)
上肢骨折の保存療法(武田功ほか著)」(医歯薬出版)


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【改訂】
平成19年7月28日 本文を一部書き換えました。