骨盤骨の各骨端核閉鎖時期は20歳前後で、この年齢における下肢筋力は強いばかりかスポーツ活動も活発です。
そのせいで、スポーツ活動においては筋に急激な収縮が起こり、筋付着部に裂離骨折が生じると言われています。

「柔道整復学−理論編」教科書では、骨盤骨に起こる裂離骨折の一つとして、上前腸骨棘裂離骨折が掲載されています。

上前腸骨棘裂離骨折
股関節最大伸展位からの股・膝関節の屈曲が同時に起こった場合に発生。例えば、短距離のスタート時など。
縫工筋、大腿筋膜張筋の牽引力による。
上前腸骨棘に起始する縫工筋や大腿筋膜張筋の筋力により、骨片が外下方へ転位することがある。
膝を屈曲しながらの股関節の屈曲、外転、外旋力が低下する。

さて、陸上競技について太郎は詳しくありませんので、太郎の学科とは異なる学科教務に在籍する体育教諭のY先生からアドバイスを頂きました。m(__)m

まず、陸上競技は100m、200mおよび400mを短距離、800mおよび1,500mを中距離、5,000mや10,000m、女子3,000mは長距離に分類されます。
そして、スタートの方法にはクラウチングスタートスタンディングスタートの2とおりがあり、短距離は前者、中距離および長距離は後者のスタートが採用されます。

前述した上前腸骨棘裂離骨折は、短距離走におけるスタート時に発生すると記載されています。
と言うことは、クラウチングスタートを指すわけです。
クラウチングスタートは2個のスターティングブロックを用い、それに左右の足を載せてスタートに備えます。この状態が「位置について!」です。
「用意!」の合図とともにお尻が持ち上がり、後側になっている下肢が伸びます。
ただし、この時の股関節は選手によって相違はあるものの最大伸展位ではなく、やや屈曲気味と言っても過言ではありません。

それではいつ、股関節最大伸展位から、股関節および膝関節が同時に屈曲するのでしょうか?
それは、「用意!」の合図に続く「ぱんっ!(鉄砲の音)」と同時に起こるようです。

「用意!」の合図でお尻を突き上げた状態から、「ぱんっ!」と同時に選手は、両足同時にスターティングブロックを蹴り、身体を前方に押し出します。
後側の足でスターティングブロックをける瞬間、股関節は最大伸展位となり、その直後、股関節および膝関節が同時に屈曲するわけです。

どうやら教科書に掲載されている上前腸骨棘裂離骨折の発生は、クラウチングスタートにおける「ぱんっ!」の瞬間にあるようです。(^^;

ところで、太郎の接骨院にはこれまで1例だけ、上前腸骨棘骨折と診断された患者さんがやって来たことがあります。
ただ、教科書に掲載されているのと同様に陸上競技(短距離走)で受傷したものの、発生機序には幾分相違点が見受けられます。

太郎の接骨院を受療したA君は、20歳の大学生で陸上競技部に所属しています。
ある大会の日、400m走に出場しました。
スタートはまずまず。
トップを走りながら、ぐんぐんとスピードが上がっていきました。
そして、スピードが最高に達したくらいになってA君は、急にへなへなと上体が崩れてしまったと言います。
跛行を呈しながら太郎の接骨院を受療したA君。
施術録を見ずに記憶だけに頼ってBlogを書いているので幾分あいまいですが、上前腸骨棘付近に認めた限局性圧痛が骨折を示唆する程度だったので対診を行ったと思います。
なお、当時の施術録を確認しても恐らく、参考になるような記載がないと思います。(^^;

対診の結果得られた診断名は上前腸骨棘骨折。
すなわち、上前腸骨棘裂離骨折だったのです。
医師からの指示は「冷湿布を施行して安静に!(冷湿布を貼るだけ)」と言うもの。
それではさすがに心配でしたので、肋骨骨折に際して施行する肋骨固定帯(商品名「リブバンド」)を上前腸骨棘を含めた骨盤を覆うようにして施行しました。

さて、A君の受傷は短距離走でありながらも、スタート時に起こったものではありません。
しかし、受傷時の様子を聞いて考える上では、スピードが乗ってきて、股関節の伸展位から股関節および膝関節の屈曲が同時に、かつ急激に起こったことによって同部の裂離骨折が発生したものだと推測が可能です。

【補足】
教科書では短距離走のスタート時に発生する上前腸骨棘の骨折を剥離骨折と掲載されていますが、近年では剥離骨折と裂離骨折が区分されつつありますので、今日のBlogでは裂離骨折と改めてお話しています。
詳細(理由)については「剥離骨折と裂離骨折の違い」をご覧下さい。m(__)m


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