太郎が見習いを行なっていた頃のお話です。

その頃の太郎は、見習い先の整骨院の2階に住み込んでいました。
お師匠さんとなる院長先生は、整骨院から自転車で5分ばかり離れたところに住居を構え、そこに住んでいました。
当時の太郎は柔道整復師免許を取得して間もなくでしたが、休日や時間外の急患に対しては、原則、院長先生に代わって対応していました。

ある日の深夜、22時ごろだったでしょうか?、娘さんが椅子の上に載っていて、そこから落ちてから動けなくなった!として往療依頼が入りました。

後輩1名を伴ってそのお家へ。
後輩はまだ学生です。

患者さんのお家に行くと、17歳の女の子が部屋の真ん中に、椅子から落ちたままの状態(側臥位)でいました。
女の子が寝転がった横には椅子がありました。

自分の部屋で棚の上の物を取ろうとした時、棚が高い位置にあったものですから、勉強用の椅子を持って来てその上に載って取ろうとしたそうです。
しかし、部屋は畳張りであったために椅子の足元の安定性が悪く、荷物を取ると同時に椅子ごとひっくり返ってしまったようです。

椅子から落ちた際の大きな物音に驚いた家族は女の子の部屋に駆けつけましたが、その時はもう部屋の真ん中に寝転がって痛がっていました。
ですから、受傷の瞬間は女の子しか直面していません。

女の子は「椅子から落ちた!」「肩が痛い!」と訴えるだけで、それ以上聞いても痛がるばかりで何一つ情報が得られませんでした。(>_<)

女の子は部屋着のような服装です。
視診はもちろん、触診しようとする際には、肌を見せてもらう必要があります。
でも、女の子は痛がるばかりで服を脱ごうにも脱げそうにありません。

服の上から患部を確認(触診)しようとしましたが、患部を覆う服は厚みがある上、見習い中で臨床経験にも乏しかった太郎には分かる由もありません。(*_*;

それまでに得た症状だけで肩関節脱臼か上腕骨近位端部骨折を疑ったのですが、前述した中途半端な情報の得方だけでは果たしてそのどちらなのかさえ診断を確定させることができませんでした。

ご家族には、「骨に異常があると思われますので、お師匠さんを呼びます!」と伝えました。

院長先生に連絡を取って駆けつけてもらいました。

患者さんの様子を見た途端、院長先生は触診さえすることなく、「診察するためには服を脱いでもらう必要があります。痛がっているから服は脱げませんね? ですから、服ははさみで切らせてもらいます。 はさみを貸してもらえますか?」と言ってはさみを手にするやいなや、患者さんの服にチョキチョキとはさみを入れてしまいました。

患部があらわになった状態で、「太郎君、診断は?」と院長先生。

服の上から確認しようとした際はあれだけ判別がつきにくかったのに、服を取って患部を直接見えるようにしたら、肩関節脱臼であったことは一目瞭然でした。(>_<)

「はい。肩関節前方烏口下脱臼です」と太郎。(大汗)

「それなら処置をお願いします」と言って、院長先生はそそくさと帰ってしまいました。

言い訳になりますが、当時の太郎は若く、女の子とさほど年の差がありませんでした。
患部の確認をする上で服を脱いでもらう必要があることは十分承知していたものの、衣服を切ってしまう勇気まで持ち合わせていませんでした。
女の子に対しては患者さんとしてではなく、女性として意識してしまったことに過ちの要因があるようです。

今となっては服を脱いでもらうことなく診断を確定させることもできますが、やはり今でもそんなことはしてはいけませんし、やってもいません。

傷病を診察する上で得られる情報は、多ければ多いほど良いものです。
それをあえて、衣服を脱がせることなく視診をしなければ、大きな情報が一つ欠如することにつながります。
そんなところにこそ、落とし穴が潜んでいることが多いのです。

皆さんは、太郎のような過ちを繰り返すことのないように、きちっと視診をされるようにお勧めします。
患者さんの同意を得る必要はもちろんありますが、必要に応じて着衣を切ってしまう勇気を持つことも大切です。





整骨太郎のホームページ
整骨太郎のひとりごと(Blog)−目次