開業柔道整復師のT先生から、症例のご提供がありました。m(__)m

患者さんは中学3年生の男子A君で、バスケットボールの試合中に大腿部を壁に強打して負傷したと言います。

T先生の元を受療したA君の大腿部は、全周にわたって著明な腫脹を呈していたそうです。
大腿部の前面を比較的広い範囲で打撲したようで、筋の断裂や局所的な打撲を疑う所見は認められなかったと言います。

強い腫脹を呈していたのにも関わらず、T先生は大腿骨骨折を疑いませんでした。
その理由は、骨損傷所見を認めなかったことはもちろん、A君が大腿部を受傷したのはバスケットボールの試合が始まって間もなくのことで、その後、試合時間終了までの間、フルタイムで試合に出場していたからです。

T先生は、A君の患部に冷湿布を施して、軽めの弾性包帯を施行して帰宅させました。

ここで言う軽めの弾性包帯と言うのは、ほとんどテンションをかけない(引っ張らない)で巻く包帯を指します。

A君の大腿部は著明な腫脹を呈していますが、外傷に伴う出血は、受傷後おおむね24時間くらい経過するまで続きます。

外傷に伴う腫脹は、出血の程度を示唆します。
なお、出血量が多ければ多いほど腫脹が強くなると考えてもあながち誤りではありませんが、関節(包)内での出血は、関節(包)外でのそれに比較して体表面上で確認できる腫脹は軽度となります。
また、肘、手、膝、足などの関節部分では腫脹が現れやすいのに対して、上腕、前腕、大腿、下腿などの骨幹部では腫脹が現れにくいものです。
それだけに、T先生が見た大腿部の著明な腫脹は、それだけ軟部組織の損傷が著しいことを物語っていると考えます。

さて、T先生の元を受療したA君は、受傷してからまだ24時間を経過していません。
従って、A君の大腿部は、T先生の元を受療したその時よりもなお、20時間程度は腫脹が強くなるものと考えるのが妥当です。

そのような理由から、T先生はA君の大腿部に軽めの弾性包帯を施行したわけです。

軟部組織損傷に対する初期処置は、RICE(「アール・アイ・シー・イー」または「ライス」)処置が基本原則とされています。

【RICE処置】
R=Rest(安静)
I=Icing(冷却)
C=Compression(圧迫)
E=Elevation(挙上)


この処置で、誤りがち(勘違いしがち)なのが Compression(圧迫)です。

圧迫は、包帯施行によって「強すぎず弱すぎず(強からず緩からず)」行うことが必要です。

包帯を、強すぎず弱すぎずに巻くという漠然とした表現ですから難しいですね。

圧迫というからには、包帯によって少なくとも縛り付けておく必要があるように思いがちですが、A君の初検時のように急性期では、圧迫と言えるほどの圧迫は必要ありません。
むしろ、圧迫しなくても良い(圧迫はない方が良い)と考えても誤りではありません。

また、前述したRICE処置における「圧迫」は、初期処置と呼ばれるだけあって、受傷直後の応急処置に始まって、包帯固定を行わなくなるまでの間、ずっと同じ調子(テンション)の圧迫と考えがちです。

しかし、これもまたそうではありません。

前述したように、外傷によって起こる出血は、受傷後おおむね24時間は続いています。
従って、受傷直後から24時間を経過するまでの間は、出血によって腫脹がどんどんと増えてくる可能性があるわけです。

出血が多ければ、腫脹が著明となってきます。
すなわち、軟部組織の損傷が多ければ多いほど出血量が増し、それが腫脹の程度となって反映してくるわけです。

反対に、軟部組織の損傷が少ないと、出血量は少なくなります。

開放創(皮膚を傷つけた場合)と同じで、傷が浅かったり小さかったりすれば、出血もすぐ止まります。
対して、傷が深かったり大きかったりすれば、出血はなかなか止まりませんね。

それと同じで、軟部組織の損傷程度が軽いものであれば、受傷から24時間を経過するまでの間、ちびちびとほんの少しずつしか出血していかないため、受傷後24時間を経過してもそれほど著明な出血とはならないと言えるでしょう。

また、軟部組織の損傷程度によっては(損傷がごく軽微であれば)、受傷から24時間を経過するまでに出血がとまってしまうケースだってあるでしょう。

これに対して軟部組織の損傷が著しい場合では、受傷直後から出血を伴い、概ね24時間を経過するまで延々と出血が続くことになります。

そのようなケースでは、受傷後24時間を経過するまでの出血を物理的に止めてしまうことは困難です。
しかし、受傷後24時間を経過するまでの出血量を少なくすることは可能です。

その手法が、RICE処置と言うわけです。

このうち圧迫は、出血に伴う腫脹を制御する意味合いと、患部を中心に出現した腫脹を散在させる(局所的に出現する腫脹を広範囲の腫脹となるようにならす)意味合いを持ちます。

しかしながら、損傷程度がある一定以上に強いものとなると、圧迫によって腫脹を制御しようと試みてもそれができず、どんどんと出血が起こって緊縛包帯を招きます。

すなわち、RICE処置における圧迫は、特に受傷後24時間以内の出血が起ころうとしている時期では、軟部組織の損傷程度に応じてその強さを変えていく必要があると言うわけです。

分かりやすく言えば、受傷後24時間以内では、RICE処置のうちR、I、E処置は行っても、C処置(圧迫)だけは圧迫と言えるほどの圧迫を加えないと言っても良いでしょう。

さて、A君の大腿部に処置を施したT先生は、A君に対して松葉杖を使用するように勧めました。
松葉杖の使用によって、患肢を完全に免荷しようと考えたわけです。

それに対してA君は、「たかが打撲で松葉杖をつくなんて恥ずかしい」とでも思ったのでしょうか、T先生の勧めをためらいます。

この時、T先生はきっぱりと、たかが打撲と言っても今回の打撲は中でも程度が大変強いものであること、今以上に腫脹が強くなってくると阻血症状を招いて観血的に内出血を取り除く必要も生じてくることを説明したそうです。

太郎のBlogでは、先ごろからインフォームド・コンセント(IC)の大切さに触れてきました。
それを見ていたT先生は、A君にはちょっと脅かすようで可哀想かな?とは思いつつ、ここは心を鬼にして強めのことを言ったそうです。

実業団でラグビーチームに所属していたT先生だけに、プロスポーツ選手であれば、そのような外傷に対しては、2時間ごとにアイシングをすることも告げたそうです。

松葉杖をついたA君と帰宅の途についたA君のおかあさんは、その夜、T先生の指示を忠実に守って2時間ごとに、A君の患部にアイシングを行い続けたそうです。

その甲斐あって、翌朝のA君は松葉杖をつきながらも、学校に登校できました。
A君の大腿部の痛みは、T先生の元を受療した時に比べると、ずいぶんとマシになっていたそうです。

ところが、学校に着いてから、A君の足はまた痛み始めました。
午後には尋常な痛みではなくなったため、早退してT先生の元に運ばれました。

T先生が目にした受傷翌日のA君の大腿部は、これ以上に大腿部の皮膚が伸びきらないというまでに腫れ上がっていました。
そればかりか、下腿前面(前脛骨筋)のあたりに神経症状を疑う鈍痛を訴えます。

T先生は迷わず、A君を整形外科に転医させました。

A君はその後、整形外科に入院となりましたが、患部を切開(観血的処置)することなく済んだそうです。

受傷翌日になってA君の大腿部は、疼痛がずいぶんとマシになったとは言え、まだしばらくは安静(R)や挙上(E)を必要としたのでしょうね。

松葉杖をついて学校へ行ったものの、それでは十分な安静が図れなかったわけです。

T先生は、太郎のBlogでお話したICの大切さを、身をもって体験したと言います。

A君の初検時、阻血症状が起こる可能性を告げなかったり、A君がためらうばかりに松葉杖を使わなくても良いと言っていれば、どのような結果を招いたことだろうかと考えます。

2日目に症状が悪化した時、A君は迷わずにT先生の元を受療しています。
それは、T先生がA君をはじめその保護者から信頼を得ている裏付けです。

結果として、A君の大腿部に対する処置(施術)は、T先生にとってみれば僅か2日しかできませんでした。

それでも、2日目の症状を見て速やかに整形外科に転医させたT先生の処置は何にも増して的確で、A君はじめその保護者からはさらに信頼が得られたものと思います。

軟部組織損傷の程度と出血量との関係






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