開業柔道整復師のT先生から、慌てた様子で電話が入りました。

高校1年生(15歳)になるT先生のご長男A君がラグビーの試合中に転倒し、鎖骨骨折を受傷したらしいといいます。

試合会場で受傷したので、とりあえず応急的に三角巾で堤肘し、T先生のご自宅のある市内に向かって帰路についているとのことです。

この日は日曜日でしたが、T先生は、A君のX線検査を医療機関に依頼して、その了解を取り付けました。

鎖骨骨折の整復経験を持たないT先生は、A君の鎖骨骨折をどのように処置したものか考えました。

自分で整復したものか、それとも、医療機関に整復を委ねるべきか、悩んだわけです。

いつも太郎のBlogを読んでくれていたT先生は、Blogの中に、鎖骨骨折の話題があったことを思い出し、それをチェックしました。

それだけではどうしたものか解からず、A君が向かっている医療機関に出向く前、太郎の元に電話を寄越してくれたものです。

T先生は正直に、これまでに鎖骨骨折の整復経験がないことを太郎に告げてくれました。

これは、とても大切なことです。

お話はそれますが、柔道整復師の中には、整復の経験がないのにも関わらず、ある外傷について整復経験があると嘘をつく人がいるようです。

整復経験がないことが、何か恥のように思っているのでしょうか?

自分は、いろんな外傷の整復経験があるんだぞ!って大きく見せたいのでしょうか?

その人がいう整復経験はもしかしたら本当のことなのかも知れませんが、話を進めているうちにだんだんと、首をかしげたくなることがあります。

つじつまが合わないというか、質問に対する回答もあやふやで、だんだんとボロ(?)が見えてきます。

さて、T先生からは、これからA君が向かっている病院で落ち合うことになっているが、そこでA君の鎖骨骨折を自ら整復すべきか、どうしたものかと相談が寄せられました。

転倒して鎖骨骨折を受傷したというからには、鎖骨中央部(柔道整復理論でいえば鎖骨中外1/3境界部)での定型的な鎖骨骨折なのでしょうか?

T先生は、A君をまだ見ていないのですから、定型的鎖骨骨折であるとは限りませんね。

鎖骨骨折ではないだろうか?というのは、試合に同行していたトレーナーの人による情報のようです。

ただ、A君の受傷は、左肩を衝くようにして地面に転倒した際、反対側(右)の肩の上に他の選手が何人も載ってきて起こったもののようです。

ですから、鎖骨中央部の骨折ではなく、もしかしたら鎖骨外端部の骨折であることも考えられるとのT先生の推測です。

15歳という、A君の年齢が微妙なところです。

これくらいの年齢では、定型的鎖骨骨折はもちろんのこと、T先生が推測した鎖骨外端骨折や、肩鎖関節脱臼の可能性も考えるべきでしょう。

そればかりか、若木骨折だってあり得ます。

また、1人で転倒して肩部(肩峰)を衝いたのではなく、肩部を衝いた時、その反対側の肩に他人が載ってきています。

この場合は、肩部を衝いた側(左)の胸鎖関節脱臼や、鎖骨内端骨折の可能性だって視野に入れるべきです。

【参考Blog】
「胸鎖関節脱臼の発生機序」

転倒によって発生したのだったら、頭部外傷の有無にも注意をしなくてはなりませんね。

このように、鎖骨骨折が疑われる傷病に対しても、発生機序などあらかじめ得られている情報を元に、できるだけ多くの考えうる傷病を推測すべきです。

そして、実際に患者さんを見た際に、それまでに推測していた傷病を一つずつ検査して、消去法をもって消去していきます。

とりわけ、定型的鎖骨骨折である可能性が高いでしょうが、鎖骨骨折の場合はまず、保存療法の許容範囲内であるか見極める必要があります。

保存療法の限界を超えたものは、徒手整復を行わずに観血療法に委ねるべきといえます。

「柔道整復学−理論編」では、無血療法(保存療法)の限界点として、以下の3つが記載されています。

(1) 鎖骨外1/3部骨折での烏口鎖骨靭帯の断裂は近位骨片が上方に浮き、骨癒合は不能なもの(=鎖骨外1/3部の骨折で、烏口鎖骨靭帯の完全断裂を合併するもの)

(2) 第三骨片が楔状骨片となり皮膚下で直立して皮膚貫通のおそれのあるもの

(3) 粉砕骨折などで整復位保持が不可能なもの


一般に、鎖骨骨折の整復は容易です。
しかし、整復位を保持しておくことが難しいのです。

さらには、固定中にちょっと再転位したからといって再整復を繰り返していると、偽関節をつくる可能性が高くなります。

偽関節をつくっても機能的には問題を残しませんが、腕を挙げるたびにグチッという音を伴うようになります。
この音は、患者さんだけが感じるもので、痛みを伴うことはまずありません。
けど、痛みを伴わないといっても、患者さんにしてみれば気持ち悪く感じる人だっているわけです。

なお、前述した偽関節に伴う音は、偽関節部に手を当てて、上肢を挙上してもらうと聞く(手で感じる)ことが可能です。
また中には、偽関節部に耳を近づけてあれば、その音を耳で聴けることもあります。

前述した鎖骨骨折における保存療法の限界点を越えたものは、何もX線検査でしか確認できないものではありません。

鎖骨外1/3部の骨折で、烏口鎖骨靭帯の完全断裂を伴っているかの判断は、まず、骨折部が鎖骨のどの部位に相当するか見極めます。

そのためには、鎖骨骨折の好発部位である中央部(中外1/3境界部)を把握しておく必要があります。

鎖骨外1/3部での骨折を認めた場合、次いで近位骨片の転位状況を確認します。
近位骨片の骨折端は上方に転位しますが、その転位の程度をみるわけです。

烏口鎖骨靭帯の断裂を伴った場合は、近位骨片の骨折端が今にも皮膚を貫こうとするほどに、皮膚の上から骨折端の尖端が触知できるといわれます。

整復に際して近位骨折端を上方から押そうとしても、その尖端が皮膚を貫いてしまうのではないかというくらい、皮膚の上から突出が認められます。

なお、烏口鎖骨靭帯の断裂を伴わなくても、骨折面が長い斜骨折を呈していて、近位骨片の骨折端が鋭利となっている場合は、前述したのと同じような皮膚の突出を確認することがあります。

この場合は保存療法の適応となることも少なくありませんが、整復操作に際して骨折端の尖端が皮膚を貫いてしまう恐れがある場合は直ちに整復を中止し、観血療法に移行すべきかと思われます。

第三骨片の介在があることは、徒手的検査だけでは確認しづらいものです。

ただ、第三骨片が直立したものは、それが皮膚の直下でなくても、整復位保持において障害となる場合があります。

そのような場合では、近位骨片骨折端を上方から押圧して整復を試みた際、骨折端の下方に何か邪魔なものがあるような感触を得るとともに、整復位まで復位させることが困難となった経験があります。【経験が少ないため、はっきりとしたことはいえません】

さて、これから恐らく鎖骨骨折であろう患者さんに直面しようとしているT先生。

どんな鎖骨骨折であるかはもちろんのこと、鎖骨骨折であるかさえはっきりしないところです。

今日のBlogはちょっとばかり物語風に書いてみましたから、連続ドラマのように「つづく」とさせて頂きましょう。(^^;


【次回のBlogにつづく】


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