開業柔道整復師のT先生のご長男A君が、鎖骨を骨折したようです。

A君は今、受傷した現場からT先生との待ち合わせ場所である病院へ向かっています。
腕は、三角巾によって堤肘された状態です。

T先生もこれから、A君との待ち合わせ場所に向かわなければなりません。

A君との待ち合わせ場所である病院で、医師にまる投げするようなかたちで処置をお願いするのも一つの案です。
しかし、T先生も柔道整復師。
ましてや患者さんが自分のご長男ともあらば、ご自分が診察することなしに医師に診療を依頼するのもはばかられます。

T先生の接骨院では近ごろ、徐々に程度の強い外傷患者が訪れる傾向にあるようです。
それは、T先生が日ごろから、積極的に外傷処置について考え、対応する姿勢にあるからでしょう。

太郎の知る限り、「うちは外傷患者が来なくって(少なくって)」といわれる先生の施術所ほど、外傷処置に対応する準備・・・例えば固定材料や包帯など・・・が整っていません。
「外傷患者が来ないから、外傷処置に対応する準備は必要ないのです」と言い訳されます。
それならば、もしそこに外傷患者が受療した場合は、どうなるのでしょうか?
処置ができないから、整形外科に転医してもらうってことでしょうか?

外傷患者に対応しようと考えるからには、まず、それに対応できるだけの準備を整えておく必要があると思われます。

さて、T先生は今すぐにでも、A君が向かう病院に出かけなければならないところです。
しかし、鎖骨骨折をいまだ整復した経験のないT先生にかかる心理的な負担は、並大抵のものではありません。

そんなT先生に対しては、どのようなアドバイスをしてあげれば良いのでしょうね?
皆さんなら、どうしますか?

以前、太郎が出張で接骨院にいないとき、顎関節脱臼の急患が入ったことをお話しました。「顎関節脱臼−急患」
その時は、太郎の教え子のW先生に整復をお願いしました。
W先生は勤務柔道整復師で、その時はまだ、顎関節脱臼の整復経験がありませんでした。
そればかりか、W先生はその時、顎関節脱臼の整復操作についてうろ覚えの状態だったのです!
にもかかわらず、W先生は太郎との短い電話での会話だけで、顎関節脱臼の整復操作をイメージし(思い出し)、結果的には整復に成功しました。

このように、これまでにみたことがない外傷であっても、それをみた人の治験談を聴くことによって、その後で初めてその外傷に直面してもそれに対応できるようになるといえます。
それだけに、他人の体験談にしっかりと耳を傾けて聴いておく・・・そして、その他人の体験談について自分が体験したように記憶にとどめておくと、他人が犯した過ちを繰り返すことなく、初めてにもかかわらず落ち着いて成功できる可能性が一気に高くなるのです。

それを利用しようとするのが学会であったり、勉強会なのです。
また、太郎のひとりごとも、その範疇に入るでしょうか。(^^;

さて、T先生に対して太郎は、前回のBlogでお話したように、診察する前から鎖骨骨折と思い込まないように注意を促しました。

とりわけ今回考えられる外傷は、定型的(中外1/3境界部)鎖骨骨折、鎖骨外端部骨折、鎖骨内端部骨折、鎖骨若木骨折、肩鎖関節上方脱臼、胸鎖関節前方脱臼といったところです。

患者さんを診察するに際して私たちは、考えられる傷病をいくつかイメージし、そのイメージした外傷かどうかを確認していきます。
そして、診察を進めることによって、それまでにイメージしていた外傷を一つずつ消去していくのです。
中には、診察前には推測していなかったけれど、診察を進めることによって新たに傷病を推測の中にくわえることもあります。
(太郎の診察方法はこのようなものですが、もしかしたら他の先生方は異なるかも知れません)

それゆえに、診察するに当たっては、できるだけ多くの傷病(病態)を推測できなければなりません。
自分の知らない傷病は、間違っても推測することができないのですから。

A君は、15歳の高校1年生です。

トレーナーの人は鎖骨骨折を疑っているようですが、T先生のお話では、トレーナーの人は医療従事者ではないから、鎖骨骨折だとは限らないといいます。

かといって、T先生は今にも病院に向かわなければならないのですから、太郎と推測できる傷病全てについて談義する暇なんて到底ありません。

とりわけ、定型的鎖骨骨折の整復法についてだけでもポイントをお話して、イメージを膨らませておいてもらいましょうか。(何とも無責任な考え方で申し訳ございませんが)

鎖骨骨折の徒手整復法には坐位整復法と背臥位整復法がありますが、太郎は、背臥位整復法を推奨します。

なぜかですって?
ん〜。
太郎は原則、自分一人で整復を行います。助手の人に手伝ってもらうことはしないのです。

鎖骨骨折の整復は比較的容易といわれていますが、整復操作の中でもっとも大切なことは何だと思いますか?

太郎の個人的な意見ですが、鎖骨骨折の整復でもっとも大切なことは、遠位骨片の短縮転位の除去にあると思います。

近位骨片が納まろうとする部分には、短縮転位を起こした遠位骨片の骨折端が邪魔しています。
短縮転位を取り除かないまま近位骨片を上方から押し下げても、近位骨片の骨折端は遠位骨片の骨折端の上に騎乗するだけで、押圧を緩めればすぐ元の転位に戻ります。

近位骨片の骨折端が納まるだけのスペースを、遠位骨片の短縮転位を取り除くことによって作るわけですね。

そう考えるのならば、単に遠位骨片の短縮転位を取り除く(短縮転位をゼロの状態にする)だけなら、近位骨片はぎりぎり原位置に復元できるといったところでしょうか?

近位骨片を原位置に復元するとき、遠位骨片が延長転位を呈していれば(短縮転位がマイナス)、近位骨片は何の障害なく整復できそうなのがイメージできますか?

遠位骨片の短縮転位を取り除くだけではなく、短縮転位をむしろ延長転位になるくらいにしておき(胸を張っておく)近位骨片の骨折端を原位置に復元します。
近位骨片が原位置に復元されたら(遠位骨片と概ね同じ高さにまで押し下げられたら)、徐々に遠位骨片に強制していた延長転位を緩めます。
そうすると、遠位骨片の骨折端は、近位骨片の骨折端とぶつかるところで止まります。

近位骨片は胸鎖乳突筋の作用で上方やや後方に転位しようとします。
しかし、近位骨片の骨折端は遠位骨片によってひっかかっているため、そういった転位が起こりにくい。

また、遠位骨片は大胸筋や小胸筋によって短縮転位を起こそうとします。
しかし、これもまた、遠位骨片には近位骨片がつっかえ棒のようになっていますから、短縮転位が起こらないわけです。

この時に、注意しなければならないのは、上肢の重量によって起こる遠位骨片の下方転位です。

遠位骨片は前述したように、その内端部(骨折端部)は近位骨片によって半ば固定されている状態です。
近位骨片と遠位骨片が、それぞれつっかえ棒のような働きをしていると先に述べましたね。

この時、上肢の重量によって遠位骨片に下方転位が起こると、遠位骨片全体が下方に転位するのではなく、遠位骨片の外端(鎖骨外端部)が下方に転位します。

結果的に、近位骨片との間でつっかえ棒になっていた骨折端は、上方凸の屈曲を呈します。
上方凸といっても、近位骨片はまだ動きません。
遠位骨片だけが、その外側(鎖骨外端部)において下方転位を生じさせます。

屈曲骨折の第2型は、長骨の一方が固定されて、もう一方に外力が働いて発生します。
前述した遠位骨片の転位はこれと同じで、近位骨片側(鎖骨内端部)が固定されて、遠位骨片側だけが転位を呈します。

さて、上肢の重量によって遠位骨片(外側)が下方転位を起こし、それがある一定以上の転位となれば、両骨折端のつっかえ棒がはずれてしまいます。
元の定型的転位に戻るわけですね。

ですから、前述した両骨折端がつっかえ棒のようにくっつき合ったら、遠位骨片の外側が下がらないように肘の辺りを支えておいた方が良さそうですね。

でも、しっかりとつっかえ棒の役割を果たせていれば、肘の辺りを支える必要もありません。

以前のBlog「鎖骨骨折−保存療法許容範囲の見極め」でもお話しましたが、このつっかえ棒が安定していれば、上肢の挙上だって可能なのです!

さて、今日のBlogでは、あえて図示することなく記述だけにとどめました。
活字を目で追っていくのは面倒でしょうが、活字を見ながらイメージすることが大切です。

太郎が今日、Blogでお話したことがイメージできるかどうか、ご意見をお聞かせ頂ければ幸いです。m(__)m


【次回のBlogにつづく】


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