開業柔道整復師T先生のご長男であるA君が受傷した鎖骨骨折は、上方凸屈曲変形を呈した若木骨折であると医師による診断が下されました。

X線像











X線像からも、骨折部の上方では骨折線が確認できますが、その下方では骨折線が確認できません。
骨折部の上部では骨折による離開を伴っているものの、下部では離開を伴っていないのです。

鎖骨骨折にみられる骨折型には、斜骨折を呈するものと横骨折を呈するものがあります。

鎖骨骨折の多くは介達性骨折として、肩部(肩峰部)をついて転倒したり、肩関節外転位+肘関節伸展位で手掌をつくなどして発生しますが、骨折型をみることによって、受傷時の肢位をはじめ、受傷時に加わった外力の方向を推測できそうです。

鎖骨骨折にみられる斜骨折を第2型屈曲骨折、横骨折を第1型屈曲骨折と置き換えて考えてみましょう。


第2型屈曲骨折とは、生木の枝を折るような骨折で、骨の一側が固定されて他側に屈曲力が働いて発生するものでした。
その時、骨折線は凸側に始まり、固定された方向へと斜めに走る斜骨折を呈します。
上腕骨顆上骨折や橈骨遠位端部骨折(Colles骨折・Smith骨折)などにみられる骨折型です。

斜骨折を呈する鎖骨骨折は、骨折線が外上方から内下方へと向かっています。

すなわち、これを第2型屈曲骨折に置き換えると、鎖骨内側端(胸鎖関節側)が固定されたところへ、鎖骨外側端(肩峰側)に対して上から下の方に外力が働いたものと考えられます。

それを裏付けるように、この骨折型の多くはバイクや自転車による転倒にみられます。
これを推測するところでは、肩甲帯が下垂しきったところへ、肩峰端の外上方(または上方)から鎖骨外側端を押し下げるような外力が働いた際に発生したものと考えられます。

言い換えれば、転倒によって肩甲帯を挙上させるような外力の働き方(肩峰端の外方から上に向かう外力)では、この骨折型は発生しないのです。


一方、第1型屈曲骨折は、膝に棒を当てて両手で折るような骨折といわれています。
骨折線は凸側から骨長軸に対してほぼ直角に進み、中央部で2つに分かれて凹側に基底をもつ三角形の骨片を生じる骨片骨折となることが多いといわれます。

横骨折を呈する鎖骨骨折では骨折線が鎖骨の上方から始まって、骨長軸に対してほぼ直角に(まっすぐ下方に)走行します。

骨片骨折を呈するもののほとんどが、鎖骨の下方に骨片を作ります。

今回ご紹介したA君の症例が、正にこの第1型屈曲骨折の発生を裏付けるものといえるでしょう。

骨折は完全骨折に及んでいませんが、鎖骨の上方に骨折線が始まり、その途中でそれが止まっています。
完全骨折に及んだ場合であれば骨片を生じるであろう部位において長軸圧(圧迫力)が作用した名残りとして、その部位のX線像の陰影が濃く(白く)描出されています。

この骨折型を呈する鎖骨骨折は、スポーツ活動などで、鎖骨外側端から鎖骨の長軸方向に外力が働いた場合にみられます。

前述した第2型屈曲骨折として起こる鎖骨骨折は、肩甲帯が下垂強制されたところに外力が働いて起こりました。

それに対して第1型屈曲骨折として起こる鎖骨骨折は、肩甲帯が挙上強制されたところか、それとも肩甲帯に挙上または下垂が強制されていないところに、肩峰端から鎖骨長軸方向に外力が働いて(鎖骨全体に「へ」の字に曲がるような外力が強制されて)発生するものです。


さて、A君は、鎖骨骨折であるのに上肢の挙上が可能でした。
これは、骨折端に連続性が保たれていることを示唆するものです。

A君の鎖骨は見るからに、上方凸屈曲変形を来たしています。

冒頭で、A君の鎖骨骨折が若木骨折であるとの診断があったとお話しましたが、この若木骨折は「柔道整復学−理論編」にあるような若木骨折とはまた異なります。


幼児の若木骨折の整復は、上方からの軽い圧迫操作を行い、8字帯固定を約2〜3週間施行することで十分であると記されていますが、ここでいう若木骨折は、A君のように骨折部において部分的な離開を認めないものです。

骨折部のどの部分にも離開を認めないいわゆる若木骨折で、上方凸屈曲変形を呈しているものでは、骨折部の上方から軽い圧迫操作(指で圧迫する)によって、クチッというい整復音とともに屈曲変形が戻ります。

しかし、同じ若木骨折であってもA君のように部分的な離開を呈している場合は、上方からの圧迫操作の方法によっては骨折部下方の連続性が保たれた部分も離開してしまうこともあります。
すなわち、上方からの圧迫操作によって、元は若木骨折であったものが完全骨折となり、定型的な転位さえ来たす可能性も否定できないのです。

従って、A君のような骨折では、患者さんやその保護者の方たちに十分なインフォームド・コンセントを行い、処置方法を選択してもらうことがお勧めです。


【選択肢A】・・・整復操作を行わず、このまま固定する方法。

整復操作を行いませんから当然、整復に伴う疼痛は全く伴いません。
このような症例の多くが、初検時においてそれほど疼痛を伴っていませんから、整復に伴う疼痛は整復前のそれ以上のものとなります。

骨癒合も比較的早いように思えます。(整復を行って完全骨折となったものに比較して)

ただ、受傷時の上方凸屈曲変形を呈したまま癒合しますので、少なくともリモデリングが完了するまでは、受傷時の変形状況を残します。
すなわち、上方凸屈曲変形の程度が強ければ強いほど、外観上の変形残存も著明となります。


【選択肢B】・・・整復操作を行った上で固定する方法。

整復操作を行うことによって上方凸屈曲変形が矯正されますから、少なくとも選択肢Aを選択するよりも外観上の変形は少なくなります。

ただ、A君のようなケースでは、整復操作を行うことによって、幼児の若木骨折のように上方凸屈曲変形だった「へ」の字がまっすぐとなった「ー」の字になる場合もありますが、中には完全骨折となる場合もあります。

すなわち、整復操作を行うことによって骨折部上部の離開が、骨折部の下部にまで及んでしまうのです。
その場合は、定型的鎖骨骨折へと移行します。


T先生は、A君の処置について医師と相談し、選択肢Aを選択しました。
すなわち、整復操作を行わず、リング固定を施行したそうです。


さて、先日来、A君の鎖骨骨折を話題に取り上げさせて頂いたところです。
この症例は、開業柔道整復師のT先生のご提供によるものです。

最後になりましたが、T先生には症例のご提供を頂きましたことをこの場をお借りしてお礼申し上げます。m(__)m

また、A君には1日も早く回復されることを心からお祈り申し上げます。m(__)m
おだいじに。


整骨太郎のホームページ
整骨太郎のひとりごと(Blog)−目次