先日お話したBlog「肘関節−内側型野球肘の対診基準」では右肘内側に疼痛を訴えて受療したA君(13歳)を例に、肘の内側に痛みを訴えて受療した患者さんは、どのような症状を認めた場合に対診を行うべきかご紹介しました。

さて、一般に野球肘(投球障害)といえば、上腕骨内側上顆炎として知られているところです。
実際は、投球動作によって生じる肘関節部の障害を総称して野球肘(baseball elbow)と呼びます。

その発生には、(1)肘関節内側にかかる過緊張、(2)外側における橈骨頭と上腕骨小頭との圧迫、そして(3)関節後方の負荷が関与しています。


野球肘の病態






【図1】野球肘の病態
内側での牽引力と、外側での圧迫力で障害が発生します。
「肘診療マニュアル」


内側型野球肘は、肘関節内側の過緊張によって起こります。
これは、投球動作によって肘(内側側副靭帯)に外反ストレスがかかるとともに、前腕屈筋群の収縮によって上腕骨内側上顆に負荷がかかるためです。

肘関節内側の過緊張は、肘の内側側副靭帯や前腕屈筋・回内筋群の微細断裂を引き起こし、上腕骨内側上顆炎を発症させます。
受傷時の肢位や外力の程度・方向によっては、前腕屈筋や内側側副靭帯の断裂に及ぶこともあります(図1a・b)

また、前腕屈筋・回内筋群の収縮は、時に上腕骨内側上顆において裂離骨折をもたらすこともあります(図1c)

一方、外側型野球肘は、繰り返しの投球動作によって肘に外反ストレスがかかり、上腕骨小頭と橈骨頭との間で圧迫力が働き、上腕骨小頭骨端核に壊死を生じさせるものです。
結果として、上腕骨小頭に離断性骨軟骨炎を発症させます。

野球肘の外側型と内側型





【図2】野球肘の外側型と内側型
肘の外反ストレスによって、内側に働く過緊張は上腕骨内側上顆に牽引ストレスを、外側に働く圧迫は上腕骨小頭骨端核に壊死をもたらします。
「スポーツ指導者のためのスポーツ外傷・障害」


離断性骨軟骨炎は、X線像から病期を「透亮期」、「分離期」および「遊離期」の3期に分類されます(図3)
さらに近年では、MRI所見をもとに分離期を、分離前期と分離後期の2期に細分類されるようになっています。

肘関節離断性骨軟骨炎の病期分類



【図3】肘関節離断性骨軟骨炎の病期分類
離断性骨軟骨炎は、X線像から3つの病期に分類されます。
「肘診療マニュアル」


いずれにせよ、離断性骨軟骨炎は予防がもっとも大切で、太郎がいつも指導を乞っている整形外科医の先生からは、「遅くとも透亮期、できるならばそれ以前に対診をしてくるように」と指導されています。
また、「分離期以降に及ぶまで施術を継続していたとしたら、それは柔道整復師の職務怠慢だ」とも聞いています。

というのも、本症の治療方針はその病期によって異なるからです。

透亮期の段階であれば、投球を一時中断させることによって病巣の修復がみられる場合もあります。
この期において修復がみられるのは約85%にも上ります。
なお、この期において投球を継続した場合は、約70%が確実に病期が進行するといわれています。

A君のように肘関節に疼痛を訴えて受療した場合、太郎のところでも投球を一時中断するように指導することもしばしばです。
内側型野球肘の説明にはじまり、場合によっては外側型野球肘へと移行する危険性も説きます。
しかしながら、自発痛のように普段から痛みを自覚するものであれば指導を忠実に受け入れますが、投球動作に際してだけ痛みを自覚する場合などでは患者さんの認識も甘いようで(?)、指導を受け入れずに投球を継続することもしばしばです。

先にも述べたように、離断性骨軟骨炎は透亮像が認められるまでに予防措置を講じ、透亮期への移行に至らないようにすべきです。
早いうち、すなわち自覚症状も軽微なうちからの予防が要求されます。

それだけに、患者さんをはじめ保護者の人たちが、どれだけリスクを伴っているか自覚してもらうことが優先されます。
そのためにも対診を行い、X線検査などを実施してもらって医師の方からも説明や指導を行ってもらうことが効果的かも知れません。

肘離断性軟骨炎(透亮期)




【図4】肘離断性軟骨炎(透亮期)
+骨、⊆楾、上腕骨、ぞ縅唸小頭
(左)単純X線像:上腕骨小頭部に骨の壊死部分と思われる所見を認めます(⇒部分)。
(右)三次元CT像:上腕骨小頭部軟骨下骨に円形の亀裂がみられます(→部分)。病変部は小頭部下端前方部分。
「スポーツ外傷・障害の理学診断 理学療法ガイド」


従って、外側型野球肘で受療したケースはもちろん、内側型野球肘で受療したケースであっても肘関節外側にわずかでも疼痛を訴えた場合は速やかに対診することがお勧めでしょう。

過去に太郎が経験したところで述べれば、当初、内側型野球肘で受療してあった患者さんが何週間か経て肘の外側にも痛みを訴えたことがありました。
その時に訴えた肘外側の痛みはごく軽微なものであったため、対診を行わずに加療を続けていました。
しかし、肘外側に訴える痛みがあまりにも長引くため対診したところ、離断性骨軟骨炎の透亮期であったことが判明しました。
対診を行った時点でさえ、肘外側に訴える痛みは内側に比べて格段にわずかなものであったのに、それでも重篤な病変は肘外側にあったのです。

従って、再掲しますが、投球障害(野球肘)として受療したケースでは、以下の所見が認められた場合は速やかに対診を行うことが大切です。

【野球肘の対診基準】
(1) 外側型野球肘として受療したケース:
初検の時点で、疼痛の程度に関わらず対診を行います。
(2) 内側型野球肘として受療したケースで外側に疼痛を訴えた場合:
肘外側に訴える疼痛の程度に関わらず対診を行います。


【参考文献】
「肘診療マニュアル」
石井清一 ほか編著/医歯薬出版/第2版第1刷/2007年2月
4,600円+税
「スポーツ指導者のためのスポーツ外傷・障害」
市川宣恭 編集/南江堂/改訂第2版第12刷/2002年10月
2,816円+税
「スポーツ外傷・障害の理学診断 理学療法ガイド」
臨床スポーツ医学編集委員会 編/文光堂/第1版第2刷/2003年6月
7,000円+税



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