2000年(平成12年)から介護保険制度が始まりましたが、今日のお話は介護保険制度が始まる少し前の出来事です。・・・いつもながら、昔のお話ばかりですみません。m(__)m

あるおうちから、「うちのおばあちゃんが腰を痛がっているのですが、往診をお願いできませんか?」と依頼がありました。

健康保険の取り扱い上では、腰が痛いからと言う理由だけでは、私たち柔道整復師は往療に応じられません。
往療料は、下肢の骨折や不全骨折、股関節脱臼、腰部捻挫等によって歩行困難を来たすなど、正に安静を必要とする止むを得ない理由がある場合において算定できるものです。
でも、それは往療料を算定する場合の往療についてのお話です。(^^;

柔道整復師の団体によっては幾分見解が異なるところですが、往療を行っても往療料を算定せず、出張施術というかたちで施術を行う場合であれば、患家からの依頼に基づいてできるという考え方もあるようです。
太郎が依頼を受けた当時は受領委任の取扱規程における承諾施術所などというものがありませんでしたが、現在は承諾施術所を社会保険事務局長および都道府県知事に認めてもらわなければならないのですけどね。

現行制度の裏話はさておき、往療の取り扱いには当時も今と同様に、それ相当に止むを得ない理由が必要だった頃です。

太郎:「腰が痛いって言うのは、ぎっくり腰ですか? それとも尻餅をついたとか?」

補足しておきますが、太郎は以前、尻餅を衝いて大腿骨頸部骨折を受傷した患者さんが、股関節部に疼痛を訴えるのではなく、腰(腰から殿部にかけて)が痛いと訴えた患者さんを経験しています。
それだけに、高齢者の方が腰に疼痛を訴えた場合、その痛みは股関節部に及んでいないか確認したり、(脊椎骨折を疑って)脊椎に所見を認めないか確認します。

電話してきた奥さん:「実はうちのおばあちゃんは寝たきりなんですよ! 今朝、オシメを替えようと横向きにした時から痛い!って言うものですから」

寝たきりのお年寄りがじっと寝ているだけでは外傷を受傷しませんが、介護する人が寝返りを打たせるとかして体位変換に際して負傷するケースは少なくないようです。
聞いただけの話ですが、ベッドから車椅子に移乗させる際には座らせようとした際に、それが尻餅のようになって(?)大腿骨頸部骨折を受傷したケースもあるようです。

寝たきりの患者さんであればしかたありません。
太郎はそのおうちに往療することにしました。

その頃、太郎が所属する柔道整復師の団体では原則、1か月あたりに合計8回(週に2回)の往療しか認めてもらえず、例えば1か月のうち10日往療しても往療料は8回分しか算定せずに残る2回分は往療料をもらわずにいるか、保険者からではなく患者さんから頂くように取り決めがなされていました。
ですから、その時は8回分の往療料を算定したように思います。
もちろん療養費支給申請書(レセプト)の摘要欄には、「不橈性疼痛が著しく体位変換が困難な上、自立歩行不能であったため往療」と、往療を必要とする理由も記しました。

記憶が定かではないのですが、国保連合会だったか保険者(市町村?)だったか、とにかく公的な機関からそのレセプトについての問い合わせの電話が入りました。いずれにせよ、太郎が所属する柔道整復師の団体の審査会からではなかったことは間違いありません。

とりあえずここでは、国保連合会だったことにしてお話を進めましょう。
国保連合会から入った電話は、「この患者さんは寝たきり状態なのですが、そのような患者さんが捻挫するとはおかしく思うのですが・・・」と言うものです。
国保連合会(保険者?)では、患者さんが寝たきり状態であることが分かっていたのでしょうね。
そして、寝たきり状態である人が捻挫などの外傷を受傷することはないのでは?と思ったのでしょう。
確かこの患者さんの傷病名は腰部捻挫にしてあったと思います。

冒頭でもお話したように、寝たきり状態の患者さんでも自ら少しでも体位変換できる場合はその運動動作で、自ら体位変換ができない完全な寝たきり状態の患者さんであっても介護する人の介護のしかたによっては捻挫を引き起こす旨を伝えました。

国保連合会(保険者?)の人は言わば先入観を持っていたようで、寝たきりの患者さんでは筋が使われていない状態(disuse)が続いてちょっとした外力であっても損傷を受けやすいなどとは全く考えになく、押し問答を繰り返しながら抗弁を重ねた記憶があります。
結果的には太郎の主張が認められましたが、その後、寝たきり状態にある患者さんについて保険請求する場合は、レセプトの備考欄に「マル寝(ひらがなの「ね」を書いてそれを○で囲む)」と書くように言われました。
どうやら、寝たきり状態にある患者さんが外傷を受傷して保険請求されるのは珍しいケースだったようです。

なお、現行の保険請求において「マル寝」と書くのかは定かではありません。
そのような記載を行うように言われたのは当時、太郎だけだったようです。
専ら、寝たきりの患者さんを往療したのが太郎だけだったのかも知れません。
でも、「マル寝」なんて備考欄に書くというのはその後もどこでも聞きませんから、当時の太郎だけの取り扱いだったのかも。(^^;

時としてこのように、国保連や保険者から問い合わせが来ることもあります。
その時は、きちんと自分の言い分を主張することです。
その言い分も、やはり柔道整復師として医学的な(柔道整復学的な)論拠に基づいて主張すべきです。

開業柔道整復師の人と会話していると、「頸部に痛みがあったら背部に痛みを伴うのが当たり前ですよね!」とか、「腰を負傷した人は股関節が悪いからだ!」というような話を耳にします。
頸部に疼痛がある場合は皆、背部に疼痛を伴うと断定することも然り、もしかして頸部と背部の2部位を請求する根拠にしているわけではないと思うのですが。
また、腰を負傷したからといって必ず股関節が悪いと短絡的に考えるのもいかがなものかと。

いずれにせよ、国保連など保険者の人たちは、医学的論拠に基づいて抗弁すれば分かってもらいやすいように思います。
そのためにも、常に柔道整復師としての勉強をしておくべきですね。φ(..)


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