「はじめまして、わたくしは『わくわく片付け講座』の企画をいたしましたK社の松竹梅くら子でございます。
そちらのホワイトボードに書きましたように、松竹梅はマツタケウメと書き、おめでたい苗字で、くら子のクラは土蔵の蔵という漢字なのですが、漢字にすると日本酒のメーカーの酒蔵みたいなので、くらと書いています。
松竹梅は長くて呼びにくいので、くら子と、名前のほうで呼んでいただきたいと思います。
皆さまにも名札のカードをお配りしていますが、呼ばれたい名前を書いてください。アッコちゃんでも、マドンナでも、ヨン様でもけっこうです」
くら子は声を張り上げた。
「ただしィ、『ヨン様の心の妻』なんてのはやめてくださいね。お名前を呼ぶ時に、『ヨン様の心の妻さん』なんて呼ぶのは大変ですから」
どこかで、残念という声がして笑いを誘った。
「次にこの「わくわく片付け講座」について簡単にご説明します。
当講座では、ものをどのように収納するかというテクニックの講座ではありません。
これからどういう自分になりたいのか、どういう生き方をしたいかを考え、何が必要かを自分で決め、不要なものをそぎ落とし、新しい生き方、暮らし方をする道筋をつけるための講座と考えていただきたいと思います。
心の整理をすることが、片付かないものの整理につながると考えております。
ですから、講座に参加されたからといって、魔法の杖をふるように、お宅のものが片付いたりきれいになることはありません。がっかりされましたか?」
一番前の女性が勢いよく手を挙げた。
「わたしは100円ショップの小物でできるような『整理のアイデア』を教えてくれる講座かと思って来たのですが、違うのでしょうか」
くら子は美津子の前に移動し、諭すように言った。
「美津子さん、申し訳ありませんが違います。
そういう講座をお望みなら、受講料はお返ししますので他の講座にご参加なさる事をおすすめしますが、いかがでしょうか」
やさしい物言いと対照的な言葉に会場がしんとなり、美津子を見守った。
「わかりました。わたしは忙しいので時間を無駄にはできませんから帰らせてもらいます」
美津子は荷物をまとめて出て行き、気まずい雰囲気が漂った。
くら子にはまだ2、3人が美津子と同じような目的で参加したであろうと思ったが、残った19人の顔をしっかりと見渡した。
「美津子さんのご要望には応えられませんでしたが、他の方はよろしいでしょうか。遠慮なさる事はありませんので」
おそるおそるというように後ろのほうで小さく手が挙がった。
「あの、わたしは家を片付けたいと思ってきたのですが、良いのでしょうか」
皆の戸惑いを感じたくら子はひかるの横に立った。
「ひかるさんは、行き先の違う電車に乗ってしまったらどうされますか」
「え…そうですね…降りて、乗り換えます」
「そうですよね。美津子さんは行き先の違う電車に乗ってしまったけれど、間違いに気づいたので降りたのです。
これは誰にでもあることですし、早く気づくに越したことはありません。
困るのは終点になって、目的地が違っていたということに気づくことです。
これはお互いに時間とエネルギーの無駄になりますので、目的地の確認をさせていただいたのです。よろしいでしょうか」
ひかるは小さくうなずいた。
「話を続けますと、家の中にものがあふれているということは、体に余分なぜい肉がついたようなものです」
ぜい肉という言葉にいう言葉に女たちは敏感に反応した。
「皆さん下腹にお肉がついていませんか。
三段腹の脂肪を燃焼させるのにどれくらい運動をしなければならないでしょうか。
それと同じくらいエネルギーが必要なことですので、脅かすつもりではありませんが、覚悟をお願いいたします。
カリキュラムも少々変わっておりますし、たぶんこのような講座は他にないのではないかと思っております。
前おきが長くなりましたが、アシスタントの松坂まろみからカリキュラムのご説明をさせていただきます」
1章終了
そちらのホワイトボードに書きましたように、松竹梅はマツタケウメと書き、おめでたい苗字で、くら子のクラは土蔵の蔵という漢字なのですが、漢字にすると日本酒のメーカーの酒蔵みたいなので、くらと書いています。
松竹梅は長くて呼びにくいので、くら子と、名前のほうで呼んでいただきたいと思います。
皆さまにも名札のカードをお配りしていますが、呼ばれたい名前を書いてください。アッコちゃんでも、マドンナでも、ヨン様でもけっこうです」
くら子は声を張り上げた。
「ただしィ、『ヨン様の心の妻』なんてのはやめてくださいね。お名前を呼ぶ時に、『ヨン様の心の妻さん』なんて呼ぶのは大変ですから」
どこかで、残念という声がして笑いを誘った。
「次にこの「わくわく片付け講座」について簡単にご説明します。
当講座では、ものをどのように収納するかというテクニックの講座ではありません。
これからどういう自分になりたいのか、どういう生き方をしたいかを考え、何が必要かを自分で決め、不要なものをそぎ落とし、新しい生き方、暮らし方をする道筋をつけるための講座と考えていただきたいと思います。
心の整理をすることが、片付かないものの整理につながると考えております。
ですから、講座に参加されたからといって、魔法の杖をふるように、お宅のものが片付いたりきれいになることはありません。がっかりされましたか?」
一番前の女性が勢いよく手を挙げた。
「わたしは100円ショップの小物でできるような『整理のアイデア』を教えてくれる講座かと思って来たのですが、違うのでしょうか」
くら子は美津子の前に移動し、諭すように言った。
「美津子さん、申し訳ありませんが違います。
そういう講座をお望みなら、受講料はお返ししますので他の講座にご参加なさる事をおすすめしますが、いかがでしょうか」
やさしい物言いと対照的な言葉に会場がしんとなり、美津子を見守った。
「わかりました。わたしは忙しいので時間を無駄にはできませんから帰らせてもらいます」
美津子は荷物をまとめて出て行き、気まずい雰囲気が漂った。
くら子にはまだ2、3人が美津子と同じような目的で参加したであろうと思ったが、残った19人の顔をしっかりと見渡した。
「美津子さんのご要望には応えられませんでしたが、他の方はよろしいでしょうか。遠慮なさる事はありませんので」
おそるおそるというように後ろのほうで小さく手が挙がった。
「あの、わたしは家を片付けたいと思ってきたのですが、良いのでしょうか」
皆の戸惑いを感じたくら子はひかるの横に立った。
「ひかるさんは、行き先の違う電車に乗ってしまったらどうされますか」
「え…そうですね…降りて、乗り換えます」
「そうですよね。美津子さんは行き先の違う電車に乗ってしまったけれど、間違いに気づいたので降りたのです。
これは誰にでもあることですし、早く気づくに越したことはありません。
困るのは終点になって、目的地が違っていたということに気づくことです。
これはお互いに時間とエネルギーの無駄になりますので、目的地の確認をさせていただいたのです。よろしいでしょうか」
ひかるは小さくうなずいた。
「話を続けますと、家の中にものがあふれているということは、体に余分なぜい肉がついたようなものです」
ぜい肉という言葉にいう言葉に女たちは敏感に反応した。
「皆さん下腹にお肉がついていませんか。
三段腹の脂肪を燃焼させるのにどれくらい運動をしなければならないでしょうか。
それと同じくらいエネルギーが必要なことですので、脅かすつもりではありませんが、覚悟をお願いいたします。
カリキュラムも少々変わっておりますし、たぶんこのような講座は他にないのではないかと思っております。
前おきが長くなりましたが、アシスタントの松坂まろみからカリキュラムのご説明をさせていただきます」
1章終了