神奈川佐和子が、K社を訪ねてきた。

「実は、お話がありまして…」

 佐和子は前回の「わくわく片付け講座」の受講生である。

くら子は事務所の応接コーナーに案内し、話を待った。

「あの、フランチャイズにしてもらえませんか」

「はぁ? おっしゃる意味がよくわからないのですが」

「わたしもこの講座を実家の九州に帰ってやりたいのです。だからフランチャイズだと思って」

「フランチャイズねえ。う〜ん」

 実はと、佐和子が話しだしたのは、講座で隣に座ったことがきっかけで友人になった荒川真樹のことだった。

講座の内容をそっくりそのまま、「らくらく片付け講座」と名前を変えて一緒にやろうと言い出し、会社を作るので出資して欲しいと頼まれた。

 佐和子は断ったが、自分もこういう講座をやりたいと思っていたので、K社できちんとノウハウを学びたい。

「どうして真樹さんの『らくらく片付け講座』に参加しなかったのですか」

「それでは、こちらのアイデアやノウハウを盗むことになると思いましたし、後ろめたい思いで仕事をするのは嫌だと思ったんです。

それに、コロッケはいくら頑張っても、美川憲一にはなれないでしょう」

 コロッケ? ポカンとしているくら子に、お茶を運んで来たまろみが説明した。

「ほら、ものまねのコロッケですよ。いくら上手にまねても、ものまねは所詮ものまねで偽物だってことです」

 佐和子は続けた。

「亡くなった祖父がよくいってたんですけど、お天道様に顔向けできないことはするなって」

「なるほど、それでフランチャイズですか、わかりました。少し考えさせてもらえますか」
 
 くら子は、偽物とはすごい例えだなと思った。

ブランドのバッグと同じ物をつくり、ブランド品として売れば、これは偽物で犯罪である。

 万が一、その偽物の機能や材質が本物よりも優れていても、偽物である。

なぜなら、その物の背景にある伝統や信用がブランドであり、消費者はその物と共に、ブランドという背景を購入するのである。

 ならば、K社はブランド足りうるのか。

否、とてもそんなごたいそうなものではない。吹けば飛ぶようなちっぽけな会社である。

 もし、『わくわく片付け講座』の真似をされて、そちらの方が充実した内容であれば…。K社の力不足であり、行き詰るのは目に見えている。

 あれこれ思い悩むより、他に真似のできない講座にしていく努力をすることであろう。

 また、佐和子のように、この講座に共鳴してくれる人があれば、人を育てることも、ブランドに近づく一歩なのかもしれない。
 
 くら子は、講師養成の企画に取り組むことにした。


4章終了