民文化会館を維持するには、年間数千万円かかりますよ。これから改修費もかかります。でも、年間、何日使います?必要な時に名古屋の芸文(愛知芸術文化センター)を借りて、バスを出した方が安上がりじゃないですか。子どもたちも、芸文の方がきっと感動しますよ。」


2010年8月。常滑版事業仕分けの一幕。『流しの公務員の冒険 霞が関からの現場への旅』(時事通信社)を拝読し、総務省の先輩の山田朝夫さんの独特の柔らかな口調を思い出しました。

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愛知県常滑市。セントレア空港がある町です。
人口は5万人。予算は200億円。

山田さんの就任当時(2010年)、400億円の借金。毎年10億円の財源不足。それをどのように乗り越えたのか。「常滑死人病院」と揶揄されていた市民病院を立て直し、新築したのか。

全ての公務員、ビジネスマンに読んでほしい本です。

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(Wikipedia 常滑市地図より)

正しいことを主張して相手を説き伏せれば、相手は動くはずだ。動くべきだ。」わたしは長い間、そう信じてきたのですが、今までそうして人が動いたためしは一度だってありません。・・・

人の心はどのように動くのか。それは「驚いた」時です。予測を超える「事件」が起こった時、初めて人の心は動く。「茹でガエル」状態の常滑市職員と議員、そして常滑市民の目を覚まし、心を動かす方法はないか?「『仕分け』しかないな」と思いました。(34ページ)



役人のつるし上げはしたくありません。そこで、答弁席に立たされる担当職員に「仕分け人はおそらくこんなことを聞いてきますよ。こういうデータを揃えておいてください。本当は、あなたはこの事業をどう思っているのですか。問題があると思っているのなら、改善案を考えておいて、当日提案してください」と根回しをしておきました。

一見インサイダーのようですが、このプロセスがなかったから、国の事業仕分けは「政治ショー」と化してしまったのではないでしょうか。役所の人が「あっ」と気が付いて、自分で動くようにならなければ、仕分けの意味はありません。外圧ではダメなんです。(38ぺージ)


という文章からもにじみ出るように、山田さんの仕事ぶりは、どうすれば課題を解決できるか。道筋を丁寧に描いていきます。そして、他人を攻撃するのではなく、温かく包み込んでいきます。仲間をつくり、町の課題を自分ごとにしていきます。

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医師や入院患者が減少し、13、9億円の累積債務を抱えた市民病院。「赤字病院は不要だ」市民からも厳しい意見が相次いでいました。


無作為抽出公募が中心の「100人会議」を定期的に開催。新病院建設について、徹底した意見交換と情報共有を実施。市民に病院を知ってもらおうと、病院見学のツアーまで行いました。


その象徴が、毎回の「ふりかえりシート
1.市民病院の現状説明・インタビューを聞いてどう思われましたか?
2.グループの他のメンバーの意見で印象に残ったことがあれば書いてください。
3.今日の会議に参加して、自分のテーマ・問題意識が変わったり、付け加わったりしたことがあれば書いてください。
4.今後の100人会議に望むことがあれば書いてください。


「この会議は、一方的に自分の主張を述べる場ではなく、他人の意見を聞きながら考え、より良い方向性を一緒に探っていく場にしたい
「主催者は、あらかじめ定めたシナリオにみなさんをはめ込んでいくつもりはなく、みなさんの関心の所在によってプログラムを変えていくつもりです

というメッセージを込めたつもりでした(92・93ページ)

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(常滑市民病院ホームページより)

こうした丁寧な対話の結果、参加者の意見の大半が「病院は不要」から「経営改革を前提に新病院を建設しよう」に変わったとのこと。その意見を受けて、議会も行政も応援するようになっていきます。(104ページ)


興味深いのは、100人会議が行われていた当時、山田さん自身は、どちらでもよいと考えていたとのこと。(105ページ)


人間はやりたい思いが強すぎると、マイナスの材料を無視する傾向があります。仕切り役は「どちらでもよい」くらいのスタンスがちょうどいいのだと思います。(106ページ)


という言葉には、形式的な対話をやりがち、住民軽視で進めがちな行政に対する警鐘が込められています。


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山田さんの魅力は、その人柄とプロジェクトの進め方。


プロジェクトが大きくなればなるほど、多くの人が関わります。関係者をすべて管理するのは不可能です。この場合、最も重要なのは、関係者が目的・目標を共有し、役割を理解し、自分で動き始めることです。人は、自分でやろうと思った時、命令されてやるときの10倍の力を発揮するということです。(264ページ)


「成功して新病院ができたら、わたしは小説を書きます。映画化しましょう。今から自分を演じる役者を決めておいた方がいいですよ。(看護部長の)久米さんは黒木瞳、副部長は高島礼子でどうですか?」と言うと、自分が物語の主人公だと思う。そして、その人たちがアドリブで何かやり出したら、もうしめたものです。(265ぺージ)


人の心を動かすのは「戦略の正しさ」ではない。「ゴールのイメージとそこに至る「物語」です。そして、現実に物語が動き始め、自分が演じる役が腑に落ちた時、人は自発的に動き始めます。(265ページ)


このあたりに、山田さんのユーモアと巧みさが表れています。

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旧自治省に入りながら、2012年に退職するまで20年以上霞が関を離れて、各地の自治体を渡り歩いた山田さん。人呼んで、「流しの公務員」。この本には、今の地方創生人材支援制度への思いも随所に書かれています。


その中で、印象的なのが、「日本を美しくする会相談役の鍵山秀三郎さんとの対話。


「山田さん。あなたの仕事は、銀行の支店長に似ていますね。支店長は数年で異動していきます。ところで、あなたは、どんな支店長がよい支店長だと思いますか。」


わたしは、次のように答えました。

「在任中に支店の業績を上げる人が、良い支店長ではないでしょうか」


すると、鍵山さんはニッコリ笑って、こうおっしゃていました。

「普通はそう考えます。でも、私は違うと思うのです。その人がいなくなってからその支店が良くなる。そういう人が、本当の良い支店長なのですよ。能力があれば、短期的に業績を伸ばすのは簡単です。でも、無理やり咲かせた花はすぐに枯れてしまう。大事なのは花を咲かせることではない。根を育てることです。根や葉が先で、花や実は後でよいのです。」

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社会人1年目。総務省から愛知県庁に赴任して山田さんに出会わなければ、おそらく今の僕はなかっただろうし、地方創生人材支援制度もできていなかった。

山田さんからは、「よい子はまねしないでね」とよく言われましたが、『流しの公務員の冒険 霞が関からの現場への旅』を何度も読み返しながら、課題を解決するまでの道筋の描き方、柔らかさとユーモアさを身につけていきたいと改めて思いました。

お薦めの本です!



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<井上貴至(長島町副町長(地方創生担当)プロフィール>
http://blog.livedoor.jp/sekainotakachan/archives/68458684.html


「公私一致」という働き方
http://blog.livedoor.jp/sekainotakachan/archives/68507744.html
地域づくりは楽しい二行