何かのヒントになれば幸いです。
きっかけは恩師のひと言
「君ら東大生は何も知らない。とにかく現場に行きなさい。」最初のゼミで、川人博先生が言われたことが、10年以上経った今でも耳から離れない。
私が総務省を志望したのも、霞ヶ関だけでなく、地方自治体の現場でも働くというライフスタイルに惹かれたからだ。地域で活動する人はそのホームグラウンドでこそ輝く。総務省入省後は、毎週末、私費で全国の「地域の隠れたヒーロー」を訪ね歩いた。一方で、地域で活動する人は、地元やその業界しか知らないことが少なくない。ミツバチ.が花粉を運ぶように、僕が出会った全国の人や事例をつなげ、新しい花を咲かせたい。地域のミツバチ.がライフワークになった。
現場にこだわるあまり、法律や制度をつくる官庁組織の主流を歩まなかったと思うが、人と会うのが何より好きだし、人生かけてやりたいことを実現するため、現場での経験や人脈が必ず役に立つと信念をもって取り組んできた。
ユニークなネーミングと試み
急に追い風が吹いてきた。地方創生だ。気が付けば、有識者のほとんどは僕の仲間、僕自身もいろいろな政策を提案する機会をいただいた。官僚らを小さな市町村に派遣する地方創生人材支援制度もそのひとつだ。
昨年4月から同制度の第1号で鹿児島県長島に派遣され、7月からは副町長を拝命した。長島町は世界一の鰤の町、売上高は年間100億円を超えるが、町内に高校や大学がないのが課題。高校入学時には、バスで通う、寮に入る、あるいは家族全体で引っ越すかということを余儀なくされ、他の地域と比べて追加的な子育て費用がかかる。若者の人口流出も続く。
そこで実現したのが、ぶり奨学金。出世魚かつ回遊魚の鰤にあやかり、「成長して戻ってきて」との願いを込めた。卒業後に町に戻ってきた場合には、元利相当額を基金から全額補填する。基金には、寿司屋から5千円、介護施設から5万円、漁協から鰤が1本売れると1円(=今年度は約209万円)という具合に、町民や事業者が寄付をする。みんなで地域の子育てを支え合う仕組みだ。国で検討されている給付型奨学金は財源の見通しが立たないが、長島町のぶり奨学金ではその心配はいらない。モラルハザードも起きにくく、長く続きやすいのが特長だ。
また、東大の後輩等を招いて地元の生徒向けに、勉強のやり方や将来のキャリアデザインを伝える塾(=獅子島の子落とし塾)を開催するほか、カドカワと連携して、通信制高校をサポートする拠点(=長島大陸Nセンター)を役場内につくった。地元で高卒資格を取り、最先端を学ぶ機会と選択肢を提供していきたい。
新しい時代の働き方
-「公私一致」-
自分だけ、役場だけでは、ほとんど何もできない。相手に敬意を払い、いかに連携することができるか。これからのリーダーには、異質のものをマネジメントする能力が求められると思う。
田舎は課題最先端であるが、中と外をつなげてそれらを解決していくことで、日本の新しいモデルをつくっていきたい。日々、試行錯誤を繰り返している。
実は、長島町に赴任して以来、ほとんど休んでいない。でも、それが辛いとか、しんどいということでは全くない。むしろ、霞ヶ関で働いていた頃よりも、はるかに長く睡眠時間を取っている。副町長という立場は、常に高度な判断が求められる。意識して、睡眠や休養はしっかりとるようにしている。
肩の力を抜いて過ごしている時も、「これは、長島町で生かせそう」ということを頭のどこかで考えている。そういう意味で、ほとんど休んでいないといえる。それは、今の仕事が楽しくて、楽しくて仕方がないから。まさに、天職(calling)と受け止めている。
「私」が自然と「公」につながる「公私一致」という働き方は、労働と余暇を分離する近代の限界を乗り越え、新しい時代の働き方の指針になるのではないだろうか。「公私一致」という働き方では、「公」で求められていることと、「私」がやりたいこと、「私」ができることが一致し、大きな力が発揮される。楽しさと充実感の中で、ひとりひとりが力を発揮できる社会を作っていきたい。
私からのメッセージ
もちろん、日々の現場ではさまざまな葛藤があるが、そうしたときに支え、励ましてくれるのが大学の仲間だ。それぞれの分野で活躍する仲間から刺激を受けている。かっこいいと思う仲間から、ダサいとは思われたくない。
最後に、若い卒業生の皆さんへ。入学も就職もゴールではないということ。組織の中で安住するのではなく、組織の論理や社会の仕組みを理解した上で、自分がやりたいことを突き詰め、社会にどういう価値を提供できるか、仲間とともに社会の課題を解決できるかということに妥協せずに向き合ってほしい。それは、いずれ社会からも評価され、お金もついてくるものだと信じている。
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「公私一致」という働き方
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