National Council of Sports -Uganda@NCSUganda1The Ugandan players- the only from Africa, join players from additional Ten countries for the 2022 signing period.… https://t.co/AedwTxh8Pm
2022/01/28 21:59:56
ウガンダ人選手であるBen SerunkumaとUmar Maleの両名がロサンゼルス・ドジャースと契約したというニュースです。もちろん、ウガンダ人選手がMLB球団と契約を結ぶのは初めての事となります。
このニュースがいかに大きなニュースであるかを伝えるには、やはりアフリカ野球の勢力図を説明しないわけにはいきません。
アフリカ野球の力関係は雑に言ってしまうと「南アフリカとその他大勢」という言い方が出来る。
オリンピック(00年シドニー大会)やWBC本大会(06、09年)にアフリカ勢として唯一出場歴のある南アフリカはそうした世界大会レベルでは弱小国になるのですが、アフリカ人初のMLB選手であるギフト・ンゴペ(元パイレーツ)や同じくMLB昇格を果たしたタイラー・スコット(元広島)、昨年は台湾プロ野球でプレーしたダイラン・アンスワース、101マイルを計測したことがあるキエラン・ラブグローブ(エンゼルス傘下)など、現役で4人の3A級経験者がいて、MLB傘下でプレーするマイナーリーガーとなると毎年のように輩出しています。17年大会のWBC予選の決勝ではオーストラリア代表と互角の勝負を演じました。他のアフリカ勢はそう遠くない昔にルールを教え徐々に普及をさせるところからスタートしたような国々であり、怒られるのを承知で言えばプロと子供くらいの実力差がある。
そんなアフリカ野球の勢力図の中で、南アフリカではない国からMLBと契約する選手が出てきたからビッグニュースなわけです。
ただ、「南アフリカとその他大勢」という勢力図に風穴を開ける存在として期待されてきたのも近年のウガンダなんですよね。
近年はJICA(青年海外協力隊)の野球隊員が派遣されていて、日本の野球とも関りが深い。
日本の独立リーグにウガンダ人選手が挑戦したケースもありました。
ただJICA隊員などが派遣されていて、細々と野球が普及していっている国はそれなりにアフリカやアジアにも存在してきています。
ウガンダがそういった単なる「その他大勢」一つではないという印象を与え始めたのは、2014年に行われたU17アフリカ選手権でしょう。
これに関しては下手な説明をするよりも、結果を貼ってしまった方が分かりやすいかもしれない。
年代別の大会を含めてアフリカ野球は公式な国際大会が行われること自体が希少です。この2014年の大会は翌年に日本で行われたU18ワールドカップの予選として行われた大会なのですが、ウガンダがその他大勢というよりは「南アフリカ側」にいることを示すような結果なっています。
かつてのアフリカの国際大会では南アフリカがアフリカナンバー2的な存在だったナイジェリアにすら大勝するというイメージだったのですが、南アフリカが同じアフリカのチームに接戦にされてしまうというおそらく初めての結果が残っています。
JICA隊員としてウガンダで教えていた方は侍ジャパンの公式サイトのコラムに「日本の高校野球地方予選の3回戦ほどという印象です。初戦敗退はしないけれども、シード校に勝つには厳しいかな、というレベルです」と評している。
U18南アフリカ代表と3点差のゲームをやれていることや、130キロ以上を計測するレベルの投手ならそこそこいるという情報とその評価はおおよそ一致するとみていいでしょう。
ちなみにウガンダと戦ったU18南アフリカ代表がどんなもんか私は大阪までワールドカップをわざわざ見に行ったくらいです。
このような評価が固まってきている中で、2019年に行われた東京五輪・アフリカ予選。
成人世代のアフリカ選手権は北京五輪のアフリカ予選として2007年に開催されて以来12年ぶり。
ウガンダは南アフリカとの距離感がどれだけ縮まっているかを知る絶好の機会でした。
結果を先に書いてしまうと、ウガンダは無事南アフリカと戦う決勝戦に進出するも27-0の5回コールド負けで大敗。むしろ南アフリカの背中が遠くなっていると言わざるを得ない結果になってしまいました。
ただ、個人的にはこのスコアがウガンダと南アフリカの現状の距離感を示しているものとも思えないんですよね。
というか、私もアジアの大会を中心に実力差の大きい国際試合をたくさん見てきましたが、5回コールドの27-0というのは実力差が大きいというレベルの話ではなく格下側が自力でほぼアウトを取れないくらいのレベルでないと起こらないスコアです。
それだけ野球というスポーツで延々と野手のいないところに打ち続けるのは難しい。
この試合はバックネット裏の1カメラの粗い映像による配信があったのですが、おそらくウガンダは6つか7つかもしくはそれ以上ののエラーをしていて、2番手か3番手あたりの投手からまともにストライクが入らず、ストライクが入っても延々と外野に飛ばされるという感じでした。
国内組のみで編成された南アフリカ代表も元マイナー選手や欧州でプレーしていた経験を持つ選手も抱えるチームですが、130キロ級の投手を延々と打ち続けるような打力はない。というかそれは例えば侍ジャパンでも簡単ではないと思われる。南アフリカの国内組の投手陣も元マイナーの80マイル後半から90マイルを投げるような投手もいますが、80マイルそこそこのウガンダの投手とそう変わらないような投手もいるわけで。
何が言いたいのかというと、この予選のウガンダはベストなチーム状態・編成で戦えてたの?ということです。序盤に大量失点して戦意喪失してしまったという要素もあったにせよ、「U18南アフリカに3点差の試合をするチーム」「高校野球地方予選の3回戦レベルにあるチーム」が「南アフリカの国内組の成人代表に5回で30点近く取られる」とは思えない。このアフリカ予選の初戦の時点ではビザの都合で6人が合流できていないなんていう話も聞いていますし、この予選の結果はウガンダ球界の本来の実力を出せた結果ではないと想像しています。あくまで想像でしかないんですけどね。
WBCに予選が導入されるようになってから南アフリカは本大会に出場できていない(=予選止まり)わけで、その南アフリカに大敗してしまったという「事実」を踏まえると、ウガンダがWBC予選に招待されるのも遠い未来の話になりそう。ただ本来の伝え聞くウガンダ代表の評価ならば予選に出場できるくらいの実力はある(パキスタンに次いで予選の中では弱小の扱いになってしまうだろうけど)。MLB側もある程度地域性を重視した招待をしようとしているフシはあるので、WBC本戦・予選の全28か国中アフリカ勢が南アフリカの1か国という現状を考えるとある程度のレベルに達していれば招待したいという思惑はあってもおかしくない。ウガンダ代表がまた新たに世界の野球との距離感を示す機会があれば、WBC予選に招待される可能性もあるのではないかと思う。(20年7月のスポーツ報知ではケニアで野球指導をする元ロッテ藤田宗一氏が「当初来年に開催予定だったWBCが2023年に延期されるという話が出ていますが、予選に出場できるアフリカ枠が2つに増えるという可能性があるみたいです。」と話していたりする。)
話が大きくそれてしまったので本題に戻ろう。
今回契約したBen SerunkumaとUmar Maleの情報は正直少ない。
Umar Maleがキャッチャー、Ben Serunkumaは右投手であること。
二人は共に東京五輪のアフリカ予選のメンバーであることくらいしか分からない。
中南米の野球が盛んな国から契約に至るような選手たちほどのスペックはおそらくない。
今回はJoshua Kizito Muwanguziコーチも一緒に指導者としてドジャースと契約することとなっており、ウガンダ野球の未来への投資という要素もあると思うので、少し下駄を履かせたうえでの契約だと思われる。ちなみに契約金は1万ドルらしい。
ただマイナー契約に至るヨーロッパの野球選手くらいのカタログスペックはあると思われる。
欧州の野球選手はピッチャーだと「18歳未満」「最速で90マイルは投げられる」「タッパがある」というプロとしてやっていくうえで最低限のポテンシャルを持っている選手がいれば契約してルーキーリーグに放り込むイメージで、今回のウガンダの二人もこれに近いポテンシャルは持っているものと思われる。
ドジャースはウガンダに「アカデミー」と名の付くものを持ってるようです。
アカデミーと一言で言っても、ドミニカにあるようなスカウトされた金の卵が野球施設に住みながら寝食共にしてプロを目指して野球漬けの日々を送る「アカデミー」もあれば、不定期でやってる野球教室のようなものを「アカデミー」と言ったりもするので意味の幅は広いのですが、現地の学校と提携して、ドジャースから派遣されてるコーチに、現地出身のコーチもいるようなものらしい。今回の契約もこのアカデミーを持ってる流れから生まれたものと思われる。記者会見では学校やスポーツ庁なども出てきているので、ドジャースが現地とうまく連携しながらウガンダで野球をすることの価値を生み出そうとしていることが窺い知れる。
MaleとSerunkuma、Muwanguziコーチはドミニカにあるドジャースのアカデミー施設でプロキャリアをスタートさせることになります。現地で行われているマイナーリーグのルーキー級、ドミニカンサマーリーグの公式戦に出場することが第一目標になってくるでしょうか。
南アフリカ以外のアフリカの選手がMLBと契約するというニュースは、実はこれが初めてではありません。今から20年前の話になるのですが、2002年にミルウォーキー・ブルワーズがAugustine OzoredeとGbenga Olayemiのナイジェリア2選手と契約。ブルワーズは当時南アフリカの選手も積極的に獲得しており、その流れの中での獲得だと思われる。前述したようにナイジェリアは当時はアフリカ野球ナンバー2と言える国でもあり、今回のウガンダのニュースとよく似た話でもあります。
Augustine Ozoredeは渡米前に交通事故で死亡、Gbenga Olayemiは1シーズンだけルーキーリーグでプレーしたという記録が残っている。ナイジェリアはこの契約を発展に結びつけることは出来ず、東京五輪予選でも後発のブルキナファソに大敗するなどアフリカナンバー2のポジションでもなくなってしまいました。
持続性がなかったナイジェリアの件と比べれば、日米の協力のもと土台が出来つつあるウガンダの今回のニュースは将来に繋がるようなものだと思います。世界の野球界が待望する「南アフリカに続くアフリカ勢」が生まれることに期待したい。