アレルギー講演会
一昨年前に「アレルギーマーチと向き合って」を出版させていただいて以来、患者やご家族に対して患者の立場から病気についてお話をさせていただくことがあります。
アトピー性皮膚炎の話をするときには、痒みとの付き合い方がテーマになることも多いです。
アトピー性皮膚炎は、ご存知のように強い痒みを伴う慢性疾患です。
激しい痒みに襲われることも多いですが、掻いてしまうと悪化するからと我慢をします。
しかし、耐えきれずに掻き始めてしまい、掻き始めると痒みは増幅され止められなくなり、ついには痛みを伴うまで掻きむしってしまいます。
ふと患部を見ると血まみれになっていることもあり愕然とし、我慢が出来なかった自分を責めて落ち込んでしまいます。
そんな悪循環を繰り返す病気でもあるのです。
満一歳の頃から付き合っているので、患者歴はすでに37年。
長く付き合って来た経験から、「ホッとした時は要注意」という教訓を得ました。
仕事帰りに電車に乗って一人になった時や、布団に入って寝ようとしている時などに、さらに一層激しい痒みに襲われます。
緊張から緩和に移った時、つまりホッとすると猛烈な痒みの波が襲い掛かるのです。
私はホッとする前に吊革を必死に握り締めたりして、痒みの波に対して防衛策を講じたりしています。
それでも、あまりにもの痒みに呑まれることもしばしばあるが、「やっちゃった」と思う程度で気にしないようにしています。
子供の患者の中には、母親から掻かないよう強く言い渡されていて、母親から隠れるようにして掻いている子もいるのだそうです。
実に切ない話です。
強い痒みは痛みよりも耐えがたいものです。
掻いてしまった時には必要以上に自分を責めず、サーフィンのように楽しみながら痒みに乗って行けたらいいなと思っています。
先月開催されたアトピー性皮膚炎シンポジウムの中で、高松市民病院小児科診療部長であり、アトピー外来も開設されている渡辺俊之医師と対談をした折に非常に興味深い話をお聞きしました。
増悪因子の中で、まだまだ知られていないものに「汗」があるのだそうです。
汗をかくことによって新陳代謝をすることは健康にも疾患にも良いことではあるのですが、皮膚に汗を残ったままにしておくと、自分の汗で皮膚がかぶれてしまうそうです。
アトピー患者の汗の中に皮膚をかぶれさせる物質が分泌されているので、汗をかいた時には速やかに拭ったり水で洗い流したりする必要があるそうです。
渡辺先生の話を聞いて本当に驚きました。
しかし私にも、確かに心当たりはありました。
花粉症の予防でマスクをすることがあったのですが、マスクで顔を覆っている部分だけ、しばらくするとみるみる赤くなって痒みが生じたのです。
てっきりマスクにかぶれたのかと思っていましたが、思い返してみると高温多湿の密閉された空間の中で汗をかき、その汗にかぶれたのかもしれません。
また、現在、非常に高気密な繊維でできた保温性の高いアンダーウェアが流行していますが、試してみた時に、見事にかぶれてしまったことがあります。
寒い冬の日に、温かさは何よりもの魅力ではあるのですが、結局いつも吸汗性の高い綿の下着を常用しています。
渡辺医師は、学校などにシャワーが常備されているのならば、アトピー性皮膚炎を抱えている児童は頻繁に汗を流してほしいと語っていらっしゃいました。
シャワーの常備はコスト面からなかなか難しいことではあると思われますが、同じ疾患を抱えるものとしては、子供たちのためになるのなら是非にと願ってしまいます。