手下たちは、頭上にそびえるかつてのデパートメントストアのビルをふりあおぎながらそぞろ疑問を口にする。
「あの廃墟の屋上から落下したのですな。しかし一体どうして……」
「酩酊状態だったのでしょうか。何せ奴は我々の仲間うちでも無類の酒家で通っていましたから。しかも厄介なことには悪酔いをする性質でして」
 胴元は首をひねった。どうにも得心のいかない表情である。
「妙だな」
「は?」
 彼は手にした笛を、屍体の四方に散乱している廃棄物の破片へと向けて振ってみせた。
「単に酔っぱらって足を踏み外しただけであるならば、この場に存在するのはひとり奴の屍のみでなければならないはずだ。だが、この残骸を見てみろ。恐らくこれらは、奴が集めた『獲物』の一部だろう。おかしいではないか。奴はリヤカーに『獲物』を満載した状態でビルの屋上から飛び下りたのか。昨夜は、雲ひとつない皓々と月の輝く晩だったのだぞ」
「……そういえば」
「私には、この一件には何か禍々しい陰謀の気配を感じる――。いずれにせよ、屍は清掃局の奴らに処分される前に、早いところ我々の手で葬ってしまうのだ」
 僕たちは無言でうなずきあう。胴元の指示に従い、素早く屍体の四肢を抱え上げ、せーのの掛け声とともに用意してあった即席の担架の上に移しかえると、僕を含めた数名の持ち手が、その四隅に配置される。そうこうしているうちにも、せっかくの朝食を奪われる形になったカラスたちが、血相を変えてこちらに攻撃を加えてくる。僕などは、二、三度その固いくちばしで後頭部の辺りをつつかれそうになったものだった。
「いてて……」
「早くずらかろう」
 胴元の操る笛の音は、どうやら飢えたカラスたちの前にはさほどの効力を示せないようだった。僕たちは慌てて屍体を乗せた担架をかつぎ上げると、逃げるようにして晴海通りの乾いたアスファルトの上を後にしていった。
 僕は奇妙に折れ曲がった屍体の左膝をじっと凝視しつつ、黙然と走り続けていた。ふと、自分の傍らで同様に担架を捧げ持つ仲間の一人が、今さらながらに気づいたように、こう問いかけてきた。
「……なあ」
 相手の声はふるえていた。
「うん?」
「お前……何で俺らと一緒に走ってるんだ? お前はさっきまでここにこうして屍体として横たわっていたはずで――」
 僕が何事かを答えようとする前に、僕たちと併走していた胴元が割り込んできた。
「無駄口をたたいている暇はない。余計なことは考えずにさっさと走れ。ぼやぼやしているとまたカラスどもが追ってくるぞ!」
 そして他の手下たちには勘づかれないようにそっと僕の耳元に口を寄せると、
「今のは貸しだからな」
 ボソリと呟くのだった。はっとなって自身が運んでいる担架の上を再び見やると、既にそこからは全身の骨が砕けた醜い屍体の姿はきれいさっぱり消え去っている……。代わりに転がっているのは、筒状のレンズを天に向かってそびやかす年代物のカメラらしき物体だった。