トルネード   斉藤 なつみ

ザアッ ザアッ/音を立てて 竜巻になってまわっている/真鰯の群れ/<トルネード>と嵐の名を付けられて
だから/渦のなかでは/暴風が吹き荒れているのだろう/激しい雨にしとどに濡れてもいるのだろう
渦を巻いてまわっている真鰯たちの/一匹の影のように/巨大な渦に呑みこまれたかったから/電車にのって/地下鉄にのって/日傘をさして歩いてきた
竜巻のなかで/互いにぶつかりそうになるたび/すばしこっく身をかわすたび/あ それも私/それも 私/とひんやりほどけていく私の輪郭
激しいスピートで/先へ先へと急いている真鰯たちの/瞬時の死が/光の粉のようにきらきらと/渦にまぎれて輝く
潮の匂いを引き連れて/日傘をさして地下鉄にむかう/私の足元にも/歩くたび/死が光のように眩しく零れ輝くから/急いで 生きる
斎藤なつみ詩集「返事」より(2013 年8月 宮崎市)

読み人・江素瑛
殆んどの人が、意によらないで、知らずうちに群衆のトルネードに巻き込まれている。
 おのれが失われてもよいと思われるくらい、渦のなかに呑まれたかった作者だが、その渦のなかに、死にむかうなかに、負けなく輝き生を得られている。人は世の巨大な坩堝に身をまかせて死にむかうのか、考えても答えがでるはずなさそうです。存在の意味を問いかけて、闘う姿勢が希望をもたらす。