◎課長
 こういう言い方をされると答えようがない。ラインで組み立てるのが本来の仕事ではないのだ。
 「課長!どうしたんですか。働いてなかったでしょ」就業前に資材管理へ行くと、いきなりいわれた。
 山本君に明日のスケジュールを聞こうとしたのに、係長と目が合ったとたんにこれは無いよな。
 彼はきっと山本君から聞いた事を勘違いしているのだろう。午後ほとんど席を外していただけである。
 彼のところの課長も事業部長も現場でなど運搬作業はしない。俺がラインに入っているのは俺流だ。
 管理職の仕事はマネジメントだ、と資材課長の口癖なのに、あの係長には課長昇進は無理かな。
 火曜日には課長会があり講師からの話を聞く事はあったが、今日のはイレギュラーだったので誤解したか。
 会議も聴講も仕事である。係長こそ用事もないのに、口実をつくってライン回りや、技術部行きでお茶を売っている。
 見せかけの仕事はノーワーク以下でノーペイではなく、会社から損害賠償の罰金を差し引かれると言ってやった。
 あの南本先生が別の講師を連れて来たのだ。最近の左翼情報とか何とか、小難しい話を延々と聞かされてきた。
 そのあとで技術部長が少しばかり話したことの方がすんなり納得した。良い資料も配られ仕事に直結した。
 デジタルはまだまだラインに馴染めない。今日の資料なら即戦力になりそうだ。明日から有効使用する。
 最後に人事課長がやってきて組合への第三次回答についての説明があり、結局二時間以上も会議室にいたのだ。
 最終回答で妥結したのは一月前だ。もうラインは正常だし門前ビラもずっと撒かれていない。
 次のボーナス時期とか、来年の昇給時期しか組合が出る幕は無いはずだ。一課の中ではもう組合話は全然ない。
 解決当時は騒然としていた。俺にまで課長も給料が上がるのかいくらくらいかと訊かれた。
 一般社員の平均で一万円近い昇給という組合速報が課長会でも回覧されて、その時に人事課長が説明したはずだ。
 組合員とかでなく全社員に均一に行う定期昇給だとの事だ。団体交渉で小刻みに回答を行った訳も説明した。
 決して組合圧力で昇給額が決まったのではない。業績や世間相場を勘案した会社判断なのだと聞いた。
 ストライキで引かれた分だけ組合員は月給が少ない。脱退者がかなりいるとは二課の課長からの情報だ。
 管理職手当などで俺は満足できる月給とボーナス時にも、平社員よりは多く支給されているが秘密だ。
 組合がストまでしたので少しは色を付けたのだと言う話も聞いたが人事課長は完全否定をしていた。
 仕事の不満なら俺が対応する。仕事で満足して給料などで世間並みならこの先組合もやりにくいだろう。
 俺がこの会社で働き出してからも色々なことが有った。新製品の内容を持ち出した管理職は退職した。
 シグナル社から引き抜かれた技術課の主任は、特別手当をもらっていると聞いた。当然だろう。
 火事でラインが止まった時も地震で窓や机が壊れた事もあった。十年以上の間には色々な事もあった。
 結局、会社は順調に伸びているという事だ。今回の組合騒ぎも、いずれそんなになってゆくだろう。
《参照:外狩雅巳のひろば》