中村浩巳の評論「大泉黒石著『おらんださん〉』の中の『ジャン・セニウス派の僧』めぐって」が、文芸誌「相模文芸」の26号から31号まで連載された。6月22日に行われる相模文芸クラブ」会合の31号最後の合評作品対象となります。
  三年間・六回に渡り四百枚以上を費やした中村浩巳氏のエッセー風考察作品です。
  作者はこの中で時代の矛盾と混乱を秘めた原作背景に立ち向かう執念の読みを展開しています。
  目的地に向かう三段ロケットに仕立て万全を期した装置を用意し壮大な旅に出発しています。
  編集した解説者に敬意を表しつつ、さらなる読みの野心が溢れる一作になる可能性ある作品です。
  浪漫溢れる原作内容紹介も順調に一段目のロケットは、作品の骨格を無難に国防論と読み始めます。
  太平洋戦争直前の国情で隠れ反戦小説を書く原作者の、イギリス手本の西欧史を広げ出しています。
  協力な二段目ロケットが、オランダ独立史で大きく寄り道に侵入し、中村氏の長い一人旅が始まります。
  タイトルにした宗教僧名の説明も兼ねて斬新な切り口の本領発揮で未踏の読みに迫る迫力です。
  読者を置き去りにしても18世紀西欧論こそ原作解明の鍵と力み、遥かなる着地点へひた走ります。
  サドもパスカルも混ぜ込んだ燃焼不足のロケット燃料内不純物が中村氏を煽り立てています。
  書き過ぎて少し納まった中村氏は、三段目で予定の石原莞爾論を持ち出して目標到着を企てます。
  王道と覇道が書けたので日本の戦前時発表の原作背景説明に納得し、誤読力も必要と纏めています。
  最終回は満点着地の為、全編要約と読者慰労や感謝とか自己満足の種明かしの余裕すら見せています。
  編集解説者の由良君美氏の届かなかったところはオランダ史・宗教史の中にあると言うのだろうか。
  大日本帝国への箴言としての原作の真意。表向きイギリスの巧妙な立ち回りを手本に勧めた原作。
  島国の生き残り論ではナポレオンやフェリペ二世も動員し原作を補足する中村氏のサービス精神。
  論文風のエッセーには研究者としての未練や文芸作品への適応の野心も覗えて執念が良く判りました。
  果たして、大泉黒石は偽装反戦小説を書きたかったのだろうか。原作にその効果はあったのだろうか。
  幕末日本の自主独立がいかに困難かと、国防論を下敷きにした時代小説を書く事が反戦表示なのか。
  時の為政者はどう対応したのか。扇動効果の無い作品としたのか。深読み国民多数と警戒したのか。
  左翼の壊滅で国策小説全盛時代。良心的作家の有り方は宮本百合子作品等の研究が多数あります。
  特高資料等も使用すれば、文学と庶民の関係も探れるでしょう。中村氏の継続に期待します。
  なお、文芸同志会の北 一郎氏は、本作品と現代との関連性について、権力者が作り出した言論の抑制の世相ののなかで、物語性をもって自由な表現を獲得した大泉黒石の意志の表れとしての技術の痕跡を追う部分が垣間見えるとコメント。そこに文学的表現での意思表示の手法が学べるのではないか、としています。
 《参照:外狩雅巳のひろば》