遠い遠い 私の言葉の網の目に
微かなメロディーが通り過ぎる
リズムや肉声を消去する
言葉の壁の中にいながら
時間の雨音だけを聞いて
何年になるだろう

掘り下げて行けば
得体の知れない恐怖に留まり
浮き沈む風土の闇が
言葉を濁らせる

いつしか 単調で痩せたイメージが
言葉の壁の中で震えている
逃げ出そうとする吃音
黒い絵の具のように
広がろうとする濁音
乾いた靴音が 背後から近づいて来る

幾重にも闇を重ねて
苦しい記憶の呪縛を解き放つ
私である私がいない
私である あなたもいない
乾いた靴音だけが
言葉の壁の中に響いている

空白 空洞 久遠
音の羅列だけが 
意味のあるものに見えて来て

時間の雨音なのか
終焉の靴音なのか
言葉の壁の上に
白い亀裂が徐々に広がって行く

(文芸誌「砂」第137号(2018年5月発行)から転載)