夢野久作の庭
一番に線香を立てに来た奴が
俺を…………
………と云うて息を引き取る
若い医者が
俺の生命を預つたと云うて
ニヤリと笑ひ腐つた
だしぬけに
血みどろの俺にぶつかつた
あの横路地のくら暗の中で
頭の中でピチンと何か割れた音
イヒヽヽヽヽ
……と……俺が笑ふ声
白い乳を出させようとて
タンポヽを引き切る気持ち
彼女の腕を見る
棺の中で
死人がそつと欠伸(あくび)した
その時和尚が咳払ひした
抱きしめる
その瞬間にいつも思ふ
あの泥沼の底の白骨
ニセ物のパスで
電車に乗つてみる
超人らしいステキな気持ち
青空の隅から
ジツト眼をあけて
俺の所業を睨んでゐる奴
自転車の死骸が
空地に積んである
乗つてゐた奴の死骸も共に
闇の中から血まみれの猿が
ヨロ/\とよろめきかゝる
俺の良心
俺を…………
………と云うて息を引き取る
若い医者が
俺の生命を預つたと云うて
ニヤリと笑ひ腐つた
だしぬけに
血みどろの俺にぶつかつた
あの横路地のくら暗の中で
頭の中でピチンと何か割れた音
イヒヽヽヽヽ
……と……俺が笑ふ声
白い乳を出させようとて
タンポヽを引き切る気持ち
彼女の腕を見る
棺の中で
死人がそつと欠伸(あくび)した
その時和尚が咳払ひした
抱きしめる
その瞬間にいつも思ふ
あの泥沼の底の白骨
ニセ物のパスで
電車に乗つてみる
超人らしいステキな気持ち
青空の隅から
ジツト眼をあけて
俺の所業を睨んでゐる奴
自転車の死骸が
空地に積んである
乗つてゐた奴の死骸も共に
闇の中から血まみれの猿が
ヨロ/\とよろめきかゝる
俺の良心
殺すくらい 何でもない
と思ひつゝ人ごみの中を
濶歩して行く
ある名をば 叮嚀(ていねい)に書き
ていねいに 抹殺をして
焼きすてる心
ある女の写真の眼玉にペン先の
赤いインキを
注射して見る
この夫人をくびり殺して
捕はれてみたし
と思ふ応接間かな
わが胸に邪悪の森あり
時折りに
啄木鳥の来てたゝきやまずも
と思ひつゝ人ごみの中を
濶歩して行く
ある名をば 叮嚀(ていねい)に書き
ていねいに 抹殺をして
焼きすてる心
ある女の写真の眼玉にペン先の
赤いインキを
注射して見る
この夫人をくびり殺して
捕はれてみたし
と思ふ応接間かな
わが胸に邪悪の森あり
時折りに
啄木鳥の来てたゝきやまずも
ある国で第一番の上手というお医者さんが、ある町に招かれて来ました。お医者さんは町に着くと直ぐ、
「ここの人はどうして一日を過ごしていますか」
と尋ねました。
町の人はこう答えました。
「別に変った生活もしませんが、私達は日の出前に起床し、日が暮れて床に就き、明るいうちはせっせと働いて日を送っています。又餓(ひも)じい時はお腹を一パイにするだけ御飯を食べます」
と答えました。
お医者さんは、
「それでは私はここにおっても仕事がありません。そんな生活(くらし)をする人達はいつも健全(たっしゃ)で医者の厄介になる事がありませんから」
と言ってさっさとここを立ち去りました。
【青空文庫より=底本:「夢野久作全集7」三一書房、1970(昭和45)年1月31日第1版第1刷発行、1992(平成4)年2月29日第1版第12刷発行。初出:「九州日報」1922(大正11)年12月25日】
「ここの人はどうして一日を過ごしていますか」
と尋ねました。
町の人はこう答えました。
「別に変った生活もしませんが、私達は日の出前に起床し、日が暮れて床に就き、明るいうちはせっせと働いて日を送っています。又餓(ひも)じい時はお腹を一パイにするだけ御飯を食べます」
と答えました。
お医者さんは、
「それでは私はここにおっても仕事がありません。そんな生活(くらし)をする人達はいつも健全(たっしゃ)で医者の厄介になる事がありませんから」
と言ってさっさとここを立ち去りました。
【青空文庫より=底本:「夢野久作全集7」三一書房、1970(昭和45)年1月31日第1版第1刷発行、1992(平成4)年2月29日第1版第12刷発行。初出:「九州日報」1922(大正11)年12月25日】
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