2018年10月24日

柏木集保先生の見解 菊花賞

記録続出の一戦は、アイビスサマーダッシュ並みの高速決着

 フィエールマン(父ディープインパクト)の勝った今年の菊花賞は、新記録、珍しい記録続出のレースとなった。

 関東の所属馬が勝ったのは、2001年マンハッタンカフェ(父サンデーサイレンス)以来17年ぶり。手塚貴久調教師(54)は牡馬クラシック初勝利。

 戦歴「3戦」の勝利は、1938年に創設されここまでに勝った79頭のなかで最少キャリアだった(4戦もいない)。最多キャリアは、1951年トラックオー(父レイモンド)の持つ菊花賞までに31戦【13-8-7-3】。

 勝ったフィエールマンの3戦はすべて芝1800m。距離2000m以上の経験なしの馬が勝ったのは、史上初めて。

 勝ちタイムは、馬場状態.レースの流れに左右されるが、晴れの良馬場で3分06秒1はきわめて遅い。38年も前の1980年、ノースガスト(父アラナス)が記録したレコードと同じ。現在の菊花賞レコードは、2014年トーホウジャッカル(父スペシャルウィーク)の3分01秒0。

 超スローになったため、レース上がりは、ナリタトップロードが勝った1999年の「11秒4-11秒3-11秒5」=34秒2と並ぶ最速タイの34秒2。ただ、今年は直線に向くまでペースが上がらず、急加速の「12秒2-10秒7-11秒3」=34秒2となった。

 菊花賞3000mの最後の直線で、ハロン「10秒台」が刻まれたのは初めてのこと。最終2ハロン「22秒0」は夏のアイビスサマーダッシュ並みの高速フィニッシュとなり、断トツの史上最速。

 勝ったフィエールマンの最速上がり「33秒9」とそっくり同じ33秒9を記録した馬が計5頭も出現した。

 C.ルメール騎手は9月以降の重賞【9-2-1-1】。勝率.692となった。

 現在の日程になった2000年以降19回に限ると、「皐月賞にも日本ダービー」にも不出走の勝ち馬は10頭目。春のクラシック経験馬9頭を抜いた。またフィエールマンは、現日程で初の「3カ月以上の休養明け」の勝ち馬となった。

 フィエールマンのズバ抜けた素質は、今回14着のメイショウテッコン(父マンハッタンカフェ)を、4コーナー最後方から大外を回り0秒1差まで追い詰めた7月のラジオNIKKEI賞で示されていたが、「休み明け、キャリア3戦、経験1800mまで」。死角が3つも重なったため有力候補とはならず、絶好調のC.ルメール騎乗でも7番人気は、伝統の菊花賞だけに仕方がなかった。

 冴えわたるルメールは、先行型のすぐ直後の6〜7番手で流れに乗った。積極策を宣言していた伏兵の出足が悪く、ジェネラーレウーノ(父スクリーンヒーロー)の作ったペースは「62秒7-64秒2-59秒2」=3分06秒1の超スロー。望外のペースで単騎逃げになったジェネラーレウーノ(田辺騎手)は、2000m通過2分06秒9の地点をすぎ、さらに2400m通過2分31秒9の勝負どころでも,2600m通過2分44秒1の直線入り口までだれも来ないから、(あまりに楽すぎて)ロングスパートのかけようもなかった。

 そのため、前出のように直線はいきなり「10秒7-11秒3」。10頭以上が横に並ぶ1団になった。フィエールマンは一瞬、包まれて下がったかのように映った。ここで生きたのが、短距離戦でも珍しいほどの爆発力勝負ヘの対応力。ハロン10秒7の地点で、フィエールマンのみせた切れは10秒台前半だろう。スタミナを秘める可能性も十分だが、ディープインパクト譲りの爆発力がすごい。このあと、どういうタイプに育つのだろう。有馬記念の可能性はある。

 菊花賞にはさまざまな形容が可能だが、近年では15年のキタサンブラック,13年エピファネイアが代表するように、三冠の最終戦ではなく「未来へ向けた出発点」と考えたい。ちょっとさかのぼれば、デルタブルース、ヒシミラクル、マンハッタンカフェでもいい。あまり連続して出走できない身体の若さを解消したときの、4〜5歳のフィエールマンは素晴らしい馬になるだろう。

 母リュヌドール(仏3勝、伊1勝)は、ゼンノロブロイの勝った2004年のジャパンC7着馬。その父グリーンチューンは、武豊騎手のクラシック初勝利となった菊花賞馬スーパークリークの父ノーアテンションと同じグリーンダンサー(その父ニジンスキー)直仔。日本のニジンスキー直父系種牡馬は、いま消滅寸前だが、マルゼンスキーが示すように、母方に入っても影響力を失わないニジンスキー(父ノーザンダンサー)系の威力はすごい。

 2着エタリオウ(父ステイゴールド)は、再生のアップになるまで勝ったようにみえた。ルメールでさえ、デムーロに「おめでとう」と、自分は負けたと感じていたらしい。無念のエタリオウ(ミルコ)は、これで【1-6-0-2】。一見、悲しい成績になったが、全然そんなことはない。通算【7-12-8-23】の父ステイゴールドがみんなに愛されたのは、初重賞制覇は6歳春の目黒記念で、ついにGIを勝ったのは7歳12月の香港(引退レース)だったからでもある。

 超スローを読んで途中で進出し、また、直線に向いても一気のスパートで先頭に立ったのは、最高に乗ったM.デムーロ(エタリオウ)だった。エタリオウにもフィエールマンと同様、この菊花賞が未来への出発になることを期待したい。

 フィエールマン、エタリオウをぴたっとマークするかのような位置にいて、同じ上がり33秒9で伸び、いつのまにか3着していたのが10番人気だった武豊騎手のユーキャンスマイル(父キングカメハメハ)。派手なタイプではないが、自在性を示したと同時にしぶとく脚を使ったから、スタミナを秘めている。難しい流れになって台頭したのが、人気を集めたデムーロのエタリオウと、ルメールのフィエールマンと、武豊のユーキャンスマイル。もちろん、たまたまではない。

 1番人気で4着だったブラストワンピース(父ハービンジャー)は、ダービー小差5着の力は発揮している気もする。デムーロのエタリオウの直後にいたのだから、位置取りも失敗ではない。やや器用さに欠けるのと、見るからにいかつい大型馬になったため、ほんのちょっとだけ自身の抱えるスタミナロスが最後の伸び不足に影響したのかもしれない。まだキャリア5戦。この馬こそ、これからの成長株だろう。

 しいて今回の死角を反省すると、新潟の長い直線の外回りでああいう勝ち方をした馬は、これまでだっていっぱいいる。関屋記念、新潟2歳S,新潟大賞典……。大外を回って一気というのが、実は盲点。あの勝ち方は直線1000m(670m)のコース取りと同じである、という説もある。

 春の二冠を快走したエポカドーロ(父オルフェーヴル)は、「スタミナ不足が敗因」とされる。あの位置にいて抜け出せなかったのだから、たしかにそれもあるだろうが、今回はスタミナの優劣を問われたレースではなかった。終始、前にも横にも、後ろにも他馬のいる展開は、位置は最高でもオルフェーヴル産駒のエポカドーロには、歓迎ではなかったろう。また、上がりだけの切れ味勝負も合わない。

 勝手に、あまり置かれず、インから突っ込んでくるはずのグレイル(父ハーツクライ)をイメージして買ったが、まったくマト外れだった。

 レースが終わると、いつも通りに後方のままだった愛馬をみつめて、「なにかあったのか?」「そうだ、きっとなにかあったに違いない…」とつぶやくオーナーを知っている。同じようにつぶやきたい。

selvas2 at 00:30コメント(0) 

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