「間もなく閉館の時間となります」
 館内に流れたアナウンスの声で、それまで続いていた集中が途切れた。時間を確認すると閉館時間の十分前だった。
「千夏、来なかったな」
 千夏が図書館に来ない事に違和感を覚え、無意識のうちにそんなことを呟いている自分に驚いていしまった。
『惹かれるって言う意味ではそれで十分だろ、特にお前には。』
 尾上に言われた事を思い出し苦笑してしまう。
 俺、自分が思ってる以上に単純なやつだったみたいだ。
「っと、ヤバイヤバイ」
 まったく机の上が片付いていない事を思い出し、あわてて勉強道具をカバンに詰め込みそそくさと図書館を出た。


「ん?」
 図書館の外に出ると顔に雨粒が当たるのを感じた。ちょうど降り始めのようで、乾いていた地面は徐々に黒く濡れていった。
 こんな事だったら、もう少し早く出ておくんだったな。
 そう思いながら、図書館の入り口前の屋根のあるスペースに避難する。
 周りには同じように、図書館を出たところで雨に降られた人たちが、雨宿りしていた。
 ついてない。
「はぁ」
 気が付くと小さくため息をついていた。十分ほどその場で雨宿りしていたが、雨が止む様子はまったく無かった。
 このまま待ってても止みそうにないし近くのコンビニで傘買って帰るか。
「……はぁ」
 再び小さなため息をつき、その場から走り出した。


「あ、そっか」
 家まであとわずかというところまで来てから、その日の夕飯が無いことに気が付いた。
 毎日、千夏に頼りっきりだったからな。今から何か買いに行くか……一食ぐらい抜いたところで問題ないか。千夏にはちゃんと食べないと体に悪いとか何とか言われそうだけど。
「……千夏」
 名前を口に出したことにより今まで沈んでいた不安が一気に浮かび上がる。
 連絡の一つでも取れれば。
『必要なときは私から連絡しますから』
 そう言って千夏から連絡が来たことは一度も無い。
 特に約束をしているわけでもないし、図書館に来る来ないは千夏の勝手だけど、連絡の一つくらい欲しかった。
 連絡先ぐらい教えておけよ。人をここまで心配させてるんだから、明日会った時に文句の一つでも言ってやらないと。
 そんな身勝手な考えを巡らせている間に家の目と鼻の先まで来ていた。そこまで来たところで、家の前に人影があることに気が付いた。その人影は雨の中傘も差さず、玄関の前でうずくまっていた。
 ――千夏⁉
 そう認識した瞬間、千夏に駆け寄った。
「千夏!」
「……先輩?」
 顔を上げた千夏の目は真っ赤に腫れてしまっていた。それを顔を見た瞬間、それまで考えていた事がすべて吹っ飛んでいた。
「先輩!」
「……⁉」
 千夏はすがる様に抱きついてきた。そんな千夏を俺は抱きしめる事も払いのける事も出来なかった。
「せんぱぃ……ひっ、せ、せんぱぁい……」
 俺の胸に顔を埋めたまま千夏は泣き始めていた。千夏は必死に泣き声を押し殺そうとしていたが、押し殺せていなかった。その千夏の声が俺の思考を鈍くさせた。
 俺はどうすればいい……
 必死にどうすればいいのか考えようとしているのに、頭は空回りを続けていた。
 そんな時ある言葉が頭の中を巡った。俺の一番好きだった人が残した言葉が。

『和、強い人になってね。世界中の人を助けられる人になってなんて言わない。たった一人、世界で一番大切な人を助けられる強い人になって頂戴』

 ――そっか、単純な事だった。
 泣いている千夏を見た時、最初に思った感情はなんだった?
 千夏を助けたい――そう思ったんだ。だったらまず、今の俺がするべきことは何か?
「大丈夫、俺はここにいるから、千夏の目の前にいるから」
 自然と千夏の体を抱きしめていた。
「せん、ぱぃ」
 千夏は俺の胸に顔をうずめたまま俺の事を再度呼んだ。その声色はさっきまでとは変わっていて、少し落ち着いたものになっていた。
 その後、千夏が泣き止み落ち着くまで二人で雨にうたれ続けていた。


 千夏を連れ家の中に入った時には、二人そろって濡れ鼠になっていた。
 遠慮する千夏を問答無用で風呂場に押し込み、俺は俺で一旦部屋に戻り着替え千夏が着れそうな服を準備した。
「何かあったまるものでも準備しておくか」
 そう思いキッチンに立ち、ミルクパンで牛乳を温め始めた。
「……あがりました」
 キッチンに立ってから何分もしないうちに千夏は上がってきた。
「とりあえず座っててくれ」
 千夏は小さく頷くとリビングのソファーに座る。
「ほら、ホットミルク」
 千夏の前にホットミルクの入ったマグカップを置き千夏の隣に座る。しかし、千夏はうつむいたまま動こうとしなかった。
「とりあえず飲んで暖まっておけ」
 促されてようやく千夏はマグカップを口に運んだ。
「あったかい」
 一口飲んだ千夏は一言だけ呟いた。室内には雨の音と二人の息遣い、ホットミルクを飲む音だけが響いていた。
「……何も、聞かないんですか?」
 室内に響く音に千夏の声が加わる。
「気にはなる、でも俺からは聞かない。千夏が言いたかったら言えばいいし、言いたくなければ言わなければいい」
「卑怯な言い方ですね」
「自分でもそう思うよ」
 そして再び二人そろって口を閉じてしまう。
「……私の今の母親、本当の母親じゃなんです」
「え?」
 無言の時間を破ったのは千夏の唐突な言葉だった。
「私の母、本当の母は私が三歳の頃に亡くなりました。もともと体の弱い人で私を生むのも危険だと言われてたらしいです。それでも母は自分の命を削って私を生んでくれました。ですが、私を生んで三年後、病気で亡くなってしまいました」
 突然の千夏の告白に俺は何も言葉が出なかった。
「それから数年は父と私、二人で生活していました。ご飯の準備、幼稚園への送り向かい、家の中の事、それに休みの日には出来る限り家にいて遊んでくれました。父親と母親、父は一人で二人分の役割をこなしていました」
 楽しかった記憶を慈しむように千夏は言葉を紡いでいた。
「父が再婚したのは私が六歳の頃でした。新しい母のことはすんなりと受け入れること出来ましたし、新しい母も私のことを非常に可愛がってくれました。その数年後、妹が生まれ両親は妹の方に掛かりっきりになってしまいました。当然の事ではあるんですけどね、あの頃の私には、親に見捨てられてしまったように思えてしまったんです」
 千夏は小さく自嘲的な笑いを漏らす。
「そんな家族の中にいるのが息苦しく、家に居たくない思いから夜遅くなるまで外を出歩くようになっていました。最初のうちは親も心配し時には怒ってくれていました……私に意識を向けてくれていました」
 言葉の情景が目の前にいる千夏からは全く想像ができなかった。
「私の方を向いていてほしくて、何回も同じことを繰り返しました。そして、いつものように同じ年代の子が帰るには、遅すぎる時間に家に帰ると玄関先で父が待っていました。表面上は怒られるという怯えがありましたが、内心ではかまって貰えるという嬉しさが私の中に確かにありました。本当に馬鹿でした」
 千夏がその当時の自分を軽蔑しているのが、言葉の端々から感じ取れた。
「玄関で待っていた父は私を怒るわけでもなく、ただ『これからお小遣い増やしてあげるから、千夏の好きなようにしなさい』と言い一冊の通帳を私に握らせ家の中へ戻っていきました。私の手に残った通帳の中には、同じ年の子達が貰っているお小遣いの十数倍の金額が書かれていました。それと同時に、家の食卓から一人分の食事が消えていました。私は……愚かな考えと行動で本当に家族の枠から外されてしまいました」
 食事を作りに来てくれた千夏を、家まで送って行った時感じた違和感はこのせいか。あの時の千夏の家は、まだ帰ってきていない家族がいるという雰囲気が全く無かったんだ。
「それからは自分の身の回りのこと、一人でやるようになっていました。家族が起きる前に起き、洗濯を片付け、朝食を作り一人で食べ、学校に行く。本を読むことは好きだったので、放課後になると学校の図書室にこもって本を読む。下校時間になると家から少し遠い書店に行き、閉店ギリギリまで本を読み、帰りにスーパーで買い物をして家に帰る」
 家族にいないものとして扱われる状況を想像をし、その状況の心細さに背筋が寒くなった。
「学校にいる時は比較的楽しく過ごしていました。友達もいましたし、なにより輪の中の一員でいれる事が嬉しかったのかも知れません。ですが、中学校にあがりしばらく経った頃から、虐めを受けるようになりました」
「な⁉」
 今までの千夏の話でも十分衝撃だったというのに、更なる千夏の言葉が追い打ちをかけた。
「夜、街の中を歩いているところを見られたんだと思います。長川千夏は援助交際している、そんな根も葉もない噂を流されました。最初のうちは遠巻きに私の事を見てヒソヒソ話をしているといった感じでしたが、噂が広まるにつれて話しかけてくる人はいなくなり、私が話しかけても多くの人は無視するようになっていました」
「周りには?」
「私が先生に相談すれば動いてくれたのかもしれません」
「だったら、なんで」
「私が先生にその事を言えば当然家の方にも連絡がいくでしょう。そうすれば私の家の状況だって知られてしまう、親に迷惑をかけてしまいます。結局、学校にも私の居場所は無くなってしまいました。だからと言って学校に行かなければ、家の方に連絡が入るので休むことも出来ず、それこそ息を潜めるように毎日過ごしていました」
 もう過ぎ去ってしまったことだという事は理解はしているが、それでも何も出来ない自分に憤りを覚え唇を噛んでいた。
「学校を卒業すると、家から離れた高校へ進学しました。新しい学校では新しい知り合いも出来ました。ですがその方々と話していても、波風を立たせないようにいつも微笑んでる自分を自然と作る様になっていました。周りの人が離れていってしまう怖さを知ってしまったので」
「じゃあなんで俺の前では作ろうとしないんだ」
 俺の知っている千夏は表情がコロコロと変わる普通の女の子だ。
「……先輩と話していると、とても安心できるんです」
「安心できる?」
「はい、先輩は私と初めて会ったときから全く遠慮ありませんでしたよね」
「そうか?」
「そうですよ、先輩は思ったことをそのまま言ってきてましたし、自分のやりたいように行動していました」
 確かに今にして思うと、無理やり千夏の事を振り回していた感は否めない。
「それが逆に私を安心させてくれました。ああ、この人は本当に私の事を見ていてくれているって。私がこんなに積極的に人と関わろうとしたのは虐められて以来初めてのことだったんですよ」
 そう言って千夏は、それまでの感情のない表情を少しだけ緩めた。
「ですが、少し気が緩んでいたのかもしれません。図書館に返そうと思っていた本があったのですが、自宅に置いてきてしまったんですよね。今までの私であれば、用事があったとしても、日があるうちに家に近づこうとはしませんでした。いつ家族と会ってしまうか分からないから。ですが今日は家に帰ってしまったんですよね……私、もともとタイミング悪いんすよ。家への最後の曲がり角を曲がったところで、ちょうど玄関から出てきていたんですよね。父と母と妹……お互いに言葉を交わし笑い合い出かけていきました。ひどく惨めな気持ちになりました」
 再び千夏は自嘲的な笑みを浮かべる。
「それと同時に先輩の顔が無性に見たくなったんです。そして気が付いたら先輩の家の前に立っていました」
 今でこそ、それなりにはっきりとした口調で話してはいるが、家族の様子を見た時の動揺は俺には計り知れない。そうでもなければ、泣いて俺に抱きついてくるなんて事しないだろうし。
「先輩はどうして私と関わろうとするんですか?」
「どうしてって」
「以前、尾上先輩が言っていました。女の人と親しくしているところ見たことが無いって。
ですが始めてあったあの日、先輩から私に関わろうとしました。今だってそうです。ただ、黙って私を家に迎え入れてくれました。突き放す事だって出来たはずです。どうして私なんですか?」
 千夏はじっと俺の目を見つめる。
「……ちょっと待ってろ」
 俺はいったん自分の部屋に戻り、クローゼットの奥にしまっていた一冊のアルバムを持ちリビングに戻る。
「これ、見てくれ」
 千夏にアルバムを手渡す。
「アルバム、ですか?」
「ああ」
 千夏の言葉に短く答える。
「これに何の意味があるんですか?」
「見れば分かる」
 意味が分からないという表情をしながら、千夏はアルバムの表紙を開く。
「――⁉」
 千夏はアルバムの中を見た瞬間言葉を失った。
 そのアルバムには三年前までの写真――鈴香の写っている写真が納まっている。
「だ、誰ですか、これ?」
 驚きの表情のまま、千夏は尋ねてくる。
 驚いて当然だ。写真の中には自分と瓜二つの姿をした人が写っているのだから。
「藤見鈴香、三年前まで俺の彼女だった人だ」
「だった?」
「3年前……今の千夏と同じ歳の時に亡くなった」
 千夏は再度言葉を失った。
「初めて千夏に声をかけられ姿を見た時思わず息を呑んだよ……死んだ人と同じ姿を持った人が目の前に現れたんだから。けどそれで千夏に興味を持ったのは事実だ」
「じゃあ、先輩は私に……」
 千夏はそこまで言うと言葉に詰まってしまう。
「興味を持ったのは確かだ。けどその日、一日過ごして実際に話してみて、この人は……千夏は鈴香と違うって事を知った。その上で、俺は千夏に惹かれた。最初は自覚は無かったけどな。けど、尾上に言われたんだ」
「尾上先輩が?」
「俺が千夏に惹かれてるって。言われた時、すごくあっさりと受け入れることが出来た。尾上には重ねてるだけなんじゃないかとも言われたけど、はっきりとそうじゃないと言える」
 そこで言葉を一端きり、真っ直ぐ千夏を見る。
「俺は千夏のことが好きだ。昔の恋人とかそんなのは関係ない。俺は目の前にいる長川千夏という人が好きで、それが俺が千夏に関わろうとする唯一つの理由だ」
 千夏の顔を見据えたまま俺の思いを伝える。
 自分の言葉にしてみて改めて実感した。俺は千夏の事が好きだ。今、世界で一番大切な人だと胸を張って言える。
 突然の事に千夏は理解が追いついていないようだったが、一つ一つゆっくり飲み込んでいき、全てを飲み込んだ頃には耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
 その様子を見てる自分の顔も、熱くなっていくのが分かった。
 二人の間に何ともいえない沈黙が流れる。
「……どうして私なんですか?」
「何でって言われても、好きになったもんはなぁ」
「だって私、とりえないですし、基本根暗ですし、苛めれてましたし、それに……」
「あーもう、そういうところも全部ひっくるめて、長川千夏という人が好きなんだよ」
「あぅ」
 俺の言葉に、千夏は再び顔を赤くして黙ってしまう。
「お、俺にばっか言わせてるけど、お前はどうなんだよ」
 気恥ずかしさからまくし立てる様にそんな事を言い、千夏から視線をはずす。
「わ、私は」
 突然の問いに千夏はどもってしまう。
「……先輩」
 沈黙を破った千夏の呼ぶ声に千夏の方に顔を向け、
「~~~っ⁉」
「ん……」
 そして、固まった。
 俺の目の前に千夏の顔があった。くっついてるのは口と口だけ。どちらかが離れようとすれば、すぐ離れてしまうそんな状態。
 でも、どちらからも離れようとはせず。
「ふぁ……」
「ああ……」
 結局、二人が離れたのは三十秒以上経ってからだった。
「……言葉で表しきれそうもなかったので、行動で示してみました」
 顔を赤くしながらも、千夏は微笑みながらそう言った。
「お前は本当に」
「きゃっ」
 あまりにそのしぐさが可愛くて、思いっきり千夏を抱きしめていた。
「せ、先輩、苦しいですよ」
「わ、悪い」
 あわてて腕を離そうとすると、千夏にその腕を止められた。
「抱かれているのは嫌じゃないです、ですから離さないで下さい」
「ああ」
 腕の力を少し緩め、何も言わず抱きしめ続けた。
「先輩」
「ん、どうした?」
 お互いに無言のまましばらく抱きしめていると、千夏の方から話かてくる。
「ひとつ、お願いがあります」
「ああ、何だ」
「私を先輩のものにして下さい」
「……え⁉」
 いきなりの千夏のお願いに一瞬思考が止まってしまた。
「それって、そういう意味か?」
 千夏は赤くなりながらこくんと頷く。
「……不安なんです」
「不安?」
「先輩の私を好きだと言う言葉、信じています。先輩のこと、信じています。信じているんです……けど、不安なんです。今まで、私を好きでいたくれた人たちはみんな、私から離れていってしまいました。先輩もいずれ離れていってしまうんじゃないかって。そんなこと無いのは分かってるんです、分かってるんですけど」
 そこで千夏は言葉を詰まらせた。
 長年の家族や周りの人たちとの関わりのうちに、自分の近くに人を近づかせないようにしていた千夏。その千夏に近づいた俺。不安に思うのもしょうがない、か。根本的な解決にはならないけど、それでも千夏の不安がそれで取り除けるんだったら。
「分かった」
「え?」
「俺は今から千夏を俺のものにする、それでいいんだよな」
「は、はい」
「けど、俺からも一つお願いいいかな」
「いい、ですけど?」
「俺を千夏のものにしてくれ。で、千夏が俺のこと嫌いになったらいつでも捨ててくれ」
「わ、私が先輩のこと嫌いになるわけ無いじゃないです」
 俺の言葉に驚きながら千夏はそんなこと言う。
「そうとしても、俺は互いに対等な関係でいたいんだ。だからこのお願いだけは引けないかな」
「……分かりました、先輩のことを私のものにします」
「うん、じゃあ俺は千夏のこと貰うよ」
「はい、貰ってください」
 この時の千夏はすごく穏やかな表情で微笑んでいた。


「先輩、先輩」
「なあ、もうその先輩って言うの止めないか」
「え、じゃあ」
 唇に指を当て千夏は考えるようなそぶりを見せる。
「和裕さん、でどうでしょう?」
「……恥ずかしいんだったら止めておけよ」
「そ、そう言うせん、和裕さんだって顔赤いですよ」
「う、うるさい」
 ベットの中で赤くなりながらそんなやり取りをする。お互いもっと恥ずかしいことやり合ってるのに、何なんだろこれ。
「和裕さんとの賭けに勝ったんですね」
「賭け?」
「初めて会った日に、賭けしたじゃないですか」

『私と先輩が彼氏彼女になったら私の勝ち、どちらかが亡くなるまで関係が変わらなかったら先輩の勝ちというのはどうですか。で、勝ったら負けた方に一つだけ何でも言う事を聞かせることが出来るといううことでどうでしょうか?』

「ああ、そんな事もあったな」
「何でも言う事聞いてくれるんですよね」
「出来る範囲でだったらな」
「じゃあ……私のそばにずっといてください」
「そんな事でいいのか?」
「そんな事じゃないですよ、私には一番大事なことです」
「分かった」
 千夏をそのまま抱き寄せる。
「もっと、強く」
「ああ」
 千夏の言葉のまま腕に込める力を強くする。
「あったかいです」
 そのまま俺たちはまどろみに落ちていった。

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