「グローブは薄くするもの」

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『ズッコケ三人組』の発祥地・広島へ。


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「ヒモ付き8オンスの頃のグローブは、それこそお好み焼きみたいに、ナックルパートをどんどん薄くしたんですけどねぇ」
 今岡兄弟の弟・賢覚さん(現・IBAジム会長)は、グローブに納得がいっていない。それも、かつてのマジックテープ導入からずっと――。
「マジックテープの頃から、薄くなるように引っ張れんくなったでしょ。今のグローブはふかふかしとって、拳の当て方も、かなりテキトーになってますね。僕にとってのボクシングは、ヒモ結びのグローブです」

しずちゃんの恩恵

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(円盤投げで活躍した石井。リーチは2メートルに届きそう)


 まだ初心者を脱したばかりにも関わらず、しずちゃんこと山崎静代(吉本クリエイティブエージェンシー)の貢献は、今のボクシングに欠かせないものがある。
 「ボクシングってオリンピックでもやっているんですか?」とも、ざらに聞かれる競技だ。そこへ、人気タレントのしずちゃんが参戦したのは、10年以上前から停まっていたアマチュアボクシングの一般的イメージを、一新させた上に、他のトップ選手にも、取材の声がかかるようになった。こうした恩恵から、しずちゃんは、「客寄せ」とも揶揄されるが、昨年の年間優秀選手賞でも、しずちゃんは、特にその貢献を称えられていない。もし、どこかで、実力以外を評価していたら、それこそ「客寄せ」として、世間に認知されたのかも知れない。ボクシング界と本人にとって、しずちゃんは、一人の選手でしかないままだ。

 2月8日から広島で、全日本女子選手権が開幕。ロンドン五輪予選を兼ねた世界選手権の代表選考会でもあるこの舞台に、ライバルとしてエントリーしたのが、元日本代表ライフセイバーの鈴木佐弥子(春風鍼灸治療院)と、陸上日本選手権で円盤投げ4位の石井智紋(福山平成大ボクシング部コーチ)。バックボーンがいいだけに前評判はいい。だが、実戦をする前のしずちゃんも、評価は高かった。それから挫折を経験する中で、しずちゃんが積んできたキャリアは、今回、大きなアドバンテージになりそうだ。

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(インドネシアでのスパー合宿)


 その注目度は、ボクシング史上稀にみる高さで、今大会の取材申請は、カメラだけで50台近いという。この舞台で、落ち着いた試合運びをできる新人はそういない。そこを利用して、正山照門がよく勧めていた「できそうでできない奇襲」だが、ゴングと同時に飛びかかって、そこから一歩引くような大胆な選手がいたら、技術を問わずに勝てる気がする。

 他の階級では、大会初日、作新学院での調整で51kgにベストコンディションを合わせた箕輪綾子(フローリスト蘭)が、ベテランの池原久美子(正起屋)を圧倒した。新本亜也(クリエイティブジャパン→IBA)との最終決戦も、実現すれば、こちらも玄人好みのスリルを生みそうだ。しかし、箕輪は、その前に空手出身の高校生、和田まどか(田奈高)も迎え撃たなければならない。しずちゃんを通じて、こうした逸材やドラマも、視界に入っているのが、ボクシング界にはありがたい。

成松大介、「憧れの選手を効かせたい」

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(五輪、キメます)


「ロマチェンコを参考にした第一号は、絶対に自分ですよ。今のルールになってからは、西岡利晃さんをイメージしてますけど」
 妙なところを得意げにした。ボクシングも話しぶりも、飛びぬけて器用ではないが、成松大介(東農大)は、繊細さと熱意を併せ持つ男だ。
「理想はパーネル・ウィテカみたいなボクシングなんですけど、ラウシー・ウォーレンってカッコいいなと思って。それからは、ずっと、ロマチェンコがお手本ですね。前に出られるサウスポーなんで」
 ロンドン五輪アジア予選の60kg級日本代表。大学リーグ戦では、右フック一発で相手を病院へ送り込むなど、「倒し屋」を印象づけさせてきた。だが数字上では、KO・RSC率が5割以下。見方を変えれば、成松は倒せなくても、安定感のあるテクニックで勝てるのである。
「ライト級に上げたほうが、調子はいいです。自分のパンチに重みを感じるようになりましたし、まだ、1回も負けてないですからね。バンタム級は層が厚いので、そっちのほうが嫌だったくらいです」
 60kg級では、昨年の世界選手権で、アジアの強豪が、一斉にロンドン五輪出場を決めた。49kg級と同様、枠が1つしか残っていないが、ジャブフラン・バリアディー(モンゴル)、チャーリー・サンチェス(フィリピン)以外に、実力者は、ほとんどいない。
 むしろ、読みづらいのは、成松のキャリアだろう。国際大会に出たのは、高校3年の台湾遠征のみ。この時は優勝したが、以降、国内でも時々、清水聡(自体校)や伏兵に敗れてきたため、成松は、高校生の井上尚弥(相模原青陵高)よりも未知数だ。
 それについて、本人は楽観的だった。
「ワクワクしますね。今の日本は、国際ルールに近いし、プロボクサーとのスパーにも慣れているんで、変に焦ることはないと思います。いきなり現れて、図々しく通過を決めたい」
 村田諒太(東洋大・職)は、今のルールに強いのは「前に出られるサウスポー」だと言う。それならこの成松も、「距離を取るサウスポー」の多い日本で、前に出るスタイルを磨いてきた。
「階級を上げてから、スタイルをかなり変えた。今度の予選では、自分のスタイルで、集大成を見せます」
 標的は、アジアの向こうにいる。本戦に出て、憧れのトップスター、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)を「効かせたい」と、はにかむようにして笑った。


(動画:成松が挙げたアメリカのウォーレンは07年世界王者。25才で、同国史上初となる3度目の五輪にチャレンジする)

ミャンマー・ラウェイを追って(4)前編・最終回

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(建築中のミャンマー・ボクシング連盟。屋内にはリングもあった)


 年季の入ったぽんこつタクシーで、郊外のボクシング連盟へ向かった。そこで対面した同連盟・秘書のネイ・ゾウ氏によれば、「タイでは、ムエタイからボクシングへ転向する選手も多いが、ミャンマーの場合、ボクシングからラウェイに転向する選手が多い」という。

 スコールがおさまるのを待って、念願のラウェイ練習場へ移動した。

 ラウェイにはバイオレンスなイメージもある。だが、その練習場は、あまりにのどかだった。雲が晴れるのを待っていたように、鳥のさえずりが聞こえてくる。サッカーやセパタクロー、バレーボールの合宿所もあるこの公共ジムは、ムエタイのジムのような活気もない。しかし、そこにいたファイターは4人共、現役のラウェイ王者だった。

 柵の上に座ったコーチが、微笑みながら言った。
「好きに観ていなさい」
 縄跳びの音がしばらく聞こえる。
 一人が、サンドバッグに頭突きを入れ始めた。すると、近所の子供たちがジムに近寄って、最後は真似まで始めた。現場にいたコーチの話では、ラウェイは、観戦だけではなく、参加競技としても、確固たる人気があるそうだ。

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 ミャンマー・ラウェイとは、心を鍛え抜き、悲壮の覚悟で立ち向かうものだ。そう決めこんでいたが、来日経験もある百戦錬磨のトゥエ・マ・シャウンに、「なぜ、ラウェイを続けるのか?」と聞くと、「趣味」と答えた。驚いて、他の選手たちにも確認をするが、答えが一致していた。

 国を問わず、格闘技は逆境によく根づく。ミャンマー・ラウェイも、貧しい上に、軍事政権と犬猿にあったカレン族のもとで育まれた文化である。ただ、あくまで“食うためのラウェイ”ではない。
 コーチは、苦笑いをして言った。
「ラウェイじゃ、大した金を稼げないのは、みんな分かっているからね」
 オープン戦なら、すずめの涙程度のファイトマネーしか出ない。ただ、大きな祭典でのファイトマネーは、チャンピオンで約2000万チャット(1チャット=0.1円)。挑戦者は500万チャットから1000万チャットと意外に高い。だが彼らには、本職が必ずあり、知性に富んだクリスチャン大学生たちの、趣味であることも少なくないという。

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(トップクラスのラウェイ戦士たち)


 戦いのモチベーションまで、アメリカのメジャー格闘技とは、反対側にあるのは意外だ。方や世界一の経済大国アメリカで、方やアジア最貧国を争うミャンマーである。日本へ持ってくれば、その過激さに着眼点が行ってしまうが、発祥国ミャンマーにおけるラウェイは、まるで、国民の精神的な豊かさを、垣間見せているような印象さえ持たされた。屈指のスター選手であるロン・チョーは、日本で試合をした際に、こう語ったことが記録に残っている。
「僕はミャンマーを愛している。ラウェイでも相手に敬意を払って、伝統を敬いながら続けていきたい」

 意気投合をしたコーチから、試合映像の入ったDVDをプレゼントされ、食事を共にしていると、ようやくラウェイ取材に、一つの達成感を覚えられた。

 それから日が沈みかける中、自分は街に点在した仏像を拝んで回った。発想が閉鎖的で、神仏に失礼な表現だが、どれもデザインがユニークだった。この国も、いずれは民主化を受け入れ、国際化社会に溶け込む日が来る。その際、世界の流れからズレきった感性を見つめ直し、ラウェイにも、きっと疑問を持つ。ネットの発達で、これほど情報が入りやすくなると、ラウェイのような神秘性を残すものは、むしろ貴重に思えてならないのだが……。

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(チンロンを楽しむミャンマー人たち)


 余談になってしまうが、ミャンマーからタイへ戻ると、ジャーナリストの大田周二氏が、廃盤になった唯一の著書『パゴダの国のサムライたち』を見せてくれた。ようやく出版にこぎつけたこの一冊には、ミャンマーと旧日本軍の友情が描かれている。
 東南アジアの騒乱を、30年間取材してきたベテラン記者は、ビジネスにならないことを承知で、最大の集中力をミャンマーへ注いだ。するとこの国には、ラウェイなどの文化や、天然記念物のほかに、旧日本軍の美談も、多く眠っていたそうだ。


(※この記事は『ファイト&ライフ』2011年2月23日号で掲載された「ミャンマーラウェイ〜知られざる癒しの素顔〜」に加筆しています)

ホルヘ・ソリスさん(32)



 精神的にもろそうで、意外と折れない。まるで、ストレスのたまった中堅サラリーマンのようなオーラを放つホルヘ・ソリス(メキシコ)に、妙に感情移入を誘われた。昨年、内山高志にKOされたシーンでは、思わず、ソリスにもらい泣きしていた内山ファンの友人もいた。口ひげをはやせば、きっと凛々しくなる。前WBA世界S・フェザー級暫定王者、改めソリス係長、ぜひまた日本に感動を。


ロマチェンコの「ルール的ピーク」は過ぎている


(辛口採点に最適なロマチェンコの潜り込み。ロマチェンコのヘッドスリップが、手のフェイントよりも効果を発揮した)

 北京五輪のシンデレラボーイ、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)の、潜り込み戦法を、参考にする選手は、日本でも少なくない。そんな「ロマチェンコっぽい選手」の一人、服部聖志(中大)に、もう少しガードを上げなければ、パンチを防ぎきれないのではと聞いたことがある。服部は、「これ以上あげると、ふいにボディにパンチが来るのが怖い」と答えた。今までは、有効打の基準が辛かったので、ボディへのパンチは軽視できていた。しかし、昨年からの新ルールでは、ポイントの基準がまた甘くなり、ボディブローは、得点になるようになった。

 これが、ロマチェンコの装甲も、もろくしていることは、フリーク(日本人の1000万人に1人の割合)には見逃せないはず。

 少し細かいが、スコアで比べれば明らかだ。

◎過去4年間のロマチェンコ戦

[2007年シカゴ大会]
※2分4ラウンド制。スコアは客席やセコンドには公開。選手に報告自由

1回戦:Theodoros Papazov(ギリシャ)→19対5
2回戦:Mikhail Bernadski(ベラルーシ)→21対6
準々決勝:Arturo Santos Reyes(メキシコ)→3回RSCO
準決勝:Li Yang(中国)→+13対13
決勝:Albert Selimov(ロシア)→11対16※負け

[2009年ミラノ大会]
※3分3ラウンド制。スコアは会場の大スクリーンで常時公開、有効打の基準は極端に辛い。

1回戦:Mario Aleksic(ボスニア)→16対2
2回戦:Craig Evans(ウェールズ)→15対1
準々決勝:Branimir Stankovic(セルビア)→8対2
準決勝:Oscar Valdez(メキシコ)→12対1
決勝:Sergey Vodopyanov(ロシア)→12対1

[2010年バクー大会]
※3分3ラウンド制。スコアはインターバル中に近似値を公開、有効打の基準は、まあまあ甘い。

1回戦:Lomalita Moala(トンガ)→1回RSC
2回戦:Jose Ramirez (アメリカ)→16対9
3回戦:Robson Conceicao(ブラジル)→19対18
準々決勝:Fazliddin Gaibnazarov(ウズベキスタン)→18対10
準決勝:Domenico Valentino(イタリア)→17対11
決勝:Yasnier Toledo Lopez(キューバ)→17対12

 おそらく、失点の少ないミラノ大会が、ロマチェンコのルール的なピークだった。だが、バクー大会では、3回戦で、疑惑の判定が巻き起こるなど、複数の選手に隙を見せている。

 一方で、再び無敵の安定感をものにし始めたのが、北京五輪で辛口採点に苦しんだゾウ・シミン(中国)だ。

◎過去4年間のゾウ・シミン戦

[シカゴ大会]
1回戦:Constantin Paraschiv(ルーマニア)→15対3
2回戦:David Ayrapetyan(ロシア)→23対6
準々決勝:Nordine Oubaali(フランス)→3回RSCO
準決勝:Paddy Barnes(アイルランド)→22対8
決勝:Harry Tanamor(フィリピン)→17対3

[北京五輪]
※ミラノ大会はお休み。
1回戦:Eduard Bermudez(ベネズエラ)→11対2
2回戦:Nordine Oubaali(フランス) →+3対3
準々決勝:Birzhan Zhakipov(カザフスタン)→9対4
準決勝:Paddy Barnes (アイルランド)→15対0
決勝:Purevdorj Serdamba(モンゴル)→2回ABI

[バクー大会]
1回戦:Juan Gabriel Medina(ドミニカ)→17対9
2回戦:Istvan Ungvari(ハンガリー)→12対2
3回戦:Mark Anthony Barriga(フィリピン)→12対5
準々決勝:Kaew Pongprayoon(タイ)→14対8
準決勝:David Ayrapetyan(ロシア)→15対8
決勝:Jong-Chun Shin(韓国)→20対11

 ゾウは、もっと高い得点も出せる。だが余計なパフォーマンスを嫌い、最低限の点数で、稼ぎ逃げするのが基本だ。

 「強いヤツは何をやっても強い」という言葉を今も聞く。理屈っぽい“ヘタレ”を一括するような教訓だが、実力の拮抗した試合では、そうもいかないときがある。特に、紙一重で多くが決まる国際大会では、ルールの研究は不可欠だ。
 自分の知る限り、何をやっても強い選手とは、ルールが変わっても、即座にスタイルを微調整できる選手だ。今後は、ネットの動画サイトを見て、想像力を高めることも、大事な練習かも知れない。


(いよいよ好戦的になった今のゾウ)
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