kawachi
(剣道スタイルの川内。懐に入ることが絶対条件だったのか?)

 「作戦を立てる」といえば、方法は様々だが、対戦相手の「対策を練る」には、大ざっぱに、セオリーに従う「表の手」と、セオリーを逆手に取った「裏の手(裏をかく)」で大別できる。
 「表の手」は、長身の懐へ入り込んだり、背の低い選手に距離ったり。最も適格だが、その分、相手もその対策を十分に練習していることが多い。

 だからこそ、「裏の手」も、奇襲として常に踏まえておきたい。
 北京五輪の48kg級代表候補、大久保賢児(元・早大)は、身長157センチの小柄な身体で、アウトボクシングをすることも少なくなかった。
 その理由について、大久保はこう語った。
「自分にファイターのイメージがあるから、下がったら、追いたくなるじゃないですか」
 しかし、それは大久保対策として、不十分なシチュエーションかも知れないのだ。
 大久保は、長距離戦もマメに練習していた。国際ルールはファイターに分が悪く、その克服に努めた結果、「小さな選手にもアウトボクシングはできる」と再確認したという。

 他の例でも考えてみたい。長距離ボクシングのスペシャリストとして、国内最強に君臨してきた川内将嗣(自体校)には、どんな対策をしたらいいか。
 多くの選手が距離を詰めに立ち向かっていったが、誰も捕まえることはできなかった。そんな川内に、「川内の攻略法」を聞いたことがある。
 川内は何も隠そうとはしなかった。
「日本人は手を出しながら入ってくる。海外の選手みたいに入るまで手を出さないほうがやりづらいですよ」
 自分の知る限りでも、服部聖志(中大)が実行したが、結局、距離を詰めたあとの抱え込みなども川内は巧みだったという。

 だから、川内にもうひとつ尋ねた。
――鈴木康弘には、下がられたほうが嫌か?
 川内は、少し間を置いてから答えた。
「まあ、確かにそうですね。嫌です」
 「嫌」かどうかよりも、答えを出すための間ができたことに可能性を感じた。ボクシングは、こんな予想外の瞬間に被弾が生まれる。しかも、長所を殺されたときの負のスパイラルは、たやすくは抜け出せまい。

 接近戦をしかけに前進しているときの川内は、距離を取っているときほどのスペシャリストではいられない。そうなると、川内には、玉砕覚悟で突撃していく「表の手」だけが、最適だったのかとなおさら考えさせられる。
 もうひとつ、別の例を加えると、成松大介(自体校)に、清水聡(自体校)の強さを聞いたときも、こんな答えが返ってきた。
「あんなに背が高い選手にどんどん前に来られると、どうしたらいいか分からなくなるんですよ。下がってくれたほうがまだいいです。しかも清水さんの場合、下がっているときも、細かいショートを打ってくる。これにも対応に困ります」
 ボクシングのセオリーに無頓着な清水は、感覚的に、「裏の手」をマスターしているのかも知れない。それなら逆に、「表の手」が定まっているかも分からない海外の選手には、それが通用しづらいことにも納得がいく。

okubo
(大久保氏の早大時代)