(「小柄じゃなければバスケットボール選手になりたかった」という07年世界選手権王者のウォーレン。須佐勝明に立ちはだかる壁としてはむしろ雄大か)

 その存在を忘れられているどころか、元々知らない人も増えてきた気もして、国際ボクシング協会(AIBA)の発足したワールド・シリーズ・オブ・ボクシング(WSB)を、久々に取り上げてみた。上の動画は、2010年11月に行われたロサンゼルス・マタドールズ(アメリカ)対アスタナ・アルアンズ(カザフスタン)のバンタム級(51kg級)戦。一見して分かるように、ほぼプロボクシング。だが、チーム制のリーグ戦シーズンがあるのと、動画に登場しているラウシー・ウォーレン(アメリカ=赤)のように、五輪出場権を剥奪されないのも特徴だ。それどころか、個人戦のチャンピオンには、五輪の出場権が与えられ、ロンドン五輪でも、出場を決めた第1号選手になった。

 プロスポーツビジネスに手を出し始めたAIBAの狙いには、既存のプロへ、看板選手が流出するのを抑える狙いもある。例えば、このウォーレンも、プロボクシング界から、数十万ドルの契約金交渉もあるという。アテネ五輪では、ボクシング競技の最年少出場者だったが、ロンドン五輪では25才で、アメリカ・チームの最年長になった。チームメイトたちは、国民から見放された五輪ボクシングに価値を見いだせず、早々にプロへ転向してしまった。追い込まれた同国アマチュアボクシング界は、WSBの開幕以前から、ウォーレンに高額な月給を用意して、同国史上初の3度目の五輪出場を説得させている。

 WSBは新鮮だけあって、学べる面が多い。いや、新しいが鮮度は感じづらいところがある。プロボクシングであっても、スリルを感じなければやはり地味だとか、ここまで微妙な盛り上がりでも、AIBAは安定した組織運営をできてしまうのかとか。日本のファンの間でも、そんな声が、少なからずある個人的には、ボクシング・エンターテイメントとは、やはり「合法バイオレンス」の美学ではないかと改めて思った。日頃に我慢した感情が、リングで体現されるのを観て、客も心を動かされる。ところがWSBからは、勝利への堅実さが感じられてしまう。感動のできないボクシングは、見ていて逆にしんどいこともある。

 ちなみに、ロサンゼルス・マタドールズからは、日本の村田諒太(東洋大・職)にもスカウトの声があったそうだ。川嶋勝重(大橋)、徳山昌守(金沢)と戦ったシドニー五輪代表、ホセ・ナバーロがコーチに加わっているなど、日本と無縁ではないが、村田は「日本でサラリーマンをしているのに、リーグ戦に出向けない」などの事情で断ったという。一方では「新しいことを開拓する人間になりたい」という心情もあったという。
 こんな気概を持つ日本人は、村田だけではない。失脚した仁川レッドウィングス(韓国)から、村田より先にオファーがあった川内将嗣(自体校)も、「自衛隊と日本連盟が許可したら断らない」と言っていた。進路に迷った世界トップクラスの選手は、安定したファイトマネーはもちろんだが、フロンティア精神としても、WSBに目を向けるのもいいのだろう。ただ、AIBAはすでに、別のプロボクシングも開設途中にあるので(APB=セリク・サピエフらが参戦表明)、WSBはいっそう、シュールなポジションに陥ることも踏まえたい。

mumbai
(インドのムンバイ・ファイターズのポスター)