連日連夜、メダルを獲得した清水&村田がテレビに出突っ張りだ。新聞やテレビ関係者の予想では、この五輪ムードは向こう2、3ヵ月間続くという。両者に来ている取材オファーは40近くで、選手たちの都合で選んでいるそうだ。
 そんな中、48年ぶりの金メダリストとなった村田諒太(東洋大・職)には、プロボクシング界から「1億円プラスアルファ」の契約金まで用意された。ボクシング界のみの注目なら10分の1でも破格。アマ関係者の視点から見れば、「この競技にようやく昇った太陽にまで手を出して、共栄共存があるのか」という思いも否めない。ただ、金額を提示した協栄ジムは、以前、プロボクサーを引き抜くことの多かったK-1とも共存していたので、スタンスに一貫性がある。そもそもプロボクシング関係者として、スカウトは本来の自然なラブコールだ。

 村田自身は、進路について「ゆっくり考えたい」と明言を避けた。今回が銀メダルなら、きっと来年の世界選手権をめざした。しかし、金メダルという完全制覇だからこそ、胸中は複雑かもしれない。

 オファーを出した「複数のジム」に聞いてみると、取材で誘導されたケースもあるようだ。元をただすと、これは夢物語だ。記事を成立するために「欲しいか、欲しくないかどちらか」と、二者択一を迫られれば「欲しい」。大抵はそう答えるが、これが記事になると、やがて正式なオファーに化けていく。そのジムの一つから、本音として「練習へ気軽に来てくれるほうがうれしい」という伝言をもらうこともあった。

 つきあい方が不器用なだけで、プロボクシング界は、アマを侵害してまでの発展を望んでいない。プロ・アマを乱暴につなげようとして、関係に亀裂を入れてきたのは、昔からマスコミだった。今回もたった4回、交流スパーを行っただけで「プロの力でメダルを獲れた」というのは、アマの指導者を軽視している。プロボクシング関係者は、そんな上から目線なことは言わないし、思ってもいない。野球やサッカーで見られるようなピラミッド構造にはめたいのは、マスコミの都合である。ただ、村田は長年、様々なプロジムでトレーニングを積んできたので、そういう意味で、プロの協力はあるが、報道では、その交流もなかったことになっているのだから、否定してほしい。

 こうしたアマチュア差別に、誰よりも噛みついてきたのが村田だった。嫌いな言葉を「アマチュア」と言い、その理由に「プロに負ける要素がないから」と答えた。プロボクサーを翻弄したスパーリングで「引けを取らない」などと報じられるのも好きではなかった。

 とはいえ、村田は本来、大学の職員であって、ナショナルチームとして、アマチュアボクシング界が抱えているステートアマではない。アマチュアボクシングで現在の生活を築いたのも確かだが、職業選択の自由は残っている。

 一方で、組織としては、プロ・アマの協調関係に、微調整が求められているのではないか。ほとぼりが冷めるまでは、公式的な関わりを中断し、非公式の交流のみ、認めてもいいのかも知れない。

 国外を見ると、高給でアマに確保されてきたラウシー・ウォーレン(アメリカ)は、五輪が閉幕する前にプロ転向を表明。31才のゾウ・シミン(中国)は「中国人初のプロ世界王者になるために、母を説得したい」と言っているが、ここでのプロが何を指すのか、外国メディアにしか答えていないので分かりにくい。驚くことに、ワシール・ロマチェンコ(ウクライナ)は、APB(AIBAプロボクシング)と契約し、リオデジャネイロ五輪をめざす姿勢を見せた。24才で五輪2階級制覇に成功したロマチェンコは、プロ転向が予想された選手だった。これを考えれば、WSBやAPBによる「選手のキープ」を、AIBAは成功させたといえる。五輪最優秀選手のセリク・サピエフ(カザフスタン)も、来年からAPBのリングに上がる。

 強国のキューバ勢では、18才のロベイシー・ラミレスが52kg級を制した。3連覇以上を狙える逸材だが、一方では、「前科百犯」といわれるトルコ系ドイツ人が、国からの報酬に不満を持つキューバン・エリートたちを多く引き抜いてきた。これが大きくなれば、アメリカのようにメダルを一つも獲れない国になる。誘いは間違いなく、ラミレスにも忍び寄っているだろう。日本でも億単位の金が天秤にかけられたように、世界のプロ・アマ関係が今、最もぎくしゃくしやすい時期にある。