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 10月5日から9日にかけ、愛媛県の松前公園体育館では第72回国民体育大会(愛顔つなぐえひめ国体)のボクシング競技が行われた。奈良県の今永虎雅(ライト級=王寺工業高)と荒本一成(同)は、高校3年間に8度ある全国大会をすべて制覇する快挙を達成。総合優勝は開催地の愛媛県が制した。
 国体には「ミニ国体」と呼ばれる各地区の予選があり、個人ではなく県全体の成績で本戦出場の都道府県が決まる。今夏はその予選期間が、世界選手権の開催期間とかぶったことで、2年連続で総合優勝していた奈良県は、馬場龍成(東洋大)と森坂嵐(東京農業大)を近畿予選で欠き、成年チームの出場を逃した。一方で少年チームでは今永と荒本がリード(?)のとおりの記録を史上初めて達成。両選手は「1年目のインターハイからあっという間だった」と見合うように振り返り、記録について今永は「目指したい気持ちの一方で、意識すると力んでしまうので考えないようにしていた。後半は何よりケガと戦った」と語り、荒本は「国際大会での活躍は常に狙ってきたが、国内の記録はあえて考えなか った」とそれぞれのモットーを語った。11月下旬には、両者のみならず、世界ユース選手権優勝の堤駿斗(習志野高)やジュニアとユースでアジア選手権を制した中垣龍汰朗(日章学園高)らの少年エリートも、全日本選手権で日本の頂点を競う。そのモチベーションには何より2020年東京五輪への意識があり、3分3ラウンド制やヘッドギアなしのルールにもそれぞれ十分に訓練して挑むようだ。
 国体以外の全国大会を何度も制しながら、国体にだけ優勝と縁のない藤田健児(自体校)は、かえって国体の名物のように注目されるのは望まぬところだろうが、今大会でも準決勝で木村蓮太朗(東洋大)に3回負傷ポイント負け。攻撃力の落ちた木村をしとめに行こうとしたところで、自身の頭部をカットしてしまったと悔やしそうにした。なお、兄弟での東京五輪出場を目指してきた兄の大和は、異種格闘技に転向し、予想以上の活躍で話題となっているが、今後については兄弟そろって「評価よりも結果をものにしたい」とそれぞれの道での再起を誓った。
 総合優勝争いは、最終日の前半まで埼玉県が優勢だったが、和田まどか(福井県体育協会)が並木月海(自体校)に公式戦初黒星を与えたことで、愛媛にチャンスが出た。そして、大会2連覇中だった林田翔太(和歌山県庁)を準決勝で攻略した嶋田亨(県競技力向上対策本部)が成年フライ級を制し、最後はミドル級でリオ五輪予選にも出場していた高橋諒(同)がしめた。
 地元優勝に誰よりも感無量だったのは、人目をはばからず号泣していた嶋田もさることながら、少年チーム監督の立場で県の強化に努めてきた松山工業高校の藤崎昭典顧問かもしれない。閉会後に同顧問は「他県から招いた嶋田と高橋の練習姿勢は、インターハイでも大きな結果を残せなかった少年の選手に刺激を与え、チームの計11人中8人が入賞の活躍につながった」と感謝した。なお、嶋田と高橋は「ベストな結果を出せたのが、選手生活にもいい終わらせ方になる」と引退を示唆した。
 来年の国体は福井県産業会館で、ボクシングの競技の開催を予定されており、すでに和田まどか(福井県体育協会)と但馬ミツロ(同)が福井県に移住。県全体のレベル向上にも貢献しているとのことだ。

【女子・成年フライ級】
 馬力で上回った自信から、和田の間合いを崩せすのを作戦にしていた並木は、これを成功するまでは至ったが、和田はこの合間にもカウンターや、離れるとすかさずコンビネーションを当て、一日の長を見せる。並木は右ボディを何度か当てたが、有利なはずの接近戦のもつれ際に、和田の巧さを発揮させる形となった。

【男子・少年ピン級】
 今年は選抜大会から好調だった片岡にとって高校王者・重岡銀次朗が不参加であるこの大会が全国優勝のラストチャンスだった。大きくアップライトに構え、迫ってきた相手のボディを突く独特なスタイルは、今大会でも健在だったが、田中の手数はそれを凌駕するほど豊富で、中盤から右ストレートや左フックが片岡の顔面をとらえる場面も増える。激しいペース争いは割れた判定で田中勝利となった。

【男子・少年ライトフライ級】
 オーソドックス同士の両者はよくかみあい、序盤から息が合うように近距離へ。そこでインターハイを制している川谷の左リードは見栄えがよく、ボディを軸に積極的に攻める墨田よりもアピール力で上回る。墨田も顔のクリーンヒットを増やしたかったが、川谷がそれをさせなかった。

【男子・少年フライ級】
 ジュニアとユースの両アジア選手権を制している中垣は、穴口が焦って手を出すまでプレスをかけ、カウンターを合わせる戦法を取る。2回からは左ストレートの的中率を上げると、穴口もクリンチも増やして防ごうとしたが、終盤に左ストレートでぐらつく場面もつくってしまい、現時点での格の違いを覆せなかった。

【男子・少年バンタム級】
 全国大会での決勝進出は初だった完山だが、技術力が高い上に、世界ユース王者の堤についても「ビッグネームだからこそ階級を変えずに意識してきた」と頼もしい。対する堤は得意の左リードで先手をとっていく普段の展開ではなく、完山の技巧に合わせては封じるボクシングを展開。体幹の強さが光る横綱相撲での勝利を収めた。

【男子・少年ライト級】
 今永のシャープなストレートを宮垣は臆することなくかいくぐっては、そのまま連打して記録阻止に意欲を見せる。気迫のあまり、宮垣のヘッドギアが飛んでしまう場面もある中、今永はその連打に逆に左を合わせて対応し、随所でフックを引っ掛けながら横へ回避していく。最終回は接近戦で、宮垣の気持ちに張り合う意地を見せた。

【男子・少年ライトウェルター級】
 宇佐美は中間距離でジャブを軸に組み立てようとしたり、スイッチを織り交ぜて距離感を狂わせようともするが、本間とは双方にとって接近戦がベストであり、試合の大半は体を接触させての攻防になる。本間はアッパーでブロックを崩した後にストレートを打ち込む場面などもつくるが、宇佐美は2回に会心の左フックを当て、トータルでも一枚上手であることを証明した。

【男子・少年ウェルター級】
 右のアッパーやストレートで切り崩してから左ストレートでカウントを奪うことの多い荒本だが、この試合では成富が粘り強く頭をつけてくる接近戦となった。荒本の前半はブロックして打ち返す対応。後半は自分から当ててクロスカウンター気味の左フックでカウントを奪う場面もつくった。

【男子・少年ミドル級】
 選抜ではKO、インターハイではRSCで決勝をクリアしてきた近藤に、川村は押し相撲状態も上等で攻めてくる難敵。近藤はある程度付き合い、フックやアッパーで勝負する展開。後半にやや疲れた近藤に、川村が連打するシーンもあったが、トータルでは近藤が終始優勢に立っていた。

【男子・成年ライトフライ級】
 全日本3連覇中に加え、今季は関東大学リーグ戦4年間全勝もはたした坪井が、激しく動き回ってポイントを奪う重岡と対戦。重岡にかく乱されることなく、王者は出だしはクレバーに抱え込んで封じこめ、次第に右ストレートをねじ込み始める。3回中盤にもつれぎわには、珍しく、重岡の熱くなる場面もあったが、最終回まで足を止めた打ち合いでも劣勢なく終わった。

【男子・成年フライ級】
 世代は離れているが高校時代に選抜大会を制している嶋田と北浦。立ちあがりは、嶋田が北浦のプレスに押された感もあったが、クロス気味の左カウンターを当てるなどしてアピール点をつくる。北浦もフェイントを駆使しながら有効打を奪って いったが、嶋田は地元の声援に背後から押されるように、カウンターを当てに、出てみせた。

【男子・成年バンタム級】
 エリートの中野と急成長した南出の同学年対決は、最初の見合った状況から左ストレートで勘をつかんだ中野から優勢に立つ。だが、中野は2回、3回にホールドで減点を1度ずつ受けてしまい、事実上の窮地に。やむなく足を止めた打ち合いに臨んだが、ここで会心の右フックで南出からカウントを奪い、きわどく勝利をつかんだ。

【男子・成年ライト級】
 全日本王者・木村の反対ブロックから勝ちあがったのは再来年の茨城国体に向けて同県に採用された金中。駒大OBの金中は岡山工業高校時代に、国体でも少年の部優勝の実績を誇る。ただ、 この決勝ではガードを下げた木村が自由に放つパンチに飲まれてしまう。ここから距離感も掌握した木村は、後半はややガードを上げて距離を詰める展開も制した。

【男子・成年ライトウェルター級】
 リオ五輪代表の成松大介が参戦してくる前に、秋山はまず国体を抑えて、リベンジを狙いたいところ。相手の岡澤は大きく離れた位置から打っては逃げるリズムが持ち味だが、秋山はこの距離感を狂わせ、岡澤の空回りが目立つ展開となる。試合後に「戦いづらかった」と苦笑いした秋山だが、先手でも後手でも左右のストレートをよく当てていた。

【男子・成年ウェルター級】
 去年の決勝と同じ顔合わせ。東洋大学卒業後、一般の自衛隊を経て体育学校に所属 した金城が昨年の上半期から急成長してきた浦嶋を相手に連覇をかけた。金城の周りを忙しく動きながら手を出す浦嶋に、金城の安定感に揺らぐ様子はなく、2回中盤には乱打戦の中で左ストレートを打ち抜いてカウントも奪った。

【男子・成年ミドル級】
 左のリードやボディブローを織り交ぜながら右ストレート中心に、高橋が攻撃を組み立るのに対し、昨年の高校3冠王である黒柳は、右クロスを終始狙う姿勢で高橋を安易につけ込ませない。それでも高橋は中盤に左フックで黒柳のバランスを崩したところを連打をかけるなど試合巧者ぶりを発揮した。黒柳も健闘したが、何よりミドル級としての身体的な完成度に大きな差があった。

【男子・成年ライトヘビー級】
 昨年優勝の高倉と全日本王者・友松の対決。右ファイターの友松が左ボクサー型の高倉の距離感を狂わすように頭を振って潜り込むが、距離が詰まればそれを巧くやり過ごす。その合間に、左ボディアッパーの当て勘をつかんだ高倉は、距離をようやくつかみ始めた友松からガス欠も誘い、最終回終盤には右フックを連続でヒットさせ、決定打のカウントも奪った。

(※この記事はボクシングマガジン2017年12月号に掲載されています)