1(写真:緊張の9分間の末に…)

 福井市内の福井産業会館で行なわれている第87回全国選手権で「最大の目玉」といわれてきた田中亮明(中京高校・教員※田中恒成の兄)対堤駿斗(習志野高校※世界ユース選手権優勝)が、25日、バンタム級・準決勝で実現し、“最強の高校教師対最強の高校生”は緊張ムードに満ちたなかでスタートとした。両者は立場や世代こそ違うが、選手活動のモチベーションは「2020年の東京五輪で金メダルを獲ること」で一致しており、目標を日本の先頭で追うためにも、この注目の一戦は重要となっていた。
 堤が同世代のライバルである松本圭佑(みなと総合高校)と戦う場合は、ハイテンポに左のリードブローを出して松本のリズムを崩してきたが、この試合は2分ではなく3分の3ラウンド。ヘッドギアもない。加えて田中にパンチに破滅力もあるため、むやみに手を出さない立ち上がりとなった。
 ここ1年、堤は国内外の大会で無敗を誇ってきた一方で、大学生とのスパーも熱心にこなしてきた。対する田中は勤務先の中京高校で、教壇に立っている以外に練習情報が少ない。この日本選手権の1回戦も、左ストレートをたった2発放って終わらせてしまうなど、堤よりも未知数を多く感じさせた。
 両者はかつて韓国・仁川での合宿でスパーを行い、その時は田中に分があったといわれている。堤本人もそれを認め、「(田中の)左ストレートには、一発で流れを引っ張る力強さがあった」と語っていたが、田中は「左ストレートを軸に戦うスタイルが確固たる軸」だと思ったようでもあった。だが今回の田中は、2回が始まったあたりから、左ストレートが警戒されていることを前提に、右フックを変化球として用いていく。高校生が成年の試合に出ると見せがちな「困惑」をこれまでに見せていなかった堤だが、さすがこれには面食らった様子だった。それを見て、田中は得意の左ストレートで勝負をかける。対策力とキャリアが活き始めた。
 しかし堤は、すぐに右フックへのディフェンス力も高め、自分も右ストレートを打ち込むようになる。このまま明確な優劣がつく前に最終回が終了。せめてあと2ラウンドは欲しいと思う添加で、28-29、29-28、29-28、27-30、28-29のスプリット判定で堤の手が上がった。
 勝った堤は「左ストレートを見きってから、リードを使って入りづらい雰囲気をつくるのを目指していた。でも(田中は)向き合うと威圧感がすごくて、入りづらい雰囲気を先につくっていた。ここで勇気を出すのが大変だった」と振り返った。
 もうひと組のバンタム級準決勝では、先月の国体で2連覇をはたした中野幹士(東京農業大学)が南出仁(駒澤大学)との打撃戦を制して勝ち残った。大会の「目玉」は田中対堤だったが、中野も優勝経験があっておかしくないハイセンスのエリートであり、トーナメントは最後まで、緊張感を漂わせそうだ。