2011年11月09日
2010年11月06日
多項式で平均値の定理
2010年03月29日
2010年度東大数学
久しぶりの記事になります。
更新を心待ちにしていた方がいらっしゃいましたら,大変申し訳ありませんでした。
さて,この記事では今年の東大数学について簡単なレビューをしたいと思います。
その前に,ここ数年の東大数学に関する私見を簡単にまとめておきます。
【理系】
・難易度については2002年度あたりが底であり,それ以降少し戻したが,その後2007年度までは大きな変化は見られなかった。
・しかし2008年度は,第1問の一次変換,第3問の正八面体の回転,第6問のパラメータ表示曲線の囲む面積など,難易度・計算量が増加した。
・昨年度(2009年度)はそれに更に拍車がかかった格好で,質・量ともに非常に重厚なセットだった。第1問の二項係数,第4問の体積の評価,第5問の不等式,第6問の正三角形の問題,など。
【文系】
・理系と同じく,2000年代前半の易化傾向からやや戻していたが,理系ほどの戻りはなかった。
・逆にここ2年(2008,2009年度)はかなり楽なセットで,上位の生徒にとっては差がつかなかった模様(逆にここで点数が伸び悩むと致命的)。
この流れでの2010年度東大数学ですから,
・理系の難化傾向が続くか(特に,2年連続で難しかった図形問題に注目)。
・文系の易化傾向が続くか。
をポイントとして見ていました。
では,2010年度の東大数学を,まずは各問別に見ていきます。
【理系第1問】(直方体を90°回転した立体の体積の範囲)
(1) 中学レベル。
(2) 一方でこの設問はなかなか良問だと思います。全く難しくはありませんが。「合否を分ける」レベルの一段階下,というところでしょう。
【理系第2問】(定積分の不等式の証明)
昨年度の理系第5問と似た問題ですが,それよりはかなり易しいでしょう。2007年度第6問も同じような問題です。
(1) 気付ば一瞬ですが,ちょっと経験が必要でしょう。ただ,どんな方法でも最後まで行き着くので,確実に取りたい問題です。
(2) これも気付けば一瞬,経験が必要な数IIIの問題。
【理系第3問/文系第3問】(確率の漸化式)
確率は,2003年度から8年連続の出題。近年は漸化式を使わない(使わないでもいい)問題が目立っていましたが,今年は漸化式。
ただ,漸化式を立てるのが(そしてその前に (1) に答えるのが)非常に厄介です。まずは状況の把握に手間取りますし,(1) の「 x に対してうまく y を選び,」という部分がきちんと理解できなかった受験生も多いでしょう。
(1) を使って漸化式を立てれば (2)(3)(文系は (2) のみ)は簡単なのですが,全体の難易度としてはかなり高い方です。
【理系第4問】(双曲線,面積)
私は,今年のセットではこの問題が最も簡単だと感じました。x/2 を移項して2乗すれば2次曲線であることはすぐに分かり,x→-∞,∞ を考えることにより漸近線が存在することが分かるので,双曲線だと分かります。(1)(2) ともに直角双曲線だと非常によくある話です。
そんなことを考えなくても,普通に計算していけば出ます。(2)では y で積分することが一応のポイントでしょうが,「(1) を利用する」,「y_1,y_2 で表せと書いてある」の2点を考えれば当然です。
【理系第5問/文系第4問】(単位円周上を動く3点が直角二等辺三角形をなす条件)
「直角二等辺三角形をなす」という条件を数式化できれば,あとはひたすら一つ一つ考えていくだけです。難しくはありませんが,意外と面倒です。ただ,逆に言うとそれだけの問題です。
【理系第6問】(四面体の断面積の最大値)
(1) サービス問題。
(2) これが今回のセットで最も難しい(面倒)でしょう(それでも昨年度の第6問(正三角形)に比べればマイルド)。
t=2/9 の前後で断面が変わることに気付くのは必須ですが,その理由の記述や,また t>=2/9 のときに台形になることの理由の記述などはバッサリ割愛すべきでしょう。答えを出すことが先決です。ただ,ほとんどの受験生にとってはここを取るのは至難の業だったと思います。
(3) は (2) が出来れば (1) 以上のサービス問題なのですが……。
【文系第1問】(2つの三角形の面積の和の最大値)
条件 (ii) に不備がありましたね。私が問題を受け取ったときにもそれを知らなかったので,状況が2つあって面倒だなぁと思っていました。
不備が修正されれば非常に易しい問題です。論理性も計算量もほとんど必要なく,絶対に落とせません。
【文系第2問】(定積分,係数決定)
第1問以上に簡単な問題です。近年の東大文系数学の特徴ですね。特に言うことはありません。
まとめると以下のようになります。
【理系】
・さすがに昨年度よりは難易度・計算量ともに落ち着いた。
・しかし,それでもここ数年の中では難しい方である。特に図形問題は今年も難しかった。
(・ただしその一方で,80年代,90年代と比較するとやはりそれほど難しいわけではない。)
【文系】
・微妙に難化したと言えなくもないが,ほぼ昨年並み。やはり上位層の間では差がつかず,点を落とすと致命的。
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更新を心待ちにしていた方がいらっしゃいましたら,大変申し訳ありませんでした。
さて,この記事では今年の東大数学について簡単なレビューをしたいと思います。
その前に,ここ数年の東大数学に関する私見を簡単にまとめておきます。
【理系】
・難易度については2002年度あたりが底であり,それ以降少し戻したが,その後2007年度までは大きな変化は見られなかった。
・しかし2008年度は,第1問の一次変換,第3問の正八面体の回転,第6問のパラメータ表示曲線の囲む面積など,難易度・計算量が増加した。
・昨年度(2009年度)はそれに更に拍車がかかった格好で,質・量ともに非常に重厚なセットだった。第1問の二項係数,第4問の体積の評価,第5問の不等式,第6問の正三角形の問題,など。
【文系】
・理系と同じく,2000年代前半の易化傾向からやや戻していたが,理系ほどの戻りはなかった。
・逆にここ2年(2008,2009年度)はかなり楽なセットで,上位の生徒にとっては差がつかなかった模様(逆にここで点数が伸び悩むと致命的)。
この流れでの2010年度東大数学ですから,
・理系の難化傾向が続くか(特に,2年連続で難しかった図形問題に注目)。
・文系の易化傾向が続くか。
をポイントとして見ていました。
では,2010年度の東大数学を,まずは各問別に見ていきます。
【理系第1問】(直方体を90°回転した立体の体積の範囲)
(1) 中学レベル。
(2) 一方でこの設問はなかなか良問だと思います。全く難しくはありませんが。「合否を分ける」レベルの一段階下,というところでしょう。
【理系第2問】(定積分の不等式の証明)
昨年度の理系第5問と似た問題ですが,それよりはかなり易しいでしょう。2007年度第6問も同じような問題です。
(1) 気付ば一瞬ですが,ちょっと経験が必要でしょう。ただ,どんな方法でも最後まで行き着くので,確実に取りたい問題です。
(2) これも気付けば一瞬,経験が必要な数IIIの問題。
【理系第3問/文系第3問】(確率の漸化式)
確率は,2003年度から8年連続の出題。近年は漸化式を使わない(使わないでもいい)問題が目立っていましたが,今年は漸化式。
ただ,漸化式を立てるのが(そしてその前に (1) に答えるのが)非常に厄介です。まずは状況の把握に手間取りますし,(1) の「 x に対してうまく y を選び,」という部分がきちんと理解できなかった受験生も多いでしょう。
(1) を使って漸化式を立てれば (2)(3)(文系は (2) のみ)は簡単なのですが,全体の難易度としてはかなり高い方です。
【理系第4問】(双曲線,面積)
私は,今年のセットではこの問題が最も簡単だと感じました。x/2 を移項して2乗すれば2次曲線であることはすぐに分かり,x→-∞,∞ を考えることにより漸近線が存在することが分かるので,双曲線だと分かります。(1)(2) ともに直角双曲線だと非常によくある話です。
そんなことを考えなくても,普通に計算していけば出ます。(2)では y で積分することが一応のポイントでしょうが,「(1) を利用する」,「y_1,y_2 で表せと書いてある」の2点を考えれば当然です。
【理系第5問/文系第4問】(単位円周上を動く3点が直角二等辺三角形をなす条件)
「直角二等辺三角形をなす」という条件を数式化できれば,あとはひたすら一つ一つ考えていくだけです。難しくはありませんが,意外と面倒です。ただ,逆に言うとそれだけの問題です。
【理系第6問】(四面体の断面積の最大値)
(1) サービス問題。
(2) これが今回のセットで最も難しい(面倒)でしょう(それでも昨年度の第6問(正三角形)に比べればマイルド)。
t=2/9 の前後で断面が変わることに気付くのは必須ですが,その理由の記述や,また t>=2/9 のときに台形になることの理由の記述などはバッサリ割愛すべきでしょう。答えを出すことが先決です。ただ,ほとんどの受験生にとってはここを取るのは至難の業だったと思います。
(3) は (2) が出来れば (1) 以上のサービス問題なのですが……。
【文系第1問】(2つの三角形の面積の和の最大値)
条件 (ii) に不備がありましたね。私が問題を受け取ったときにもそれを知らなかったので,状況が2つあって面倒だなぁと思っていました。
不備が修正されれば非常に易しい問題です。論理性も計算量もほとんど必要なく,絶対に落とせません。
【文系第2問】(定積分,係数決定)
第1問以上に簡単な問題です。近年の東大文系数学の特徴ですね。特に言うことはありません。
まとめると以下のようになります。
【理系】
・さすがに昨年度よりは難易度・計算量ともに落ち着いた。
・しかし,それでもここ数年の中では難しい方である。特に図形問題は今年も難しかった。
(・ただしその一方で,80年代,90年代と比較するとやはりそれほど難しいわけではない。)
【文系】
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2009年07月31日
周期関数の和は周期関数か(2)
2009年07月19日
周期関数の和は周期関数か(1)
鉄緑会の高校2年生の問題集に,以下の問題があります。

周期関数と言えば,真っ先に思いつくのは三角関数です。例えば,k を自然数として(その必要は全くありませんが),sin kx は周期関数になります。
a と b を自然数として,sin ax + sin bx を考えてみると,やはり周期関数になってしまうので,反例にはなりません。a と b の最大公約数を g として,周期は 2π/g になります。
簡単のために a と b が互いに素なときを考えると,y=sin ax のグラフは 2π の間に一周期分の“波”が a 個入っていて,y=sin bx は b 個入っています。従って,x=0 で同時にスタートした sin ax と sin bx は x= 2π で“ピタッ”と一致し,次のx=2π と x= 4π の間はまた同じことの繰り返しになるわけです。
そう考えると,この議論では a と b が整数であること,もっというと a と b との比が有理数であることが本質的に効いていることが分かるわけで,周期の比を無理数にしてしまえば和は周期関数にならないのではないか,という発想に至ります。
そこで,まず普通に思いつくのは sin x + sin√2x でしょう。上の議論を踏まえると周期関数にはならない気がするのですが,どうでしょう。周期関数だと仮定すると,周期を p とおいて
sin x+sin√2 x=sin (x+p)+sin√2 (x+p)
という式が任意の実数 x で成り立つことになるので,x に色々な値を代入して調べていきます。いわゆる「必要条件から絞る」というテクニックです。
ただ,色々な値と言っても,代入して意味のある式が出てくるような値はあまりありません。

とりあえず x=0 と x= -p を代入してみましたが,得られた条件は同じです。これでは何も導けません。
ここからどうするか,が腕の見せ所です。
x= -p を代入したとき,左辺は2項ともマイナスが出てきました(左辺が奇関数だから!)が,これがいけなかったのではないかと考えます。つまり,2つある sin のうち,片方を奇関数でない cos に変えてみるのです。そうすると,x= -p を代入したときの左辺は x=0 を代入したときの左辺のマイナス1倍にはならず,「ズレ」が生じます。このズレを足がかりにして矛盾が導けます。

これでめでたく最初の問題は解決しました。2つの周期関数の和は必ずしも周期関数にはならないのです。
しかし,これで満足してはいけません。sin x+sin√2 x が周期関数かどうかはまだ未解決なのです。
これについては,次回に。
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周期関数と言えば,真っ先に思いつくのは三角関数です。例えば,k を自然数として(その必要は全くありませんが),sin kx は周期関数になります。
a と b を自然数として,sin ax + sin bx を考えてみると,やはり周期関数になってしまうので,反例にはなりません。a と b の最大公約数を g として,周期は 2π/g になります。
簡単のために a と b が互いに素なときを考えると,y=sin ax のグラフは 2π の間に一周期分の“波”が a 個入っていて,y=sin bx は b 個入っています。従って,x=0 で同時にスタートした sin ax と sin bx は x= 2π で“ピタッ”と一致し,次のx=2π と x= 4π の間はまた同じことの繰り返しになるわけです。
そう考えると,この議論では a と b が整数であること,もっというと a と b との比が有理数であることが本質的に効いていることが分かるわけで,周期の比を無理数にしてしまえば和は周期関数にならないのではないか,という発想に至ります。
そこで,まず普通に思いつくのは sin x + sin√2x でしょう。上の議論を踏まえると周期関数にはならない気がするのですが,どうでしょう。周期関数だと仮定すると,周期を p とおいて
sin x+sin√2 x=sin (x+p)+sin√2 (x+p)
という式が任意の実数 x で成り立つことになるので,x に色々な値を代入して調べていきます。いわゆる「必要条件から絞る」というテクニックです。
ただ,色々な値と言っても,代入して意味のある式が出てくるような値はあまりありません。

とりあえず x=0 と x= -p を代入してみましたが,得られた条件は同じです。これでは何も導けません。
ここからどうするか,が腕の見せ所です。
x= -p を代入したとき,左辺は2項ともマイナスが出てきました(左辺が奇関数だから!)が,これがいけなかったのではないかと考えます。つまり,2つある sin のうち,片方を奇関数でない cos に変えてみるのです。そうすると,x= -p を代入したときの左辺は x=0 を代入したときの左辺のマイナス1倍にはならず,「ズレ」が生じます。このズレを足がかりにして矛盾が導けます。

これでめでたく最初の問題は解決しました。2つの周期関数の和は必ずしも周期関数にはならないのです。
しかし,これで満足してはいけません。sin x+sin√2 x が周期関数かどうかはまだ未解決なのです。
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2009年07月12日
tan1°は有理数か/cos1°は有理数か/sin1°は有理数か
アクセス履歴を見ると,検索エンジンから「tan1°は有理数か」「cos1°は有理数か」「sin1°は有理数か」といった検索ワードでこのブログにたどり着く方が多いようです。
確かに,このブログでは,これらの問題(およびその一般化)について,あしかけ3年間にわたって,色々と論じてきました。
しかし,何回にも分けてこの問題を論じた結果,情報が分散してしまっており,検索エンジンからたどり着いた人が目的の記事を見つけるのが難しくなってしまっていました。
そこで,今日はこの問題について,このブログでこれまでに述べてきた知見をまとめておく(+αあり)ことにします。
問題1:tan1°は有理数か。
まず,話の発端は次の問題です。

この問題は,実際の入試での正答率は極めて低かったようですが,からくりが分かってしまえば簡単です(コロンブスの卵かもしれませんが)。tan1°が有理数であると仮定して,tanの加法定理を繰り返し使うと,tan30°=1/√3 が有理数であることになり矛盾します。ゆえに,tan1°は無理数であると分かります。
問題2:cos1°は有理数か。
次に,tanをcosに変更してみましょう。tanと異なり,cosの加法定理は,cosとsinが混じってきてしまい,tanの場合と全く同様,とはいきません。しかし,cosには「n倍角公式」があります。cosのn倍角公式はcosだけの多項式で書けます。これを(第1種)チェビシェフ多項式といいます。

一般に「cosのn倍角公式はcosだけの多項式で書ける」ということは,

という関係式(和積公式です)を用いれば,数学的帰納法(n=k,k+1を仮定してn=k+2を示すタイプ)によって容易に証明されます。
さて,これを使うと,cos1°が無理数であることが直ちに証明されます。実際,cos1°が有理数であると仮定すると,「cosの30倍角の公式」を使うことにより,cos30°=√3/2 が有理数であることになって矛盾します。
問題3:sin1°は有理数か。
次に,「sin1°は有理数か」という問題については,cosの問題に帰着させるのが簡単です。
まず,sin1°=cos89° です(余角公式)ので,sin1°が有理数であると仮定すると,cos89°が有理数ということになります。
次に,上で導いた「cosの30倍角の公式」を使うと,
cos (30×89°) = cos 2670°
も有理数になることになります。
しかし,
cos 2670° = cos(360×7+150)° = cos150° = -√3/2
は無理数ですので,矛盾します。よって,sin1°が無理数であることが導かれました。
なお,ここでは sin1° が無理数であることを,cos の話に帰着させて証明しましたが,少し工夫すれば(「1つ飛ばしの三項間漸化式」を考えることにより) sin だけで証明することもできます。詳しくは3年前の記事「sin 1°は有理数か。」を参照してください。
以上は,3年前の記事「sin 1°は有理数か。」で述べた内容です。
問題4:他の角度のときはどうか?
以上で,表題に挙げた「tan1°は有理数か」「cos1°は有理数か」「sin1°は有理数か」の3つの問題は解決しました。すると,次に疑問として浮かぶのは,
結論を先に述べると,以下の結果が成り立ちます。

この結果を証明するには,チェビシェフ多項式の性質についての少々踏み込んだ議論が必要です。
(1)と(2)の証明は2年前の記事「チェビシェフ多項式4」に,(3)の証明は去年の記事「チェビシェフ多項式7」に掲載されています。
問題5:角度が (代数的数)° のときはどうか?
ここまで,元の京大の問題「tan1°は有理数か?」を,
有理数というのは,2つの整数 p,q によって x=q/p (p≠0) と書ける実数のことでした。これは,移項してやれば,「整数係数の1次方程式 px-q=0 の解として表される実数」と言い換えることができます。
これを1次方程式ではなくより高次の方程式まで一般化した,「整数係数の多項式=0 という方程式の解として表される実数」のことを,「代数的数」といいます。
さて,「問題4」の結論は,角度が代数的数の場合にも一般化されます。

ただし,この定理の証明は,ゲルフォント・シュナイダーの定理という非常に高度な定理を用いますので,ここでは紹介できません。詳しくは塩川宇賢著「無理数と超越数」などを参照してください。
問題6:角度がラジアン単位のときはどうか?
ここまで,角度の単位は全て度数法で考えてきました。次は,弧度法つまりラジアン単位で考えていきましょう。
最初に浮かぶのは,次の疑問です。
これについては,以下の定理が成り立ちます。

これより特に,先ほどの cos1,sin1,tan1 は全て無理数であることが分かります。
ちなみに,この定理はさらに次のように一般化されます。

超越数というのは,代数的数でない数のことで,イメージとしては「無理数の中でも特に手強い無理数」という感じです。例えば,√2は2乗すれば有理数になるので,比較的「有理数に近い」無理数と言えます。それに対し,円周率πや自然対数の底eは超越数であることが知られています。つまり,いかなる整数係数の多項式に代入しても0になることがない,「手強い無理数」なのです。
なお,この定理の証明にも,リンデマン・ワイヤストラスの定理という非常に高度な定理を使いますので,ここでは紹介できません。詳しくは塩川宇賢著「無理数と超越数」などを参照してください。
まとめると……
度数法の場合の結果と,弧度法の場合の結果をまとめると,次のような結論が言えます。

ただし,ここでいう「有名角」とは,30°,45°の倍数の角度を指します。
なお,実はこの結論は「無理数」よりももっと強く「超越数」と言えます。
問題7:三角関数ではなく双曲線関数の場合はどうか?
次の式で定義される関数 cosh,sinh,tanh は,「双曲線関数」と呼ばれ,三角関数と非常によく似た性質を示します。

双曲線関数についても,「tanh1° は有理数か」のような問題を考えてみたくなります。
双曲線関数にはは,三角関数の場合の有名角のようなものがなく,「明らかに有理数になる角」が(自明な角θ=0を除いて)見つかりません。実は,分かりやすい角度でそのような角度はない,ということを示すのが次の定理です。

実は,この定理の結論も,「無理数」よりもより強く「超越数」と書き換えられます。
双曲線関数の場合についても,証明にはゲルフォント・シュナイダーの定理,リンデマン・ワイヤストラスの定理といった非常に高度な定理を使います。詳しくは塩川宇賢著「無理数と超越数」などを参照してください。
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確かに,このブログでは,これらの問題(およびその一般化)について,あしかけ3年間にわたって,色々と論じてきました。
しかし,何回にも分けてこの問題を論じた結果,情報が分散してしまっており,検索エンジンからたどり着いた人が目的の記事を見つけるのが難しくなってしまっていました。
そこで,今日はこの問題について,このブログでこれまでに述べてきた知見をまとめておく(+αあり)ことにします。
問題1:tan1°は有理数か。
まず,話の発端は次の問題です。

この問題は,実際の入試での正答率は極めて低かったようですが,からくりが分かってしまえば簡単です(コロンブスの卵かもしれませんが)。tan1°が有理数であると仮定して,tanの加法定理を繰り返し使うと,tan30°=1/√3 が有理数であることになり矛盾します。ゆえに,tan1°は無理数であると分かります。
問題2:cos1°は有理数か。
次に,tanをcosに変更してみましょう。tanと異なり,cosの加法定理は,cosとsinが混じってきてしまい,tanの場合と全く同様,とはいきません。しかし,cosには「n倍角公式」があります。cosのn倍角公式はcosだけの多項式で書けます。これを(第1種)チェビシェフ多項式といいます。

一般に「cosのn倍角公式はcosだけの多項式で書ける」ということは,
という関係式(和積公式です)を用いれば,数学的帰納法(n=k,k+1を仮定してn=k+2を示すタイプ)によって容易に証明されます。
さて,これを使うと,cos1°が無理数であることが直ちに証明されます。実際,cos1°が有理数であると仮定すると,「cosの30倍角の公式」を使うことにより,cos30°=√3/2 が有理数であることになって矛盾します。
問題3:sin1°は有理数か。
次に,「sin1°は有理数か」という問題については,cosの問題に帰着させるのが簡単です。
まず,sin1°=cos89° です(余角公式)ので,sin1°が有理数であると仮定すると,cos89°が有理数ということになります。
次に,上で導いた「cosの30倍角の公式」を使うと,
cos (30×89°) = cos 2670°
も有理数になることになります。
しかし,
cos 2670° = cos(360×7+150)° = cos150° = -√3/2
は無理数ですので,矛盾します。よって,sin1°が無理数であることが導かれました。
なお,ここでは sin1° が無理数であることを,cos の話に帰着させて証明しましたが,少し工夫すれば(「1つ飛ばしの三項間漸化式」を考えることにより) sin だけで証明することもできます。詳しくは3年前の記事「sin 1°は有理数か。」を参照してください。
以上は,3年前の記事「sin 1°は有理数か。」で述べた内容です。
問題4:他の角度のときはどうか?
以上で,表題に挙げた「tan1°は有理数か」「cos1°は有理数か」「sin1°は有理数か」の3つの問題は解決しました。すると,次に疑問として浮かぶのは,
- tan7°は有理数か?
- cos55°は有理数か?
- sin79°は有理数か?
- cos(有理数)° はいつ有理数になるか?
- sin(有理数)° はいつ有理数になるか?
- tan(有理数)° はいつ有理数になるか?
結論を先に述べると,以下の結果が成り立ちます。

この結果を証明するには,チェビシェフ多項式の性質についての少々踏み込んだ議論が必要です。
(1)と(2)の証明は2年前の記事「チェビシェフ多項式4」に,(3)の証明は去年の記事「チェビシェフ多項式7」に掲載されています。
問題5:角度が (代数的数)° のときはどうか?
ここまで,元の京大の問題「tan1°は有理数か?」を,
- cos,sin に拡張し,
- 他の角度(整数角に限らず,有理数角まで)に一般化
有理数というのは,2つの整数 p,q によって x=q/p (p≠0) と書ける実数のことでした。これは,移項してやれば,「整数係数の1次方程式 px-q=0 の解として表される実数」と言い換えることができます。
これを1次方程式ではなくより高次の方程式まで一般化した,「整数係数の多項式=0 という方程式の解として表される実数」のことを,「代数的数」といいます。
さて,「問題4」の結論は,角度が代数的数の場合にも一般化されます。

ただし,この定理の証明は,ゲルフォント・シュナイダーの定理という非常に高度な定理を用いますので,ここでは紹介できません。詳しくは塩川宇賢著「無理数と超越数」などを参照してください。
問題6:角度がラジアン単位のときはどうか?
ここまで,角度の単位は全て度数法で考えてきました。次は,弧度法つまりラジアン単位で考えていきましょう。
最初に浮かぶのは,次の疑問です。
- cos1 は有理数か?
- sin1 は有理数か?
- tan1 は有理数か?
これについては,以下の定理が成り立ちます。

これより特に,先ほどの cos1,sin1,tan1 は全て無理数であることが分かります。
ちなみに,この定理はさらに次のように一般化されます。

超越数というのは,代数的数でない数のことで,イメージとしては「無理数の中でも特に手強い無理数」という感じです。例えば,√2は2乗すれば有理数になるので,比較的「有理数に近い」無理数と言えます。それに対し,円周率πや自然対数の底eは超越数であることが知られています。つまり,いかなる整数係数の多項式に代入しても0になることがない,「手強い無理数」なのです。
なお,この定理の証明にも,リンデマン・ワイヤストラスの定理という非常に高度な定理を使いますので,ここでは紹介できません。詳しくは塩川宇賢著「無理数と超越数」などを参照してください。
まとめると……
度数法の場合の結果と,弧度法の場合の結果をまとめると,次のような結論が言えます。

ただし,ここでいう「有名角」とは,30°,45°の倍数の角度を指します。
なお,実はこの結論は「無理数」よりももっと強く「超越数」と言えます。
問題7:三角関数ではなく双曲線関数の場合はどうか?
次の式で定義される関数 cosh,sinh,tanh は,「双曲線関数」と呼ばれ,三角関数と非常によく似た性質を示します。

双曲線関数についても,「tanh1° は有理数か」のような問題を考えてみたくなります。
双曲線関数にはは,三角関数の場合の有名角のようなものがなく,「明らかに有理数になる角」が(自明な角θ=0を除いて)見つかりません。実は,分かりやすい角度でそのような角度はない,ということを示すのが次の定理です。

実は,この定理の結論も,「無理数」よりもより強く「超越数」と書き換えられます。
双曲線関数の場合についても,証明にはゲルフォント・シュナイダーの定理,リンデマン・ワイヤストラスの定理といった非常に高度な定理を使います。詳しくは塩川宇賢著「無理数と超越数」などを参照してください。
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2009年07月05日
いろいろな別解 (9)
長らく次の問題を考えてきました。今回はこの問題についての最終回です。

方法10:累乗平均不等式と相加相乗平均の合わせ技
今回の方法10は,前回紹介した累乗平均不等式を使います。改めて書いておきましょう。

今回の方法10では,まず (1+1/x^2)(1+1/y^2) を展開した上で,一部に累乗平均不等式,一部に相加相乗平均を使って評価していきます。

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方法10:累乗平均不等式と相加相乗平均の合わせ技
今回の方法10は,前回紹介した累乗平均不等式を使います。改めて書いておきましょう。

今回の方法10では,まず (1+1/x^2)(1+1/y^2) を展開した上で,一部に累乗平均不等式,一部に相加相乗平均を使って評価していきます。

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2009年06月28日
いろいろな別解 (8)
今回も,前回に引き続き,次の問題を考えます。

前回,「方法7」において,
という不等式を示すことで,あとは相加相乗平均を使うことに帰着される,ということを見ました。
「方法7」においては不等式(1)を代数的に示しましたが,今回は,他の有名不等式を用いて不等式(1)を導いてみます。
方法8:ヘルダーの不等式を用いる方法
以前の記事「いろいろな別解 (3)」において,ヘルダーの不等式(の特別な場合)を導きました。改めて書いておきましょう。

これを使うと,不等式(1)が自然な形で導けます。

これ以降の証明方法は,前回の「方法7」と同じですから省略します。
方法9:累乗平均不等式を用いる方法
以前の記事「いろいろな別解 (3)」において,累乗平均不等式を紹介しました。改めて書いておきましょう。

これを使うと,不等式(1)が自然な形で導けます。

このようにして,不等式(1)が導けました。
次回は,累乗平均不等式を用いるものの,方法9とは根本的に異なる解法を紹介します。
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前回,「方法7」において,
という不等式を示すことで,あとは相加相乗平均を使うことに帰着される,ということを見ました。
「方法7」においては不等式(1)を代数的に示しましたが,今回は,他の有名不等式を用いて不等式(1)を導いてみます。
方法8:ヘルダーの不等式を用いる方法
以前の記事「いろいろな別解 (3)」において,ヘルダーの不等式(の特別な場合)を導きました。改めて書いておきましょう。

これを使うと,不等式(1)が自然な形で導けます。

これ以降の証明方法は,前回の「方法7」と同じですから省略します。
方法9:累乗平均不等式を用いる方法
以前の記事「いろいろな別解 (3)」において,累乗平均不等式を紹介しました。改めて書いておきましょう。

これを使うと,不等式(1)が自然な形で導けます。

このようにして,不等式(1)が導けました。
次回は,累乗平均不等式を用いるものの,方法9とは根本的に異なる解法を紹介します。
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![前回の記事では,$f(x)=\sin x+\sin\sqrt2\,x$が周期関数であるかどうかが未解決でした。$\cos x+\sin\sqrt2\,x$の場合と違って,$x=0$と$x=-p$を代入してもすぐには分からないのですが,$x=0,\,\bun{\pi}2,\,-p+\bun{\pi}2$を代入すればわかります。$f(x)=\sin x+\sin\sqrt2\,x$が周期$p\ (>0)$の周期関数であると仮定すると,任意の実数$x$について\[\sin x+\sin\sqrt2\,x=\sin(x+p)+\sin\sqrt2(x+p)\text{ ……\ajMaru{1}}\]が成り立ちます。\ajMaru{1}に$x=0,\,\bun{\pi}2,\,-p+\bun{\pi}2$を代入して\begin{align*}&0=\sin p+\sin\sqrt2\,p\text{ ……\ajMaru{2}}\\&1+\sin\left(\sqrt2\cdot\bun{\pi}2\right)=\cos p+\sin\sqrt2\left(\bun{\pi}2+p\right)\text{ ……\ajMaru{3}}\\&\mathopen{}\cos p+\sin\sqrt2\left(-p+\bun{\pi}2\right)=1+\sin\left(\sqrt2\cdot\bun{\pi}2\right)\text{ ……\ajMaru{4}}\end{align*}\ajMaru{3}\ajMaru{4}を比べて\begin{align*}&\mathopen{}\sin\sqrt2\left(\bun{\pi}2+p\right)=\sin\sqrt2\left(-p+\bun{\pi}2\right)\\\LLeftrightarrow{}&\mathopen{}\sin\sqrt2\left(\bun{\pi}2+p\right)-\sin\sqrt2\left(-p+\bun{\pi}2\right)=0\\\LLeftrightarrow{}&2\cos\left(\sqrt2\cdot\bun{\pi}2\right)\sin\sqrt2\,p=0\\\LLeftrightarrow{}&\sin\sqrt2\,p=0\ \left(\because\cos\left(\sqrt2\cdot\bun{\pi}2\right)\ne0\right)\text{ ……\ajMaru{5}}\\\LLeftrightarrow{}&\sqrt2\,p=n\pi\ \left(n\in\Z\right)\\\LLeftrightarrow{}&p=\bun{n\pi}{\sqrt2}\text{ ……\ajMaru{6}}\end{align*}\ajMaru{5}を\ajMaru{2}に代入して\[\sin p=0\Leftrightarrow p=m\pi\ \left(m\in\Z\right)\text{ ……\ajMaru{7}}\]\ajMaru{6}\ajMaru{7}より\[\bun{n\pi}{\sqrt2}=m\pi\Leftrightarrow n=\sqrt2\,m \]$n,\,m\in\Z$と$\sqrt2\not\in\Z$から,これをみたす$n,\,m$は$n=m=0$に限りますが,このとき$p=0$となるので不適です。従って,$f(x)=\sin x+\sin\sqrt2\,x$は周期関数でないことが示されました。\br2以上は文理共通用の答案ですが,三角関数の微分を使っていいのであればもっと簡単に解決します。\ajMaru{1}までは同じです。\ajMaru{1}は任意の実数$x$で成り立つので,両辺2回微分しても成立します。$(\sin x)''=-\sin x$なので,\begin{align*}&\mathopen{}-\sin x-2\sin\sqrt2\,x=-\sin(x+p)-2\sin\sqrt2(x+p)\\\LLeftrightarrow{}&\mathopen{}\sin x+2\sin\sqrt2\,x=\sin(x+p)+2\sin\sqrt2(x+p)\text{ ……\ajMaru{8}}\end{align*}\ajMaru{1}と\ajMaru{8}とを比べて,\[\sin\sqrt2\,x=\sin\sqrt2(x+p),\quad\sin x=\sin(x+p)\]が任意の実数$x$で成り立つことになります。あとは移項して和→積の公式を使う,もしくは$\sin $の周期が$2\pi$であることを使うなどして矛盾が導けます。](http://livedoor.blogimg.jp/seven_triton/imgs/0/5/05b0b2d4.png)