夜のプレイリスト ホウム・ペイジ
 
Herbie Mann 「Glory Of Love」 (1968)
Glory of Love
 
Side One
1. “No Use Crying”
2. “Hold On, I'm Coming (ホールド・オン)”
3. “Glory Of Love”
4. “Unchain My Heart”
5. “House Of The Rising Sun (朝日のあたる家)”
6. “The Letter (あの娘のレター)”
 
Side Two
1. “Upa, Neguinho”
2. “Love Is Stronger Far Than We (愛は私たちより強し)”
3. “Oh, How I Want To Love You (想いこがれて)”
4. “In And Out”

こんばんは。写真家のハービー山口です。わたくしは写真家なので、今日もスタジオにカメラをもってまいりました。さて、今日の夜のプレイリスト、今回はわたくしがこれまで聴いてきた大切なアルバムをご紹介いたします。今夜ご紹介するのはHerbie Mannの「Glory Of Love」というアルバムです。

ぼくの名前はハービー山口という写真家として活動してるんですが、わたくしのハービーという名前はこのHeribie Mannからいただいたものなんですね。ですのでぼくの人生の大半をこのHerbie Mannの曲が占めるわけです。

本物のHerbie Mannは1930年にニュー・ヨークのブルックリンで生まれたフルート奏者なんですね。ジャズでフルートというとテナー・サックス、アルト・サックスがメインで、たまにフツートにもち替えるというプレーヤーがほとんどなんですね。

Herbie Mannはジャズのミュージシャンになった時に「じゃあサックスもやろうか」という感じだったらしいんですが、「でも自分より美味い人はたくさんいる。サキソフォーンでは勝てない。それではフルートっていうのがユニークだからフルートの専門家になろう」って決心してフルートだけに特化した、そんなミュージシャンです。

この「Glory OfLove」は1967年に録音されたジャズ・フルートの傑作です。先ほども申し上げました通りにぼくの名前がハービーなんですが、写真家がなんでミュージシャンの名前をかたるかというと、写真家になる前にぼくの夢はミュージシャンになることだったんですね。

今振り返りますと、わたくしが小学校の4年とか5年、当時の、今でいうJRの大森駅、そこが実家なんですけども、そこの駅前で近くの高校か中学のブラス・バンドがマーチング・バンドで歩きながら演奏していたんですね。

その時の行進曲が子ども心にぼくに勇気を与えてくれまして、「音楽がこんなにぼくの心を高揚させるのか」って、すごくびっくりした音楽との出会いがありました。

当時ぼくは生まれて2ヵ月でカリエスという病気にかかって、コルセットをはめて生活していて、体育の授業を一切できない。クラスの隅にジッと、隠れるようにしている消極的な少年だったんですね。夢も希望のなくて、「今日1日いじめに遭わないで無事に暮らせるのかな」というような不安ばかしが少年の心の中にありました。

そんな1日にブラス・バンドを体験して、ぼくの心がすごく晴れやかになって、「ぼくもミュージシャンとしてひとに勇気を与える音楽をいつかプレイしてみたいな」。そう思ったのがぼくと音楽との出会いでした。

中学1年になってブラス・バンドに入り、なにかいちばん銀色に輝いてスマートで優しかったのがフルート。それで担当楽器をフルートにしたんですね。

そして、この優しい音、透明な音っていうんですかね、フルートから奏でられる濁りのない音にぼくの心はフルートの音色と同じようにピュアになっていく、そんなことを感じながらの中学1年生のブラス・バンドでした。

しかし、まだコルセットを着けたり外したりしたりで、早朝練習とか、だんだんだんだん肉体的に辛くなってきまして、ついには辞めてしまうんですね。

この夢を失ったぼくあhどうなったかっていうと、3ヵ月の引きこもりになりまして、ほとんど中学1年生の時に学校行かなかった。2年生に奇跡的になれて、そこで写真部に入る。そしてカメラに出会うんですが、それから「写真のほうがぼくに向いてるのかな。写真だったら自分の体調のいい時に写真を撮ればいいのかな」と。

でも、ぼくのテーマっていうのは音楽でも写真でも、「人の心をピュアに、そして人の心を明るくポジティブに、人間が人間を好きになるような、そんな写真を撮りたい」。そんなことを中学生の時に思ってました。

それでは早速ですけど、Heribie Mannのアルバム「Glory Of Love」からお贈りします。
“No Use Crying”、
“Hold On, I'm Coming”、
“Glory Of Love”、
“Unchain My Heart”、
“朝日のあたる家”。
続けてお聴き下さい。

“No Use Crying”

ハービー山口がお贈りしています。NHK-FM夜のプレイリスト。今日はHerbie Mannのアルバム「Glory Of Love」を紹介しております。

さて、これを改めて聴きますと、はたちの時に出会ったこのアルバムですけども、もう40年前になるんですか、あの時の青春がよみがえってくるような楽曲の数々ですね。

1曲目の"No Use Crying"、「泣いてなんになるの」っていうことなんでしょうかね、すてきなバラード。
そして"Glory Of Love"、これもいい曲で、フルートの饒舌な感情豊かな表現力にすごく魅せられました。
そして"Hold On "。

"Unchain My Heart"、このリズミカルな曲ですごくぼくは運指(うんし)の練習をしたんですね。これだけリズミカルにフルートを弾きこなすって、これは大変だと思って。特に"Unchain My Heart"、ぼくのミュージシャンとしての限界を感じた曲でもあります。

そして5曲目、"House Of The Rising Sun"、これはAnimalsの「朝日のあたる家」という曲で、ぼくが高校生ぐらいのころでしたか、流行った曲でしたね。

1970年の半ば、ぼくはロンドンに住んでおりましたけども、あるライブハウスで知り合いのイギリス人のバンドを撮っていたら、Eric Burdonが来て、その舞台に上がって、その隣に彼がいたという。

「あっ、この人がAnimalsのEric Burdonだ!!」って、ほとんど体がさわるぐらいのちっちゃなライブハウスだったんで、本物を観た、その時の感動がこの"House Of The Rising Sun"を聴くとよみがえってきますし、またAnimalsとは違う、フルートの独奏でこうした表現ができるんだという、それぞれの表現者の意地というか、能力というか、夢というか、そうした力を感じた曲でありました。

さて、このHerbie Mannのアルバム「Glory Of Love」から後半をお送りいたします。
"あの娘のレター"、
“Upa, Neguinho”、
“愛は私たちより強し”
“想いこがれて"、
“In And Out”。

"The Letter"
“Upa, Neguinho”
“Love Is Stronger Far Than We”
“In And Out”

ハービー山口がお贈りしてきたNHK-FM 夜のプレイリスト、今夜はHerbie Mannのアルバム「Glory Of Love」をご紹介いたしました。

さて、後半の5曲、これを改めて聴きますと、やはりHerbie Mannの表現の広さというものを感じます。バラードあり、そしてワールド・ミュージック的な、エスニックといいますか、海外の文化をとり入れた曲もある。

そして最もこの中でわたくしが影響されて「コピーしたいな」と思っていたのが"愛は私たちより強し"。英語がなにか不思議で、"Love Is Stronger For Than We"。「愛は私たちより強し」、この「Than We」のここに英語のネイティブな人に訊いても「「We」を使うかな、「Than Us」とかじゃないのかな」っていうんですけども、何度アルバムを見返ししても"Love Is Stronger For Than We"。

「We」でいいのかなと首をかしげながらの40数年間。やはり「We」でいいんでしょうね。この曲層が非常に優しくて、「このぐらいスロウな曲だったら下手なぼくでもコピーできるかな」と一所懸命コピーしました。

が、しかしながらやはりHerbie Mannの表現力には勝てなかったということで、敗北感とともにこの曲を聴きながら「ぼくもいつか愛に生きてみたい」と、そのように思いました。

さて、このHerbie Mannからぼくはハービー山口という名前になったんですが、思い返せばこのアルバムに出会ったはたちのころに友達のバンドに入れていただいて、中学の時にやめたフルートをもう1回もち出して、3~4人のバンドに入れてもらってたんですね。

そこでぼくがHerbie Mannのコピーばかりしてるんで、バンド仲間がぼくのあだ名を「ハービー」とつけたんですね。それが始まりです。

その時にふと思ったんですが、少年のころ、カリエスという病気で未来も希望もなく、なにかいじめられながらの10数年間、その自分をもう捨て去って、新たな可能性をもった自分として別の人格として生きていきたい。

お医者様も「もうコルセットはつけなくていいですよ。普通の生活できるでしょう」っていわれて、「じゃあハービーという名前で過去の自分を忘れて新しい自分になりたい」と思って、その名前をずっとつけてるということになるんですね。

同じバンドにJeff Beckが好きでジェフくん、これは藤岡くん、そしてPaul McCartneyが好きでポールくん、これは藤巻くんがいました。

だからぼくたちが集まると「ハイ、ポール!!」「ハイ、ジェフ!!」「ハー、ハービー!!」っていう風に今でも呼ぶんですが、ぼくはそのバンドを辞めて、そのあとロンドンにまいりますが、ポールくんとジェフくんはずっと別の仕事をしつつミュージシャンをやってました。

数年前に「崖の上のポニョ」が流行って大橋のぞみちゃんという女の子が歌ってたんですが、その後ろにギターとコーラスをしていた男性、これが今のジェフとポールくんで、藤巻くんと藤岡くんなんですね。色んな出会いが音楽によってありました。

ということでHerbie Mannはぼくの人生のなにか分身のようなアルバムです。実はBlue NoteにHerbie Mannが来日した時にプロモーターのかたが「ハービーさん、Herbie Mannに会います?? HerBie Mann自体がきみに会ってみたい」と。

ハービーっていう名前で写真家で活躍してる人がいて、「Herbie Mann、あなたから名前をとったそうです」っていったら、Herbie Mannさんが「そのハービー山口に会ってみたい」っていって下さったんですが、なにか都合でBlue Noteに行けずにご本人に会ったことがないんです。

これが非常に今となっては「どんなにムリしても行くべきだったな」と、サインをもらったり、ぼくのカメラにHerbie Mannさんのサインをもらったりしたかったなって、今思います。

でもアルバムを聴けば初心のぼくに戻れます。勇気をくれたアルバムでした。Herbie Mannのアルバム「Glory Of Love」、ぜひあなたの音楽ライブラリーにも加えていただければと思います。

この番組はパソコンやスマートフォンでもインターネットを利用してらじるらじるでお聴きいただけます。「NHK-FM 夜のプレイリスト」で検索してみて下さい。番組の感想など、メッセージもお待ちしております。

それではまたお会いしましょう。夜のプレイリスト、写真家のハービー山口でした。