2005年12月27日
2005年12月22日
読んだもの、遊んだもの
忙しいとはいいつつ、読んだり遊んだりしておりました。
来年の希望としては、やはり直球勝負の「かしまし」でしょうか。
性転換が主題に組み込まれているアニメというのは、これまでになかったものだと思います。もちろん、肉体の変化に伴うドタバタは過去にいくつもありますし、アダルトビデオなどでは稀に見かけるものではありましたが、精神面をしっかりと見つめているという点で稀有ではないか、と。
コミックスのような「切なさ」が描かれるだろうかという不安はありますが、まずは楽しみに待つこととしましょう。
ほかに、今年気になった作品はというと、これがあまりありません。
♂♀たいむすりっぷは気になってはいるのですが、評判をあまり聞かないのが不安なところです。
あえて人柱となってみるのもよいかも知れませんね。
来年の希望としては、やはり直球勝負の「かしまし」でしょうか。
性転換が主題に組み込まれているアニメというのは、これまでになかったものだと思います。もちろん、肉体の変化に伴うドタバタは過去にいくつもありますし、アダルトビデオなどでは稀に見かけるものではありましたが、精神面をしっかりと見つめているという点で稀有ではないか、と。
コミックスのような「切なさ」が描かれるだろうかという不安はありますが、まずは楽しみに待つこととしましょう。
ほかに、今年気になった作品はというと、これがあまりありません。
♂♀たいむすりっぷは気になってはいるのですが、評判をあまり聞かないのが不安なところです。
あえて人柱となってみるのもよいかも知れませんね。
2005年07月05日
2005年06月23日
笑わないパチモン屋 1.2
カチ
濃紺のスカートの裾を恥ずかしそうに掴み、頭を下げた。
「え……」
「どうなさいました?」
婉然と微笑み、跪く。俺の前に、跪いた。
顔だけが大人で、体はまだ幼く。
か細い手足、子供のような
子供そのものの体躯をエプロンドレスで包み。
俺の前に、跪く。
どれだけの時間が流れたのか、覚えていない。
「おお、この子が君のメイドかね」
部長が、あの女――少女の髪を撫でていた。ヘッドドレスを乱さぬように、優しく。
「じゃあ、さっそく報告書を見せて貰おうか」
「はい」
彼女がゆっくりと立ち上がり、スカートの裾についた埃を払う。手にしていた資料を配り終えると、俺の傍らに立つ。
「御主人様より許可を得て、ご説明いたします」
どうなってるんだ。この子は、顔こそ二十代だが、体つきはどうみても中学生なんだ。いや、だいたいメイド服を着ているんだ。なんでそんなに平然としていられるんだ。
彼女は、俺を讃えながら説明を続けている。誰も何も言わない。途中から入ってきた連中も、彼女をちらりとは見るが、驚きもせず呆れもせず、空いた席に腰を下ろす。
「すばらしい内容だよ、君!」
部長に肩を叩かれた。
「いやぁ、市場をここまで分析できるとは……見直したよ!メイドを雇うようになって、少しはやる気を出したということかね」
どっと笑い声が沸き起こる。
「御主人様」
僕の手を、小さな手が掴む。あの女の顔が、恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに輝いていた。
「これでよろしかったでしょうか」
俺の手が、あのボタンに触れた。
そういうこと……なのか?俺の望みは……叶ったのか?
もう、あの女はいない。いるのは、俺の命令をただ待っているメイドが一人だ。
「ああ……すばらしかったよ」
優しく撫でてやると、彼女は優雅に膝を折った。
すべてが変わったように思った。
いつもの席に腰を下ろす。課長の席には、同期の親友が座っている。あの女におべんちゃらを使っていた連中は、不安そうに奴を見ている。それはそうだろう。あいつにはお世辞なんて通用しない。
「御主人様、次は何をすればよろしいでしょうか」
椅子の隣にちょこんと座った彼女を抱き寄せる。「わ、わ」と言いながら、恥ずかしいですと呟きながら、それでも逆らうことはない。頬を赤く染め、目をそっと閉じる。
「こら、まだ仕事中なんだ。今日は家に帰って、食事を頼む」
「はい、わかりました」
名残惜しげに何度も振り返りながら、彼女は出て行った。それを誰も咎めようとしない。そう、ボタンを押したとき、世界はそういう風に作り替えられたのだ。
「聞いたぜ。レポート、大評判だったそうじゃないか」
「ああ、まあな」
村井達貴。同期の出世頭だ。ついさっきまではあの女にへこへこ頭を下げて、取り入っていた奴だが、掌を返したように俺に親しげに話しかけてきた。それにしても耳の早い奴だ。
「俺が主任、荒城が課長。お前もそろそろ……って頃かもな」
「それはどうだかわからんがな」
笑う。久しぶりに、肩の力を抜いて村井と笑い会う。あの女がいたおかげで、俺たち三人の友情がどれだけ壊されたことか。だが、それは「なかったこと」になったのだ。
「まあ……」
村井が声を潜めた。
「荒城には気をつけろよ」
「え?どうしてだ?」
「あいつは、あれで結構出世とか気にしてるからな。お前が本気を出したら……ってことだよ」
肩を軽く叩き、村井は意味ありげに笑った。
俺と奴が出世を争う?まさか。
あいつほど仕事ができる奴はいない。俺なんて、あいつの足下にも及ばない。今日のレポートが高い評価を得たのは、荒城からヒントを貰っていたからだ。
それでも、一抹の不安はあった。あの女が消えたことで、世界が変わってしまったのは事実だ。荒城が、変わってしまっていたとしたら……いや、そんなことはない。
「荒城、ちょっといいか」
「ん?」
不機嫌そうに顔を上げた。
「おい、一応課長なんだぜ。部下に示しがつかないから……頼むぜ」
「おっと。すまんすまん」
笑って言い直す。
「荒城課長、時間を少し頂けますか?」
にやりと笑い、荒城は席を立った。そのまま二人で並び歩く。喫煙コーナーまで一緒に歩こう……というところだ。
「良かったな。レポート、部長が高く評価していたぞ」
「ああ。お前からいろいろ教わったからだ。ありがとう」
「気にするな。俺はヒントしか言ってない。それを仕上げたのは、お前の腕、さ」
そう。荒城は変わっていなかった。安堵しつつ、俺は手を動かす。
「どうだ?今夜あたり?」
くいっ。手首をひねる。荒城は、しかし首を横に振った。
「悪いが、今夜はちょっとな。お前、家にメイドいるんだろ?早くかえってやれよ」
「おいおい!メイドは嫁さんじゃねぇんだぞ!」
爆笑した俺だったが、荒城の顔は真剣だった。
「メイドは、主人より先に食事ができないんだぞ」
「そう……だっけか」
そういえば、あのゲームの設定ではそうなっていた気がする。
「わかった」
俺は頷いた。あの憎たらしい女も、今じゃ可愛いメイドだ。そう、たっぷり可愛がってあげないとな……
(続く)
2005年06月22日
TSF バトン
入れ替わり雑記さんで始まったTSFバトンが、うちのような零細ブログまで廻ってきました。ありがとうございます>真空キューブさま
1.コンピュータに入ってるTSFに関係するファイルの容量
ゲームのデータがほとんどですが……8G程度あります。
はるか昔、100Mのハードディスクを買って感動していた頃からは想像できない世界です。
2.最近見たTSF作品
「マブカレ 魔法少女!」です
感想はこの一つ下の記事を参照ください
3.今気になっているTSF作品
・かしまし 〜ガール・ミーツ・ガール〜
アダルト方面の作品は、TSF展開が多い一方で、すぐに性交渉に走ってしまう(商業上の理由でしょうがないのですが)為に、いまひとつ美味しさが足りない。なので、「かしまし」の丁寧な心理描写は嬉しいかぎりです。肉体の性は男性/女性の二者択一ですが、心は無数のヴァリエーションがありますから
4.思い入れのあるTSF作品を5作品
・俺はオンナだ!?
この小説のインパクトは凄まじかった。TSFに自分の属性がある、と自覚させた最初の小説です。今になって振り返ると、上述した「心理面での描写」に弱いものはありますが、変化した自分の肉体を弄って、快楽に溺れていくという展開は好みなのです。
・X-Change(ノヴェライズ)
清水マリコという作家は、アダルトゲームのノヴェライズもいくつか手がけています。とかく原作をただなぞるだけに終わるものが多い中、この方はテーマを読み取って、ちゃんと小説として読めるものに仕上げてくれます。
X-Changeのノヴェライズも清水マリコさんが手掛けています。かなりお薦めですね。エッチしかない原作より、ずっとよい作品になっていますよ
・真城さんの一連のシリーズ
TSF界の著名人(?)、あのセールスレディや無茶な次元管理人など多士済々を輩出しつづける真城さんの作品は、どれも好きです。ダークではあってもグロテスクではない辺りが特に!
・夢幻館にある、愛に死すさんの作品より「お姉様は魔女」
最後のオチが好みです。果たして彼はどんな運命を迎えるのやら。
・TS Heartiesより、猫野丸太丸の作品「村井くんと相原くん」シリーズ。
こういうノリが好きなんですよ。ダークよりもコメディが好きなんです。
シリアスなノリも好きではあります。
さて。次のバトンですが……というか、うちのようなサイトを見ているのか疑問なのですが。
・真城の城の真城さま
・♂♀工房CG倉庫の、S羽丘さま
・アダルトTSFコンテンツ支援所の管理人様
……って、かなり無茶なお願いではありますが、こんなところで。
1.コンピュータに入ってるTSFに関係するファイルの容量
ゲームのデータがほとんどですが……8G程度あります。
はるか昔、100Mのハードディスクを買って感動していた頃からは想像できない世界です。
2.最近見たTSF作品
「マブカレ 魔法少女!」です
感想はこの一つ下の記事を参照ください
3.今気になっているTSF作品
・かしまし 〜ガール・ミーツ・ガール〜
アダルト方面の作品は、TSF展開が多い一方で、すぐに性交渉に走ってしまう(商業上の理由でしょうがないのですが)為に、いまひとつ美味しさが足りない。なので、「かしまし」の丁寧な心理描写は嬉しいかぎりです。肉体の性は男性/女性の二者択一ですが、心は無数のヴァリエーションがありますから
4.思い入れのあるTSF作品を5作品
・俺はオンナだ!?
この小説のインパクトは凄まじかった。TSFに自分の属性がある、と自覚させた最初の小説です。今になって振り返ると、上述した「心理面での描写」に弱いものはありますが、変化した自分の肉体を弄って、快楽に溺れていくという展開は好みなのです。
・X-Change(ノヴェライズ)
清水マリコという作家は、アダルトゲームのノヴェライズもいくつか手がけています。とかく原作をただなぞるだけに終わるものが多い中、この方はテーマを読み取って、ちゃんと小説として読めるものに仕上げてくれます。
X-Changeのノヴェライズも清水マリコさんが手掛けています。かなりお薦めですね。エッチしかない原作より、ずっとよい作品になっていますよ
・真城さんの一連のシリーズ
TSF界の著名人(?)、あのセールスレディや無茶な次元管理人など多士済々を輩出しつづける真城さんの作品は、どれも好きです。ダークではあってもグロテスクではない辺りが特に!
・夢幻館にある、愛に死すさんの作品より「お姉様は魔女」
最後のオチが好みです。果たして彼はどんな運命を迎えるのやら。
・TS Heartiesより、猫野丸太丸の作品「村井くんと相原くん」シリーズ。
こういうノリが好きなんですよ。ダークよりもコメディが好きなんです。
シリアスなノリも好きではあります。
さて。次のバトンですが……というか、うちのようなサイトを見ているのか疑問なのですが。
・真城の城の真城さま
・♂♀工房CG倉庫の、S羽丘さま
・アダルトTSFコンテンツ支援所の管理人様
……って、かなり無茶なお願いではありますが、こんなところで。
2005年06月20日
★☆☆☆☆
「マヴカレ 魔法少女!」を読んでみました。
20点未満……かな。かなり嗜虐系の描写が多く、S.H.O.の肌には合いませんでした。
変化した後の描写も弱く、ストーリー面でも特に見るものはなし……と思います。
ただ、SM系の内容が大丈夫な方でしたら、TS小説としての面白さを感じられるかも知れません。
20点未満……かな。かなり嗜虐系の描写が多く、S.H.O.の肌には合いませんでした。
変化した後の描写も弱く、ストーリー面でも特に見るものはなし……と思います。
ただ、SM系の内容が大丈夫な方でしたら、TS小説としての面白さを感じられるかも知れません。
2005年06月16日
2005年06月15日
やおよろずさもなー#1-2
ぶかぶかの帽子をかぶって、ともすれば髪からぴょんと飛び出しそうな耳を隠す。尻尾は、尖端をスカートと腰の隙間に挟み込む。
「すばらしく可愛いな」
車を呼び止め、僕をひょいと抱き上げたキサが嬉しそうに微笑む。なるほど、本当は14歳で男の僕が、初等部の女子制服を着て、おまけに純白の猫耳と尻尾をはやしてさえいれば彼女を喜ばせることができるのだから、僕はこれでいいのだと思った。
そう思うのにはそれほどの手間は要しなかった。猫のアップリケが縫いつけられたポシェットに入っていた手鏡越しに自分の目を見つめながら、これでいいこれでいいこれでいいと百回ほど呟いたのだ。
それに、彼女が呼び止めた車には、運転手がいない。目的地を告げると、中央交通局から最適な速度、進路が指示される。キサは黙って、膝の上で丸くなっている僕の背中を撫でているだけだ。
ぽかぽかと太陽の光が窓越しに注ぐ。
そういえば、昨日の夜は遅かったんだっけ……と僕は目を閉じた。
薄暗くて、冷たい部屋。僕は小さな手を伸ばし、美しく黒い髪を掴む。ずるり……
髪を引っ張ると、その先にあったものが近づいてくる。虚ろに開いた口、もう僕を見てくれない瞳。
「着いた」
「ふにゃぁ?」
目をごしごし擦る。ねむい……何か、夢を見たような気がする……ねむ……
「にゃぁっ」
「寝ぼけている場合か、バカ者」
耳を摘まれた。
「ふみぃ、酷いよぉ」
涙がつぅっとほっぺたを伝って落ちた。
「……アニー」
「は!」
お人形さんが、わたしのポシェットから飛び出してきた。ぴしっ、とおでこの辺りに手を当ててる。挨拶なのかな
「反応がおかしい」
「うん……10歳の猫耳少女っていう情報に、七割方染められてるから……ええと、消失まであと7分」
「ふむ」
お姉さんはすこしかんがえると、私を抱っこして、怖い顔でこっちを見ているおじさんのところに歩いていく。
わたしは見上げた。さらさらの髪が、お日様に照らされて、天使の輪をかぶっているみたいに見える。そっと引っ張ると、お姉さんはすこし怖い目で私を見て
なんだか、落ち着いた。
「というわけで、校舎に入る」
「……い、いや、ちょっと待ちなさい」
「待てない。そうだな、アニー」
「う……は、はいっ!間違いなく妖精の気配です!」
お姉さんは、にやりと笑った。
「ちゃらららららーん」
手品をするときの歌を呟きながら、わたしの髪を優しく撫でる
「詰まるところ人生というのは恥の連続なんだと、僕のおじさんは語ったものだよ。長く生きるほどに恥ばかりかくってね」
つい先程までの、思い出すだけで地の果てまで走っていきそうな記憶を投げ捨てた僕は、着慣れた服をパンパン、と払った。
目の前にいた初等部の女の子が突然14歳の男の子に変わったのを見た守衛は、速やかに意識を棄ててしまった。羨ましい事だ。現実を見たくなければ夢に逃げられるというのは。
「アニー?」
「なに?」
ひょこ、と妖精が顔を覗かせた……のだろう。僕は彼女の姿を見ることができない。
「本当に、妖精の気配がするのかい?ただ、キサを喜ばせようとしているだけってことはないよね」
「気配ならたっぷりあるわよ。それも、けっこう質の悪いのが……」
(続く)
「すばらしく可愛いな」
車を呼び止め、僕をひょいと抱き上げたキサが嬉しそうに微笑む。なるほど、本当は14歳で男の僕が、初等部の女子制服を着て、おまけに純白の猫耳と尻尾をはやしてさえいれば彼女を喜ばせることができるのだから、僕はこれでいいのだと思った。
そう思うのにはそれほどの手間は要しなかった。猫のアップリケが縫いつけられたポシェットに入っていた手鏡越しに自分の目を見つめながら、これでいいこれでいいこれでいいと百回ほど呟いたのだ。
それに、彼女が呼び止めた車には、運転手がいない。目的地を告げると、中央交通局から最適な速度、進路が指示される。キサは黙って、膝の上で丸くなっている僕の背中を撫でているだけだ。
ぽかぽかと太陽の光が窓越しに注ぐ。
そういえば、昨日の夜は遅かったんだっけ……と僕は目を閉じた。
薄暗くて、冷たい部屋。僕は小さな手を伸ばし、美しく黒い髪を掴む。ずるり……
髪を引っ張ると、その先にあったものが近づいてくる。虚ろに開いた口、もう僕を見てくれない瞳。
「着いた」
「ふにゃぁ?」
目をごしごし擦る。ねむい……何か、夢を見たような気がする……ねむ……
「にゃぁっ」
「寝ぼけている場合か、バカ者」
耳を摘まれた。
「ふみぃ、酷いよぉ」
涙がつぅっとほっぺたを伝って落ちた。
「……アニー」
「は!」
お人形さんが、わたしのポシェットから飛び出してきた。ぴしっ、とおでこの辺りに手を当ててる。挨拶なのかな
「反応がおかしい」
「うん……10歳の猫耳少女っていう情報に、七割方染められてるから……ええと、消失まであと7分」
「ふむ」
お姉さんはすこしかんがえると、私を抱っこして、怖い顔でこっちを見ているおじさんのところに歩いていく。
わたしは見上げた。さらさらの髪が、お日様に照らされて、天使の輪をかぶっているみたいに見える。そっと引っ張ると、お姉さんはすこし怖い目で私を見て
なんだか、落ち着いた。
「というわけで、校舎に入る」
「……い、いや、ちょっと待ちなさい」
「待てない。そうだな、アニー」
「う……は、はいっ!間違いなく妖精の気配です!」
お姉さんは、にやりと笑った。
「ちゃらららららーん」
手品をするときの歌を呟きながら、わたしの髪を優しく撫でる
「詰まるところ人生というのは恥の連続なんだと、僕のおじさんは語ったものだよ。長く生きるほどに恥ばかりかくってね」
つい先程までの、思い出すだけで地の果てまで走っていきそうな記憶を投げ捨てた僕は、着慣れた服をパンパン、と払った。
目の前にいた初等部の女の子が突然14歳の男の子に変わったのを見た守衛は、速やかに意識を棄ててしまった。羨ましい事だ。現実を見たくなければ夢に逃げられるというのは。
「アニー?」
「なに?」
ひょこ、と妖精が顔を覗かせた……のだろう。僕は彼女の姿を見ることができない。
「本当に、妖精の気配がするのかい?ただ、キサを喜ばせようとしているだけってことはないよね」
「気配ならたっぷりあるわよ。それも、けっこう質の悪いのが……」
(続く)
恋するTATOO
読んでみました。
とある恋人の思い出の品を壊してしまったことから呪われて、美少女になってしまった泉くんの話。
可もなく不可もなく、といったところか。
こういった「罰としてのTS」というシチュエーションは多いですね。少女コミック系ですと、相方である女性が「彼のことが好き」と思うことで解ける、というのもお約束。
とある恋人の思い出の品を壊してしまったことから呪われて、美少女になってしまった泉くんの話。
可もなく不可もなく、といったところか。
こういった「罰としてのTS」というシチュエーションは多いですね。少女コミック系ですと、相方である女性が「彼のことが好き」と思うことで解ける、というのもお約束。
2005年06月09日
続きを書いてみた
「お兄ちゃん、またねー」
「ああ、気をつけて……」
聡は重い重い溜息をついて手を振った。一年生は東校舎、二年生は西校舎。だから二人は校門で別れることになる。
「……お兄ちゃん」
再び深く溜息をついた聡に、彼の美しい妹はなぜか嬉しそうに、大きな胸の前で手を組み合わせた。
「そんなにあたしと離ればなれになるのが辛いのね……私もだよっ」
額を打ち付ける勢いで、そのまま倒れ込んだ。
「だから、一緒に帰ろうねお兄ちゃん!今日はお姉ちゃんもお父さんもいないから……きゃっ」
顔を真っ赤にして走り去っていく妹。
「ふふ、もてもてじゃなーい。血のつながってない妹が、ちょっといけない恋愛感情を持つ……男の幸せの一つって奴!?……なのに、なんでそんなに不幸そうなのよ!」
キーキーと、ポケットの中にいる小妖精がわめいている。
「そりゃ……和希がつい昨日までは弟の和樹だったからで、ついでに僕は妹に恋をする趣味がないからだと思うよ……」
重い足を引きずりながら、運命管理局公認・幸運ゼロの男は校舎へと入っていった。
「僕は不幸だ……」
教室には誰もいなかった。
黒板にも、何も書かれていなかった。
なぜなら。
「今日は休みだった……和樹のことですっかり忘れてたよーっ」
この前の日曜日は、学年挙げて模擬試験だった。その代わりの休みに水曜日を持ってくるところが、気の利いた学校なのかも知れない。が、すっかり忘れて登校してきた聡にとっては、逆に恨めしい。逆恨みだが。
「あれ……あ、今日休みかぁ」
がばっと振り返った。
「よぉ!」
「同志だ……」
にこっと笑う彼に、思わず天井を見上げる聡。もちろん涙を隠すためだ。
「なんだぁ、お前も出てきちゃった口かよ!」
「あ、ああ」
忘れ物大王、村芝佑一。彼ならば休校日であったことも忘れてくるだろう。
「って、お前は模試受けるの忘れてたから、今日は一人だけ模試じゃないかっ」
「あっれー?そうだったっけ、あはは、忘れてた。ありがとな、聡!」
「素敵シチュエーションだわ」
「お、おいっ!」
なぜか握手を求められ、握り返していた聡は胸元からの声にぎょっとした。
「ちょっと天然入った子と、ばったり学校であり得ない出会い。あのときはありがとうねってデートに誘われるけど、そこでもどじっ娘全開!そこから幸せな物語が始まるのよぉ〜」
「こ、こら、変なことするな」
「あはは、変なのはお前だぞ、聡ー!」
「逃げろっ、逃げてくれぇーっ」
Pi。胸元から小さく、電子音がした。
「ん?あれ?」
走り出そうとした村芝は、立ち止まった。胸が、揺れた気がしたから
見下ろせば
ぷるんっ
「あれぇ?」
「頼む、やめろアニーっ!やめてくれぇーっ」
「わ、わ、わっ」
胸を押さえ込んだ村芝は、「ぁん」と微妙な声を上げ、座り込む。
「あーだめ!どじっ娘はもっとこう、すごい転び方しないと。ええと、属性ドジっ娘、ドジっ娘……」
「ちょっとまてーっ!あいつは物忘れが激しいだけで、ドジじゃないぞっ、っていうか、なんだよその属性って!」
「あーーーっ!またあんたが素っ頓狂な声だすから、設定間違えたっ!」
「へ?」
ギギギギギギ、と軋む音をたてて村芝を見る。
そこには、ぽややんと微笑みながら、大きく広がったスカートの中から靴だけを覗かせている美少女がいた。
「ねぇ、聡くん?」
「は、はいっ」
くすぐるような美少女の声に、思わず直立不動。
「ええと……わたしって、女の子……だったっけ」
「……へ?」
ごそごそと上着の中に手を入れ
「やぁん……こ、これ、おっぱいだよね」
服の下からわかる。彼(?)の手は今、ブラ越しかどうかともかくとして、両胸を自分の手で揉んでいる。
「多分」
視線をそらした彼に「やっぱりぃ……じゃあ」と不吉な声が聞こえた
慌てて視線を戻せば、スカートの中に手を入れて、顔を赤く……
「こ、こらっ、こんなことでなにやってんだよぉ」
「あ……そ、そうか。ぼく、やっぱり女の子なんだよね。あはは、なんか自分が男の子だった気がしたんだけど、自分が女の子だってこと、忘れちゃってたみたい。そうだよね、女の子は男の子の前じゃこんなことしちゃいけないし……」
「いや、男の子だったってのは事実で……」
いきなり手を捕まれた。
「もう、聡くんってば」
聡の手が、ふくよかな胸の膨らみに触れさせられ
「これでも、男の子だっていうの?うふふ、変な聡くん」
「……どういう属性なんだよぉ」
「ええと、不思議系」
アニーはそれだけ言って、そそくさとポケットの中に戻ってしまった。
「ねぇ、聡くん」
「な、なに?」
きゅっと抱きつかれた。胸にすがりつくように……桜色に染まった頬と耳、漏れた吐息が下から吹き上げ、女の子の匂いが鼻に届く……
「あのね、あたし……模試をどこで受ければいいか、覚えてないの……連れて行ってくれる?」
いきなり女の武器を使われてしまった。もちろん、聡陥落。
「こ、こっち、だよ」
ギクシャクと歩こうとして
「お兄ちゃん……その女……誰」
「か、和樹!なんでここにっ」
「お兄ちゃんにお弁当作ったんだけど、渡すの忘れてたから」
「あらら、あたしと同じね」
「えーーーーーーーーーーーーーーっ!お兄ちゃん!この女からもお弁当作ってもらってたの!ゆ、ゆるせないーっ!」
「うわー!」
「……ま、また幸運が減ってしまった……」
ポケットの中で、あははーという気楽な笑い声と、違うんだぁっという泣き声と、お兄ちゃんの馬鹿浮気者という罵りを聞きながら。
「あ、そうか。もっと深いシチュエーションにすればいいのよ!うんうん」
反省なく、次の作戦をアニーは練っていた。
「ああ、気をつけて……」
聡は重い重い溜息をついて手を振った。一年生は東校舎、二年生は西校舎。だから二人は校門で別れることになる。
「……お兄ちゃん」
再び深く溜息をついた聡に、彼の美しい妹はなぜか嬉しそうに、大きな胸の前で手を組み合わせた。
「そんなにあたしと離ればなれになるのが辛いのね……私もだよっ」
額を打ち付ける勢いで、そのまま倒れ込んだ。
「だから、一緒に帰ろうねお兄ちゃん!今日はお姉ちゃんもお父さんもいないから……きゃっ」
顔を真っ赤にして走り去っていく妹。
「ふふ、もてもてじゃなーい。血のつながってない妹が、ちょっといけない恋愛感情を持つ……男の幸せの一つって奴!?……なのに、なんでそんなに不幸そうなのよ!」
キーキーと、ポケットの中にいる小妖精がわめいている。
「そりゃ……和希がつい昨日までは弟の和樹だったからで、ついでに僕は妹に恋をする趣味がないからだと思うよ……」
重い足を引きずりながら、運命管理局公認・幸運ゼロの男は校舎へと入っていった。
「僕は不幸だ……」
教室には誰もいなかった。
黒板にも、何も書かれていなかった。
なぜなら。
「今日は休みだった……和樹のことですっかり忘れてたよーっ」
この前の日曜日は、学年挙げて模擬試験だった。その代わりの休みに水曜日を持ってくるところが、気の利いた学校なのかも知れない。が、すっかり忘れて登校してきた聡にとっては、逆に恨めしい。逆恨みだが。
「あれ……あ、今日休みかぁ」
がばっと振り返った。
「よぉ!」
「同志だ……」
にこっと笑う彼に、思わず天井を見上げる聡。もちろん涙を隠すためだ。
「なんだぁ、お前も出てきちゃった口かよ!」
「あ、ああ」
忘れ物大王、村芝佑一。彼ならば休校日であったことも忘れてくるだろう。
「って、お前は模試受けるの忘れてたから、今日は一人だけ模試じゃないかっ」
「あっれー?そうだったっけ、あはは、忘れてた。ありがとな、聡!」
「素敵シチュエーションだわ」
「お、おいっ!」
なぜか握手を求められ、握り返していた聡は胸元からの声にぎょっとした。
「ちょっと天然入った子と、ばったり学校であり得ない出会い。あのときはありがとうねってデートに誘われるけど、そこでもどじっ娘全開!そこから幸せな物語が始まるのよぉ〜」
「こ、こら、変なことするな」
「あはは、変なのはお前だぞ、聡ー!」
「逃げろっ、逃げてくれぇーっ」
Pi。胸元から小さく、電子音がした。
「ん?あれ?」
走り出そうとした村芝は、立ち止まった。胸が、揺れた気がしたから
見下ろせば
ぷるんっ
「あれぇ?」
「頼む、やめろアニーっ!やめてくれぇーっ」
「わ、わ、わっ」
胸を押さえ込んだ村芝は、「ぁん」と微妙な声を上げ、座り込む。
「あーだめ!どじっ娘はもっとこう、すごい転び方しないと。ええと、属性ドジっ娘、ドジっ娘……」
「ちょっとまてーっ!あいつは物忘れが激しいだけで、ドジじゃないぞっ、っていうか、なんだよその属性って!」
「あーーーっ!またあんたが素っ頓狂な声だすから、設定間違えたっ!」
「へ?」
ギギギギギギ、と軋む音をたてて村芝を見る。
そこには、ぽややんと微笑みながら、大きく広がったスカートの中から靴だけを覗かせている美少女がいた。
「ねぇ、聡くん?」
「は、はいっ」
くすぐるような美少女の声に、思わず直立不動。
「ええと……わたしって、女の子……だったっけ」
「……へ?」
ごそごそと上着の中に手を入れ
「やぁん……こ、これ、おっぱいだよね」
服の下からわかる。彼(?)の手は今、ブラ越しかどうかともかくとして、両胸を自分の手で揉んでいる。
「多分」
視線をそらした彼に「やっぱりぃ……じゃあ」と不吉な声が聞こえた
慌てて視線を戻せば、スカートの中に手を入れて、顔を赤く……
「こ、こらっ、こんなことでなにやってんだよぉ」
「あ……そ、そうか。ぼく、やっぱり女の子なんだよね。あはは、なんか自分が男の子だった気がしたんだけど、自分が女の子だってこと、忘れちゃってたみたい。そうだよね、女の子は男の子の前じゃこんなことしちゃいけないし……」
「いや、男の子だったってのは事実で……」
いきなり手を捕まれた。
「もう、聡くんってば」
聡の手が、ふくよかな胸の膨らみに触れさせられ
「これでも、男の子だっていうの?うふふ、変な聡くん」
「……どういう属性なんだよぉ」
「ええと、不思議系」
アニーはそれだけ言って、そそくさとポケットの中に戻ってしまった。
「ねぇ、聡くん」
「な、なに?」
きゅっと抱きつかれた。胸にすがりつくように……桜色に染まった頬と耳、漏れた吐息が下から吹き上げ、女の子の匂いが鼻に届く……
「あのね、あたし……模試をどこで受ければいいか、覚えてないの……連れて行ってくれる?」
いきなり女の武器を使われてしまった。もちろん、聡陥落。
「こ、こっち、だよ」
ギクシャクと歩こうとして
「お兄ちゃん……その女……誰」
「か、和樹!なんでここにっ」
「お兄ちゃんにお弁当作ったんだけど、渡すの忘れてたから」
「あらら、あたしと同じね」
「えーーーーーーーーーーーーーーっ!お兄ちゃん!この女からもお弁当作ってもらってたの!ゆ、ゆるせないーっ!」
「うわー!」
「……ま、また幸運が減ってしまった……」
ポケットの中で、あははーという気楽な笑い声と、違うんだぁっという泣き声と、お兄ちゃんの馬鹿浮気者という罵りを聞きながら。
「あ、そうか。もっと深いシチュエーションにすればいいのよ!うんうん」
反省なく、次の作戦をアニーは練っていた。
2005年05月27日
お詫びの品 〜やおよろずサモナー前奏曲〜
お詫びの品が、ポストに入っていた。
「幸運?」
彼は疑わしげにその小箱を手に取る。まず耳を宛て、中からチクタクとか危険な音が聞こえてこないかを確かめて。次いで、宛名を確かめる。間違って届いたギフトを開けて、後で酷い目に遭ったことがあるから。
「宮野聡だから、間違いない」
自分の名前であることを何度も確かめ、彼、聡はようやく箱を鞄に仕舞った。
「ただいま」
「おっかえり……また怪我してんのかよ、兄ちゃん」
部屋に戻ると、一つ年下の弟にまで笑われた。足首に包帯を巻いているのは今朝のこと、今は頭にも巻かれている。これで血が滲んでいたなら・・・いや、いつものことだと笑われて終わりだ。聡は溜息と共に
「うるさいな」
と力なく答え、制服を脱ぎ始める。体についた無数の傷は、彼の不幸の証だ――断じて名誉の証ではない。
「おい、着替えるから出てけ」
「あー?いいだろ別に」
寝転がったままマンガを読んでいる弟。怒鳴りつけようとして、自分より立派な体格を空手で鍛えた弟の逆襲を恐れる自分にさらに溜息をつく。自分の貧弱で傷痕だらけの体を見られるのが嫌だった。特に弟にだけは。
「へへ、お礼に俺が着替えるのも見せてやるって」
「見たくねぇよ」
何が悲しくて、弟がポージングするのを見なければならんのだ。
「っと、これ、何なんだ?」
手短に着替えを終え、鞄から箱を取り出す。包装もなにもされてない箱を開けると、一枚の紙切れと……
美しい金色の髪に澄み切った蒼い瞳。それは不思議の国のアリス
「……の人形?」
小さな人形を、弟に見つからないように胸ポケットに収める。こんなものが送られてきたと知られた日には、半年は脅されることになるだろう。
手紙は、端正に綴られていた
前略
宮野聡様
当方の手違いにより、あなたの幸運の調整が過去十七年にわたり誤って最低レベルに固定されておりました。
大変なご迷惑をおかけし申し訳ございません。
お詫びの者を贈らせていただきますので、なにとぞご寛恕ください
運命調整局
沈黙する聡。ぱらりと捲られるマンガ。
「・・・そりゃ、不幸だけどさ」
小さい頃から不幸の連続だった。道を歩けば自転車にはねられ、車にぶつかり、犬に追いかけられる毎日。体を鍛えようとすれば、一日目で骨折。
告白しようと放課後そっと後を追えばストーカーとして補導され、憧れていた同級生と二人きりになった途端に蜂の大群が押し寄せてきたり。
「・・・この人形がお詫びなのか?」
『そうねぇ。あなた、不足幸運量が二十七億四千五百万もあるから、それをゼロにするのがあたしの氏名ってわけ、よろしく』
人形がもぞもぞとポケットから顔を出し、挨拶した。
「どわぁぁぁっ」
いきなり絶叫を上げた兄を、弟は不審そうに見た。しかし、いつものことだとまた視線をマンガに戻す。
『あたし、アニー。よろしくね!あなたをどんどん幸福にして、不足幸運量を補うから』
「不足幸運量・・・っていうか、に、人形がしゃべ、しゃべっ」
小声で尋ねる。アニーと名乗っている人形の声は小さく、弟に聴かれる心配はない。
『あたしは人形じゃなくて、妖精。元の世界に戻るには、運命だかなんだかを操っている連中の協力が必要なんだよね。で、本来あなたが受け取るべきだった幸運の量が二十七億四千五百万も溜まっていて、それをゼロにすれば!』
アニーは手を打ち鳴らし、にやりと笑う
「あたしは運命の人と出会って、元の世界に帰れるってわけ。それにしても、幸運がそこまでない人生を生き抜いてきたのってすごいわ……あ、違うか。死ねば幸運も不幸もないし、そう考えると生きていること自体が不幸っていうか」
そこまで言われるほど酷い人生だったのか?聡は反論しようと回顧し
「………」
沈黙する。
『さあ!そうと決まればバンバン幸運にしてあげるわよーっ!ふむふむ、君は妹が欲しかったんだね、わかった!』
言うなり、小さなPDAをどこからともなく取り出した。
『えっと・・・あったあった。性別を、女っと』
ぶつぶつと何か言い続けている兄がさすがに心配になった。
なったが、このマンガの続きを読むほうが優先度は高い。寝そべりながら頁を捲ろうとして
「あれ?」
何か息苦しいことに気付く。
胸の下に敷いていた座布団に目をやって、Tシャツと肌の隙間から、胸の谷間を垣間見た。無言で身を起こし、ふっくらと膨らんでいる胸に触れる。
「うわぁぁっ」
「うわぁぁっ」
硬直していた聡が我に返ると、童顔に似合わない大きな胸を両手で掴んでいる少女と視線があった。すぐに目をそらそうとして
「ま、まさか和樹か?」
Tシャツには韓国の国旗に描かれている変な模様が印刷されていて、それは間違いなく弟の和樹がさっきまで着ていたものだ。その紋様の大半が胸の谷間に沈んでいて、大きく膨らんだ双丘の尖端は、それぞれに尖っている。
「兄ちゃん、お、俺っ」
『あー。言葉使いがなってないなー』
聡の肩に立っているアニーがさらさらとPDAにペンを走らせる。
「お、おい、やめろっ」
「兄ちゃぁん、あたし、変だよねっ・・・あ、あたし?あれ?あ、あた、あたし・・・いやぁぁぁっ」
『仕草もだめ』
両手を激しく振り回していた和樹が、急にしくしくと啜り泣きを始め、両手で顔を覆った。そのままなよなよと崩れ落ちる。
『あとは・・・妹さんから好きって言われたいんだね。アニーに任せて!』
「やめてくれーっ」
『へ?』
アニーが間抜けな声を上げた。
ゆらり、と和樹が立ち上がる。
「お兄ちゃん……」
「ナ、ナナ、ナンデショウカ」
怪しい視線に顔を強ばらせつつ、聡は少しずつ後ろへ下がる。
「好き……好きなの……」
『もーっ、あんたがいきなり大声で言うから、間違えたじゃないっ』
キーキーとアニーがわめいたが、それどころではない。ゆらりゆらりと近づいてくる妹に、汗をだくだく流しながら聡は壁を伝って逃げ続ける。
やがて、部屋の端に追い込まれた。
「……しよ♥」
「正気にもどっ、む、むぐ、ぐぐ」
例え女になったとしても、和樹の筋力は聡を上回っていた。強く抱きしめられ、そのまま唇を奪われる。
「お兄ちゃんはあたしのこと、嫌いなの?」
涙をぽろりぽろりとこぼす。畜生!これが和樹じゃなかったら、と心の中で絶叫する。潤んだ大きな瞳といい、弟だった頃の面影は殆ど消えていて、とんでもなくかわいい女の子なのだから。
「あ、あなた達……」
どさり、と買い物袋が落ちる音と、姉の声。
彼女の目に映っているのは、押し倒されている自分と、馬乗りになっている妹。
「……聡っ!」
『あれー?幸運不足度が上がっちゃった……』
眼下の修羅場を眺めつつ、アニーは溜息をつく。
『ま、最初は失敗もあるわよね。次で挽回挽回!』
あはははは、と脳天気な笑い声は、「あたしはお兄ちゃんが好きなのっ」と泣き喚く少女と、「俺はなんて不幸なんだぁぁぁぁ」と絶叫する少年と、二人を激しくしかり続ける女性の声でかき消されたのだった。
「幸運?」
彼は疑わしげにその小箱を手に取る。まず耳を宛て、中からチクタクとか危険な音が聞こえてこないかを確かめて。次いで、宛名を確かめる。間違って届いたギフトを開けて、後で酷い目に遭ったことがあるから。
「宮野聡だから、間違いない」
自分の名前であることを何度も確かめ、彼、聡はようやく箱を鞄に仕舞った。
「ただいま」
「おっかえり……また怪我してんのかよ、兄ちゃん」
部屋に戻ると、一つ年下の弟にまで笑われた。足首に包帯を巻いているのは今朝のこと、今は頭にも巻かれている。これで血が滲んでいたなら・・・いや、いつものことだと笑われて終わりだ。聡は溜息と共に
「うるさいな」
と力なく答え、制服を脱ぎ始める。体についた無数の傷は、彼の不幸の証だ――断じて名誉の証ではない。
「おい、着替えるから出てけ」
「あー?いいだろ別に」
寝転がったままマンガを読んでいる弟。怒鳴りつけようとして、自分より立派な体格を空手で鍛えた弟の逆襲を恐れる自分にさらに溜息をつく。自分の貧弱で傷痕だらけの体を見られるのが嫌だった。特に弟にだけは。
「へへ、お礼に俺が着替えるのも見せてやるって」
「見たくねぇよ」
何が悲しくて、弟がポージングするのを見なければならんのだ。
「っと、これ、何なんだ?」
手短に着替えを終え、鞄から箱を取り出す。包装もなにもされてない箱を開けると、一枚の紙切れと……
美しい金色の髪に澄み切った蒼い瞳。それは不思議の国のアリス
「……の人形?」
小さな人形を、弟に見つからないように胸ポケットに収める。こんなものが送られてきたと知られた日には、半年は脅されることになるだろう。
手紙は、端正に綴られていた
前略
宮野聡様
当方の手違いにより、あなたの幸運の調整が過去十七年にわたり誤って最低レベルに固定されておりました。
大変なご迷惑をおかけし申し訳ございません。
お詫びの者を贈らせていただきますので、なにとぞご寛恕ください
運命調整局
沈黙する聡。ぱらりと捲られるマンガ。
「・・・そりゃ、不幸だけどさ」
小さい頃から不幸の連続だった。道を歩けば自転車にはねられ、車にぶつかり、犬に追いかけられる毎日。体を鍛えようとすれば、一日目で骨折。
告白しようと放課後そっと後を追えばストーカーとして補導され、憧れていた同級生と二人きりになった途端に蜂の大群が押し寄せてきたり。
「・・・この人形がお詫びなのか?」
『そうねぇ。あなた、不足幸運量が二十七億四千五百万もあるから、それをゼロにするのがあたしの氏名ってわけ、よろしく』
人形がもぞもぞとポケットから顔を出し、挨拶した。
「どわぁぁぁっ」
いきなり絶叫を上げた兄を、弟は不審そうに見た。しかし、いつものことだとまた視線をマンガに戻す。
『あたし、アニー。よろしくね!あなたをどんどん幸福にして、不足幸運量を補うから』
「不足幸運量・・・っていうか、に、人形がしゃべ、しゃべっ」
小声で尋ねる。アニーと名乗っている人形の声は小さく、弟に聴かれる心配はない。
『あたしは人形じゃなくて、妖精。元の世界に戻るには、運命だかなんだかを操っている連中の協力が必要なんだよね。で、本来あなたが受け取るべきだった幸運の量が二十七億四千五百万も溜まっていて、それをゼロにすれば!』
アニーは手を打ち鳴らし、にやりと笑う
「あたしは運命の人と出会って、元の世界に帰れるってわけ。それにしても、幸運がそこまでない人生を生き抜いてきたのってすごいわ……あ、違うか。死ねば幸運も不幸もないし、そう考えると生きていること自体が不幸っていうか」
そこまで言われるほど酷い人生だったのか?聡は反論しようと回顧し
「………」
沈黙する。
『さあ!そうと決まればバンバン幸運にしてあげるわよーっ!ふむふむ、君は妹が欲しかったんだね、わかった!』
言うなり、小さなPDAをどこからともなく取り出した。
『えっと・・・あったあった。性別を、女っと』
ぶつぶつと何か言い続けている兄がさすがに心配になった。
なったが、このマンガの続きを読むほうが優先度は高い。寝そべりながら頁を捲ろうとして
「あれ?」
何か息苦しいことに気付く。
胸の下に敷いていた座布団に目をやって、Tシャツと肌の隙間から、胸の谷間を垣間見た。無言で身を起こし、ふっくらと膨らんでいる胸に触れる。
「うわぁぁっ」
「うわぁぁっ」
硬直していた聡が我に返ると、童顔に似合わない大きな胸を両手で掴んでいる少女と視線があった。すぐに目をそらそうとして
「ま、まさか和樹か?」
Tシャツには韓国の国旗に描かれている変な模様が印刷されていて、それは間違いなく弟の和樹がさっきまで着ていたものだ。その紋様の大半が胸の谷間に沈んでいて、大きく膨らんだ双丘の尖端は、それぞれに尖っている。
「兄ちゃん、お、俺っ」
『あー。言葉使いがなってないなー』
聡の肩に立っているアニーがさらさらとPDAにペンを走らせる。
「お、おい、やめろっ」
「兄ちゃぁん、あたし、変だよねっ・・・あ、あたし?あれ?あ、あた、あたし・・・いやぁぁぁっ」
『仕草もだめ』
両手を激しく振り回していた和樹が、急にしくしくと啜り泣きを始め、両手で顔を覆った。そのままなよなよと崩れ落ちる。
『あとは・・・妹さんから好きって言われたいんだね。アニーに任せて!』
「やめてくれーっ」
『へ?』
アニーが間抜けな声を上げた。
ゆらり、と和樹が立ち上がる。
「お兄ちゃん……」
「ナ、ナナ、ナンデショウカ」
怪しい視線に顔を強ばらせつつ、聡は少しずつ後ろへ下がる。
「好き……好きなの……」
『もーっ、あんたがいきなり大声で言うから、間違えたじゃないっ』
キーキーとアニーがわめいたが、それどころではない。ゆらりゆらりと近づいてくる妹に、汗をだくだく流しながら聡は壁を伝って逃げ続ける。
やがて、部屋の端に追い込まれた。
「……しよ♥」
「正気にもどっ、む、むぐ、ぐぐ」
例え女になったとしても、和樹の筋力は聡を上回っていた。強く抱きしめられ、そのまま唇を奪われる。
「お兄ちゃんはあたしのこと、嫌いなの?」
涙をぽろりぽろりとこぼす。畜生!これが和樹じゃなかったら、と心の中で絶叫する。潤んだ大きな瞳といい、弟だった頃の面影は殆ど消えていて、とんでもなくかわいい女の子なのだから。
「あ、あなた達……」
どさり、と買い物袋が落ちる音と、姉の声。
彼女の目に映っているのは、押し倒されている自分と、馬乗りになっている妹。
「……聡っ!」
『あれー?幸運不足度が上がっちゃった……』
眼下の修羅場を眺めつつ、アニーは溜息をつく。
『ま、最初は失敗もあるわよね。次で挽回挽回!』
あはははは、と脳天気な笑い声は、「あたしはお兄ちゃんが好きなのっ」と泣き喚く少女と、「俺はなんて不幸なんだぁぁぁぁ」と絶叫する少年と、二人を激しくしかり続ける女性の声でかき消されたのだった。
2005年05月17日
女装した夢
TSF Nagivatorさんで「女装した夢」が紹介されていました。わたしも見たことがあります。
朝、普通に学校に(夢を見たときには、すでに卒業して数年経っていたのですが)出てきたところ、同級生が全員、隣接していた女子校の制服を身につけているのです。
驚いていると、以前から女装させたら似合うんじゃないか、と言われていた友人が「だめだよ、新しい制服を着てこないと」と、私に女子の制服を渡します。
「なんで?」と訪ねたところ「今日から、校則で決まったんだよ。忘れた?」と呆れられ、非常に恥ずかしいなと思いながらも「決まったのならしょうがないか」と身につけて、授業を受けたのでした。
女性になった夢も何度か見たことがありますが、大抵は「唐突に体が女性になっていて」という感じだったでしょうか。周囲にそれと気付かれないように、必死で隠そうとしていた覚えがあります。
朝、普通に学校に(夢を見たときには、すでに卒業して数年経っていたのですが)出てきたところ、同級生が全員、隣接していた女子校の制服を身につけているのです。
驚いていると、以前から女装させたら似合うんじゃないか、と言われていた友人が「だめだよ、新しい制服を着てこないと」と、私に女子の制服を渡します。
「なんで?」と訪ねたところ「今日から、校則で決まったんだよ。忘れた?」と呆れられ、非常に恥ずかしいなと思いながらも「決まったのならしょうがないか」と身につけて、授業を受けたのでした。
女性になった夢も何度か見たことがありますが、大抵は「唐突に体が女性になっていて」という感じだったでしょうか。周囲にそれと気付かれないように、必死で隠そうとしていた覚えがあります。
2005年05月12日
読んでみた・あそんでみた
・ゆえしあ(同人ゲーム)
これはTSFといっていいのだろうか?
マリみての流行以後、百合ものが目立って増えてきた。ただ、女性同士が愛し合うという状況への嫌悪感や不自然さを誤魔化すためか、「本当は男なのだが」というような設定として女性に体を変え、女同士で……というパターンもまた多くなった気もする。
ゆえしあでも、主人公が「もともとは男」という設定は希薄で(逆に言えば)必要性に欠けてしまっているのが惜しまれる
・カドゥケゥスの呪い(同人デジタルノベル)
非常に短いが、そこそこに良いのではないかと。これで途中経過がもう少し長ければと惜しまれます
・呪われた少女(アダルトコミック)
単行本で購入。星、一つ半……つまり可もなく不可もなくといったところか。
これで最後が
「いやだ、男に戻るなんて」
という感じだったらSHO的に最高だったんだけど、そこまでは贅沢を言ってはいけません。
これはTSFといっていいのだろうか?
マリみての流行以後、百合ものが目立って増えてきた。ただ、女性同士が愛し合うという状況への嫌悪感や不自然さを誤魔化すためか、「本当は男なのだが」というような設定として女性に体を変え、女同士で……というパターンもまた多くなった気もする。
ゆえしあでも、主人公が「もともとは男」という設定は希薄で(逆に言えば)必要性に欠けてしまっているのが惜しまれる
・カドゥケゥスの呪い(同人デジタルノベル)
非常に短いが、そこそこに良いのではないかと。これで途中経過がもう少し長ければと惜しまれます
・呪われた少女(アダルトコミック)
単行本で購入。星、一つ半……つまり可もなく不可もなくといったところか。
これで最後が
「いやだ、男に戻るなんて」
という感じだったらSHO的に最高だったんだけど、そこまでは贅沢を言ってはいけません。
2005年05月10日
改めて書き直しましたよ やおよろずさもなー(1)
やおよろず・さもなー 第一話、その1
キサは「甘いものさえあれば食事はいらない」というタイプなのだけれど、ぼくがそれに付き合っていたら間違いなく病院送りになるだろう。というわけで、買い物に行くのも料理をするのも、後片付けをするのもぼくの仕事だ。何しろ、ぼくとキサは二人暮らしなのだから。
……何か自分が騙されているような。いや、単なる錯覚だろう。ぼくは端末をたたき、駅前のストアへ接続した。
「いらっしゃいませーっ!」
安っぽいアニメ絵の、エプロンドレスを纏った女の子が、端末の上に浮かんで、優雅にスカートの裾を掴んでお辞儀した。
……システムをリニューアルすると聞いていたけど、こういう方向に強化したのか。
ここ数日の献立を伝えると、数秒間彼女は沈黙した。遅い。かなり古い機器で無理矢理動かされているのだろう、このAI。少し気の毒だ。
「今日のお勧めはこちらになります!」
表示されたのは、天然牛のステーキ。一週間くらい、キサと一緒にワッフルだけ食べて生活することに耐えられれば、ぼくの乏しい所持金でも何とかなるだろう。
というか、まともに栄養バランスとかを考えて選んだのか、この献立?疑わしい。一番高いものを売りつけようとしていないだろうか。
疑念の目差しに気付いたのだろうか。
「はい?」
エプロンの裾で手を拭っていた彼女が首を傾げた。
「気にしない。ええと……予算はこれくらいなんだけど」
「ふむふむ」
渋い顔で悩まれた。むにゅ、と柔らかそうな頬を指先がつついてへこませる。
な、なんて無駄なところに技術と資金を投じているのだろう。そういえばこのストアの店長はクラシック・アニメのコレクターという噂を聞いたことがある。店の利益よりも趣味を選んだに違いない。
「むぃーっ」
変なうなり声を上げられてしまった。というか、そこまでぼくの言った予算は低いのか?
「こんなところでどうでしょう?」
示されたのは、サラダと塩。もちろん天然ものではない。
「……って、これだけ?」
「はい、お勧めです。ご主人様の食事には野菜が不足しています」
微笑まれてしまった。
「さっきのステーキは」
「それ以外ですと、コロッケとパンなど」
「野菜が入ってない」
むぅ、と彼女は頬をふくらませて、そっぽを向いてしまった。
「ワガママなご主人様!もう知りませんっ!」
いいのか、この店。
予算を引き上げて、コロッケとサラダと塩を注文したぼくは端末の電源を落とした。
「キサ、買い物に行ってくるね」
「ん」
昨日、図書館から戻ってきてからキサの様子がおかしい。部屋にこもったきり出てこないのだ。今の返事も扉越しだ。
「あけていいかな、キサ」
「死にたくないならやめておけ」
「さすがに、死を覚悟してまで開けはしないね」
端末からはき出されたカードを差し込むと、調理されたコロッケ、塩とドレッシングがパックされたサラダがトレイに乗って「受け取り口」から出てくる。殆どが自動化されていて、支払いも端末に登録されているクレジットでの決済で、つまり楽々だ。
さらに。ぼくの前にいるのも、その前にいるのも、後ろにいるのも、そろさらに後ろにいるのも、全員がロボットだ。
買い物にかぎらない。自動車に搭載されているAIは、人間という気まぐれで、眠くなったりよそ見をしたりする生き物よりもずっと安全に目的地まで運んでくれる。たまに歩いている人を見かけるが、ほとんどが運動不足を解消するためのスポーツとして歩いているだけだ。人間の体力が衰えているわけではない。ただ、その体力は行楽としてのハイキングや山登り、レジャーのために使われているだけで。
「〜♪」
気兼ねなく、ぼくは口笛を吹きながら蒼く晴れ渡った空の下を歩く。コロッケとサラダを供にして、家に帰った。
扉を開けると、そこは古書によって占領されていた。
「……これはいったい」
蔵書印が捺された古書が、キサの部屋から溢れ出ている。蝶番ごと吹っ飛んだ扉が、ぼくの部屋の扉と激突している。
つまり、だ。ぼくは目を閉じて人差し指を立てる。
キサの部屋で山積みになっていた古書が扉に向かって崩れ落ち、施錠されていた為に支えきれなくなった扉ごとリビングに流れ込んだ、と推理できる。
「一目でわかることをいちいち言うのは、お前の悪い癖だな」
またぼくは、思っていたことを口に出していたらしい。古書が作り上げた室内の丘陵地帯、そのどこからかキサの不機嫌な声が聞こえてきた。
いや、手が少しだけ丘の上に出ていた。もぞもぞと動き、ぐーの形で拳が握られた。
「……?」
ぼくが見ていると、それはぱーの形になり、ついでちょきになった。
「じゃんけんをしたいのかい、キサ」
「違う。助け出そうとしないお前を殴ってやろうと思ったのだが、いややはり平手打ちが良いと考え直した。だが、それでも傍観しているお前には目つぶしこそふさわしい」
ぼくが、慌ててキサを引っ張り出したのは言うまでもない。
キサは、閉じていた目を開いた。美しい瞳がぼくをとらえる。
「櫛はどこだ」
冷ややかな声。ああ、ぼくはまたキサを失望させてしまった。美しい黒髪はキサという完成された美を構成する重大な要素の一つ、けれどあんな姿勢だったのだから、髪がぐしゃぐしゃになっていることくらい予想できただろうに。ぼくは自分の至らなさを歎きつつ、古書を踏まないようにと壁伝いに洗面所まで行って、櫛を持ってきた。
ばさばさになっている黒髪を櫛で梳き、キサは古書を一冊広げる。
「昨日から、何を読んでいるのか興味のあるぼく」
「授かった力を活用する方法だ」
その参考資料が、20世紀末のコミック雑誌やマンガの単行本というのはどういうわけだろう。
「ううっ」
誰もいない片隅から、啜り泣く声が聞こえてきた。
「ぼくの目には見えないけれど、そこにいるのは腐れすっとこどっこい妖精のアニーなんだろうね」
ふわふわと、一冊の古書が浮かんでいる。時折ページが捲られているが、そこには誰もいない。いや、確かに存在しているのだ。ただぼくの目には見えないというだけで。なぜって、妖精を見ることができるのは清らかな心の持ち主だけであって、つまりキサのように汚れのない清純な少女くらいにしか見えないのだろう。ぼくの心は決して汚れている訳じゃなく、ぼくには心なんてものがないだけだ。
溜息をつく。ぼくは日常的な日々を送りたいというのに、世界はぼくに日常的な日々を送らせてくれない。年上のお姉さんに見える同級生と一緒に生活しているだけの、それこそどこにでも転がっていそうな平凡なぼくだというのに。
「キサ様、どうか世界を救われても、自らを犠牲にすることはなさらないでくださいっ」
浮かんでいるのは、古い古い「少女コミック」と呼ばれる単行本だった。
「うむ。悪しき妖精の跳梁跋扈を防ぐために、世に希望と光をもたらす。選ばれた異世界の少女である私が、二つの世界を共に守るのは定めというべきか」
ぼくの理解を超えた世界がそこに広がっていた。
まあ、話を少し整理しよう。
そもそもの始まりは、妖精という変な連中がバカなことをしたのが発端だ。
今から一千年程昔の話だ。それまで一つだった世界が二つに分離を始めた。一つは科学と法則の支配するこの世界。もう一つは、魔法のような「そんなのありかよ」という事が可能な世界。妖精であるアニーに言わせれば、自分たちの世界を支配する法則を科学といい、異世界を支配しているが自分たちの世界の法則に反する法則を魔法というのだそうだが。
ともかく、妖精達は科学の支配する世界では存在を赦されない。なぜなら、妖精は「情報」を操ることで、物理法則等々、こっちの世界の法則を無視する事ができたからだ。ところが、何しろ身の丈数十センチという矮小な脳みそしか持っていない妖精達だ。「何とかなるだろう」と調子に乗って、魔法という対抗手段を失ったこっちの世界の住人に好き勝手な悪戯を始めた連中がいた。
が、その連中は気付いた。科学という法則が、二つの世界を結んでいた道を塞いでしまったことを。
数百年の呆然が終わって、こっちの世界に残った妖精達は二つのグループに分かれた。
一つは、人間の恐怖や憎悪等々、負の感情を増大させ吸収し、それによって「道」を作ろうという連中だ。人間の感情でなんで道が開くのかは、ぼくにはよくわからない。
もう一方は、いずれ二つの世界が接近し融合することが確実なのだから、放っておけばいいというグループだった。
「ま、だから人間が恐怖のどん底で滅んでもいっかーと思ってたんだけど、あんまり派手なことをされると、人間が魔法の存在に気付きかねないでしょ。そうなったら、二つの世界ごと破滅しそうだし」
と、なぜ「悪い妖精」のすることを妨害するのかと、「ほっとけ派」の一人であるアニーは至極面倒そうにぼくに説明をした。
悪い妖精達は、人間の負の感情を増幅させる。例えばぼくが誰かを憎んでいるとしよう。彼らはぼくの憎悪を膨らませ、彼らの力を借りさせて、ぼくがその誰かを殺すようにし向けるのだ。
殺された奴にも、きっと親しい人間は何人かいるだろう。ぼく一人が持っていた憎悪は、ぼくが殺人を犯すことで数倍の憎悪に膨れあがるのだ。
妖精の姿を見ることができたキサは、アニーと共に世界を救うための戦い、つまり悪い妖精との戦いに身を投じたわけだった。
……ところで、この長すぎるプロローグで疑問を持つ人は必ずいるだろう。そう、なぜそれで少女コミックを読んでいるのか、と。
「そうかなぁ」
疑わしげな声が空中から聞こえてきた。心を読まれたに違いない。
「いや、例によってお前が虚空を見つめながらぶつぶつ独りごちていた」
「沈黙は金なりだなあ」
しみじみと……って、そうじゃなくて。
「ふむ。善良なる存在を従え、悪しき存在と戦う。そのような物語を図書館で検索したところ、この本が該当したのだ。そこで、参考とするために借りて読んだ」
ここにクラシックタイプのゲーム機がないことを奇蹟に思うべきだろう。
「というわけで、行くぞ」
彼女は古本を蹴散らす勢いで部屋に駆け込み、一瞬で制服に着替えて飛び出てきた。
「キサ、ちょっと待ってよ、行くってどこに行くのさ」
「古典のたしなみがないというのは哀しむべきだな、アニー」
「そうね」
哀れむような視線を、何もないところから感じる。
「古文書に依れば、多くの場合、悪と戦う少女の敵は、学校にいるのだ」
それは話を作る上の都合だとぼくは思う。日本に住んでいる女の子が、いくら正義のためとはいえ昨日はアメリカ今日はパリというわけにはいかないから。
「何をしている。さっさと着替えろ」
「キサ、昨日ぼくは制服をクリーニングに出したところなんだよ」
溜息をつく。以前「やってみる」というのでキサに洗濯を頼んだところ、マイクロメートル単位で仕上がりにこだわり始めたので、それから洗濯やクリーニングもぼくがやっているのだ。
キサの制服とぼくの制服を一緒に出すのは、なんとなく躊躇われたので、ぼくの制服だけをクリーニングに出しているのだ。
というのは無論口実であって、せっかくの夏休みをこんなことに使いたくないというのが本音だ。
「そうか、口実か」
またやってしまった。
「ふむ……」
キサは少し考え、すぐに頷いた。いや、ぼくよりも数千倍早く廻る彼女の頭脳だから、熟慮の末の決断であるに違いない。そう期待するぼくの髪をキサが撫でた。
「う……」
途端に、全身を悪寒が包んだ。
ぼくよりも10センチくらい背が高いキサを見上げ、何をするのかと尋ねようと口を開く。しかし、彼女の顔がどんどん小さくなる。違う、ぼくの体が縮み始めたのだ。
「き、キサ……、何を……」
「うむ。先日、アニーよりもらった力でお前に戦ってもらったのは覚えているだろうか」
「それくらい、覚えてるに決まってるじゃないか」
思い出したくないが、忘れられない記憶というのはある。
「その時の情報を記憶しているので、再構成している。それから、服についてはこの」
とキサはスカートの裾を掴んだ
「制服の情報で変換中だ。初等部の制服は、中等部と同じだから実に助かるな。まあ、リボンの色が違うだけだが。女子生徒が女子の制服で学校に行く、問題解決」
「すばらしくエレガントな解決策です、キサ様」
「うむうむ」
自画自賛しているキサと、太鼓持ちの妖精の暢気な声が頭の上から聞こえてくる。
「に、二度とあんな姿に、な、にゃ、るものか……」
胸が膨らもうとするのを押しとどめようと、両手で強く押し返す。ふにゅ。掌の中央付近で、突起の存在を感じてしまう。
「ふにゃあ」
思わず吐息を漏らすぼくを興味深そうに見ていたキサが、言った。
「いつも思うのだが、なぜ猫と人間の情報を混ぜ合わせると、耳だけが猫になるのだ」
「うにゃ、にゃあっ」
尖った耳をつままれた。
少し遅れて、胸の辺りに感じていた重みが和らぎ、それが肩にかかったのを感じる。考えたくないが、つまりそういう……
見下ろせば、ささやかに膨らんだ胸がブレザーを押し上げている。足下は、さっきから涼しい風が吹き抜け、時折薄い布がさらさらと触れている。
「うう……キサ、一つ致命的な欠陥があるよ」
「なんだ」
「猫耳と」
恥ずかしさを押し殺しつつ、お尻に手を伸ばし、細長いそれを掴んだ。
「尻尾の生えた女の子なんて、学校にはいにゃい……」
「……そういえば、そうだな。まあ、何とかなるだろう」
「にゃらにゃいっ」
抗議するぼくは、しかしキサの片手で頭を押さえられると何もできなくなった。
「なぜなら」
キサは拳を握り、深く頷く。
「正義の少女に従う、お助けキャラが猫耳少女であったとしても、それは良くあることとして許容される。行くぞっ!」
「うにゃぁぁーっ」
ひょいと片手でぼくを抱き上げ、キサは傲然と扉を開けた。
(続く)
キサは「甘いものさえあれば食事はいらない」というタイプなのだけれど、ぼくがそれに付き合っていたら間違いなく病院送りになるだろう。というわけで、買い物に行くのも料理をするのも、後片付けをするのもぼくの仕事だ。何しろ、ぼくとキサは二人暮らしなのだから。
……何か自分が騙されているような。いや、単なる錯覚だろう。ぼくは端末をたたき、駅前のストアへ接続した。
「いらっしゃいませーっ!」
安っぽいアニメ絵の、エプロンドレスを纏った女の子が、端末の上に浮かんで、優雅にスカートの裾を掴んでお辞儀した。
……システムをリニューアルすると聞いていたけど、こういう方向に強化したのか。
ここ数日の献立を伝えると、数秒間彼女は沈黙した。遅い。かなり古い機器で無理矢理動かされているのだろう、このAI。少し気の毒だ。
「今日のお勧めはこちらになります!」
表示されたのは、天然牛のステーキ。一週間くらい、キサと一緒にワッフルだけ食べて生活することに耐えられれば、ぼくの乏しい所持金でも何とかなるだろう。
というか、まともに栄養バランスとかを考えて選んだのか、この献立?疑わしい。一番高いものを売りつけようとしていないだろうか。
疑念の目差しに気付いたのだろうか。
「はい?」
エプロンの裾で手を拭っていた彼女が首を傾げた。
「気にしない。ええと……予算はこれくらいなんだけど」
「ふむふむ」
渋い顔で悩まれた。むにゅ、と柔らかそうな頬を指先がつついてへこませる。
な、なんて無駄なところに技術と資金を投じているのだろう。そういえばこのストアの店長はクラシック・アニメのコレクターという噂を聞いたことがある。店の利益よりも趣味を選んだに違いない。
「むぃーっ」
変なうなり声を上げられてしまった。というか、そこまでぼくの言った予算は低いのか?
「こんなところでどうでしょう?」
示されたのは、サラダと塩。もちろん天然ものではない。
「……って、これだけ?」
「はい、お勧めです。ご主人様の食事には野菜が不足しています」
微笑まれてしまった。
「さっきのステーキは」
「それ以外ですと、コロッケとパンなど」
「野菜が入ってない」
むぅ、と彼女は頬をふくらませて、そっぽを向いてしまった。
「ワガママなご主人様!もう知りませんっ!」
いいのか、この店。
予算を引き上げて、コロッケとサラダと塩を注文したぼくは端末の電源を落とした。
「キサ、買い物に行ってくるね」
「ん」
昨日、図書館から戻ってきてからキサの様子がおかしい。部屋にこもったきり出てこないのだ。今の返事も扉越しだ。
「あけていいかな、キサ」
「死にたくないならやめておけ」
「さすがに、死を覚悟してまで開けはしないね」
端末からはき出されたカードを差し込むと、調理されたコロッケ、塩とドレッシングがパックされたサラダがトレイに乗って「受け取り口」から出てくる。殆どが自動化されていて、支払いも端末に登録されているクレジットでの決済で、つまり楽々だ。
さらに。ぼくの前にいるのも、その前にいるのも、後ろにいるのも、そろさらに後ろにいるのも、全員がロボットだ。
買い物にかぎらない。自動車に搭載されているAIは、人間という気まぐれで、眠くなったりよそ見をしたりする生き物よりもずっと安全に目的地まで運んでくれる。たまに歩いている人を見かけるが、ほとんどが運動不足を解消するためのスポーツとして歩いているだけだ。人間の体力が衰えているわけではない。ただ、その体力は行楽としてのハイキングや山登り、レジャーのために使われているだけで。
「〜♪」
気兼ねなく、ぼくは口笛を吹きながら蒼く晴れ渡った空の下を歩く。コロッケとサラダを供にして、家に帰った。
扉を開けると、そこは古書によって占領されていた。
「……これはいったい」
蔵書印が捺された古書が、キサの部屋から溢れ出ている。蝶番ごと吹っ飛んだ扉が、ぼくの部屋の扉と激突している。
つまり、だ。ぼくは目を閉じて人差し指を立てる。
キサの部屋で山積みになっていた古書が扉に向かって崩れ落ち、施錠されていた為に支えきれなくなった扉ごとリビングに流れ込んだ、と推理できる。
「一目でわかることをいちいち言うのは、お前の悪い癖だな」
またぼくは、思っていたことを口に出していたらしい。古書が作り上げた室内の丘陵地帯、そのどこからかキサの不機嫌な声が聞こえてきた。
いや、手が少しだけ丘の上に出ていた。もぞもぞと動き、ぐーの形で拳が握られた。
「……?」
ぼくが見ていると、それはぱーの形になり、ついでちょきになった。
「じゃんけんをしたいのかい、キサ」
「違う。助け出そうとしないお前を殴ってやろうと思ったのだが、いややはり平手打ちが良いと考え直した。だが、それでも傍観しているお前には目つぶしこそふさわしい」
ぼくが、慌ててキサを引っ張り出したのは言うまでもない。
キサは、閉じていた目を開いた。美しい瞳がぼくをとらえる。
「櫛はどこだ」
冷ややかな声。ああ、ぼくはまたキサを失望させてしまった。美しい黒髪はキサという完成された美を構成する重大な要素の一つ、けれどあんな姿勢だったのだから、髪がぐしゃぐしゃになっていることくらい予想できただろうに。ぼくは自分の至らなさを歎きつつ、古書を踏まないようにと壁伝いに洗面所まで行って、櫛を持ってきた。
ばさばさになっている黒髪を櫛で梳き、キサは古書を一冊広げる。
「昨日から、何を読んでいるのか興味のあるぼく」
「授かった力を活用する方法だ」
その参考資料が、20世紀末のコミック雑誌やマンガの単行本というのはどういうわけだろう。
「ううっ」
誰もいない片隅から、啜り泣く声が聞こえてきた。
「ぼくの目には見えないけれど、そこにいるのは腐れすっとこどっこい妖精のアニーなんだろうね」
ふわふわと、一冊の古書が浮かんでいる。時折ページが捲られているが、そこには誰もいない。いや、確かに存在しているのだ。ただぼくの目には見えないというだけで。なぜって、妖精を見ることができるのは清らかな心の持ち主だけであって、つまりキサのように汚れのない清純な少女くらいにしか見えないのだろう。ぼくの心は決して汚れている訳じゃなく、ぼくには心なんてものがないだけだ。
溜息をつく。ぼくは日常的な日々を送りたいというのに、世界はぼくに日常的な日々を送らせてくれない。年上のお姉さんに見える同級生と一緒に生活しているだけの、それこそどこにでも転がっていそうな平凡なぼくだというのに。
「キサ様、どうか世界を救われても、自らを犠牲にすることはなさらないでくださいっ」
浮かんでいるのは、古い古い「少女コミック」と呼ばれる単行本だった。
「うむ。悪しき妖精の跳梁跋扈を防ぐために、世に希望と光をもたらす。選ばれた異世界の少女である私が、二つの世界を共に守るのは定めというべきか」
ぼくの理解を超えた世界がそこに広がっていた。
まあ、話を少し整理しよう。
そもそもの始まりは、妖精という変な連中がバカなことをしたのが発端だ。
今から一千年程昔の話だ。それまで一つだった世界が二つに分離を始めた。一つは科学と法則の支配するこの世界。もう一つは、魔法のような「そんなのありかよ」という事が可能な世界。妖精であるアニーに言わせれば、自分たちの世界を支配する法則を科学といい、異世界を支配しているが自分たちの世界の法則に反する法則を魔法というのだそうだが。
ともかく、妖精達は科学の支配する世界では存在を赦されない。なぜなら、妖精は「情報」を操ることで、物理法則等々、こっちの世界の法則を無視する事ができたからだ。ところが、何しろ身の丈数十センチという矮小な脳みそしか持っていない妖精達だ。「何とかなるだろう」と調子に乗って、魔法という対抗手段を失ったこっちの世界の住人に好き勝手な悪戯を始めた連中がいた。
が、その連中は気付いた。科学という法則が、二つの世界を結んでいた道を塞いでしまったことを。
数百年の呆然が終わって、こっちの世界に残った妖精達は二つのグループに分かれた。
一つは、人間の恐怖や憎悪等々、負の感情を増大させ吸収し、それによって「道」を作ろうという連中だ。人間の感情でなんで道が開くのかは、ぼくにはよくわからない。
もう一方は、いずれ二つの世界が接近し融合することが確実なのだから、放っておけばいいというグループだった。
「ま、だから人間が恐怖のどん底で滅んでもいっかーと思ってたんだけど、あんまり派手なことをされると、人間が魔法の存在に気付きかねないでしょ。そうなったら、二つの世界ごと破滅しそうだし」
と、なぜ「悪い妖精」のすることを妨害するのかと、「ほっとけ派」の一人であるアニーは至極面倒そうにぼくに説明をした。
悪い妖精達は、人間の負の感情を増幅させる。例えばぼくが誰かを憎んでいるとしよう。彼らはぼくの憎悪を膨らませ、彼らの力を借りさせて、ぼくがその誰かを殺すようにし向けるのだ。
殺された奴にも、きっと親しい人間は何人かいるだろう。ぼく一人が持っていた憎悪は、ぼくが殺人を犯すことで数倍の憎悪に膨れあがるのだ。
妖精の姿を見ることができたキサは、アニーと共に世界を救うための戦い、つまり悪い妖精との戦いに身を投じたわけだった。
……ところで、この長すぎるプロローグで疑問を持つ人は必ずいるだろう。そう、なぜそれで少女コミックを読んでいるのか、と。
「そうかなぁ」
疑わしげな声が空中から聞こえてきた。心を読まれたに違いない。
「いや、例によってお前が虚空を見つめながらぶつぶつ独りごちていた」
「沈黙は金なりだなあ」
しみじみと……って、そうじゃなくて。
「ふむ。善良なる存在を従え、悪しき存在と戦う。そのような物語を図書館で検索したところ、この本が該当したのだ。そこで、参考とするために借りて読んだ」
ここにクラシックタイプのゲーム機がないことを奇蹟に思うべきだろう。
「というわけで、行くぞ」
彼女は古本を蹴散らす勢いで部屋に駆け込み、一瞬で制服に着替えて飛び出てきた。
「キサ、ちょっと待ってよ、行くってどこに行くのさ」
「古典のたしなみがないというのは哀しむべきだな、アニー」
「そうね」
哀れむような視線を、何もないところから感じる。
「古文書に依れば、多くの場合、悪と戦う少女の敵は、学校にいるのだ」
それは話を作る上の都合だとぼくは思う。日本に住んでいる女の子が、いくら正義のためとはいえ昨日はアメリカ今日はパリというわけにはいかないから。
「何をしている。さっさと着替えろ」
「キサ、昨日ぼくは制服をクリーニングに出したところなんだよ」
溜息をつく。以前「やってみる」というのでキサに洗濯を頼んだところ、マイクロメートル単位で仕上がりにこだわり始めたので、それから洗濯やクリーニングもぼくがやっているのだ。
キサの制服とぼくの制服を一緒に出すのは、なんとなく躊躇われたので、ぼくの制服だけをクリーニングに出しているのだ。
というのは無論口実であって、せっかくの夏休みをこんなことに使いたくないというのが本音だ。
「そうか、口実か」
またやってしまった。
「ふむ……」
キサは少し考え、すぐに頷いた。いや、ぼくよりも数千倍早く廻る彼女の頭脳だから、熟慮の末の決断であるに違いない。そう期待するぼくの髪をキサが撫でた。
「う……」
途端に、全身を悪寒が包んだ。
ぼくよりも10センチくらい背が高いキサを見上げ、何をするのかと尋ねようと口を開く。しかし、彼女の顔がどんどん小さくなる。違う、ぼくの体が縮み始めたのだ。
「き、キサ……、何を……」
「うむ。先日、アニーよりもらった力でお前に戦ってもらったのは覚えているだろうか」
「それくらい、覚えてるに決まってるじゃないか」
思い出したくないが、忘れられない記憶というのはある。
「その時の情報を記憶しているので、再構成している。それから、服についてはこの」
とキサはスカートの裾を掴んだ
「制服の情報で変換中だ。初等部の制服は、中等部と同じだから実に助かるな。まあ、リボンの色が違うだけだが。女子生徒が女子の制服で学校に行く、問題解決」
「すばらしくエレガントな解決策です、キサ様」
「うむうむ」
自画自賛しているキサと、太鼓持ちの妖精の暢気な声が頭の上から聞こえてくる。
「に、二度とあんな姿に、な、にゃ、るものか……」
胸が膨らもうとするのを押しとどめようと、両手で強く押し返す。ふにゅ。掌の中央付近で、突起の存在を感じてしまう。
「ふにゃあ」
思わず吐息を漏らすぼくを興味深そうに見ていたキサが、言った。
「いつも思うのだが、なぜ猫と人間の情報を混ぜ合わせると、耳だけが猫になるのだ」
「うにゃ、にゃあっ」
尖った耳をつままれた。
少し遅れて、胸の辺りに感じていた重みが和らぎ、それが肩にかかったのを感じる。考えたくないが、つまりそういう……
見下ろせば、ささやかに膨らんだ胸がブレザーを押し上げている。足下は、さっきから涼しい風が吹き抜け、時折薄い布がさらさらと触れている。
「うう……キサ、一つ致命的な欠陥があるよ」
「なんだ」
「猫耳と」
恥ずかしさを押し殺しつつ、お尻に手を伸ばし、細長いそれを掴んだ。
「尻尾の生えた女の子なんて、学校にはいにゃい……」
「……そういえば、そうだな。まあ、何とかなるだろう」
「にゃらにゃいっ」
抗議するぼくは、しかしキサの片手で頭を押さえられると何もできなくなった。
「なぜなら」
キサは拳を握り、深く頷く。
「正義の少女に従う、お助けキャラが猫耳少女であったとしても、それは良くあることとして許容される。行くぞっ!」
「うにゃぁぁーっ」
ひょいと片手でぼくを抱き上げ、キサは傲然と扉を開けた。
(続く)
2005年05月02日
2005年04月19日
し、しにそう
無茶苦茶に忙しくなってきて、更新がままなりませんが。
・「感じない男性」
というような題名の本を先月、書店で立ち読みしたのですけれどそこで「なぜ日本の男性にロリコンが多いのか」というような章があって、そこに、第二次性徴前後に「女の子になりたい」と願う男性が多いのでは?とか「髭が生えたりゴツゴツした体つきに」なる自分に対して、「可愛らしく美しく」なっていく少女達に羨望するのは自然、みたいな事が書いてあったのです(記憶を頼っているので、違っている可能性大ですけれど)
それを買いたいなぁと思いつつ、書店による暇もないので購入できません、がっくり。
・「感じない男性」
というような題名の本を先月、書店で立ち読みしたのですけれどそこで「なぜ日本の男性にロリコンが多いのか」というような章があって、そこに、第二次性徴前後に「女の子になりたい」と願う男性が多いのでは?とか「髭が生えたりゴツゴツした体つきに」なる自分に対して、「可愛らしく美しく」なっていく少女達に羨望するのは自然、みたいな事が書いてあったのです(記憶を頼っているので、違っている可能性大ですけれど)
それを買いたいなぁと思いつつ、書店による暇もないので購入できません、がっくり。
2005年03月28日
おかしなふたり
真城の城で連載されている「おかしなふたり」は、長編変身ものTSF として非常に好きな作品の一つです。
興味の対象が衣装に向けられている為、その方面のシチュエーションが満載!メイド服、チャイナ服、制服、ウェディングドレス、ゴシック・ロリータ等々、「男が着るものではない」衣装が次々と出てきます
興味の対象が衣装に向けられている為、その方面のシチュエーションが満載!メイド服、チャイナ服、制服、ウェディングドレス、ゴシック・ロリータ等々、「男が着るものではない」衣装が次々と出てきます
ノベライズ
自分のツボの一つが TSものだ!...と自覚したのは「ふたば君ちぇんじ!」を読んだときだったと記憶しています。
その後、フランス書院ナポレオン文庫の「俺はオンナだ!?」を購入してしまい、坂道を転げ落ちるようにはまってしまったのですね
で、ゲームとして遊んだことはないのに「X Change」のノベライズ作品を購入。このノベライズは非常に出来が良かったのですよ
ゲームでは「さっさと女性化」してしまうのに対し、ノベライズでは心理描写が非常に細かい。(口調の女性化はそのままでしたが)
ラスト付近でも「男性に戻る」という壁をちゃんと用意してある辺り、どことなく X Change Alternative を彷彿させます。
ちなみに、ノベライズの「X Change2」は駄作だと思っています。
Shift!のノベライズも購入。こっちはノベライズのほうが良い出来なのですけれど、どちらかというと「ゲームがダメ過ぎる」という感じです。
その後、フランス書院ナポレオン文庫の「俺はオンナだ!?」を購入してしまい、坂道を転げ落ちるようにはまってしまったのですね
で、ゲームとして遊んだことはないのに「X Change」のノベライズ作品を購入。このノベライズは非常に出来が良かったのですよ
ゲームでは「さっさと女性化」してしまうのに対し、ノベライズでは心理描写が非常に細かい。(口調の女性化はそのままでしたが)
ラスト付近でも「男性に戻る」という壁をちゃんと用意してある辺り、どことなく X Change Alternative を彷彿させます。
ちなみに、ノベライズの「X Change2」は駄作だと思っています。
Shift!のノベライズも購入。こっちはノベライズのほうが良い出来なのですけれど、どちらかというと「ゲームがダメ過ぎる」という感じです。