2007年12月31日

《身代わり》―第378話

378「一生君は心の影に追われることになる。今のままじゃ、どこへ行こうともね」
 男の声が言った。
 振り返ると、皮膚を剥がれた乳児のような薄茶色い生物が立っていた。
「ソヌフ・・・・・・!?」
 リピスは言った。
 生物の顔は、いつもより艶を帯びて見えたがたしかに三十過ぎの男・ソヌフそのものだった。
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2007年12月30日

《身代わり》―第377話

377「ウロ様ー、ウロ様ー! どこにいらっしゃるのー」
 リピスは"立入禁止"の札を鉄板で倒して、線路に踏み入った。
 風が吹き抜けた。近くのひときわ高い鉄塔が目に入る。
 全力で道行く人をなぎ倒して、リピスは宿屋からここまで来たのだった。
「ウロ様と落ち合う場所は本当にここでいいのかな。駐輪場の近くの金網からちゃんと入ってきたんだけど・・・・・・」
 恐ろしいまでに人気がなかった。
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2007年12月29日

《身代わり》―第376話

376「残りのババアも退治してやるぞー!」
 リピスは世にも凶悪な笑みを浮かべ、くるくる踊りながら鉄板を振り回した。
「わう、うあう」
 巨人化した老婆も、残りの三十五人の老婆たちも、皺くちゃの唇を歪めたりすぼめたり、目で鉄板の動きを追うだけが精一杯といった顔で後じさりした。
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2007年12月28日

《身代わり》―第375話

375「おとーようじん! 音用心!」
 逞しい声をあげる大人の男たちは、どんどん偽令嬢リピスの方へ近づいてくる。
 黄色いシャツが横一列、ショッピングセンターにいる人々に注意を呼びかけ、存在をしらしめている。
「無音状態にご注意くださーい! 無音にならないようにつねに音を出し続けてくださーいっ」
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2007年12月27日

《身代わり》―第374話

374 リピスは自転車の大群に目をつけ、陸橋の入口で立ち止まった。
「昆虫のようにうじゃうじゃ行き来しやがって」
 自転車に乗って陸橋を降りてくる主婦たちはリピスに格別の注意を払うでもなく、せわしなげに加速度をつけて坂を降りては十字路に散っていく。
「機械化したようにペダルを交互に押すその様がまず気に食わねえ」
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2007年12月26日

《身代わり》―第373話

373 メニル区から時速百キロで飛ぶこと二時間、空中絨毯はいよいよグランセンの上空に入った。
「おお、さすが片田舎。高層ビルが一つもない。ずいぶん平坦な町だなあ、どんぐりの背比べみたいに低い家が犇めきあってる」
 ツイ牢住人第一部隊のピアニスト・フォルクスは顎に指を置きすまし顔で、嘲った。
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2007年12月25日

《身代わり》―第372話

372「今から話す一九三一年以降のイマカンダルの歴史は、当然ながらこの一九三〇年ではまだ起きてない出来事だ」
 魂蒐集家レツアムは真剣な目つきをして一同の顔を見渡した。
「イマカンダルについてどこで調べたんですか?」
 自称天才作曲家トママがとぼけた目を向けて訊くと、レツアムは不満げな表情をして、
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2007年12月24日

《身代わり》―第371話

371「一つ言いたい事があるんですけど!」
 〈情熱〉を注入されたマヌーは声をあげた。
「おう、早速熱いのが来たね。何なに?」
 サカサリが勢い込んで訊くと、マヌーは建築家ジョヤを指差し、
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2007年12月23日

《身代わり》―第370話

370「なんとこの懐中時計、手間といったら枝からもぎ取るだけ。だけどこの大木、今日しかメニル区でお目にかかれない。そこでそこで今日は頑張って、全部無料でご提供。さあもらったもらった。ただで楽園生活が手に入るビッグチャンスだよ」
 ポン、ポポンと幹を扇子で叩くウルスティ。
 しかし大木の周りに集まった群衆は、
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2007年12月22日

《身代わり》―第369話

369「あなたの信じてる〈空気〉なんてありゃしませんよ、マヌーさん」
 建築家ジョヤは冷笑した。
「・・・・・・!?」
 周囲を眺めやったマヌーは驚きを隠せなかった。
 辺りの光景はすっかり変わっていた。
 殺人的大混雑は嘘のように消えている。
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2007年12月21日

《身代わり》―第368話

368「『魂切り』って何だよう?」
 時間産出士アラウィジュが訊くと、
「見て」
 室内装飾家ヤイはアラウィジュの目を路上に向けさせた。
「邪魔なんだ、どけ!」
 一人が殺人未遂を起こしたのをきっかけとして、道路では暴力の連鎖反応が起きていた。
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2007年12月20日

《身代わり》―第367話

367 空中絨毯では、地球大統領アモトミが手の平で地球儀を転がしながら、
「サカサリは実行したかな?」
 サイズ調整士ツアのグラスに酒を注いで質問した。
「標的に関してはバッチリだよ」
 ツアは上機嫌にサインを送った。
 と、同じテーブルのレースの帽子の女性が、
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2007年12月19日

《身代わり》―第366話

366 エネルギー変換士サカサリは顔色一つ変えず、空中絨毯から下界へ飛び、ワイヤーで吊られたようにすーっと群集の上空へ降りた。
 巨大化したピーに立ち往生する人々の上を、サカサリはスカートをふわりと浮かせて飛び、標的の女性のもとへ向かった。
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2007年12月18日

《身代わり》―第365話

365「また行きたくなったらいつでもどうぞ」
 そう言うと半人ジュンは、下着が見えるのも構わずでんぐり返しをした。
 クッケはうつむいて髪を触り、
「ありがとな」
 恥ずかしそうに礼を言い、
「時間がほしくなったら、本当にあんたに言えばいいの?」
 訊いた。すると半人ジュンは脚を頭に乗せた体勢で止まり、
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2007年12月17日

《身代わり》―第364話

364 緑と青紫のガラス天井からは時折一挙にズザザア・・・・・・と葉が降ってくる。
 人形たちはえさに群がる鯉のように葉を咥えた。
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2007年12月16日

《身代わり》―第363話

363「俺をどこまで落とせば気が済むんだよ。この闇、三度目だぜ」
 わめいた途端、人形ジュンの手がクッケから離れた。
「おい!」
 クッケはとても平常心ではいられなくなっていた。
 上下に走る線路はパチパチ時折激しい閃光を炸裂させる。
 線路に絡まる糸は、生き物の指のようにあちこちで蠢いていた。
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2007年12月15日

《身代わり》―第362話

362「俺はなんでこんな地の底で自由に息ができるんだ・・・・・・」
 クッケ少年はタゴラン市メニル区の格子状の街並みを、地下二千メートルから見上げていた。
 中心街はスカイスクレイパーが林立しているはずだが、地底から覗いては皆平坦で区別がつかなかった。
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2007年12月14日

《身代わり》―第361話

361 クッケは人形と大地を突き抜け、地球の内部に落ちていった。
 人形は炎のように栗色の髪をゆらめかせ、逆さにしたマッチ棒のように落ちている。
 トンネルを通ってるわけでもないのに体はおかしなほど土を透過していき、いつまも墜落しつづけた。
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2007年12月13日

《身代わり》―第360話

360 人形はクッケの体をつかみ、飛んだ。
「うわー」
 いきなりの事態にクッケは目を丸くして、叫んだ。
 人形が飛んでいることも、まして自分が人形につかまれて飛んでいる事も全部信じられなかった。
 生まれて初めての事だし、自分が宙に浮くなど考えた事もなかった。
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2007年12月12日

《身代わり》―第359話

359 クッケ少年は瞬きした。人形の見つめる真白いノートから水色の光が差し、一瞬鏡に変わったように見えた。
 人形は真白なページにみとれたまま、机の文房具をいじって、でんぷん糊に左手を突っ込み、掬い取った糊を自分の髪に撫で付けた。
「俺の物、勝手に使うな」
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