「不幸な海外MBAへの企業派遣制度」説は80%正しい(中編)どうすれば部屋を超絶綺麗に保てるかお教えしよう

2013年06月23日

「不幸な海外MBAへの企業派遣制度」説は80%正しい(後編)

中編からの続き)

すでに中編で述べた通り、僕は『採用基準』著者の伊賀氏と同様に海外MBAへの企業派遣制度に対しては否定的である。

しかしながら、僕が本エントリーのタイトルを「「不幸な海外MBAへの企業派遣制度」説は80%正しい」とした理由は、著者の言う「誰一人として得るもののない制度」という部分には反対するからである。

とてつもないフリーランチ

海外MBA派遣制度は、派遣する企業にとっては大きな負担である。だがその反面、派遣される従業員にとっては巨大な僥倖であることは間違いない。

少し考えただけでも、

  • 学費は全額企業負担。それどころか受験準備費用、インタビューのための渡航費用、合格後の語学学校通学費用なんかも負担してもらえる場合もある。
  • 給料は全額支給される上、住居費の負担もしてもらえる(しかも駐在員待遇)
  • 転職活動をしなくていいので、遊ぶ時間もいっぱい
  • 卒業するタイミングが不景気でも、仕事がみつからない心配がない
  • エリートコースに乗ったも同然なので、卒業後は面白い仕事に就ける可能性が高い
  • 条件のいい転職先が見つかったら、(多少のペナルティはあるかもしれないが)職業選択の自由を盾に転職できる(転職オプション

というように、僕のような私費留学生が涎を垂らして羨む条件に恵まれている。特に、「派遣元に戻るという選択肢を留保しつつ、いいオファーを貰えた時は転職できる」という転職オプションの価値は凄まじいものがある。

というわけで、もし派遣制度がある会社に勤めているのであれば、行くしかないでしょ。超巨大なフリーランチにありつけることを約束しよう。(海外嫌い・勉強嫌いな人は行かないほうがいいと思うけど。)

転職オプション行使を阻む恐ろしいルール

とは言ったものの、社費留学に行った後で転職オプションを行使するのは、実は言うほど容易ではない。なぜならば、そこには人間の行動を支配する強力なルールが立ちはだかったているからである。


上記の本は、有名なビジネス書なので読んだことがある人も多いかもしれない。本書は「人はなぜ説得されてしまうのか」という疑問に対して明快な答えを出してくれる。現在仕事で営業をしている人は、今すぐにでも読むことをお勧めする。

本書では説得方法のカテゴリーは6つにまとめられるとしているが、その中でまっさきに取り上げられているのが返報性の原理である。

これは何を意味するかというと、「他人がこちらに何らかの恩恵を施したら、似たような形でそのお返しをしなくてはならない」ということである。本書によると、「こうした恩義の感覚を伴う返報性のルールは、人間社会の文化に広く浸透している」という。太古の昔から、この返報性のルールは存在し、このルールのお陰で人間社会はここまでの発展を遂げてきたわけである。

この返報性のルールは非常に強力で、一度恩を受けてしまったら、途端に借りの気持が芽生えてしまうのである。本書には、この心理を応用したさまざまな説得テクニックが紹介されているので、興味ある方は是非お読み頂きたい。

前置きが長くなってしまったが、この返報性のルールがどう社費留学あるかというと、社費留学生がよく口にする以下の台詞に行きつく。

「社費で留学させてくれた会社には恩があるから、少なくとも○年は辞められない。」

個人には職業選択の自由があり、会社は労働者に対して雇用期間を制限することはできない。韓国で横行していると言われる奴隷契約も、日本では通用しない。最悪でも、留学に掛かった費用を返還すれば済む話であり、給与返還などの鬼のようなルールは通用しないのである(参考)。

なので本来であれば、卒業後に良いキャリア機会があれば転職オプションを行使して会社を辞めればいいだけの話だが、上記のように無形のプレッシャーを感じて正当な権利を行使できない元社費留学生も多いように見受けられる。

にも関わらず上記のような台詞(=会社への恩義)をよく耳にするのは、本書でも述べられている通り、「返報性のルールを破る人、すなわち他者の親切を受け入れるだけでそれに対してお返しをしようとしない人は、社会集団メンバーから嫌われる」からだろう。誰しも、進んで人に嫌われたくはないのである。

興味深いことに、本・雑誌などで目にする社費留学に行って辞めた人の成功談は、「会社に戻って数年間は頑張った、しかし自分一人の頑張りでは会社は変わらなかった。苦渋の決断だったが、会社を辞めるしかなかった。」というような悲劇の主人公形式になっている場合が多い。そして、大抵の場合、日本企業の古い体質を批判するような口調になっている。

「MBA卒業したら、ヘッドハンターから連絡があって年収3倍を提示された。前の職場に戻るのが馬鹿らしくなって辞めた。」というような、ぶっちゃけ話はほとんど語られることはない。恐らく発言者は本心を言っていると思うのだが、どことなく「自分は悪くない」と自己説得しているように思えてしまう。返報性の罠から逃れるためには、まずは自分自身を騙すことから始めなくてはならないようだ。

結論

またまた長くなってしまったので、この辺りでまとめることとしたい。

まず、社費留学を検討している人には以下の通りアドバイスしたい。

  • くどいようだが、社費留学制度は巨大なフリーランチなので、海外留学をしたい人は必ず挑戦するべきである。
  • 社費留学の旨味は転職オプションにこそあるので、常に転職できる準備はしておくこと。これは在学中に十分にキャリアサービスを利用して機会に備えておくこと、会社に隠れて夏期インターンに参加すること、退職時の学費返還に備えて貯金を作っておくこと、会社の人に口汚く非難される覚悟を持っておくこと、などが挙げられる。
  • そもそも現時点で会社に愛着のない人は、「転職したい」という気持と「恩を返さないといけない」という気持ちの板挟みになる可能性が高いので、退職して私費で行く方が精神衛生上はいいと思われる。

また、社費MBA留学制度全般に関わる提言は以下の通りである。

  • 『採用基準』の主張と同様、会社にとってのメリットは正直見えづらいので、基本は縮小・廃止の方向で考えるべき。
  • それよりも、必要であればMBA卒業生を外部労働市場から調達できる社内環境の整備のほうが圧倒的に重要。30代ミドルマネジャー層が意思決定に関与できるような権限移譲の強化とか、年功序列的な給与体系の弾力化とか、色々考えられる。外部から必要な人材を登用できるのであれば、わざわざ大枚を叩いて社費で留学させる必要はないはずだ。日本企業にありがちな純血主義から脱却できるかがポイントである。
  • あえて社費留学制度を残すのだとしたら、半分遊びのようなフルタイムMBAへの派遣ではなく、海外駐在員として通常乗務につかせた上で、パートタイムMBAに補助するのが賢いやり方だろう。パートタイムMBAに参加する人間は現地で仕事をしているはずなので、そこで築いた人脈を駐在員業務に活かせる可能性が高い。暇な時間に日本人駐在仲間とゴルフに行かせるよりは、まともな時間の使い方になるはずだ。パートタイムMBAに行くと相当忙しくなるはずなので、希望者も減少するという効果も期待できる。(現法はローカライズしたほうがいいから、日本人不要という話もありますが。。)

以上が僕の結論である。

実を言うと、僕の知り合いには何人も社費留学経験者がいる。
今回のエントリーは彼らに対して真正面から喧嘩を売る内容になってしまった。執筆の動機の半分くらいは、僕が常々「社費留学羨ましい…」と思っていたという嫉妬の気持ちから来ているので、ぜひ寛大な心で受け止めて頂きたい。

とは言いつつも、企業経営の観点からは、社費留学制度は見直すべきだという結論自体は変わらない。
この点については、ぜひ社費留学経験者の方々とディスカッションしてみたいところである。



shanghaifukei at 23:59│Comments(0)TrackBack(0)キャリア 
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