こんにちは。シェア・カンボジア事務所インターンの溝口です。

4月のカンボジア正月が明けてから、シェア・カンボジア事務所では離乳食のレシピ作成が始まりました。今回はおよそ2週間に亘って行われた栄養トレーニングの様子についてご紹介します。

このトレーニングの目的は、シェア・カンボジアのプロジェクト地であるプレアビヒア州で簡単に手に入り、日常的に食べられている食材を使った、妊婦さん及び乳幼児を対象とした料理のレシピを作成することです。前プロジェクト地であるプレイベン州で実施した離乳食のレシピ作りの活動を参考に、新たにプレアビヒアで食べられている食材に特化したレシピ作成を行いました。

さらに今回は、カウンターパートである州・郡保健局の栄養担当官をはじめ、日本から栄養専門家の木下ゆりさんにご協力を頂いて、レシピ作成に取り組みました。

どきどきの初日。はじめに、州・郡保健局の栄養担当官、女性子ども委員、木下さん、そしてシェアのスタッフの全員で顔合わせ、スケジュールの確認、そして木下さんによる栄養に関するレクチャーが行われました。木下さんからは、それぞれの食物にどのような栄養素が含まれているのか、根拠となる食品標準成分表を用いて、お話をして頂きました。

カンボジアでは栄養士や管理栄養士といった資格を持った専門職の整備がまだまだ十分ではありません。また、こうした成分表や、数字を元に食物の栄養価を示すことは、カンボジアでは珍しく、州・郡の栄養担当官もとても関心を持って、真剣にレクチャーを聞き入っていました。


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写真:左奥中央が州保健局栄養担当官のメン氏。その両脇は女性子ども委員さんたち。



翌日からは、2歳未満の子どもがいる家庭、妊婦さんがいる家庭を訪問し、その家庭での調理の様子や子どもの食事について、1日の中で食べる料理や食事回数について聞き取り調査を行いました。
料理の中で使われる食材の調達方法や、分量、作り方、調理器具に到るまで、細かく確認をして記録していきました。


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写真:村で訪問をしたあるご家庭の台所。使える食材や調理器具も限られています。



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写真:妊婦さんが昼食を準備している様子。



この調査の中で一つとても興味深かったことがあります。それは、村のお母さんたちがスマートフォンを使い、動画を見ることで離乳食の作り方を学んでいるということです。

これには、私たちも驚きです。カンボジアの農村地域でも、スマートフォンやインターネットの普及率は凄まじいものであることを実感しました。

ここから、私たちは大きなヒントを得ました。当初はレシピ作成のために必要な写真を撮ることを考えていましたが、写真に加えて、動画も入れてみてはどうだろう?ということになりました。

早速、事務所に戻って調査をした料理、食材の中から栄養価の高いもの、乳幼児でも食べられるものなどを考慮した上で、レシピ本に載せる料理を決定し、料理の試作です。思い立ったが吉日、動画撮影にもチャレンジです。


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写真:決定した料理とそれに含まれる食材、調理方法の確認。



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写真:シェア・カンボジア事務所内での試作の様子。
村での調査で分かった「スマホ・動画」のキーワードを参考に、一つひとつの調理の工程を動画に納めていきます。


ところで、シェアの離乳食レシピには、「プレアビヒアで手に入る・食べられている食材を使う」という特長の他に、もう一つ大切な工夫があります。それは「大人が食べる料理を調理している中から乳幼児用の離乳食を取り分けて作り、一度の調理で大人も子どもも食べられる料理が完成すること」です。ここから、シェアでは「とりわけ離乳食(Just one time cooking)」と呼んでいます。先ほどご紹介した写真にもあるように、電気・ガス・水道のないカンボジアの台所では、日本とは違って子どもの離乳食を個別に作ることは容易ではありません(電子レンジもありませんし!)。こうした現状を踏まえた離乳食作りをお母さんたちに伝えていることも、シェアの活動の特長です。

試作でも途中で取り分けを行い、大人用そして月齢ごとに理想とされる食事の形態になるように準備していきました。


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写真:月齢ごとの食形態の様子。
左から6ヶ月、7〜8ヶ月、9〜11ヶ月 、12ヶ月、大人用。



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写真:レシピ作成に初めて取り組む若いシェア・カンボジアスタッフ。
食材を真剣に吟味しています。徐々に慣れてきている様子です。



さて、試作した離乳食に対して、村の子どもたちやお母さんはどのような反応を見せたのでしょうか?その様子は次回のブログに続きます。


連休はいかが過ごされましたか。私は伊豆大島の三原山に行ってきました。海外事業担当の巣内です。

前回のブログで、東ティモールの離島や僻地では、基礎的保健サービス(5歳未満児への予防接種、妊婦健診、施設での医療者介助による出産)の利用が低いことをお伝えしました。

東ティモールでは、住民にとって一番身近な場所にある「ヘルスポスト」と呼ばれる診療所があります。なぜ住民は保健サービスを利用しない、診療所に行かないのでしょうか。

もちろん、離島や僻地で保健施設への道のりが困難であることは見受けられました。しかし、それだけではない現状が見えてきました。


※本事業は外務省による日本NGO連携無償資金協力の助成の他、皆さまからのご寄附やご支援を受けて実施しています。


現地でインタビュー調査を実施

昨年、シェアでは新しい事業を開始するにあたり、現地で住民や保健スタッフに対するインタビューを行いました。その結果、保健サービス提供者側、住民側の双方に課題があることが分かりました。

インタビューに協力してくれた住民(アタウロ)
インタビューに協力してくれた家族(アタウロ島)


保健サービス提供者側の課題

保健スタッフは、首都での研修や会議のために診療所を離れることがあり、住民がヘルスポストを訪れても保健スタッフが不在のことがあるそうです。離島や僻地には若手の医療者が配置されることも多く、まだスタッフの中には技術に不安を持っている方もおられました。そのため、住民が診療所や保健スタッフを信頼していないことが報告されました。

また、東ティモールでは定期的な巡回診療が行われていますが、設備の不足等により、それ以外の施設外活動の機会が限定的です。まだ保健サービスにアクセスできていない住民に対する働きかけができていません。


訪問診療の様子(メティナロ)
訪問診療の様子(メティナロ)


住民側の課題

保健サービスにアクセスできていない住民の間では、伝統的療法に頼ることもあり、診療所に行くことなく症状が重症化することもあります。妊娠出産や子どもの栄養に関する知識、感染症の予防に関する知識も不足しているようです。

こうした背景から、住民が保健サービスを利用できていないことが分かりました。そのため症状が重症化したり、自宅で死亡するケースもあります。結核のフォローアップを受けずに完治しなかったり、再発したりすることもあります。


インタビューに協力してくれた住民(メティナロ)
インタビューに協力してくれた住民(メティナロ)


3年間の事業をスタートしました

そこで保健サービス提供側、住民側の両者に働きかける、新しい事業をスタートしました。保健サービス提供側に対しては、施設環境整備、診療スキルの改善、住民側には保健促進活動を通して意識や知識の向上を行います。これから3年間をかけて、離島のアタウロ(Atauro)と、ディリ県でも僻地にあるメティナロ(Metinaro)で活動を行っていきます。


これからブログやSNSで活動報告をしていきますので、楽しみにしてください。




文責:海外事業担当 巣内秀太郎
入管法改定と外国人の健康


2019年4月より特定技能1号という新しい在留資格での外国人労働者の受け入れが始まりました。
この特定技能1号は建設・農業・介護・宿泊など14の業種で今後5年間に34万人程度まで受け入れる方針とされています。
この新しい制度はこれまで多数の外国人労働者の受け入れに利用されていた技能実習制度と何が異なるのでしょうか。技能実習生は賃金の未払いや最低賃金法違反、病気や妊娠での解雇など多くの労働法違反があり国会でも問題になりました。
技能実習生の場合労働者ではなく実習生としての立場であったために転職ができず、問題が是正されにくいという問題がありました。


 一方、特定技能1号は、同一業種ならば転職が許されるためこうしたトラブルが起きにくいという意見があります。これに対して、技能実習生の労働問題が放置されてしまった原因をしっかり解明せずに特定技能を始めれば同じ問題が再現されるという人もいます。
特定技能1号が技能実習と類似しているのは、学歴や業務経験などの既存の資格を必要とせず、代わりに日本語能力や業務の基礎的な能力など受け入れる業界側が作成する基準により審査がされるようになっていることです。
こうした資格審査を受けるためには日本語学校に行ったり研修を受けたりするなどのために一定の資金が必要です。そのために少なからぬ労働者が借金をすることになります。
借金をした労働者は当然それを回収するために何としても日本で働きたい事情が生まれます。こうして常に日本行きを強く望む労働者がプールされます。そうなると職場で不適切な扱いをされて転職を希望する労働者がいたとしても、新たに日本に来たい人材が多数いる中で、転職希望者は採用を忌避されて転職の自由は限定的なものになるという懸念があります。もう一つの類似点は、就労できる期間に制限があり延長が許されないことです。
このように就労の上限が設けられてしまえば、同じ立場で相談を受けられる熟練した仲間ができ難いことになります。


 これまでのシェアの取組でも外国人の健康を改善してきたのは10年〜20年日本にいて力をつけた同国人の仲間たちでした。問題が生じたときに解決を支援できるコミュニティの形成は健康の改善にも労働条件の改善にもとても重要です。
しかし、労働期間に制限を設けて熟練した労働者を育てないような受け入れ方法では、健康を守ることが困難になります。技能実習生や日本語学校生など就労期間に制限がある労働者を多数受け入れるようになった2012年から外国人の結核が急増しています。


graph

出典:公益財団法人結核予防会結核研究所疫学情報センター 
http://www.jata.or.jp/rit/ekigaku/



 今回の入管法改定に対して移民政策が始まったという報道が一部にありましたが本当にそうでしょうか。本来、移民政策は、定住を支援する政策であるはずです。今回の入管法改正は長期の在留資格が得られる特定技能2号を新設してはいますがそれは少数であり、就労期間に制限のある特定技能1号が多数です。就労期間に制限がある外国人労働者を増やすことにこそ特徴があると考えるべきでしょう。このままでは移民政策とは逆の方向に進んでいるという印象を持ちます。


 実は2000年代は、日系人の労働者や日本人と結婚して在留資格を得る外国人、高度専門技能の外国人が増加をし、定住性の高い外国人を増やす政策がとられていました。そして2006年に総務省が多文化共生推進プランを作成し、外国人の定住を促進する具体策を提示していました。つまり移民政策は2000年代に開始されていたのです。ところが2012年より技能実習生や日本語学校生を増やす政策が強化されて移民受け入れをしない方向に政策が転換され、今回の入管法改定もその政策をより具体化したものと考えることができます。


 このように労働期間を制限して労働力を入れながら定住を防ぐ政策は、経営効率上効果的だと考えられているのかもしれません。しかし長い目で見て本当に効率的なのでしょうか。外国人にとって望ましくない政策であるだけでなく、経営者の皆さんにとってもマイナスの効果がいくつも見えてきます。病気の外国人が増え外国人のコミュニティが育たず次世代の人材も育ちません。日本で安定的な職が得られる展望がなければ外国人の優秀な人材を集めることもできません。


 現代は世界の市場が瞬時につながってしまうインターネットの時代です。日本の商品を効率的に販売するためには様々な国籍の優秀な人材を企業が雇用する必要が出てきているでしょう。外国人には日本人がやりたがらない仕事だけ任せて商品開発や企業の運営は日本人だけでやるというやり方はもう時代遅れではないでしょうか。日本が健康で一定の豊かさを保った社会を続けていくには、社会構造を多様な文化や生き方を前提としたダイバーシティに対応した社会に変化させる必要があります。2020年のオリンピックに向けたこの数年はその最後のチャンスなのかもしれません。




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シェア=国際保健強力市民の会
副代表理事 沢田 貴志


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こんにちは。海外事業部・カンボジア事業担当の末永です。
夏の始まりのように暖かくなったかと思えば、真冬に逆戻りしたりと、気候の変化になかなか身体がついていきません。みなさまも体調を崩されないように、十分お気をつけくださいね。

数週間前から、シェアの事務所にたくさんの「宝箱」が届いています!
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どうですか、この高く積み上げられた段ボール(=宝箱)の山!すごい!(ただ、事務所の床が抜けないか心配…笑)。事務所内には置ききれないので、倉庫や別の場所など、写真以外のところにも保管してあります。

これは、シェアのドナーであるUAゼンセン様が実施されている「家庭に眠る小さなお宝キャンペーン」で集められた「お宝」の山です。

では、この気になる「お宝」とは一体何でしょうか?

その正体は、家庭に眠っている書き損じ・未使用ハガキ、未使用・使用済み切手、未使用の金券やカード類、外国紙幣、CD/DVDなどです。UAゼンセンに加盟されている労働組合の組合員の方々が、ご家庭や職場に眠っているこうした「お宝」を集めてシェアの事務所に送ってくださっているのです。

「使用済み切手がお宝になるの??」と思われるかもしれません。
実は、シェアに送っていただいた使用済み切手は、コレクターの方などに買い取っていただいています。使用済み切手が2キロあれば、カンボジアの農村でお母さんたちに離乳食教室を1回開催することができます。

労働組合のみなさまが集めてくださったこの品々は、私たちにとって本当に「宝の山」なのです!!!!

また、みなさまが一生懸命集めてくださった「お宝」は、シェアの火曜ボランティアさんたちが、私たちの予想をはるかに上回るスピードで品物ごとに仕分けをしてくださいました。
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火曜だけでなく土曜日まで事務所に来てお手伝いをしてくださったボランティアさんもいらっしゃり、本当に感謝してもしきれません。

事務所を埋め尽くしていた「宝箱」が、ボランティアさんの力であっという間にきれいに仕分けられました。
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いただいた「お宝」は、品物ごとに分けられたあと、業者の方などに買い取っていただき、カンボジアの農村でおこなわれる乳幼児健康診断や離乳食教室などの活動資金となります。先日は、CDやDVD、ゲームソフトを「本棚お助け隊」の方が受け取りに来てくださいました。
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このように、みなさまが集めてくださった「家庭に眠る小さなお宝」は、めぐりめぐって、子ども達の健やかな成長につながっています。
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UAゼンセン加盟の労働組合のみなさま、本当にありがとうございます。これからもシェア・カンボジアの応援を、どうぞよろしくお願いいたします!


文責:
シェア カンボジア事業部 末永

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The Power of String 表紙写真



Dr.本田のひとりごと(74)番外編


 デビッド・ワーナーさんが主宰するNGO・Healthwrightsのニュースレター最新号で特集された、タイのHSF(Health and Share Foundation)によるバディ・ホーム・ケア(Buddy Home Care)に関する最新報告の翻訳です。一部、デビッドの記憶違い(写真1.の取られた場所が佐久の松原湖でなく、名古屋になっていたり、私のことを過大に評価してくださっているところは、少し訂正したり、言葉を補っています。ご了承ください。

 それにしても、「紐の力」(The Power of String)という、チェリーさんたちHSFチームの独創的な参加型ミニ・ドラマが、アメリカや日本のような、子どもの自殺やいじめ、虐待の問題に悩む国にとっても普遍性をもち、ほんとうのケアリング・コミュニティとは何かを、考えさせるよい糧となっていることを、皆さんにもぜひ味わっていただきたいと思います。)


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シエラ・マドレからの手紙(Letter from the Sierra Madre) #84 2019年3月

NGO・Healthwrights

▼homepage:http://www.healthwrights.org

もっとも疎外されている人たちといっしょに生きること

(インクルージョンとは)


「紐(ひも)の力」

バディ・ホーム・ケアの新しい動き ウボン県タイ国
報告者:デビッド・ワーナー


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 私(デビッド)が行なった、2017年5月のタイへの訪問については、私たちのニュースレター「シエラ・マドレからの手紙 81号で書きました。

Newsletter #81 HEALTH SERVICES IN A LAND OF CONTRADICTIONS: Innovations in Thailand to meet health needs of the most vulnerable.

>>>ニュースレター「シエラ・マドレからの手紙 81号<<<

 その時、私デビッドが、最も革新的・独創的な保健活動として紹介したのが、いわゆる「バディ・ホーム・ケア(Buddy Home Care)でした。これは、HSF(Health Share Foundation)という現地の草の根組織が始めた活動です。今号のニュースレター#84ではこの、有望な試みの最新情報を皆さんにお伝えします。

 ニュースレター81号で書きましたように、ウボン県の現地財団HSFによる活動は、もともとは日本のNGOシェアによって始められたものでした。いまやHSFはシェアからは完全に独立し、志あるタイ人たちの共同の事業として運営されています。

 HSFは、親団体だったシェア同様に、堅実な平等主義の精神に基づき、「もっとも不利な人たちを先にしてあげよう」との哲学で活動しています。HSFとシェアの関係は、依然として親密なものです。

 NGOシェアは、本田徹医師たちによって設立されました。彼は包括的なプライマリ・ヘルス・ケアの一人のパイオニアで、アジアやアフリカのいくつかの国々で地域保健活動を続けてきました。

 トオルと私は、さまざまな保健、人権、虐げられた人たちの擁護などの面で、同じ考え方を共有しています。過去20年にわたり、シェアは私を東ティモール、タイ、日本などで開催された、さまざまなワークショップ、セミナー、助言活動などに、招いてくれました。過去に、シェアも参加した翻訳グループが、私とデビッド・サンダースによる「いのち・開発・NGO」(新評論刊・原題 Questioning the Solution, the Politics of Primary Health Care and Child Survival)を日本語で出版しています。そして、今年(2018)シェアは、今やほぼ100ヶ国語に訳されている私の農村ヘルス・ケア手引書 であるWhere There Is No Doctor(邦題 医者のいないところで)の新しい版を翻訳・上梓してくれました。

写真1.デビッドと徹 佐久にて2009年

【写真1】人びとを中心に置くプライマリ・ヘルス・ケアの活動者・本田徹医師が長野県の佐久・松原湖で私と一緒に並んで立つ(2009年)。彼の手に掲げるのは、同年に翻訳・出版された「医者のいないところで」。

 東北タイ(イサーン地方)における地域保健活動は、1990年にシェアの工藤芙美子らによって、包括的なPHCとして開始されました。このプログラムでは、下痢などの、主として貧困から生じる普通の病気の予防と治療に、焦点が当てられました。しかし、3年ほどすると、村人たちの要請もあり、当時もっとも恐れられていた保健問題であるHIV/AIDSに重点が移されていきます。・・・それ以降は、一番疎外され、スティグマ(偏見・烙印)を負わされた住民グループのニーズに応え、彼らのインクルージョン(包摂)そして、エンパワメントの実現に、活動は注力していきます。

 こうしたスティグマを負わされたグループには、例えば、ゲイ、トランスジェンダーの人たち、ストリートチルドレン、セックスワーカー、そして、貧しいラオスや近隣諸国からの移民者が含まれています。これらのグループに属する人たち自身が、今ではプログラムの中で、中心的な役割を果たしています。

さて、バディ・ホーム・ケア活動は、2016年にHSFによって、二種類の、立場の弱いグループへの支援を目的として開始されました。1)困難な状況に置かれた子どもたち、2)慢性的な病気や障害を持つお年寄り、です。バディ・ホーム・ケア活動の狙いは、病気や障害で不利な立場にある人びとのニーズに対して、子どもたちが、地域のケアギバー(介護者としての訓練を受けた保健ボランティア)のバディ(相棒)となって家庭訪問を一緒に行う中で、応えていくというところにあります。

 「バディ」であるケアギバーと一緒に、この子どもたちは、定期的に近隣の高齢で、体の弱った病人の家を定期訪問し、助けてあげています。このプロセスの中で、高齢者と子どもはしばしば親密で互いに支えあうような絆を結ぶようになっていくのです。こうして、自ら弱い立場にある子どもが、ケアギバーと、さらには介助を必要とするお年寄りと、互いに支え合う同志、または「バディ」となっていく。これは、三者のウインーウインーウインの関係ということもできるでしょう。

 私(デビッド)が前回1年半前にタイを訪れてから以降、バディ・ホーム・ケアのプロジェクトはその活動範囲を広げ、気づきを高めていくような参加型の方法で、より多様な地域の人たちにアウトリーチ(接近)していくようになりました。これは、地域住民が互いに気遣いを共有し、インクルージョンを進めていった結果です。

 私は最近、トオルからもらった手紙で(彼は2017年5月の私のウボンへの旅行に同行してくれ、その後2018年8月にフォローアップの現地視察をしてくれたのです)、バディ・ホーム・ケアの新しい展開について知ることができました。

写真2.トムとトオル

【写真2】本田徹医師(写真右手)が、彼の最近のタイ訪問(2018年8月16日)で、HSFのスタッフ、トム(Thom)と並んで、新設のケマラート病院保健活動トレーニングセンターの建物前に立っている。トムはすぐれた教育者であるとともに活動家であり、バディ・ホーム・ケアのワークショップの運営責任者となったり、このニュースレターで紹介するロールプレイの企画や実施を助けてくれたりしている。

写真3.チェリーとトム

【写真3】新設のケマラート病院トレーニングセンターの前に立つ、チェリー(Cherry)とトムの二人は、HSFのリーダーだ。この建物はヘルス・プロモーター(保健ボランティア)の集会の場であり、LGBTの仲間が集って活動し、HIV/AIDSの人たちやバディ・ホーム・ケアの活動やワークショップのためにも利用される。

 私への手紙の中で、トオルは、HSFによる新しい、人びとの気づきを高める活動を紹介してくれています。それは、「紐の力(The Power of String)」という、すこし謎めいた名前のロールプレイ(役割劇)です。トオル医師は、HSFの代表であるMs.チェリーによって作られたこのロールプレイの筋書きを、写真とともに私に送ってくれました。以下のような観察記事は、トオルの手紙、チェリーから届いた補足を合わせ、私がまとめあげたものです。

 「紐の力」というロールプレイを始める前に、「見あげて話す、見おろして話す」というアイスブレィキング(座を和ませる)の余興が司会ニーナさんの導きで行われました。このゲームでは、全参加者がペアになります。それぞれのペアのうち、一人が床に座り、もう一人が彼女・彼を見おろすように立ち、ペアはお互いに話し始めます。こうして、一人が見あげるようにして話し、他の一人が見おろすように話します。次に二人ともが床に腰をおろして、話し続けるように勧められます。つまり、今度は同じ目線の高さでペアは話し合います。それが終わると、まとめの全体討論があり、参加者が座位と立位という違った位置でどう気分の差を感じたか、また話す時の姿勢の動力学的変化(dynamic)が、実際の生活の場での、平等・不平等の感覚の違いと対応するのかどうかなど、グループで討論します。この練習が、次のロールプレイへの舞台を準備することになります。

写真4. 見上げると見おろす

【写真4】アイスブレイキングの練習「見あげて話す、見おろして話す」において、参加者はペアを組み、一人は立ち、相手は座る。立った人は見おろすように話し、座った人は見あげるように話すことになる。次に二人ともが座って、同じ目線で話し合う。これに引き続くグループ討論の中で司会者は、「この話す時の立ち位置の違いは、実際の生活での人間関係をどう反映するのか考えてください。」と問いかける。

 「紐の力」のロールプレイは、10代の妊娠について考えるものです。
このワークショップに参加する人たち(保健分野や福祉分野のワーカーたち、ホームケアのバディたち)は、コミュニティのさまざま異なったメンバーの役を演じます。それらの役には、保健ボランティア、村長、保健・医療機関のスタッフ、教師など、村において、子どもたちに対してある期間、影響力を及ぼす立場の人が含まれます。このワークショップでは、「バディ」たちに、スティグマ(社会的偏見・烙印)がどのように、その烙印を押された人を苦しめるか、を知ってもらうことが目的となります。


 私はトオルから送られてきた、「紐の力」のロールプレイの報告をもとに、それを少し編集して以下に示してみます。

 「このたび私(トオル)は、ケマラート郡で、バディ・ホーム・ケアのワークショップを見学する機会をもちました。テーマと目的は、ティーン(10代)の若者たちの激怒、いじめ、薬物嗜癖・乱用、スマホ依存、そして妊娠などの問題に対して親の気づきを促そうというものでした。こうした問題は、タイだけでなく、アメリカでも日本でも蔓延している、共通のものと私は思います。このワークショップで演じられた、非常に興味深いロールプレイは、まさにティーンの妊娠を扱った、ミニ演劇でした。

 このロールプレイに主演する役者は若者グループのリーダーですが、妊娠した中学校の女生徒役に扮して、大きな輪の中心に座らされています。彼女を取り囲んでいるのは、(参加者でも役者でもある)20名ほどの村人たちです。ドラマの中での彼らの職業や女生徒との関係は多岐にわたり、村長、彼女の父親、母親、祖母、祖父、姉妹たち、兄弟たち、伯母、学校の先生、福祉局の役人、ヘルス・センターの職員などなどです。

 第一場では、少女を囲む面々は非常に彼女に対して批判的で、「お前は村にとっても、家族にとっても、学校にとっても恥さらしだ。」と言った発言が飛び交います。一人がこうした不親切で、凍りつくような発言を投げかけるごとに、少女の体は、ビニールの紐で巻かれ、非難者の手に紐の端が握られます。最終的には、彼女の体は20本以上の紐でがんじがらめにされてしまいます。

 少女の顔は、いくら芝居の上とは言え、緊張で引きつり、絶望的な表情のように見えます。

写真5.ぐるぐる巻きにされた少女

【写真5】 ロールプレイの第一場では、妊娠した女子生徒に対して、少女を取り囲む全員が批判的である。誰かが彼女に残酷で叱責するような言葉を投げかけるたびに、少女の体に紐が巻かれ、批難した人の手に紐の端が握られる。最後には20本以上もの紐で彼女の体はぐるぐると巻きつけられてしまう。

 ところが、第二場では、人びとは少しずつ心を和らげていきます。彼らの言葉も、チェリーの表現によると「ネガテイブからポジテイブへ」と変化していくのです。

 ……彼女を取り巻く人びとの態度も、穏やかで受容的なものになっていく。例えば、「もし赤ちゃんが生まれた後、学校に戻りたければ、大丈夫よ。」(学校の先生)とか、「妊婦健診のクリニックにいらっしゃいね。」(保健センターの助産師)などの言葉をかけてあげるようになります。

写真6.紐を解かれた少女

【写真6】ロールプレイの第二場では、妊娠した中学生を取り囲む人びとはだんだん理解をもち、親切になっていく。一人がやさしい言葉をかけてあげると、そのたびに紐が一本取り除かれていく。

 すべての紐が取り除かれた後で、少女と「村人たち」(ワークショップの参加者がそれぞれ演じている)は集まって、第一場を演じて互いに心に感じたことを話し合い、次に第二場を演じてどのように彼らの心持ちが変化したかを語り合った。

写真7.まとめのグループワーク

【写真7】ロールプレイのまとめに、参加者はそこから学んだことを話し合い、各グループで模造紙に結論を書いた。(写真に出ている模造紙を囲む4人の若者は皆このプロジェクトの「バディ」である)

 トオル医師は以下のように語っています。

 「私にとってこのロールプレイの鑑賞は、本当に心から感動すべき体験だったのです。私のぎこちない英語が、このミニ・ドラマの香りをすこしでも伝えているとよいのですが。・・・」

 一方チェリーは、今回の活動のサマリーとして、次のような結論を書き送ってくれました。

 「この活動は村の人たちに、ティーンの妊娠について、ときに否定的であったり、ときに支援的であったりして揺れている、彼らの真の気持ちを自由に表現してもらうよい機会になったと思います。」

 「彼らが吐くむごい言葉は、少女を傷つけ、安らぎを与えません。こうした態度は、ゆっくり聴いてあげる態度に戸を閉(た)ててしまい、子どもらと一緒に問題を解決していくことをむずかしくします。こうして、参加者は否定的な気持ちを肯定的な気持ちと比べてみて、後者のほうが少女にとっても、自分たちにとっても、より受け入れやすいものであることを悟ります。」

 「ティーン世代に対してより多くの否定的な感情のあるところでは、より多くのスティグマ(偏見)と差別が生まれ、最悪の場合、彼らを自殺に追い込むのです。」

写真8. 心ないことばで凍り付く少女の心

【写真8】これら底意地の悪い言葉すべてが、家族や先生や福祉カウンセラー、村長などから一斉に投げかけられると、若者リーダ−のように、ただ妊娠した中学生役を演じているだけの女性でも、みじめで、心かき乱される状態になってしまうものなのだ。

 こうした子どもたちの問題を解決していくためには、HSFは近隣のコミュティにまで、働きかけをしていかねばならないのでしょう。

 バディ・ホーム・ケアに従事する、大人のケアギバー(保健ボランティア)と子どもの相棒は、彼らの支援を必要としている、立場の弱い人たちに対して、裁くことなく、支援的な態度で接し、スティグマや差別を生む言葉に対して、鋭敏でなければならないのでしょう。否定的な態度は、妊娠した少女に対して、彼女にとって必要な保健サービスを受けることを、拒ませてしまう結果を生じやすいのです。

 結論として、私(デービッド)はこう考えます。「紐の力」の活動は、一人の人間の健康と福祉は、その人自身の身体と精神の健康状態だけに依存しているのではなく、彼女を取り巻く周囲の人びとの態度や接し方によるところが大きいのだということを、如実に私たちに気づかせてくれるのです。

 よいヘルス・ケアを提供するためには、ケアリング・コミュニティ(気づかい合う地域)が必要です。HSFチームの活動は、さまざまな意味において、こうした支えあいのケアリング・コミュニティを創っていくための助けとなることでしょう。


(2019.4.5 翻訳・文責 本田 徹)



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こんにちは、花粉症が治りかけてきている気がして春の悩みが一つ減りそうな、海外事業担当の巣内です。

シェアでは2019年2月から新しいプロジェクト「住民参加によるプライマリヘルスケア強化事業」をスタートしました。今回はプロジェクト開始の背景に迫ります。


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東ティモールってどんな国?

アジアで一番新しい国「東ティモール」は、2002年にインドネシアから独立しました。21世紀になって初めて独立した国でもあります。

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シェアの学校保健事業に参加した学校の子どもたち

その名の通り、「ティモール島」の「東側」の半分が東ティモールです。面積は東京、神奈川、千葉、埼玉を合わせたくらいで、約120万人の人が暮らしています。テトゥン語とポルトガル語を話します。

農業が主要な産業で、コメ、トウモロコシ、イモ類などを生産しています。輸出用にはコーヒー栽培も盛んで、日本でも売られていますので、東ティモールのコーヒーを飲まれた方もいらっしゃると思います。


東ティモールにも離島がある

小さな島国の東ティモールですが、アタウロ島とジャコ島という2つの離島があります。新しい事業で対象となるアタウロ島は、首都ディリ県に属しています。

アタウロ島は、ディリ港からフェリーで3時間の距離です。「アタウロ」は現地語で「山羊」の意味で、島で山羊がたくさん飼われていたことに由来すると言われています。


atauro
アタウロ島の住民のボートでの移動の様子


住民は島の海岸沿いに暮らしています。中央部は山地となっていて、舗装道路もないため、保健センターには歩いていくか、船で行かなければなりません。


基礎保健サービスのカバー率に課題

新しい事業では離島のアタウロ島(Atauro)と、ディリ県の中でも僻地にあるメティナロ(Metinaro)の2ヶ所で活動を行います。この2ヶ所は基礎的保健サービスのカバー率が低い地域です。



ratio
5歳未満の予防接種の完了率(左)と施設分娩率(右)


そこでプロジェクトでは、保健医療サービスの改善と、住民の保健推進活動への参加によって、サービス利用を促し、人々の健康状態が改善することを目的にしました。


「基礎的保健サービス」とは・・・
この事業では、5歳未満児への予防接種、妊婦健診、施設での医療者介助による出産を指します。サービスを利用することで、予防可能な感染症を防ぐことができるなど、住民の健康増進につながります。


metinaro
メティナロでも住民は山道を超えて保健センターを訪れます



次回のブログでは、「なぜ住民は保健サービスを利用しないのか」、シェアが現地で行った調査の結果をご紹介します。





文責:海外事業担当 巣内秀太郎
皆さん、こんにちは。今年の1月より、シェア・カンボジア事務所でインターンとして活動をしております、溝口です。カンボジアでは、現地代表のモーガン及びカンボジア人スタッフの業務をサポートさせて頂いています。これからブログを通して、私からもカンボジアの様子を伝えていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

ここカンボジアでは、朝からセミの声が鳴り響いています。私事ですが、幼少期は夏になると、毎日のように兄と共に近所でセミ捕りをするのが恒例でした。時にはセミの幼虫を捕まえてきて、自宅で羽化させていたことも記憶しています。

そんな夏を思い出させてくれるカンボジアですが、先日、ここカンボジア事務所に日本からの素敵な季節のお便りが届きました。

pic20190313_01写真:埼玉県にお住まいのドナー様から頂いた、新年のお便りです。


pic20190313_02写真:“すべての人に笑顔のプレゼントを” と書かれたメッセージ入り。


ちなみに、一緒に写っているうさぎのぬいぐるみは、We21ひらつか様が作成してくださったものです。これから、乳幼児健康診断に参加してくれる子ども達のもとに届けられます。

こちらの他にも東京都にお住まいのT様から年賀状を頂きました。こうしたお便りはシェア・カンボジア事務所内に飾らせて頂いており、シェアスタッフの励みになっています。1年中夏のような暑さが続くカンボジアですが、こうした季節の挨拶は、どこか心をほっこりとさせてくれますね。

またこうしたドナーの方々は、「子どもの栄養改善プロジェクト」を含む、シェア・カンボジアがこれまでカンボジアで実施してきた母子保健事業を長期に渡って支えて下さっています。シェア・カンボジアの歩みは、毎日が順調という訳ではありません。過去には公的助成金が取れず、資金的にとても苦しい時期もありました。しかしこうした苦しい時期でも、皆さまのご支援のお陰で、シェア・カンボジアでは1988年から途絶えることなく、カンボジア国内の様々な地域において活動を継続していくことができています。このようなこれまでのドナー様とシェアの繋がりを聞き、私自身新参者ながら改めてその歩みに魅力を感じています。

そして現在、シェア・カンボジアでは、プレアビヒア州で「子どもの栄養改善プロジェクト」に取り組んでいます。プロジェクトを行うのは、現地で働くカンボジア人スタッフであったり、カウンターパート(事業の共同実施者)である州保健局および群保健局・保健センター・保健ボランティアであったりしますが、日本に住む皆さまのサポートがあるからこそ、カンボジアの子どもたちの成長を支える活動ができているのだと痛感する毎日です。

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事務所近くにある私の宿舎の前を通り過ぎる水牛と、それを見つめる子ども。


来月からシェア・カンボジアではプレアビヒア州で手に入る食材を使った、離乳食レシピの考案・作成も本格的に行なっていきます。これからも子どもたちの健康、そして健やかな成長を守っていけるよう、プレアビヒアの人々と共に尽力する毎日が続きます。

今後とも、シェア・カンボジア事業への温かいご支援をどうぞよろしくお願いいたします。


シェア・カンボジア事務所
インターン 溝口