![]() ホテル日航東京はホテルウェディングにおいて、見込み客数を減らして成約率のアップを狙った。結婚式と住宅の共通点は高額な事だけではなく、契約した時だけが買い物では無い事だ。買う前も買った時も買った後も、等しく高額な買い物をする客に見合っただけのサービスが求められる。つまり契約前からサービスは始まっている。 ホテル日航東京は、見込み客の数(新規来館)が2000年に4000組以上だったものが、2005年には2300組まで減ったという。一方成約率は18%から37%まで上昇した結果、挙式を挙げる客数は720組から851組まで増えている。これは自社のサービスを求めている層に対してあらゆる面で明確な絞込みを行い、それを成功させた事が数字から読み取れる。
ビジネスでは客層を明確にしろ、といった事が言われるが、接客に手間の掛かる商品に関しては特にそうだろう。来客数が半減した事によって、一組あたり倍近くの時間と手間を掛けられるようになれば、現場の負担も減り、必要な仕事に集中出来る。 ゼクシイのデータによれば、新婚カップルが見学する式場の数は平均で4つほど、ブライダルフェアには2.6回ほど行く。ブライダルフェアも下見としてカウントすると、カップルは4回~6.6回の下見で成約するので、平均的な成約率は15~25%程度となる(かなり簡易的な計算だが実態と大きくずれてはいないようだ)。18%では明らかにその気で来た客まで取りこぼしているレベルだが、37%ならばよそから客を奪っているレベルだろう。 ホテル日航東京は現在年間1000件の挙式を4年連続で挙げているという。これは無駄な見込み客を減らして自社を目当てに来た客を取りこぼす事なく確実に成約まで持っていく、そして冷やかし客でもしっかり接客する事で獲得する、といった事が出来ているからではないかと推測する。 ウェディングプランナーの業務は新規に来店した顧客の接客・獲得と当日までの対応で役割が分かれているケースと分かれていないケースがある。これは会社に寄るが、明確に分かれていない場合、自社目当てで来店したお客様、そしてお金を払ってくれたお客様に充てるべき時間が、冷やかし客が多いほど無駄な仕事に奪われる事を意味する(ホテル日航東京の場合は分けていないという)。 この構図は住宅営業でも同じだろう。本気のお客様や契約に至ったお客様への対応が冷やかし客への対応でおろそかになるのであれば本末転倒だ。 非常に面白いデータがある。同じくゼクシイのデータによれば、新婚カップルが結婚式場を選んだ理由は、1位が式場、2位が披露宴会場と、設備が上位になっている。3位以降は接客、交通の便、料理が良い、などある程度ばらけている。 一方、ここで式を挙げるのは辞めようと思った理由としては、断トツで会場スタッフの態度や対応が悪い、つまり人が1位となっている。これは結婚式が一生に一度の大切な儀式でしかも高額、それならばウマの合わない人には間違ってもお願いしない、というブライダル特有の決め方だろう。 この特徴は不動産業にも当てはまるに違いない。一生に一度で高額、しかも人生を左右しかねないほどの買い物で、多くの人が多額の借金も同時に背負う。もし人生の一大事に、数打ちゃ当たるで集められたハーゲンダッツの引換券目当ての客と同列に扱われたらお客様は一体どう思うか。どうしてもこの物件以外目に入らない、という事でなければ、真っ先に購入の候補から外されるだろう。 場合によってはこの物件に決めた!と事前に思っていても、営業マンが間違った対応で信頼を失えば「こんないい加減なヤツが売ってる物件、大地震が起きた時に大丈夫か?」などと疑念を与えかねない。本来、住宅性能に関してそんな選び方をするのは間違っているが、素人である客が判断する以上、中身のわかりにくい商品(住宅はその代表格だ)ほど売り手の印象が判断の可否に大きな影響を与える。 不景気が続く中、お客様はお金にシビアで、ウェブや雑誌、書籍などに情報はあふれている。定年前にローンを終えた方が金銭的には安全、なぜなら老後資金を貯める時間が必要だから、定年から年金がもらえるまでの5年の空白期間を知っているか? 年間300万円としても5年で1500万円も生活費がかかって退職金なんて簡単に吹き飛ぶ、将来年金の支給開始が遅れればその空白期間が更に広がるかもしれない、などと言われたら、定年後まで続く住宅ローンはマズイと多くの人が自然と受け入れるだろう。このような話は自分も「住宅購入における予算の決め方 その1 その2」で説明したし、ウェブを検索するだけでも簡単に出てくる にもかかわらず、40代の夫婦に変動金利・35年ローンのシミュレーションを嬉々として差し出し、退職金で完済すれば問題ない、などとアドバイスをする営業マンがいたら、客から信頼を得る事は出来ない(実話、というか販売の現場では普通の話)。 自分が夫婦の側ならば「あなたは私たちが35年後にどういう生活を送っているか、35年間どういう生活を送っていくか、ちゃんと考えたうえでこういう提案をしているんですか?」と聞くだろう。きっと営業マンはきょとんとするだけで何も答えられないに違いない。家を売るという事はそれ位責任の重い仕事のはずだ。 ホテル日航東京はレアケースでウェディング業界全てがこのような状態ではないが(それどころか強引な勧誘や不適切なキャンセル料の問題で業界全体が揺れているような状況だ)、他業種の成功例は参考になるだろう。 もちろん、自分にとってはいい加減な販売方法が横行する方がビジネス的にはプラスだ。不動産屋に自分のやっているようなリスクを前提にした住宅購入の予算診断などをやられてしまったら商売あがったりだろう。しかしその可能性はゼロに近い。 先日「高額商品は増税後に買え」で書いたとおり、住宅の買い時は増税前ではなく、あくまで自身のタイミングで決めるべきだ。しかし実際には駆け込み需要が大量に発生し、エコポイントに沸いた家電メーカーと同じく、不動産業界は一時的な好況と急落を迎えるだろう。 住宅が売れること自体は問題無いが、今のうちにと無理をした人が数年後に返済が出来なくなって銀行へ駆け込む様子が目に浮かぶ。そこまでいかなくとも、無理なローンを組んだ家庭は消費を減らす傾向にあると不動産コンサルタントの長嶋修さんは指摘する。一時的な消費アップをその後のサイフ引き締めが帳消しにするという事だ。 こういった事も含めた、住宅購入と不景気に関する問題の根本的な解決策は住宅ローン減税や住宅版エコポイントではない。これも住宅購入の相談に乗っていて、つくづく思い知らされた事だ。 前回と今回書いた持ち家と賃貸の比較に関する話は以下4つの一連の記事を参考にされたい。 持ち家は資産か? 持ち家に関す二つの幻想 そろそろ決着をつけたい「持ち家と賃貸はどちらが得か?」というくだらない論争 「持ち家は資産だ!」という反論が来た(謝罪も有り) リスクとの付き合い方 持ち家議論へ頂いた反響への回答 実際に購入を検討されている方には以下の記事が参考になる。 小学生でも分かる住宅ローンの計算方法 持ち家の予算はチキンレースか? 住宅購入における予算の決め方 その1 その2 次回は誰もが気付いているのに実行されない、家計の問題と景気対策について言及したい。 中嶋よしふみ シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー ●ツイッターアカウント @valuefp ●フェイスブックアカウントはこちら ブログの更新情報はツイッター・フェイスブックで告知しています。フォロー・友達申請も歓迎します^^。 ※レッスン・セミナーのご予約・お問い合わせはHPからお願いします。 ※レッスン・セミナーのご案内はこちら |
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