前回書いた、持ち家に関する記事『「持ち家と賃貸はどっちが得か?」とか「家賃はもったいない」とかいまだに言ってる不動産業者やファイナンシャルプランナーは相当ヤバイ その1 その2』は異様なほどの反響を頂いた。記事が掲載された各サイトのアクセス数を合計すると10万件程になるかと思う。

2回連続の記事の最後に、「住宅購入と不景気に関する問題の根本的な解決策は住宅ローン減税や住宅版エコポイントではない。これも住宅購入の相談に乗っていて、つくづく思い知らされた事だ。次回は誰もが気付いているのに実行されない、家計の問題と景気対策について言及したい」と書いた。
今回の記事は以前書いた日本の不景気は女性差別が原因だの続きとなる(1.2.3まであるが、リンクは記事の下を参照)。

住宅購入の相談にのっていて一番のリスクだと感じるのは、奥様の働き方だ。たとえば30歳の既婚・子供なしの奥様が居たとして、近いうちに子供がほしいと考えているとする。当店に来店されるご夫婦は、お二人ともしっかり稼いでいるケースは珍しくない。仮に旦那様が年収500万、奥様が年収500万とする。世帯年収は1000万円となり、家を買うにはなんら問題の無い水準だ。

しかし、子供が生まれるとどうなるか。たとえば3年後に子供が生まれて2年間仕事を休んだとする。大抵の場合は退職をせざるを得ない。そして復帰すらままならず、仕方が無いのでパート勤務となるケースが非常に多い。旦那様の稼ぎが多ければパートをしない女性も少なくないだろう。

育児休暇は男性の取得率が低すぎる(1・2%程度)事がよく話題になるが、女性も十分低い。表向きは90%程度となっているが、これはあくまで会社を辞めずに取得した人の割合であって、出産を機に仕事を辞める女性は7割に上る。就業率をグラフで見ると出産年齢(主に30代)の時だけ低下していて、その後回復している事からM字カーブと呼ばれるものがある。海外ではほとんど見られない日本特有の現象といっていい。

残った3割の中で取得するのが9割だから、現実として育児休暇を取得できているのは27%程度、つまり全体の1/4程度となる。こちらの数字の方が相談にのっている時に聞く話としては実感には近い。育児休業の制度が整っているのは一部の大手企業や公務員だけで、それ以外はろくに制度が活用されていない例が多く、中には妊娠をきっかけとした退職強要や職種転換、左遷なども珍しくない。要は妊娠したら辞めろ、と当然のごとく考えている会社の方がいまだに多数派という事だ。

このような状況になるとどうなるか。住宅購入の予算は、確実に、そして大幅に減る。

住宅購入における予算の決め方 その1 その2」で説明したが、返済可能な住宅ローンは「年収×20~25%×働ける年数」が上限の目安となる。これを基準に、リスクや子供の人数、その他支出を考慮して適切な額を決める事になる。

たとえば上に上げた例で奥様が年収500万のまま復帰できるならば、借り入れ上限の目安は以下のようになる(返済比率を20%、昇給は一旦無視する)。

500万×20%×28年=2800万円

奥様の稼ぎだけで2800万円とかなりの額まで借りられる事になる。同じ計算で旦那様(30歳と仮定)は3000万円が借り入れ上限となるので、世帯の借り入れ上限額は合計で5800万円となる。貯金や親族からの援助も加えれば、相当良い家を買えるだろう。

もしこれが出産を機に退職し、復帰後はパートで働くとなるとどうなるか。パート勤務であれば年収100万円程度になる。無理にそれ以上中途半端に稼いでも、いわゆる103万円の壁や130万円の壁(税金や社会保険関連の負担によって、稼いでも手取りが増えなくなる境目)によって稼ぎはほとんど増えないからだ。これを上記の計算に当てはめるとどうなるか。

500万×20%×3年=300万円
100万×20%×25年=500万円

合計で800万円となり、上記の例と比較して3割以下まで減ってしまった。年収が2割に減るのだから当然だ。これはいわゆる機会費用と呼ばれるもので、収入が多い人ほど出産・育児により失うものが大きくなるのは非常に皮肉な事だ。旦那様の借入額も合わせると借入額の上限が3800万円となるので買えない事は無いが、リスクを考慮すれば予算を相当制限せざるを得なくなる。

正社員として復帰できるケースであれば、高額な家を買う、あるいは子供を2人3人と増やす事を考える人も多いだろう。逆に、パートでしか仕事に復帰できないとなれば、子供は1人しか無理そうだ・・・家も想像していたより随分安いものにしないといけない・・・と夢も希望もなくなってしまう。

家を買い、子供を生み育てる事は経済活動としてはかなり規模が大きい。いずれも数千万円の出費を伴う。その分、当然のことながら将来の収入がどうなるか、リスクをシビアに考えた上での判断となる。

つまり、女性が子供を生んでからも働けるかどうかは消費活動に決定的と言っても良いほど大きな影響を与えるという事だ。上記の例では正社員としての復帰が見込めるかどうかにより、住宅購入の予算は1000~2000万円は変わる事になる。500万円も稼げる女性でなくとも、数百万円から1000万円の違いになる。

こういった事を考えると、景気のカンフル剤として行われている住宅購入の支援は全てかすんで見える。住宅ローン減税、住宅版エコポイント(先日終了したが再復活される可能性もある)、フラット35Sエコ・ベーシック、その他にも固定資産税の減税など、多額の税金が投入されている景気対策は、低所得者も含めた国民全体から集めたお金が、家を買える裕福な家庭へ所得移転されているとして批判する人もいる。

家電エコポイントと同じく、カンフル剤の制度が終われば極端な不動産価格の下落をもたらす事が予測されるため、住宅の購入支援は止めるに止められない状況がしばらく続くだろう(すでにそうなっている)。それは財政にダメージを与えるだけではなく、適切な価格形成という市場の機能をゆがめる事にもつながる。

高額商品は消費税増税後に買え ~価格は市場が決める~」で書いたように、市場の歪みが正される時に何がおきるかは家電メーカーの大赤字を見れば容易にわかる。将来的にもっと財政が悪化し、住宅購入の支援などやっていられなくなった時にどうなるか、考えるのも恐ろしい。

こちらの記事は以下の一連のシリーズになっているの参考にされたい。
日本の不景気は女性差別が原因だ その1
日本の不景気は女性差別が原因だ その2
日本の不景気は女性差別が原因だ その3
日本の不景気は女性差別が原因だ その4
日本の不景気は女性差別が原因だ その5
 

住宅の購入を検討されている方には以下の記事が参考にして欲しい。
●小学生でも分かる住宅ローンの計算方法 
●持ち家の予算はチキンレースか?
●住宅購入における予算の決め方 その1 その2
●繰り上げ返済は本当にお得なのか? 前編 後編
●「持ち家と賃貸はどっちが得か?」とか「家賃を払うのはもったいない」とかいまだに言ってる不動産業者やファイナンシャルプランナーは、相当ヤバイ その1  その2
●9割も売れ残る新築マンション ~空室率40%の時代に備えて~

買うかどうか迷っている方には、持ち家と賃貸の比較に関する以下4つの一連の記事が参考になる。
●持ち家は資産か? 持ち家に関する二つの幻想
●そろそろ決着をつけたい「持ち家と賃貸はどちらが得か?」というくだらない論争
●「持ち家は資産だ!」という反論が来た(謝罪も有り)
●リスクとの付き合い方 持ち家議論へ頂いた反響への回答

次回は今回指摘した問題について、自分なりの対策・提案を書いてみたい。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
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著者プロフィール


シェアーズカフェ店長 ファイナンシャルプランナー
中嶋よしふみ。現在、37歳(FPとしては多分若手)。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。

2012年2月に開設した「シェアーズカフェのブログ」は5ヶ月で月間アクセス14万件を突破。2013年は総アクセス500万件超(配信先も含む)、ヤフーのトップニュースに4回掲載される。ファイナンシャルプランナーとしてブログのアクセス数はダントツの日本一を誇る。

2014年は住宅金融支援機構(フラット35)でセミナーを2回行う他、日本FP協会・長野支部にてFP向けセミナー(継続教育研修)に登壇。

現在、シェアーズカフェのブログのほか、日経DUAL、ブロゴス、ヤフーニュース個人、ハフィントンポスト等で執筆中。

その他、日経新聞でコメントが掲載されるなど、多数の媒体で情報発信を行う。

対面では新婚カップルやファミリー世帯向けにプライベートレッスン・セミナー・相談等のサービスを行う。生命保険の販売や住宅ローンの仲介等を一切行わず、FP本来のスタイルで営業を行っている。

プライベートレッスンでは、お客様ごとに最適化したレッスンと適切なアドバイスを組み合わせて高度なコンサルティングを提供中。他に無い独自のサービスがお客様の支持を得ている。

現在は専門家が書き手として多数参加するウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインを編集長として運営するほか、ブログ執筆による集客の経験とノウハウを生かして士業・企業向けにウェブコンサルティングも提供する。

お金よりも料理が好きなFP。パティシエも兼任。

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