前回の記事では、繰上げ返済は利息負担を減らすことが出来ても、資金繰りが長期間にわたって悪化すると説明した。 前回説明した期間短縮型と返済額軽減型はどちらが有利なのか。期間短縮型は借入残高の軽減と期間の短縮という、二重の効果で利息軽減効果が大きいと説明した。一方、返済額軽減型は借入残高の軽減しか行わないため、利息軽減効果では期間短縮型に負ける、と説明した。

しかし、どちらが良いかは簡単には言えない。利息軽減と資金繰りはトレードオフの関係にあるからだ。つまり、両者の差は資金繰りとなって明確に現れる。

前回「繰上げ返済の影響、より正確にいえば「繰上げ返済による悪影響」が何年先まで続くか?という問いに答える事は出来るだろうか」と書いた。どちらの方法であっても、繰り上げ返済を実行した時点から繰り上げ返済をしなかった場合の返済終了の時期まで影響は続く。最終的には利息負担が減っている以上、悪影響が良い影響に変わるわけだが、これは図で見てもらったほうが早い。

kuriage


借り入れの条件は、金利2.5%の元利金等返済、返済期間は30年、借入額は3000万円とする。毎月の返済額は118,536円だ。これを10年間返済した時点で、200万円の繰上げ返済を行ったものとする。

このグラフは繰り上げ返済をしなかった場合を基準(0の数字の横線)に、Aが期間短縮型、Bが返済額軽減型の手許現金の推移を示したものだ。あくまで繰り上げ返済による影響だけを計算しているので、繰上げ返済をしない場合が±0の基準となる事は分かるだろう。

まずは繰り上げ返済をすると、手許現金が減るので、その分だけ資金繰りが悪化する。これはAB変わらないので、マイナス200万円からスタートするのはどちらも同じだ。これが翌月からどうなるか。

Aは返済額が変わらないので、手許現金はずっと減ったままだ。どこまで続くかというと、短縮された返済期間が終了するまでだ。残り20年だったものが17年9ヶ月に短縮されているので、そこまでマイナス200万円が続くこととなる。3年と3ヶ月の短縮で、利息負担の軽減額は約120万円となる。

一方、Bは毎月の返済額が107.903円と従来より10,633円減っているので、マイナス200万円からスタートし、10,633円分ずつ毎月資金繰りが改善している。最終的には利息負担額は約54万円ほど減る。

グラフでBは15年9ヶ月の時点で0の線を越えている。つまり、資金繰りの悪化する期間は15年9ヶ月という事だ。それ以降は利息軽減効果により、資金繰りは改善し、最終的には当初計算した利息軽減額の約54万円分だけ、手許現金(資金繰り)はプラスとなって終わる。

一方、Aは返済が終わった時点から、当初の返済額118,536円の分だけ毎月資金繰りは改善する(Aのプランは返済が終わっているのに対し、元々のプランは毎月118,536円をまだ返済しているので、返済額=資金繰りの差となる)。19年2ヶ月で基準となる0の線を越えている。つまり19年と2ヶ月も資金繰りは悪化することがわかる。その後は、Bと同じく最終的に利息軽減額である約120万円と同じ分だけ手許現金(資金繰り)はプラスとなる。

これを見て分かる事は3つある。一つは「資金繰りを悪化させるほど利息負担は減る」ということ、一つは利息軽減の効果が出るのは返済期間終了間際である事、もう一つは「長期の資金繰りと利息負担の軽減額はイコールになる」という事だ。残りの返済期間である20年という長期でみれば、利息負担が減った分だけ資金繰りは改善する。したがって、短期の資金繰りを無視すれば前回書いたように繰り上げ返済最強説が出てくるのはある意味で理解も出来る(完全に間違ってはいるが)。

ここで注目すべき点は、すでに説明したとおり、A・Bいずれの方法でも、グラフの線が0を上回るまで、繰上げ返済をしなかった時より手許現金は少ないことだ。繰り上げ返済による資金繰りへの悪影響が、この例で言えば15年とか19年といった長期にわたって続く事を理解している人はほとんどいない。漠然と手元現金をある程度確保した上で繰り上げ返済をすれば良い、としか考えていない人が大多数だろう。

こういった図を見てもらえれば、子供が小さいうちに繰り上げ返済をして将来の教育費の負担増に供える、といった考えも資金繰りの観点から考えれば完全に間違いである事が分かる。

何もせず通常通りの返済を続けていれば手許現金が豊富にあったはずが、繰り上げ返済をやり過ぎてしまうと、最終的には利息が少なく済んでも、ちょうど大学に行く頃にお金が足りない等という状況になりかねない。繰り上げ返済は早くやるほど利息軽減の効果が高いが、その分だけ長期にわたって資金繰りは悪化する。上で説明したとおり、「資金繰りを悪化させるほど利息負担は減る」、つまり利息負担と資金繰りは綺麗にトレードオフの関係(両立しない関係)にあるといえる。

この話は頭金の増額にも全く同じ事が言える。頭金を増やせば毎月の返済額は減るので、頭金を増額した場合としなかった場合の比較は、返済額軽減型のグラフと同じ形になる。

お金を借りるという事は「支払いを先伸ばしする権利を買う事」と同じで、利息はその手数料だ。繰り上げ返済はせっかく買ったその権利を「返品」する行為に他ならない。手数料は浮くが、先延ばしできなくなった分資金繰りは悪化する。

住宅の購入を検討されている方には以下の記事が参考にして欲しい。
●小学生でも分かる住宅ローンの計算方法 
●持ち家の予算はチキンレースか?
●住宅購入における予算の決め方 その1 その2
●繰り上げ返済は本当にお得なのか? 前編 後編
●「持ち家と賃貸はどっちが得か?」とか「家賃を払うのはもったいない」とかいまだに言ってる不動産業者やファイナンシャルプランナーは、相当ヤバイ その1  その2
●9割も売れ残る新築マンション ~空室率40%の時代に備えて~

買うかどうか迷っている方には、持ち家と賃貸の比較に関する以下4つの一連の記事が参考になる。
●持ち家は資産か? 持ち家に関する二つの幻想
●そろそろ決着をつけたい「持ち家と賃貸はどちらが得か?」というくだらない論争
●「持ち家は資産だ!」という反論が来た(謝罪も有り)
●リスクとの付き合い方 持ち家議論へ頂いた反響への回答


短期・中期の資金繰りでみれば繰り上げ返済はマイナスの効果が非常に大きい。これを忘れると、とんでもない目に合う事は覚えておくべきだろう。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長
ファイナンシャルプランナー
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著者プロフィール


シェアーズカフェ店長 ファイナンシャルプランナー
中嶋よしふみ。現在、34歳(FPとしては多分若手)。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。

2012年2月に開設した「シェアーズカフェのブログ」は5ヶ月で月間アクセス14万件を突破。2013年は総アクセス500万件超(配信先も含む)、ヤフーのトップニュースに4回掲載される。ファイナンシャルプランナーとしてブログのアクセス数はダントツの日本一を誇る。

2013年4月にはアゴラ研究所主催の連続金融セミナーに登壇。山崎元氏、ライフネット生命現会長・出口治明氏、元マネックスユニバーシティ代表取締役・内藤忍氏など、金融業界を代表するメンバーと共にセミナー講師として参加(担当は住宅購入)。

2014年は住宅金融支援機構(フラット35)でセミナーを2回行う他、日本FP協会・長野支部にてFP向けセミナー(継続教育研修)に登壇。

現在、シェアーズカフェのブログのほか、日経マネー、日経DUAL、言論プラットフォーム・アゴラ、ブロゴス、ヤフーニュース個人、ハフィントンポスト等で執筆中。老舗情報サイト・オールアバウトでは住宅カテゴリでガイドを務める。

その他、日経新聞でコメントが掲載されるなど、多数の媒体で情報発信を行う。

対面では新婚カップルやファミリー世帯向けにプライベートレッスン・セミナー・相談等のサービスを行う。生命保険の販売や住宅ローンの仲介等を一切行わず、FP本来のスタイルで営業を行っている。

プライベートレッスンでは、お客様ごとに最適化したレッスンと適切なアドバイスを組み合わせて高度なコンサルティングを提供中。他に無い独自のサービスがお客様の支持を得ている。

現在は専門家が書き手として多数参加するウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインを編集長として運営するほか、ブログ執筆による集客の経験とノウハウを生かして士業・企業向けにウェブコンサルティングも提供する。

お金よりも料理が好きなFP。パティシエも兼任。

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