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やや旧聞に属するが、ライフネット生命が興味深い採用方法を行っている。

ライフネット生命 2013年新卒採用
http://recruit.netseiho.com/assignment/index.html

「皆さんには『重い課題』に挑戦していただきます」と、本当に重い課題を応募者に課している。以下、課題Aの内容だ。

「A.あなたは内閣総理大臣から突然呼び出しを受け
  「インターネットの力を活用して、日本の少子化問題の解決に取り組む方法」について提案することになりました。

[1]日本における少子化の現状とその原因を明らかにしてください
[2]そのうえで、あなたが解決すべき課題をあげてください。
[3]インターネットを使ってその課題を取り組むためのプランを立て、費用対効果とともに提案してください。

[注]あなたは現在の少子化担当大臣の政策実行チームとはまったく別に依頼されています。」

もう1つの課題Bでは、1000万円の費用であなたが学んでいる学校をより魅力適する方法を考えて下さい、という課題が示されている。採用を希望する人はA・Bいずれかに関してレポートを作成し、提出する事になる。

過去の情報を調べると、2012年にも同じような採用方法を行い、5161人のエントリーに対して提出者は僅か39人、0.8%程度だったという。今年はさらにエントリー数が増えて8000人以上となったが、実際に課題を提出したのは100人程度だという。

これだけ沢山の応募者がいても、本気で応募した人は1%未満という事だ。普通はここまで絞り込んでしまうと優秀な人を逃してしまうのではと心配するだろうが、優秀でも他業種を志望していれば、せっかく採用しても本命の業種で採用されれば辞退されてしまう。結果としてその人にかけた採用の手間は全て無駄になる。優秀であるほどそうなってしまう可能性が高いだろう。

しかも、城繁幸氏によればどれ位辞退するかは事前にわからないため、ちょっと多めに採用したら辞退が少なくて困ってしまい、内定辞退を強要する、などというわけの分からない事が採用の現場で起きているという。ライフネット方式ならば、ライフネットに入りたい人だけを審査する事が出来る上に、採用に至って辞退をする人はほどんどいないだろう。応募者の側も無駄な期待を持つ前に早期に辞退をするので、双方にとってプラスだ。

このやり方であれば、学生側はタダでさえ忙しい就職活動の中で他業種志望者は真っ先に辞退するだろう。金融業界志望であっても、辞退する人の方が多いだろうし、保険業界志望者もほとんどが辞退したに違いない(0.8%しか応募していないのだからそう考えるのが普通だ)。となると、ライフネット生命にどうしても入りたいという人だけが残る事になる。中には手抜きで課題を提出した学生も居るだろうが、これだけ数が少なければふるい落とす事は容易だ。

100社エントリーが珍しくないと言われるようになったが、実際に入社するのは当然の事ながら1社だけだ。応募を受ける企業でもエントリーが増えたからといって採用者数を増やすわけでもない。つまり、エントリー数の増加は純粋に双方にとって「無駄な手間の増加」となる。しかもこれだけ数が多ければ間違って入ってしまったケースや間違って採用してしまったケースも当然増えるだろう。不況が続く中で「3年で3割」が辞める状況に大きな変化がない裏にはミスマッチも大きく関係しているに違いない。

無駄な手間に加えてミスマッチによる退職は企業と学生、双方にとって大きなマイナスだ(個人的には3年で辞めるのは大いに結構だと思うが、少なくともこのご時世に3年で辞めたい人や3年で辞めさせたい企業は少数派だろう)。

ある経営者も「採用活動をしたところ応募者の数が多かったので簡単な課題の提出を求めたところ、課題を提出した人はごくわずかだった。おかげでウチに入社するために、この程度の手間もかけようと思わない人を間違って採用せずに済んだ」といった話を著書に書いている。

個人レベルで考えれば「どうにかしてどこかに滑り込むために大量にエントリーをしよう」というのは正しい選択だが、全体で見ればそのような学生が増えれば採用コストやミスマッチが増えてしまい、合成の誤謬に陥る。

適切なふるいのかけ方は採用側としては悩むところだろうが、ライフネット生命の手法は一つの正解を示しているだろう。

大学生のための、会計知識を使わない企業分析テクニック その1
大学生のための、会計知識を使わない企業分析テクニック その2

学生や転職活動中の方であれば、上記の記事も参考にされたい。就職氷河期は今後も続くだろうが、多少の役には立つかと思う

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長
ファイナンシャルプランナー
シェアーズカフェのブログ
ツイッターアカウント @valuefp (ブログ更新は不定期なのでツイッターで告知します)

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著者プロフィール


中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー(FP)、シェアーズカフェ店長、シェアーズカフェ・オンライン編集長。「保険を売らないFP」。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。開業から10年間、一貫して対面相談とウェブで情報発信を行う。2014年、シェアーズカフェ株式会社に法人化。現在は日暮里駅近くに事務所を構える。

情報発信は東洋経済オンライン、ITmediaビジネスオンライン、プレジデントオンライン、JBプレス、日経DUAL等の経済誌で執筆する他、新聞・雑誌・テレビ・ラジオ等で執筆・出演・取材協力多数(めざましテレビ、報道2001、スッキリ他、メディア掲載・取材協力の詳細を参照)

著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」、「一生お金に困らない人 死ぬまでお金に困る人(大和書房)」。住宅本はAmazon・楽天ブックスの住宅ローンランキングで最高1位、Amazon総合ランキングでは最高141位。

対面ではファミリー世帯向けにプライベートレッスン(相談)を提供。生命保険の販売を一切行わず、金融機関・不動産会社のセミナー・広告等の業務も全て断り、相談料だけを受け取るFP本来のスタイルで営業中。

プライベートレッスンでは独自のカリキュラムを顧客ごとに最適化、相談・アドバイスと組み合わせて高度なコンサルティングを提供。特に住宅購入の資金計画、ライフプラン全体のアドバイスを得意とする。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。

2013年にはマネー・ビジネス分野の士業や専門家が参加する自社メディア、シェアーズカフェ・オンラインを設立、編集長に。2014年よりYahoo!ニュースに配信中。他にも編集プロダクション、専門家向けの執筆指導(オンラインサロン)、社長専属の編集者などの業務も提供。FP事業とメディア事業を車の両輪としてシナジーを経営者として日々追求。

お金よりも料理が好きな79年生まれ。

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