先日、東京から地方へ転勤した証券マンの友人と話す機会があった。新卒で証券会社に入社し、ほぼ営業一本で10年間働いて来たキャリアの持ち主だ。

年初から春に掛けては株価が上がっていたこともあり、社内がちょっと活気付いている、といった話も聞いていたのだが、結局はすぐに下落・横ばいとなり、社内の空気はすぐ元に戻ったという。ご多分に漏れず、友人の会社も業績は悪く、ネット証券の存在を考えればいまさら営業マンが株や投信を売る意味はあるのだろうか、と悩んでいた。

これはまさにそのとおりで、ネット証券のさきがけである松井証券の社長は、営業マンが何の役にも立たない相場観をダラダラと話して顧客の時間を奪うことは百害あって一利無し、ウチは無駄なアドバイスに一切コストを掛けない・・・という方針の元、営業マンが注文をとってくるスタイルからコールセンターで受け付ける形へ切り替え、ネット取引にもいち早く進出した。

「コールセンターの女の子の方がよっぽど沢山注文を取っているぞ」と存在価値を否定された営業マンは顧客を大量に連れて同社を離れたが、利益率は飛躍的に改善した。

2012年3月期の松井証券の純利益率はなんと24%、営業利益率にいたっては41.6%だ。これだけ企業業績が悪化しているご時世に、一体どこの世界の話なんだ?というほど驚異的な数字だ。

松井社長の考えとして、投資における価値のあるアドバイス=コンサルティングはそんな生易しいものではない、全ての営業マンがそんな難しい事を出来るわけがない、ならば当社はコールセンターやネットトレーディングで取引の手間を減らして、売買手数料=ブローキングを思い切り下げることで付加価値を出す、と考えていたという。これは今となっては珍しくもなんともないが、2000年以前には画期的な方針だった、あまりの過激ぶりに、社長の娘婿(松井社長は前社長の娘と結婚したことが縁で社長になった)が会社をつぶす、と散々バカにされて社員の心も離れていったという。

もう何年も前のインタビューになるが松井社長は「日本のブローキング(売買手数料)の市場規模は1兆円位だが、これを1000億円まで下げてやります。そんな小さい市場で野村証券さんが生き残れますか?という話です」と凄まじい経営戦略を語っている。つまり市場規模を思い切り小さくすることで高コスト体質の対面型証券会社をはじき出そうというのだ。これは対面証券の厳しい環境を考えれば、そして松井証券の驚異的な利益率を考えればすでに成功しているしつつあると言えるだろう

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上の図では証券各社の時価総額と社員数の比率を比較してみた(社名は画像サイズの都合で略称)。一人当たり11億円と他社の数十倍、一目で松井証券の効率の良さが際立っている事は分かる(計算式は時価総額÷社員数)。これは社員一人当たりで生み出した市場価値という事で、社員がいかに優秀かを示す値ではなく、付加価値のある仕事をちゃんとやらせているか、という事をあらわしているとも言える。

野村や大和、SBIは純粋に証券業だけをやっているわけではないので単純な比較は出来ないが、松井証券の強さは際立っている。当然の事ながら、これは利益率が高くそれによって株価が高くなっていること、それをより少ない社員数で実現していることがこの数字には反映されている。上場企業全てを調べたわけではないが、金融はもちろん、他業種を含めてもこの数字は群を抜いていると考えて間違いないだろう。

参考までに先日「シャープの本当の問題は、結局どこにあったのか?」でも取り上げたシャープの数字も掲載した。社員一人当たりの市場価値で比較すると、松井証券との差は250倍以上だ。社員数がわずか100人ちょっとの松井証券の時価総額が1300億円程度、グループ全体で社員数5万人以上の超大企業・シャープが2300億円程度というのは、松井証券が凄過ぎるのかシャープがダメなのか、非常に考えさせられるものがある(なお、シャープに限らず大手家電メーカーはどこも同じような数字だ)。

友人の相談に話を戻すと、社内が色々な意味で「結構危ない雰囲気になってきた」という。このままいけば各種手当てや給料削減、リストラと一気に進みかねないのでは、という不安も感じているようだった。

もういっそのこと公務員になりたいとか、何か資格を取って独立しようかなど、あまりに無茶なプランをあれこれと話すので「本気で言ってるのか?」と思い止まらせた。とはいえ、今から何をやったら良いのか八方塞がりのようでもあった

自分はブログで集客出来ているからブログとかメルマガをやったら見たらどうだ?というとコンプライアンス的に無理だという。お客さんに見せる資料は必ず事前の審査が必要で、現実的でないという。オリジナルのマネー新聞でも作って定期的に配ってみたらどうか、というアイディアも同じ理由で却下された。

「客に渡す資料はもう全部決まってるから自作は無理」だという。じゃあそういう資料を自分なりにコンパクトにまとめて見たら? というとそれもアウト。勝手に書き換えるのはご法度のようだ。

それじゃ何も出来ないじゃないか、というと「だから公務員になりたいんだよ!」という事らしい。

自分も色々と考えあぐねた結果、自分でコンテンツを作らなくともすでに大量にあるのならば、その中からお客さんの反響がよかったもの、販売につながったものを同僚や先輩にヒヤリングして自分なりにチョイスしてみてはどうか、定期的に作られる資料もあるだろうから、それらを全部まとめて毎月決まった日に送ってみてはどうか、とアドバイスして見た.。

作るのがだめなら、すでにある資料を選択してうまく「まとめる」、つまり編集で個性を出せるのでは? それも漫然と配るのでなく、何か投資のストーリーを語れるように、同僚とあーでもないこーでもないと話し合ってみたらどうか、とアドバイスをした。営業マン一人で抱える顧客数は数百人、支店全体ならば万単位となるだろうから、半年くらい全員に送ってフォローの電話もして徹底的にやって見る、それでダメなら次の手段を考えれば良いだけなんだから、と伝えて見た。

現状では過去に大きな取引をしてくれた特定の客ばかりにアプローチをしているような状況だという。そんなにしつこくしたら嫌がられて取引がかえって減る悪循環にならないのか?と聞くと、とっくにそうなってるよ、でも店長からせっつかれて嫌でも電話したり訪問したりせざるを得ないんだよ!という。分かっているならそんなやり方はさっさと辞めれば良いと思うのだが、戦略も戦術も何もなければ成功体験を繰り返す以外に方法は無いのだろう。

自分が提案したようなやり方でどこまでうまくいくかは分からないが、証券営業の現場は体系立てて組織的に動くというやり方にはあまりなっていないようにも見える(あくまで自分の知っている限りの話だが)。

友人が公務員に転職した方が良いのかどうかは分からないが、株式市場が今の状態で続く限り、日本全国で営業に従事する証券マンのユウウツも続くだろう。

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中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
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著者プロフィール


シェアーズカフェ店長 ファイナンシャルプランナー
中嶋よしふみ。現在、37歳(FPとしては多分若手)。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。

2012年2月に開設した「シェアーズカフェのブログ」は5ヶ月で月間アクセス14万件を突破。2013年は総アクセス500万件超(配信先も含む)、ヤフーのトップニュースに4回掲載される。ファイナンシャルプランナーとしてブログのアクセス数はダントツの日本一を誇る。

2014年は住宅金融支援機構(フラット35)でセミナーを2回行う他、日本FP協会・長野支部にてFP向けセミナー(継続教育研修)に登壇。

現在、シェアーズカフェのブログのほか、日経DUAL、ブロゴス、ヤフーニュース個人、ハフィントンポスト等で執筆中。

その他、日経新聞でコメントが掲載されるなど、多数の媒体で情報発信を行う。

対面では新婚カップルやファミリー世帯向けにプライベートレッスン・セミナー・相談等のサービスを行う。生命保険の販売や住宅ローンの仲介等を一切行わず、FP本来のスタイルで営業を行っている。

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