最近、不動産価格は消費税増税の影響が大きい、だから価格が下がる増税後に買え、という意見をチラホラと見るようになった。この話は消費税が3%から5%に上がった後、価格下落が続いた事を根拠にしているようだ。

自分はずっと慎重派として持ち家に関する記事を書いてきたので、今のうちに買え、増税前がチャンスだという意見とは違う話が出てきたのは歓迎するが、増税後に買う方が絶対に得だ、という話もはっきりいってバカらしい。価格が下がることがわかっているなら好き好んで増税前に買う人間はいないからだ。

株式市場では「明日起きるとわかっていることは今日起こる」といわれる。明日株価が下がるとわかっているなら、合理的な投資家は今日のうちに株を売ってしまうので、価格は今日のうちに下がる、という意味だ。当然この逆も成り立つ。明日上がると分かっている企業の株価は今日上がる。

これはどういう意味かというと、すでに知れ渡っている情報では儲ける事(あるいは損失を回避する事)は出来ない、そして株価も動かない、という意味だ。何か企業にとって良い情報があり、それを知っていれば誰もが今の株価は安い、と判断する材料があったとする。これを一部の人しか知らなければ知っている人だけが安いうちに株を買って利益を得られるだろう(インサイダー情報であれば違法行為だが)。しかし、このような情報が新聞やテレビで周知の事実となれば情報はすぐに株価へ反映される。市場で取引されるものは株であれ食料品であれ不動産であれ、多かれ少なかれこのような傾向は確実にある。

現在5%の消費税率は平成26年4月に8%へ、27年10月に10%へ引き上げ られる。消費税が上がるというのは誰もが知っている話なので、これによって増税の前後で損得が極端に動くことは考えにくい。市場が最も効率的に動けば増税分だけ価格が下がり、損得はゼロになる。実際には株式市場ほど不動産市場は効率的ではないので、多少の損得は発生するだろうが、それでも増税の前後、どちらが得かは簡単に分からないだろう。

では過去に消費税が3%から5%に上がった1997年4月以降はどうだったのか。1997年以降、不動産価格は確かに下落傾向が続いた。GDPも翌年には下落している。これは消費税増税が景気悪化の原因になった、と増税に反対する人の根拠にもなっているが、記憶喪失にでもかかってしまったのかという位に不思議な話だ。池田信夫氏も指摘するように、景気の悪化は1997年の後半に発生した信用不安が一番大きな原因だ。通貨危機でアジア諸国の景気が軒並み悪化した時期でもある。1997年は証券・生保が戦後初めて破綻し、社長が泣きながら会見した山一證券の自主廃業も1997年11月だ(ちなみに1997年を表す漢字は倒産・金融機関の破綻が相次いだため「倒」だった)

東証住宅価格指数を見ても増税の3ヵ月後、1997年の7月・8月・9月は上昇に転じている。これは4半期ベースのGDPの動きともある程度一致している。1997年10月以降は継続的に不動産価格は下がっているが、これを増税が原因だと決め付けるには無理があり、信用不安による景気悪化の影響の方が大きいと考える方が自然だろう。増税の反動ならば3ヶ月連続の指数上昇は不自然だからだ。

自分も「高額商品は消費税増税後に買え ~価格は市場が決める~」という記事を書いたが、これは「増税後に買うと損をする!急いで買え!」といい加減な主張をする記事をいくつかみかけたので、そういった言説に惑わされる人が少しでも減るようにこういったタイトルで書いただけだ。中身を読んで頂ければわかるように、需要と供給である程度吸収される以上そこまで大きな損得が出ることは考えにくい、結局重視すべきは増税のような外部要因ではなく自身の収入や雇用の安定度、頭金の額など、内部要因だと説明した。あまり歓迎はしないが、増税後の反動に備えるためか住宅ローン減税もこれまでに無いほど拡充(期間15年、最大1000万)される事が発表されている。

はっきりいってしまえば増税によってどれくらい不動産価格が下がるかはわからない。ただ、それは素人から不動産のプロまで皆同じだから安心して良い。タイミングによる損得が分かるのは後になってから、というのは株でも金利でも不動産でも全部同じだ。

なお、経過措置といって、来年9月末までに契約をすれば引渡しが増税後になっても適用される消費税は増税前の利率(5%)となる制度もある。契約から完成・引渡しまで時間のかかる一戸建ての注文住宅はここが一旦取引の山となるだろうが、あえて混雑する時期に契約するメリットは何も無いだろう。

3000万円~4000万円程度の物件であれば消費税増税による支払額の増加は数十万円~100万円位で(建物部分にしかかからないため)、それも需要と供給によってある程度吸収され、住宅ローン減税の拡充もある。数千万円の取引を数十万円程度の損得が発生する「かもしれない」という理由で焦るほどバカらしいものはない。当然その逆に、買えるだけの環境が整っていて希望に合う物件が見つかっているのに、あえて増税後になるまで待つ、というのも奇妙な話だ。

住宅の購入を検討されている方には以下の記事が参考になる。
●小学生でも分かる住宅ローンの計算方法 
●持ち家の予算はチキンレースか?
●住宅購入における予算の決め方 その1 その2
●繰り上げ返済は本当にお得なのか? 前編 後編
●「持ち家と賃貸はどっちが得か?」とか「家賃を払うのはもったいない」とかいまだに言ってる不動産業者やファイナンシャルプランナーは、相当ヤバイ その1  その2
●9割も売れ残る新築マンション ~空室率40%の時代に備えて~
●シャープが韓国勢に負けた理由と、持ち家の「未来」

買うかどうか迷っている方には、持ち家と賃貸の比較に関する以下4つの一連の記事が参考になる。
●持ち家は資産か? 持ち家に関する二つの幻想
●そろそろ決着をつけたい「持ち家と賃貸はどちらが得か?」というくだらない論争
●「持ち家は資産だ!」という反論が来た(謝罪も有り)
●リスクとの付き合い方 持ち家議論へ頂いた反響への回答

繰り返しになるが、住宅購入は外部要因より内部要因を優先すべきだ。今のうちに買わないと!と慌てている人も、増税後は確実に値下がりする!と誤解している人も、ぜひ上記の各記事を参考に合理的に判断をして欲しい。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
●シェアーズカフェのブログ
●ツイッターアカウント @valuefp

※レッスンのご予約・お問い合わせはHPからお願いします。
※レッスンのご案内はこちら



●マネーリテラシーの本を書きました。 ●住宅購入の本を書きました。




シェアーズカフェからのお知らせ
 ■シェアーズカフェでは住宅・保険・投資・家計管理など、お金に関するレッスンを提供しています。中嶋が直接指導します。
 ■シェアーズカフェが士業・企業・専門家向けのウェブ・コンサルティングを行います。


著者プロフィール


シェアーズカフェ店長 ファイナンシャルプランナー
中嶋よしふみ。現在、34歳(FPとしては多分若手)。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。

2012年2月に開設した「シェアーズカフェのブログ」は5ヶ月で月間アクセス14万件を突破。2013年は総アクセス500万件超(配信先も含む)、ヤフーのトップニュースに4回掲載される。ファイナンシャルプランナーとしてブログのアクセス数はダントツの日本一を誇る。

2013年4月にはアゴラ研究所主催の連続金融セミナーに登壇。山崎元氏、ライフネット生命現会長・出口治明氏、元マネックスユニバーシティ代表取締役・内藤忍氏など、金融業界を代表するメンバーと共にセミナー講師として参加(担当は住宅購入)。

2014年は住宅金融支援機構(フラット35)でセミナーを2回行う他、日本FP協会・長野支部にてFP向けセミナー(継続教育研修)に登壇。

現在、シェアーズカフェのブログのほか、日経マネー、日経DUAL、言論プラットフォーム・アゴラ、ブロゴス、ヤフーニュース個人、ハフィントンポスト等で執筆中。老舗情報サイト・オールアバウトでは住宅カテゴリでガイドを務める。

その他、日経新聞でコメントが掲載されるなど、多数の媒体で情報発信を行う。

対面では新婚カップルやファミリー世帯向けにプライベートレッスン・セミナー・相談等のサービスを行う。生命保険の販売や住宅ローンの仲介等を一切行わず、FP本来のスタイルで営業を行っている。

プライベートレッスンでは、お客様ごとに最適化したレッスンと適切なアドバイスを組み合わせて高度なコンサルティングを提供中。他に無い独自のサービスがお客様の支持を得ている。

現在は専門家が書き手として多数参加するウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインを編集長として運営するほか、ブログ執筆による集客の経験とノウハウを生かして士業・企業向けにウェブコンサルティングも提供する。

お金よりも料理が好きなFP。パティシエも兼任。

メディア掲載・取材協力の詳細はこちら。

※レッスン・セミナー・相談は全て中嶋が直接対応します。ご予約・お問い合わせはシェアーズカフェの公式HPからお願い致します。


このページのトップヘ