国土交通省では2010年に「国土の長期展望に向けた検討の方向性について」と題したレポートを公表している。そこでは日本の人口減少が次のように説明されている。

「日本の総人口は、2004年をピークに、今後100年間で100年前(明治時代後半)の水準に戻っていく。この変化は千年単位でみても類を見ない、極めて急激な変化」であると説明している。

グラフを見ても100年掛けて急激に増えた人口が100年で元に戻る様子が綺麗に描かれている。


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今回の記事を半分位書いた所で下書き状態のまま放置していたところ、その間に地方の人口減少に関する記事がいくつか出て、いずれも大きな反響があったようだ。

やまもといちろう氏
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2012/09/post-a946.html
藤野英人氏
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33610

やまもと氏の記事は地方に住む人の実感から、藤野氏は地方でビジネスへ携わる人への危機感という視点から書かれている。地方がどうなるか、そしてどうするかは多くの人にとって深刻な話題なのだろう。自分は国土交通省の予測データを元に論を進めたい。

ところで、先にあげたような急激な人口減少が日本全国でまんべんなく発生するのかというと、そうではない。

全国平均では減少率が25.5%となっているが、2050年、なんと首都圏と中部圏のごく一部は人口が増加する(以降は全て2005年と2050年の時点の比較)。これは他の地域がより深刻な人口減少に見舞われる事、そして従来以上に都市部へ人口が集中する事も意味する。

40年後、6割以上の地域で人口が半減する予測されている。元々人の少ない不便な地域ではさらなる人口減少が進み、下のグラフでは現在人が居る場所のうち2割が無人化するという。これによって相続人不在の土地が増え、誰がその土地を管理するのか、という問題も発生する。

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さて、では地方が不幸で首都圏、特に東京圏(東京・埼玉・千葉・神奈川)は人口がさほど減らずハッピーなのかというと全くそのような状況ではない。高齢者の増える割合では東京圏が87.1%、およそ2倍近くと突出している。高齢化は都市部ほど進む。その一方で、東京圏では「世帯数」の減少率はたったの0.3%だ。名古屋圏でも2%の現象にとどまる。他地域が20~30%も世帯が減っていることと対照的だ。

結果としてどうなるか。首都圏と中部圏では独居老人世帯が200%上昇と、現在の3倍まで増えることになる。東京圏で言えば、2050年時点の世帯数は1418万件、うち高齢単身世帯は312万世帯と、全世帯の2割以上を占める。

マクロ視点で見ると、地方の人口密度が極端に薄くなることで、買い物難民のように日常的なサービスが満足に受けられない地域が多数発生する。電気・ガス・水道・通信などのインフラもほとんど人が居ない場所でどこまで提供されるのか、そしてどれ位の価格で提供されるのか、深刻な問題となるだろう。

9割も売れ残る新築マンション ~空室率40%の時代に備えて~ 」でも書いたように、利用率が下がれば下水に汚れが滞留するなどあらたな問題の発生も考えられる。人口規模が減り人口密度が薄まれば、その結果行政コストも上がる。無理に人がほとんど居ない地域の都市機能を維持するよりも都市部に移動してもらうといった、強制移住によるコンパクトシティ化もありうるかもしれない。当然、地域の住民にとってはとんでもない話で、こういった政策をやってもやらなくても無人化していく地方は混乱を極めるだろう。

一方、都市部では、単身高齢世帯が急激に増えるということは、訪問介護がやりやすいコンパクトな住居、という今とは全く違った住宅の大量供給が望まれる。これはリフォームという形で対応されるべきだろうが、今後の新築物件は省エネ・耐震性と同様に、可変性(作り変えのしやすさ)がより重視される。これは自身の住みやすさにかかわるだけではなく、資産価値にも大きく影響するに違いない。

また、独居老人が高額な家賃を払う事は考えにくいので、賃貸住宅には急激な下落圧力が加わるだろう。不動産価格は賃料に基づいて決まるので、賃料が下がれば不動産価格も下がる。

これらの傾向はほぼ確定路線と思われるが、これを住宅購入という視点から考えるとどうなるか。まず、地方で少子高齢化が進んでいる地域に住宅を買う事は農業や漁業など、その地域に密接に結びついた仕事をやっているような特殊な事情が無い限りお勧めは出来ない。特に小規模な都市は消滅の危機もある事はすでに指摘したとおりだ。

都市部で出来るだけ人口の多い地域を選ぶこと、将来の可変性を自身のためにも資産価値のためにも意識すること、これが最低条件となるだろう。特に地方に住んでいる方は、状況を見極めるためにもしばらく様子を見ても良い。

唯一高齢になると借りられなくなるリスクはある程度考慮すべきだが、高齢者だらけの世の中で高齢者だからという理由で入居を断っていたら賃貸業は成り立たない。すでに保証会社は一般的になっているし、大家に対して入居者が孤独死をした場合に備える保険もある。あえて高齢者向けに積極的に貸し出すビジネスが出てきてもなんらおかしくない。

過去に何度も書いたが、家賃がもったいないという理由で家を買う事は間違いだ。持ち家と賃貸は金銭的に大きな違いは無く、違うのはリスクの部分だ。持ち家と賃貸の比較は、支払い総額で比較している時点で途中で支払いが出来なくなるリスクを無視している。

それ以外にも、早く買えばそれだけ早く建て替えや大幅改修の時期がやってくる。頭金が少ないまま買えば利息負担は増える。ライフプランが固まる前に買ってしまえば住宅が足かせになることもある。今回書いたように家の周辺が急激に過疎化するリスクも見極める必要がある。

将来は今の延長ではないことをよく理解して、慎重に行動すること。つまりリスクをシビアに見極めることが家を買う際には必要なことだろう。

住宅の購入を検討されている方には以下の記事が参考になる。
●小学生でも分かる住宅ローンの計算方法 
●持ち家の予算はチキンレースか?
●住宅購入における予算の決め方 その1 その2
●繰り上げ返済は本当にお得なのか? 前編 後編
●「持ち家と賃貸はどっちが得か?」とか「家賃を払うのはもったいない」とかいまだに言ってる不動産業者やファイナンシャルプランナーは、相当ヤバイ その1  その2
●9割も売れ残る新築マンション ~空室率40%の時代に備えて~
●シャープが韓国勢に負けた理由と、持ち家の「未来」
●消費税が上がると、不動産価格はどこまで下がるのか。

買うかどうか迷っている方には、持ち家と賃貸の比較に関する以下4つの一連の記事が参考になる。
●持ち家は資産か? 持ち家に関する二つの幻想
●そろそろ決着をつけたい「持ち家と賃貸はどちらが得か?」というくだらない論争
●「持ち家は資産だ!」という反論が来た(謝罪も有り)
●リスクとの付き合い方 持ち家議論へ頂いた反響への回答

持ち家推進政策は相変わらず続くが、消費税増税や住宅ローン減税、復活の可能性が高いエコポイントなど、購入を判断する際にこれらが争点で無い事は確実にいえるだろう。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
●シェアーズカフェのブログ
●ツイッターアカウント @valuefp

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著者プロフィール


中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー(FP)、シェアーズカフェ店長、シェアーズカフェ・オンライン編集長。「保険を売らないFP」。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。開業から10年間、一貫して対面相談とウェブで情報発信を行う。2014年、シェアーズカフェ株式会社に法人化。現在は日暮里駅近くに事務所を構える。

情報発信は東洋経済オンライン、ITmediaビジネスオンライン、プレジデントオンライン、JBプレス、日経DUAL等の経済誌で執筆する他、新聞・雑誌・テレビ・ラジオ等で執筆・出演・取材協力多数(めざましテレビ、報道2001、スッキリ他、メディア掲載・取材協力の詳細を参照)

著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」、「一生お金に困らない人 死ぬまでお金に困る人(大和書房)」。住宅本はAmazon・楽天ブックスの住宅ローンランキングで最高1位、Amazon総合ランキングでは最高141位。

対面ではファミリー世帯向けにプライベートレッスン(相談)を提供。生命保険の販売を一切行わず、金融機関・不動産会社のセミナー・広告等の業務も全て断り、相談料だけを受け取るFP本来のスタイルで営業中。

プライベートレッスンでは独自のカリキュラムを顧客ごとに最適化、相談・アドバイスと組み合わせて高度なコンサルティングを提供。特に住宅購入の資金計画、ライフプラン全体のアドバイスを得意とする。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。

2013年にはマネー・ビジネス分野の士業や専門家が参加する自社メディア、シェアーズカフェ・オンラインを設立、編集長に。2014年よりYahoo!ニュースに配信中。他にも編集プロダクション、専門家向けの執筆指導(オンラインサロン)、社長専属の編集者などの業務も提供。FP事業とメディア事業を車の両輪としてシナジーを経営者として日々追求。

お金よりも料理が好きな79年生まれ。

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