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3.11という日本人にとって記憶すべき日に、池上彰さんが取り上げたのはハイパーインフレに関する話だった。

3月11日の夜にテレビ東京で放送された「未来世紀ジパング」では、ハイパーインフレの代名詞ともいえるアフリカのジンバブエで発行された100兆ジンバブエドル札を紹介していた。池上さんが地上波でハイパーインフレを取り上げるのは自分が知る限りこれで二度目だ。先月の2月8日にテレビ朝日で放送された「池上彰の学べるニュース」でも同様の話題を解説していた。

●総理も言及するハイパーインフレとは?
詳しい内容は番組を見た同僚とか家族に聞いてもらえればと思うが、池上さんがハイパーインフレに関して心配している事は間違いない。心配とは日本でもハイパーインフレが起きる可能性がある事、そしてその影響が非常に大きい事を意味する。どっちも杞憂だと思っているならわざわざ取り上げないだろう。

番組が放送される日の午後、総理は記者会見で「(金融緩和をしても)ハイパーインフレは考えられない」と説明した。他に話すべきことも沢山ある日に、わざわざハイパーインフレは起こらないと強調した理由は番組の放送と関係あるのかもしれない。総理の言動にまで影響を与えているとしたら、やっぱり池上さんは凄い(実際には番組の中で日本がジンバブエみたいになって買い物には一抱えの札束が必要になる、といった話はほとんど無かったので総理のコメントは過剰反応だったかもしれない)。

ウェブを検索すると2011年末に放送されたBSジャパン「池上彰のやさしい経済学」でも、お金を沢山刷ればデフレは解決するという、現在総理も主張する「リフレ政策」について、ハイパーインフレになる懸念を解説していたようだ。

ハイパーインフレの定義はいくつかあるが、3年で100%の物価上昇もハイパーインフレと呼ぶ。ハイパーインフレなんて起こらないという人は月間50%以上の上昇とかジンバブエみたいな状況を想定しているのだろうけど、物価が急激に上がってしまえば10倍でも20倍でも30倍でも多分大差は無い……と書くといい加減な説明をするなと文句を言われそうだけど、数パーセントの変動と比べたらどれも壊滅的な打撃を受けるという意味では同じだ。

●アベノミクスは迎え酒?
かつてNHKで池上さんと仕事をしていたという池田信夫氏も繰り返し指摘するように、アベノミクスが目標とする年率2%の「マイルドなインフレ」が景気に対してプラスに働く事は間違いない。しかし、それを確実に実現する手段は無い。それにもかかわらず「マイルドなデフレ」を抑えるためにハイパーインフレになるリスクを負ってまでインフレを起こそうというのはリスク・リターンのバランスから考えて明らかにワリが悪い。悪い状況を打ち消すためにもっと酷い政策をぶつけるのは二日酔いを迎え酒で打ち消そうとする位無茶なやり方だ。

現在株価は上がったけども、金利は下がったし物価も変わらない。REIT(上場不動産投信)は政権交代後に3割以上も上がったものの、実物の住宅やマンションなどの不動産価格はちょっと上がっている程度だ。アベノミクスが始まってまだ数ヶ月だからインフレになるまで時間が掛かると今の政策に大賛成の人は言うかもしれないけど、日経平均は半年前の底値からもう5割も上がった。株価は想定以上にあがっているのに、なぜ物価だけはコントロール出来ると思っているのか、自分にはよく分からない。

株価が上がって困る人は余り居ないから良いようなものの、物価も株価と同じくらい上がっていたらどうなっていたか、想像するだけでも恐ろしい(多分金利も上がって、金融機関に国債の含み損が発生して日本発の金融危機になっていたかもしれない)。

●ハイパーインフレが起きる可能性。
ハイパーインフレが起こる可能性は決して高くないだろうけど、現在の政策によって確実に可能性は上がっている。ベットされ過ぎたコインは1000兆円と高く積みあがって、もうグラグラだ。年金債務等の見えない借金まで含めればこれが倍以上になる。ハイパーインフレなんて起きないと総理が言ってるんだから起きるわけがない、と思う人は自分で自分のリスクを高めている事に気づいていない。可能性が低いから無視して良いというならその人は生命保険に入るのを辞めた方が良い。生命保険に入るのは「可能性」は低くても「影響」が大きいからだ。

壊滅的な被害はリスクを小さく見積もった時に発生する。晩飯代を節約するためにワカサギを釣ろうとして、薄い氷をズボっと踏み破った釣り人がいたら多くの人は笑うだろうけど、それと同じ事をやっていないと自信を持って言える人はあまりいないはずだ(日本には人のふり見て我がふり直せ、という素晴らしいことわざがあるのに!)。自分は大丈夫、と思った瞬間からリスクは急激に上がり始める。「リスク」はいつもアマノジャクで、政治家とか経済学者とか経営者とか自信満々の人の足元をすくうのが大好きだ(最近の金融危機はそんな話ばっかりだ)。

●フツーと異常、どっちが危ない?
毎日フツーに起きている事ははっきりいってどうでも良い事ばかりだ。重要な事はたまにしか起きない異常事態、壊滅的な事柄だ。サブプライムローン問題とかギリシャ危機とか9.11とか3.11の地震や津波は、他の小さな事件・事故を100万個集めたものより影響が大きい。だから何かを考える時は日常的な事より非日常的な事を基準に考えるべきだ。それでも予想通りに物事が進む事は無いけれど、未来が過去の延長だと思うよりよっぽど安全だ。

日本はバブル景気でしばらくの間みんなハッピーに暮らしていたけど、そのあとは失われた20年と言われる状況に陥った。アメリカもITバブル崩壊後、金融緩和のおかげで好景気を謳歌して多くの人が家を持てるようになってハッピーに暮らしていた。けれども、住宅ローンが返済不能になるリスクはサブプライムローンという形で、ほとんどの人が知らない間に世界中にばら撒かれていて、気が付いた時には想像を絶する被害が発生した。

ローンの返済が止まった時、日本では貸し手の銀行が困ったけれど、アメリカでは知らない間に貸し手になっていた世界中の金融機関とか投資家が困った。トリプルAの債券を持っていると思っていたらジャンク債だった・・・という事が発覚して、格付け会社は「寝ながら仕事をしていたのか?!」と文句を言われたけれど、彼らは参考意見を言っただけだからルール上は問題無かった。発行体からお金を貰って格付けをしている会社を信用する方がバカなのだ。ハーバードを出て博士号とかMBAを持っている世界中のエリートが「洋服屋の店員さん」に「お似合いですよ」と言われて真に受けていたのだから、呆れて声も出ない(店員さんのお似合いですよ、はアドバイスではなくセールストークだという事は渋谷でウロチョロしている女子高生でも知ってるのに、世界のエリートは知らなかった!)。

本来はリスク回避のための技術(金融工学)がリスクを見えにくく、より増大させるという冗談みたいな事が起きていた。サブプライムローン問題の発生以降、金融工学はエリート(ロケットサイエンティスト)がエリート(MBAとか経済学の博士号を持った人)を騙すために使う目くらましの技術だと思われるようになった。頭が良い人が実は馬鹿だったと知って世界中の人は少し安心した。

その後の被害の大きさを考えれば日本のバブルもアメリカのバブルも無かった方が良いと、「今から振り返れば」誰もが理解している。なのに、今またバブルの萌芽が見える(しかも人工栽培の萌芽だ)。どんな事でもメリットだけを享受できればいいけど、そうならない事は歴史が証明している。メリットにはデメリットが、リターンにはリスクが付きまとう。大きなトラブルが発生した時、一部の人は勝ち逃げできるかもしれないけど、全体で見れば壊滅することは間違いない。

●石につまづいて転ぶのと、車にひかれるのと、どっちがマシか?
自分は普段のレッスンやアドバイスで、小さなリスクは無視しても良い、問題はたまにしか起きない大きなリスクがバースト(破裂)した時だと、住宅・保険・投資と全ての分野で説明している。リスクは発生頻度より影響度を重視すべきなのに、それを多くの人は理解していない。何千万円も貯金があるのに入院時に1日1万円しか貰えない医療保険に入っていないと不安という人は、自分のリスク感覚を見つめ直した方が良い。

小石につまづいて転ばないようにと足下ばかりを見て歩いていると、転ぶリスクは下がっても車にひかれるリスクは高くなる。だから子供は右見て・左見て・右見て、それから手を挙げて横断歩道を渡るように大人から教わる。足元を見ないで転んでもアラアラとかちょっと笑われる程度だが、足元だけをじーっとみながら横断歩道を渡っていたら、多分メチャクチャに怒られる。子供は怒られたくないからちゃんと言う事を聞くようになり、車にもひかれなくなる。

現実の世界では子供でも出来ることを、経済とかお金の世界では全然出来ない大人が一杯居る。石につまづいて転ぶと、短期的には恥をかいたり上司に怒られたり給料を減らされりするからだ。転ばないうちは恥はかかず上司にも怒られず給料も増えて良い事づくめだろうけど、それは車にひかれるリスクの裏返しだ。勝ち逃げ出来た人は良いけど車の排気音が聞こえた時に身構えてももう遅い。

だから自分は当たり前の事を言ったり書いたりするだけで(今の所は)お金をもらえる。世の中の人がみんな「ブラックスワン」という本を読んだら自分は失業するか、良くても売上は半減するだろうけど、そんなことは多分ありえないから安心している(でもブラックスワンの帯には「ありえないなんてありえない」と書いてあったから、多少は用心しておこう)。

●デフレより怖い事。
マイルドなデフレで景気が少し悪化する影響は大した話じゃない。少なくとも物価が数倍になるようなインフレと比較すれば。ゆるやかなデフレの心配をしながら、ハイパーインフレの心配をしないのはバランスが悪い。ただ、これもいつかは結論が出る。もし将来物価が数倍になったら、日銀に騙されたとか総理に騙されたとか言う人が沢山出ると思う(警告している人はこんなに沢山居るのに!)。

民主党に騙されたと言って今自民党を支持してる人は、また騙される可能性がある事を知っておいた方が良い。そういう人はきっとセイケン交代前にアベさんとかフクダさんとかアソウさんをバカにしながら、こんなのが総理なんて日本は終わってるよね、とか「したり顔」で言ってた人に違いない。ハトヤマさんもカンさんも相当批判されていたけど、その前の総理はそれと同じ位かもっと批判(正確に言うとバカに)されていた。そんなこと無い!と怒る人はかなり忘れっぽい人だから日常生活で忘れ物が多く無いか気をつけたほうがいい。

経済関連の記事はこちらも参考にして欲しい。
●国が1兆円もかけて電機メーカーの設備を買い取るらしい ~エコポイントの斜め上を行く、呆れた仕組みについて~
●生活保護費は増やしても良い。
●薬のネット販売が再禁止されるらしい。
●災害より老後を怖がる日本人 ~20代と60代の利害は一致する~
●年金がいつから・いくらもらえるのか、ハッキリさせた政党は政権を取れる。
●2012年、バブル真っ只中の日本


これ以上長ったらしく書くと読んでもらえなくなるので、この話は二回に分けたい。結構重要な話をしているので、明日もう一回だけお付き合いして欲しい。

⇒続きを書きました ●池上彰さんも心配するハイパーインフレと、リスクに関する考察。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
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著者プロフィール


シェアーズカフェ店長 ファイナンシャルプランナー
中嶋よしふみ。現在、37歳(FPとしては多分若手)。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。

2012年2月に開設した「シェアーズカフェのブログ」は5ヶ月で月間アクセス14万件を突破。2013年は総アクセス500万件超(配信先も含む)、ヤフーのトップニュースに4回掲載される。ファイナンシャルプランナーとしてブログのアクセス数はダントツの日本一を誇る。

2014年は住宅金融支援機構(フラット35)でセミナーを2回行う他、日本FP協会・長野支部にてFP向けセミナー(継続教育研修)に登壇。

現在、シェアーズカフェのブログのほか、日経DUAL、ブロゴス、ヤフーニュース個人、ハフィントンポスト等で執筆中。

その他、日経新聞でコメントが掲載されるなど、多数の媒体で情報発信を行う。

対面では新婚カップルやファミリー世帯向けにプライベートレッスン・セミナー・相談等のサービスを行う。生命保険の販売や住宅ローンの仲介等を一切行わず、FP本来のスタイルで営業を行っている。

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