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西武ホールディングスの大株主で、再生ファンドとしても有名なサーベラスがTOB(株式公開買い付け)の実施を公表した。西武HDの経営陣はリストラ策に反発し、TOB反対を3月26日の取締役会で決議している。

近頃たびたびニュースになってはいたものの、どうせお金と主導権で争っているだけだろうとさして興味も持っていなかったのだが、サーベラスが提案しているリストラ案にはなんと東京・埼玉にまたがる5つの路線廃止が含まれているという。

廃線を提案されているという路線は以下の5つだ(図で黒く塗った線路)。

●路線廃止の衝撃。
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※西武秩父戦・山口線・多摩川線・国分寺線・多摩湖線の五つ。 図は西武鉄道HPより引用、加工は筆者。

報道を見る限り、サーベラス側は「路線廃止は検討していない」と取材に答える一方で、経営陣は「路線を廃止しろいう考えはサーベラス側に確認しているので間違い無い」と情報が錯綜している感はある。株を高く売りたい大株主として不採算路線の廃止は当然なのだろうが、影響を受ける利用者は数十万人から数百万人に及ぶのではないか。

ここに至るまでの経緯は以下の通りだ。株主名簿の虚偽記載問題で上場廃止となった西武鉄道は、その後サーベラスの出資を受け再上場を目指していた。そのさなか、より高値で上場させて利益を増やしたいサーベラスと西武経営陣との間で意見の相違があり、昨年は想定より安値で上場させようとした経営陣と対立するに至ったようだ。現在の西武HDは年内の上場を目指しているようだが、保有比率で1/3に近い大株主と対立をしていれば中々難しい部分もあるかもしれない。

経営陣としては地元とは長年の付き合いがあり、鉄道事業という大規模な不動産開発を行う企業が簡単に撤退していいものかどうか、撤退した場所以外にも悪影響が広く及ぶ可能性を考えれば簡単に判断できるものでは無いだろう。

だだ、このような状況は人口減少社会では必然的な側面もあり、個人的にはとうとう来たか……という思いもある。

●家を遅く買うメリットとは?

自分はつねづね住宅購入は損得よりリスクが重要だ、というアドバイスをしている。そのリスクの1つに環境の変化がある。例えば30代の夫婦が家を買ったとして、その家のある地域が30年後、40年後まで住みやすいままである保障は全く無い。後出しジャンケンと言われるのも困るので、先日のツイッターを紹介しておこう。

以下のツイートは不動産コンサルタントとして有名なさくら事務所社長の長嶋修さんのものだ。
資産性を重視しない、土台としない不動産購入は、趣味嗜好の世界と割り切るなら、アリ。「所有」の意味をよく考えましょう。なんで持たなきゃいけないのか。
ちょうど出張レッスンから帰ってきた自分はこれを読んで、お客様とそんな話をしたばかりだったので、次のようにつぶやいた。 長島さんからはフラットですね、というごく短いコメントを頂いたが、アドバイザーとしてフラットな態度でお客様に対応する事を身上にしている自分には非常に嬉しい言葉だ。

ここで書いた「後倒しにするメリット」が環境が変わるリスクへの対応だ。30歳で買う場合と50歳で買う場合を比べれば、より老後に近い50歳で買うほうが周辺環境が激変してしまうリスクを抑える事が出来る。

資金的に余裕があり、持ち家にこだわりが無く、転勤などライフプランにある程度の変動性がある方には、「老後になってから住みやすい場所にコンパクトな家を現金一括で買うのも1つの選択肢ですよ」というアドバイスもありうる。納得される方もいれば、せっかく家を買うなら子供が小さいにうちに買って持ち家で子育てをしたい、と考える方もいる。どちらが正しいという事は無いので、無理の無い範囲で意向に沿ったライフプランを一緒に考える。これは不動産業者には絶対に出来ない芸当だ。

もちろん、自分は電車が無くなってしまうリスクまで予見していたんだ!凄いだろう!!などとウソを付くつもりも無い。お客様に話しているのは「あてにしていた大きな病院やショッピングモールなどがなくなってしまえば、それだけで生活に困る。不便になれば移動できる人は引っ越してしまうので、人がドンドン減って加速的に過疎が進む。だから早く買った方が得なんていうことは無い」という話だ。これは「わずか40年で地方都市は消滅し、都会には独居老人があふれる「まだら模様の将来」。」でも書いた話だ。首都圏の住宅購入で廃線のリスクまで考えなければいけない時代になった事は驚きに値する。

●ブラックスワンが教えてくれるリスクの本質。
地方では乗客数が少ない線路が廃線になった、という話はたまに聞くが、首都圏でしかも都内も走る路線が廃線の危機にあるというのは衝撃的だ。だが、本当のリスクはこのようにしてやってくる事はつい先日書いたばかりだ。「池上彰さんが心配して、総理大臣が否定するハイパーインフレについて。」「池上彰さんも心配するハイパーインフレと、リスクに関する考察。」で取り上げたのは主にハイパーインフレに関する話題だが、自分が主眼に置いたのはリスクとの付き合い方だ。

ブラックスワンで紹介されている、どんな奇妙な出来事も後付で納得してしまう、という話を自分は以下のように説明した。

「サブプライムローン問題やギリシャ危機は経済界の9.11みたいなものだった。後になってから危険な兆候はこんなに沢山あったと言われた。誰も予想できていなかったのに、今ではまるで起こるべくして起こったみたいに皆が思い込んでいる。」

もし5つの路線が本当に廃線になってしまったら、その沿線に35年ローンで家を買って途方にくれている人は、ただでさえ落ち込んでいる所に、こんな事を言われるかもしれない。

「日本は今後人口が減るなんて散々言われてきた事なんだから、廃線のリスクくらい考えておくべきだったんじゃないの? 家は一生の買い物なんだからそれ位慎重に考えるのは当たり前でしょう」と。 もっとも、そんなことを言っている人も家賃はもったいないとかバカな理由で家を買うだろうから完全に無視して良いのだけど。

●ありえないなんてありえない。

今後これら5路線の沿線の価値は廃線にならなくてもガクンと落ちるだろう。廃線という目に見えなかったリスクがある日突然、表沙汰になってしまったからだ。そして3.11以降、急に耐震性の重要性が認識されたように、最寄り駅の鉄道に廃線になるリスクが有るか無いかが住宅購入を検討する際に強く意識されるだろう。結果として山手線沿線とか中央線線沿線のように今生きている人が死ぬまで無くなりそうも無い場所がより強く求められるようになるに違いない。これはもう笑ってしまうほどブラックスワンの指摘するとおりの流れだ。まさに「ありえないなんてありえない」のだ。

個人的には、持ち家と賃貸を比較して「こういう計算ならば買った方がウン百万円お得」とか、「家賃を払うのはもったいない」「邪魔になったら売るか貸せば大丈夫」など、いい加減なアドバイスをしてきたアドバイザーや不動産業者の間違いが今回の件で論破されていい気味だと思うが、実際に路線廃止の危機にさらされている人からすれば人生が根本から揺るぎかねない大問題だ。中には家を買ったばかりの人も居るだろう。

アベノミクスで住宅市場が活況といわれているが、実際には全国の不動産価格はまだ下落しており、それは首都圏でも変わりない。上昇しているのは東北の被災地の高台や首都圏の人気地区など、本当にごく一部だけだ。

広範囲に道路や電気・ガス・水道といったインフラを維持するのは大変だから、今後日本はコンパクトシティ化が進むだろう、という話は散々語られてきた。その一方で、引越しが出来ない人を置き去りにして行政がそんな強引なことをするわけは無い、と多くの人が思っていた。

そんな予想とは全く別の所で、営利を目的とする民間企業が首都圏でコンパクトシティの先陣を切る事になったのは、ある意味で必然的な時代の流れだ。そしてそれを税金で救済するような余裕はもはや国には無い。つまり「地域リスク」を考える際には、津波や地震などの災害だけではなく、高齢化と人口減少で住みにくくなる事も含める必要が出てきたという事だ。

住宅関連の記事はこちらも参考にされたい。
●わずか40年で地方都市は消滅し、都会には独居老人があふれる「まだら模様の将来」。
●「持ち家と賃貸はどっちが得か?」とか「家賃を払うのはもったいない」とかいまだに言ってる不動産業者やファイナンシャルプランナーは、相当ヤバイ その1  その2
●9割も売れ残る新築マンション ~空室率40%の時代に備えて~

買うかどうか迷っている方には、持ち家と賃貸の比較に関する以下の記事を参考に。
●持ち家は資産か? 持ち家に関する二つの幻想
●そろそろ決着をつけたい「持ち家と賃貸はどちらが得か?」というくだらない論争

これから住宅を買う人は「家賃がもったいない」などというセールストークには踊らされないように、「損得よりリスク」を肝に銘じて、慎重に購入を検討して欲しいと思う。

 中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
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著者プロフィール


シェアーズカフェ店長 ファイナンシャルプランナー
中嶋よしふみ。現在、34歳(FPとしては多分若手)。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。

2012年2月に開設した「シェアーズカフェのブログ」は5ヶ月で月間アクセス14万件を突破。2013年は総アクセス500万件超(配信先も含む)、ヤフーのトップニュースに4回掲載される。ファイナンシャルプランナーとしてブログのアクセス数はダントツの日本一を誇る。

2013年4月にはアゴラ研究所主催の連続金融セミナーに登壇。山崎元氏、ライフネット生命現会長・出口治明氏、元マネックスユニバーシティ代表取締役・内藤忍氏など、金融業界を代表するメンバーと共にセミナー講師として参加(担当は住宅購入)。

2014年は住宅金融支援機構(フラット35)でセミナーを2回行う他、日本FP協会・長野支部にてFP向けセミナー(継続教育研修)に登壇。

現在、シェアーズカフェのブログのほか、日経マネー、日経DUAL、言論プラットフォーム・アゴラ、ブロゴス、ヤフーニュース個人、ハフィントンポスト等で執筆中。老舗情報サイト・オールアバウトでは住宅カテゴリでガイドを務める。

その他、日経新聞でコメントが掲載されるなど、多数の媒体で情報発信を行う。

対面では新婚カップルやファミリー世帯向けにプライベートレッスン・セミナー・相談等のサービスを行う。生命保険の販売や住宅ローンの仲介等を一切行わず、FP本来のスタイルで営業を行っている。

プライベートレッスンでは、お客様ごとに最適化したレッスンと適切なアドバイスを組み合わせて高度なコンサルティングを提供中。他に無い独自のサービスがお客様の支持を得ている。

現在は専門家が書き手として多数参加するウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインを編集長として運営するほか、ブログ執筆による集客の経験とノウハウを生かして士業・企業向けにウェブコンサルティングも提供する。

お金よりも料理が好きなFP。パティシエも兼任。

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