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ライフネット生命が2014年の新卒採用の課題を公表している。ライフネット生命では30歳未満の既卒者や就業経験がある人も「新卒」として定義しているので、他社で言えば中途採用も含めた若手の採用全般を指すようだ。そして昨年同様、非常に手間のかかる「重い課題」を応募者に課している。

●正し過ぎるライフネット生命の新卒採用について
以前書いた「正しすぎるライフネット生命の新卒採用」は、ツイートが1000件を超え、多数のアクセスを頂いた。この記事では、これだけ手間のかかる課題を出せば本気の学生だけを採用対象とする事が出来るので、採用側にも応募側にもメリットのある正しいふるいのかけ方だ、と書いた(2013年はエントリー数8000人に対して実際に課題を出したのは100人とわずか1%程度)。

自分は条件に当てはまらないので応募は出来ないが、中々面白い課題なので挑戦してみたいと思う。2014年の課題はAとBで二つあるが、注目すべきはAだ。

A 現在、日本人の平均寿命は82.67歳です。医療の飛躍的な進歩により、今から50年後に日本人の平均寿命が100歳になるとしたら、どのような問題が起こるでしょうか。その問題を解決するために何をすべきか、次の設問にしたがって説明してください。

[1] 日本人の平均寿命が50年後に100歳になった場合、2013年現在と比較してどのように社会が変化するか予想して説明してください。
[2] 50年後に成人を迎える若者にとって、[1]の社会であなたが最も深刻だと思う問題を挙げ、選んだ理由を説明してください。
[3] [2] の問題に対する解決策を考えてください。

ライフネット生命 2014年 新卒採用の課題より

さて、このような課題を出されるといきなり取り掛かってしまいがちだが、その前に考えるべき事がある。それはなぜこんな課題を出すのか?という出題意図だ。ご丁寧に課題の前に「重い課題。それは、あなたの『考えるプロセスそのものを問う』課題です。決まりきった正解はありません。」としっかり書いてある。つまりアウトプットと同等以上に考える過程が問われるという事で、なぜこんな課題を保険会社の社員が考えないといけないのか、という根本的な疑問を無視するわけにはいかない。

これは一時流行ったフェルミ推定のような、地頭の良さを問う問題でもないはずだ。提出まで時間があるのだから、こういった情報に詳しい友人・知人が居れば一見正しそうな答えを出す事は簡単なわけで、ただ未来をシミュレーションさせる事が出題の意図ではない。

省略したBの課題は会社を発展させるアイディアを考えて下さい、という内容でさほど違和感は無いが、Aは明らかにおかしい。これが官僚とか政党の公認候補者向けの試験ならば分かるが、一見すると民間企業が考えることではない。

●出題の意図はどこにあるのか?

この課題を考える際、生命保険だから何歳で死亡するかについては関係があるんだろうな、位の思考の深度では正解にたどり着く事は出来ないだろう。社会に目を向けろとか広い視野を持てといった意味なのかな、という浅い思考では書類選考で真っ先に落ちるに違いない。

この課題を営利企業である保険会社が採用時に問うている以上、保険会社にとってこれらの課題を考える事が非常に重要である、という所をスタート地点にしなければとんでもない間違いになる。ではなぜこのような課題が保険会社に関係あるのか。これは顧客、経営、運用と三つの視点から考える必要がある。

●保険会社の顧客・経営・運用と国の関係。
まず「顧客」との関係について、保険会社は顧客との付き合いが非常に長いのが一般的だ。よくある10年更新の掛け捨て保険でも10年、60歳とか65歳まで続く契約ならば、30年~40年も顧客との付き合いが続く。これは何十年も先の事まで考えて現在の問題に取り組まなければいけない事を意味する。1の問いにはこのような視点があるはずだ。

この話は「経営」にも関係する。狭い分野で小規模なビジネスを行うのであれば単純に自社が扱う商品が売れるかどうか、それだけを考えれば良いだろう。しかし、保険ビジネスは顧客(契約者)を数十万人とか数百万人のレベルで抱えるので、一部の狭いターゲットだけを相手にすれば良いわけではない。

したがって、今のワカモノと高齢者、そして将来のワカモノと高齢者、といった具合に非常に幅広く、なおかつ長いスパンで顧客の事を考えなければいけない。50年後のワカモノは少子高齢化で多数の高齢者を支える立場であり、まだ生まれてもいない彼らがどのような問題に直面するかは保険会社にとっても重大な意味を持つ。これが2の問いに関係しているのだろう。

では「運用」はどうか。顧客から預かった保険料は支払いがあるまで運用をする。顧客との契約期間が長ければ運用期間も当然のことながら長い。また、保険会社は年金基金や銀行などと並んで、機関投資家としても規模が大きい。日本の借金、つまり日本国債はおおよそ半分を銀行が引き受けているが、それに次いで2割近くを保険会社が引き受けている。保険会社は契約の性質上、顧客の資金をしっかり守る事も求められるため、相当大きな割合を元本保証で運用せざるを得ない。すると運用先としては国債が大きなウェイトを占める。現在、保険会社が約束する運用利率は非常に低いが、これは国債の金利が極めて低い事が強く影響している。

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保険会社は株や貸し付け等でも運用しているが、日本国債の割合は極端に大きい。保険業界全体の運用資産の構成比について、グラフで公社債(緑線)の割合は平成23年に55%となっているが、国債に限ると40%超となる。保険会社には自己資本規制といって、リスク資産の保有に制限がある。これは近年強化されたため、平成20年(2007年)から国債への投資割合がおおよそ2倍と急激に増えた。その反動で株(赤線)による運用は5%を切る所まで減っている。(図は生命保険の動向・2012年度版 生命保険協会より)。

資産の半分近くを国債で運用していれば、今後国債がどうなるかは保険会社の運用に極めて大きな影響を与える。国債の動向は日本経済の動向と強く関係し、保険会社にとって運用成績は経営と直結している。つまり、保険会社の経営は運用を通じて日本経済と命運を共にしていると言っても過言ではない。当然の事ながら日本経済は国民の消費・生産・雇用等の生活と密接に関わっている。つまり1.2.3の問題は保険会社にとって経営課題といえるわけだ。

●「重い課題」は親切だ。

課題に挑戦するつもりが課題の解釈となってしまったが、以上のように考えるとライフネット生命が「重い課題」を出す事は十分に理解できる。そしてこの課題は面倒に見えて非常に良問で、なおかつ親切だ。なぜならこの課題を丁寧に考えれば、保険とはなんぞや?保険会社とはなんぞや?という事が理解出来るようになるからだ。 雇用・保険に関する記事はこちらも参考にされたい。

●正しすぎるライフネット生命の新卒採用
●大学生のための、会計知識不要の企業分析テクニック ~内定切りを受けないために~ その1 その2
●お金は保険会社に預けるな その1 その2
●サービス残業は日本の文化だ ~ブラック企業が生まれる下地~
●ブラック企業を消す方法。 ~解雇規制・雇用流動化について~

新卒採用で一人の学生が100社もエントリーするような状況は、企業にとっても学生にとっても完全に無駄な手間だ。適切なふるい落としが行われれば、企業は手間を減らし、学生はシュウカツにあてる時間を減らして勉強に集中する事も出来るだろう。まともな採用活動をするには支障をきたすほどの応募が来ている企業は、ライフネット生命のように重い課題を考えてみてはどうか。ミスマッチが減り、離職率も下がり、学生と企業、双方にとって良い事づくめだ。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
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著者プロフィール


シェアーズカフェ店長 ファイナンシャルプランナー
中嶋よしふみ。現在、34歳(FPとしては多分若手)。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。

2012年2月に開設した「シェアーズカフェのブログ」は5ヶ月で月間アクセス14万件を突破。2013年は総アクセス500万件超(配信先も含む)、ヤフーのトップニュースに4回掲載される。ファイナンシャルプランナーとしてブログのアクセス数はダントツの日本一を誇る。

2013年4月にはアゴラ研究所主催の連続金融セミナーに登壇。山崎元氏、ライフネット生命現会長・出口治明氏、元マネックスユニバーシティ代表取締役・内藤忍氏など、金融業界を代表するメンバーと共にセミナー講師として参加(担当は住宅購入)。

2014年は住宅金融支援機構(フラット35)でセミナーを2回行う他、日本FP協会・長野支部にてFP向けセミナー(継続教育研修)に登壇。

現在、シェアーズカフェのブログのほか、日経マネー、日経DUAL、言論プラットフォーム・アゴラ、ブロゴス、ヤフーニュース個人、ハフィントンポスト等で執筆中。老舗情報サイト・オールアバウトでは住宅カテゴリでガイドを務める。

その他、日経新聞でコメントが掲載されるなど、多数の媒体で情報発信を行う。

対面では新婚カップルやファミリー世帯向けにプライベートレッスン・セミナー・相談等のサービスを行う。生命保険の販売や住宅ローンの仲介等を一切行わず、FP本来のスタイルで営業を行っている。

プライベートレッスンでは、お客様ごとに最適化したレッスンと適切なアドバイスを組み合わせて高度なコンサルティングを提供中。他に無い独自のサービスがお客様の支持を得ている。

現在は専門家が書き手として多数参加するウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインを編集長として運営するほか、ブログ執筆による集客の経験とノウハウを生かして士業・企業向けにウェブコンサルティングも提供する。

お金よりも料理が好きなFP。パティシエも兼任。

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