![]() 自民党は今月8日、労働環境が劣悪とされる「ブラック企業」の社名を公表すべきと政府に提言する方針をまとめたという。
●なぜブラック企業の定義は難しいのか? 記事では「夏の参院選公約での明記を検討するが、具体的な線引き基準の設定は困難」ともある。これは不思議な意見だ。世間一般では、問題が有るか無いかを客観的に判断するのは法律だ。主観的に良い悪いというならそれは好きか嫌いかでしかない。ブラック企業を定義するのは難しい、つまり問題が有るか無いかを判断する基準は明確ではないと、立法を司る政治家が公言するのはあまりに無責任だ。ブラック企業とは違法行為を働く企業だとなぜはっきり言い切れないのか。 先日書いた「サービス残業は日本の文化だ ~ブラック企業が生まれる下地~」と「ブラック企業を消す方法。 ~解雇規制・雇用流動化について~」でもブラック企業に関する問題を取り上げたが、ブラック企業が蔓延する理由として、日本人の法律に対するあいまいな態度、つまり暴行を体罰と呼んでしまうような文化、そしてどこまでが体罰でどこからが暴行かと考えてしまうような法律を軽視する文化が強く影響していると書いた。 雇用の流動化や解雇規制の緩和が議論されている中、労働者を保護するために国は何をやるのか、どのような態度でブラック企業に対応するのか、非常に重要な問題だ。 ●なぜ「公表」なのか? ブラック企業は公表よりも厳しく取り締まる事が先ではないのか。なぜ公表なのか? 先ほど書いたブラック企業の定義の問題にも関わるが、離職率が高いだけでは問題にはならない。それは原因ではなく結果だ。問題にすべきは離職率が高い理由であって、低い給料が原因なのか、それともサービス残業やパワハラなど違法行為が原因なのかで全く意味が異なる。そして政府がどこまで末端で働く社員一人一人の問題を把握できるのか、非常に疑問だ。先の記事にはこうも書いてある。 これを読めば何をすれば良いかは明白ではないだろうか。つまり問題のある企業を政府の裁量で「ここまでは公表しないがこれ以上は公表する」と勝手に判断して公表するのではなく、問題発生の兆候となりうるデータの公表を全ての企業に義務付ければ良い。例えば以下のような項目を公表させれば、経営者の行動は確実に変わるだろう。 平均的な残業時間、勤続年数、新卒社員の3年後離職率、育児休暇の取得実績、有給休暇の取得率、自殺者数、労災認定数 数字だけが一人歩きするとして公表に反対する経営者も少なくないようだが、これらをどのように判断するかは企業の問題ではなく、働く側の問題だ。 また、これらの数字は現在も会社四季報でおなじみの東洋経済新報社が発行する「就職四季報」に一部掲載されている。しかし、NA(ノーアンサー)やND(ノーデータ)など、企業によっては回答を拒否する事も少なくない。これらについて国が公開を義務付ける法律を作れば良い。一つひとつの事例を政府が把握し「重大・悪質」ならば公表する、といった恣意的な運用は手間がかかる上に効果も少ない。一罰百戒も大いに結構だが、問題を防ぐ手立てを先に考えるべきだ。 本来は先日書いた記事のように、杓子定規に法律を当てはめて徹底的に取り締まれば良いだけなのだが、いきなりそのような事が出来るとも思えない。そうであればまずは情報開示を徹底させる所からスタートすべきだ。政府が進めようとしている雇用の流動化を実現するには、労働者に対して判断材料をしっかり提供する事が最低限の条件だ。 先の引用した記事で過労死で亡くなった社員がいる会社名の公表は、企業の不利益になるから、そして個人情報保護の観点から個人が特定できると良くないから、という理由で拒否されたようだが、このような状況で雇用の流動化に賛成する人が居るわけも無い。雇用の流動化で社員に自己責任を問うのなら、企業にはもっと厳しい自己責任を問うべきだ。 ●ブラック企業が生まれる原因も改めて考えるべきだ。 ブラック企業で特に問題になるのは残業の扱いだ。残業代を払う必要が無いのは「管理監督者」であって「管理職」ではない。管理監督者は経営者と一体となって勤務時間や勤務日について裁量(責任と権限)のある人だけが対象で、役職とは一切関係ない。したがって、労働者として管理を受けている一般的な課長、部長、店長などは管理監督者と言えない。まずは厚生労働省が「管理職は管理監督者ではない」と改めて通達でも出したらどうか。 以下のようなパンフレットを厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署が連名で出している一方で、過剰なまでにコンプライアンスを叫ぶ上場企業ですら課長・部長に残業代を払っている会社は少ないはずだ。このようなダブルスタンダードを徹底的に取り締まる方がブラック企業の公表よりもよっぽど重要だ。 管理職はみんな『管理監督者』? ●雇用が増えない理由。 また、サービス残業が問題になるのは当然として、残業が恒常的に長時間発生しているのならその分従業員を増やせば良いのだが、そうならない理由は何か。以下のような理由が考えられる。 1.サービス残業をさせても厳しく取り締まりを受けない。 2.割り増し賃金の率が1.25倍と低い。 3.雇用の流動性が低い。 1については言うまでも無いが、企業がサービス残業をやらせた場合、本来払うべき給料は未払い賃金、正確に言うと労働債権(労働者が賃金を受け取る権利)として扱われる。これは企業会計的に言えば借金や負債と同じ扱いだ。しかも2年という時効まである。つまり、窃盗犯の「後で払おうと思っただけ」とか「払うのを忘れた」という言い訳がなぜか賃金については認められているという事だ。まずはこれを止めない限り、サービス残業は絶対に無くならない。 2については割り増し賃金がもっと高ければ残業させるよりもう一人雇った方が得、というインセンティブが経営者に働く。結果として自然とワークシェアが進むはずだ。もう何人か居ればみんな定時に帰れるのに、という職場は決して少なくないだろう。 3については、過酷な長時間労働に従事する人がいる一方で失業している人も居る。こうなってしまう理由は解雇規制が強すぎるからだ。これ関しては雇用が流動化されれば企業はどんどんクビを切る、と主張する人もいるが、長時間労働が社会問題として語られるような状況で社員をどんどん解雇する経営者がどれだけいるか、という事はよく考えるべきだ。長時間労働が蔓延しているということは仕事が沢山ある事に他ならず、あとは給料が高いか低いかの問題だけだ。 企業が従業員を増やせないのは、将来仕事がなくなった時に雇用が過剰になると困るからで、雇用で調整出来ない分、労働時間でつじつま合わせをしているわけだ。企業経営や経済活動には必ず好不況の波があり、変動がある。そしてその変動を無理に抑えれば、どこかにゆがみが生じる。 がん・糖尿病・脳卒中・急性心筋梗塞に加えて、うつ病が「国民病」として厚生労働省に認定されるまで増加した理由は、強い解雇規制が長時間労働につながり、長時間労働がうつの原因になる、という非常に分かりやすい因果関係によるものだ。 毎日何時間も残業させて社員がうつ病になり、それを防ぐために産業医やカウンセラーを雇う……このような状況が正常であるはずも無いし、それ位は経営者も理解している。うつ病が蔓延する世界と不況時に失業者が増える世界、どちらを良いと思うかは人それぞれだろうが、雇用の流動化が進めば逆に雇用しやすくなる、という事はもっと理解されても良いはずだ。 ただ、雇用流動化の話が出ると一斉に反対の声が上がる理由は、これまで経営者も国も法律をいい加減に運用してきた結果、国民の信頼を失っているからだ。まずは現在の法律を守らずに雇用の流動化が出来るはずも無い。 働き方に関する記事は以下も参考にされたい。 ●サービス残業は日本の文化だ ~ブラック企業が生まれる下地~ ●ブラック企業を消す方法。 ~解雇規制・雇用流動化について~ ●正しすぎるライフネット生命の新卒採用 ●ライフネット生命の新卒採用に挑戦してみた。 ●大学生のための、会計知識不要の企業分析テクニック ~内定切りを受けないために~ その1 その2 国がブラック企業の問題を正式に取り上げようとしている事自体は良い事だし、評価も出来る。しかし、思いつきで問題企業をつるし上げてガス抜きをして終わり、というのでは何の意味も無い。公正な競争が阻害されれば長期的に企業も経済も業績は落ち込む。今の日本がすでにそうなっている事はよく理解すべきだ。 中嶋よしふみ シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー ●シェアーズカフェのブログ ●ツイッターアカウント @valuefp フェイスブックはこちら ブログの更新情報はSNSで告知しています。フォロー・友達申請も歓迎します^^。 ※レッスン・セミナーのご予約・お問い合わせはHPからお願いします。 ※レッスン・セミナーのご案内はこちら |
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